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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

600:という事で

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「え~……、という事で、新たに仲間に加わった、ティカです」

「よろしく頼む」

 タイニック号下層一階、食堂にて。
 俺はティカをみんなに紹介した。
 それぞれに、反応が随分と違ってて……

「まさか、ティカ殿が仲間になるとは……。思いもよらなかった」

 ビックリするギンロ。

「ウェルカムウェルカム! これで経過観察が出来るぜ!!」

 邪な理由で喜ぶカービィ。

「という事でって……、いったい、何がどういう事なわけ? モッモ??」

 ちょっぴり怒ってるグレコ。

「あ~……、うん。説明するね? ははは~」

 まだ公用語が流暢ではないティカに変わって、俺は何故今ここにティカがいるのか、何故仲間に加わる事になったのかを、みんなに説明した。

 昨日、俺達がトルテカの町を去ってすぐの事だ。
 ティカはトエトと一緒に、赤ん坊になってしまったチャイロに水浴びをさせていた。
 すると不思議な事が起きた。
 言葉を失ったはずのチャイロが、ティカに話かけてきたそうだ。
 
「行きたいのなら、行くべきだよ」

 その言葉は、トエトの耳には聞こえなかったそうだが、ティカにはハッキリ聞こえたという。
 そして、ティカは自分の心が本当に望んでいる事に、素直に従う事にした。
 世界を見てみたい……、旅をしてみたい……、それがティカの望みだった。

 丸々一晩、全速力で走り続け、朝日が登る直前ギリギリに、ティカは港町ローレへと辿り着いた。
 そして、港からアーレイク島に向かうという唯一の船、商船タイニック号を発見し、船長であるザサークに自分はモッモの仲間だと告げて(それをすんなり信じて船に上げちゃうザサークもどうかと思うけどさ)、堂々と乗船。
 甲板にて、二日酔いでゲロゲロな俺を発見し……、で、今に至る。

「丸々一晩とは……。ティカ殿、体調はどうなのだ? 確か、かなりの深手を負っていたはずでは??」

 ギンロが心配するのも無理はない。
 つい数日前に、邪術師ムルシエに心臓抉り取られたんだからね。
 けれども……

「問題ない。治った」

 そう言ってティカは、身に纏っているマントをはらりとめくって、上半身をギンロに見せた。
 そこには歪な丸い形の傷跡が残っているものの、それはまるで何年も前に受けた傷であるかのように、ほぼ完治している。

「あっ!? 尻尾も生えてるじゃねぇかっ!??」

 ティカの尻尾を指差し、目をまん丸にして驚くカービィ。
 それは俺も気になってたんだ、昨日まではこんなに長く無かったはずなのに……

「力を、入れると、伸びた」

 ドヤ顔で言うティカ。
 だけど、その説明はちんぷんかんぷんだ。
 俺は首を傾げたものの、カービィは何やら嬉しそうな顔で鼻を膨らませていた。

「世界を見てみたい、旅をしてみたい……、それは分かったけど、どうして私達の仲間に? モッモ、ティカは知っているの?? あなたが時の神の使者だって」

 グレコは眉間にシワを寄せている。
 なんで怒ってるのかは全く理解出来ないが、とりあえず怒ってる……

「あ~、えと~、確か……、言ったよね?」

 ティカに向かって尋ねる俺。

「聞いた。けど、分からない」

 おおう……、そういう曖昧な返答は、グレコ様はお嫌いですのよっ!?
 ほら見て! グレコ様の眉間が、更に皺々にっ!!

「おいら達は、世界の神々の様子を見て回るっていうモッモの使命に、付き合ってやってんだ!」

 ドーン! と胸を張るカービィ。

 当ってるけど……、なんかおかしくない?
 その言い方はちょっと語弊があるぞ??
 まるで俺が、無理矢理みんなを巻き込んでるみたいじゃないか。
 てっきり俺は、みんな好きでついてきてるんだと思ってたんだけど……
 え、違ったの???

「分かった」

 理解が早いなティカさんよっ!?
 秒で受け入れたなっ!??
 ……意味分かってんのかなぁ?

「あのねぇ、本当に分かってる? 危険な旅なのよこれは! こっちは命懸けなのよ!? それを、ちょっと旅に出たくなった、くらいの気持ちで来られても……、大丈夫なの?? 途中で帰りたくなったとか言い出さない???」

 命懸けって……、まぁまぁ確かにそうだけどさ、毎度のこと。
 でも、え? グレコったら、そんなに緊張感持って旅してたの??
 それにしては、一人風呂上がりで、フローラルな良い香りを漂わせて、さっぱりした様子ですけど……???

「自分は、王宮で、近衛団の、副兵長だった。だから、強い」

 背負っていた槍を手に取って、得意げな顔で、頭の上でビュンビュンと振り回して見せるティカ。

 危ねぇっ!? 照明に当たるぞっ!??

「ちょっと!? ここで暴れるんじゃないよっ!!」

 カウンター越しにこちらの様子を見ていたダーラが怒鳴る。

「ごっ!? ごめんなさいっ!!」

 急いで謝る俺と、槍を下ろしてペコリと頭を下げるティカ。
 頭を下げたといってもティカの事だ、軽く会釈しているようにしか見えないので、到底謝罪の意など相手には伝わるまい。
 ダーラの視線が、痛い……

「副兵長なら、腕っ節にはかなりの自信があるって事か!?」

 カービィの問い掛けに、ニヤリと笑って頷くティカ。

「ふむ。ならば後ほど、手合わせ願いたい」

 こちらも、ニヤリと笑うギンロ。

「強いか強くないかは別にどっちでもいいのよ。私が聞きたいのは、覚悟があるのかって事! あなた、モッモの為に命を懸けられるの? いざって時に、モッモを見捨てたりしない!?」

 おおう、グレコよ……、なかなかにカッコ良い台詞を言ってくれているところ申し訳ないが、君だって心配しているわりには、俺を危険な場所へと駆り出すじゃないかね?
 俺は忘れてないぞ、邪神モシューラの暴走を止めに向かう際に、さぁ行ってこい! と言わんばかりに見送っていた君の姿を……
 グレコはさ、めちゃくちゃ心配してくれる時と、全く心配してくれない時の差が、かなり激しいよね。
 つまり……、両極端、うん。

「分からない。状況、次第」

 ぬぉわっ!? なんだとティカ!!?
 状況次第て!!??
 そんな事言ったらぁ~……、ほら見て! 
 グレコが睨んでるよっ!!

「しかし、守る。自分に、生きる道を、見つけてくれた、モッモ。自分が、守る」

 ティカはそう言って、俺の方を見て、ニッと笑った。

 ……まぁ、悪い奴ではないんだよな、基本的には。
 ちょっと礼儀知らずな部分があるし、妙に自信家だけど、戦闘能力が高い事は確かだし、案外いつも冷静で、それにきっと真面目だ。
 俺の事だって、王宮ではなんだかんだ、信じて守ってくれたし。

「でもねぇ……」

 まだ渋るグレコ。
 ほっぺたに手を当てて、ティカを見つめ、む~んと唸ってる。
 ちょっと意外だな、グレコがこんなに駄々をこねるなんて……

「あ!? そうだティカ! さっきの見せてあげてよっ!!?」

 思い出したかのようにそう言った俺に、ティカは頷く。
 先程、甲板で見せてもらったあれを見せれば……

 ティカは、右手を胸の高さまで持ってきて、掌を上に向けると、そこに、ボォッ! と赤い炎を灯して見せた。
 天井に届きそうなほど激しく燃え上がる炎に、ギンロとグレコは驚いて仰反り、カービィは目を輝かせる。
 だけど、ダーラは……

「こらぁあっ!? 発火は禁止っ!!」

「ごっ!? ごめんにゃしゃいっ!!」

 またしてもダーラに怒鳴られてしまい、戦々恐々とする俺。
 ティカは、先程よりかは深く頭を下げて(て言っても、30度くらいの角度で)、掌をギュッと握って、すぐさま炎を消した。

「ティカ、あなた……。魔法が使えるの?」

 グレコの問い掛けに、ドヤ顔でこくんと頷くティカ。
 そうなのだ、なんとティカは、炎の魔法を使えるようになっていた。
 甲板で突然その事を打ち明けられ、炎を見せられた俺は、かなり驚いて酔いが覚めたのだ。

「しかし……、紅竜人は魔力を持たぬ、魔法を使えぬ種族ではなかったのか?」

 ギンロの問い掛けに、ティカは……

「昨日、出来た」

 と、答えた。
 勿論、嘘じゃなく本当らしい。
 昨晩森を走っていて、暗くて視界が見辛いと思い、なんだか出来そうな気がして掌に意識を集中させたところ、炎が飛び出てきたのだと言っていた。
 おかげで周りがよく見えて、走り易かったと……

 すると、何やら大層興奮した様子で、カービィが言った。

「すげぇっ! すげぇよティカさん!! 魔力をほとんど持たねぇ種族が魔法を獲得する……、これこそ正に、魔力覚醒!!! 進化だっ!!!! なははははははっ!!!!!」

 嬉しそうに椅子の上で飛び跳ねるカービィ。

 そんなに暴れたら、またダーラに叱られるぞ!?
 やめろっ!!

 すると、カービィの様子を横目に、グレコがふぅ~っと息を吐いた。

「分かった。強くて魔法も使えるんだから、一緒に行ってもいいか? って、言いたいんでしょう??」

 そう言ったグレコは、ようやく笑顔を見せてくれた。
 仕方ないな~っていう笑顔だ。
 つまり……

 良かった! 
 グレコの許可が降りたぞ!!
 これでもう大丈夫!!!!

 と、俺が安心していると……

「いや、自分は行く。初めから、決めている。よろしく頼む」

 想像以上に強気な態度のティカに対し、グレコはスッと真顔に戻っていた。
 
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