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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
586:弱点
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『オビャッ! オビャッ!! オビャビャビャビャッ!!!』
羽がボロボロな為に上手く飛び上がることが出来ず、モシューラは何度も鳴き声を上げ、体をぶるぶると大きく震わせる。
その度に大量の瘴気が空中を舞い、王都は既にその全てが真っ黒になって腐り落ちていた。
「レイズン!? いや、ゼンイ! おまいも平気なのかっ!??」
腐蝕が進む体で、カービィが叫ぶ。
「カービィさん! 私は平気だ!! ここは任せて、逃げてっ!!!」
カービィに伝わるように、公用語で話すゼンイ。
「分かった! じゃあモッモ……、希望通り、モシューラの頭の上に落とすぞ? いいんだなっ!?」
「オーケィッ! いつでもっ!!」
カービィの問い掛けに、親指をグッと立てて見せる俺。
「うしっ! 行くぞぉっ!!」
箒を旋回させ、スピードを上げて、モシューラの頭上まで一気に飛び抜けていくカービィ。
振り落とされないようにと、カービィの背に俺は必死で捕まる。
そして、目的の物が視界に入ったところで、俺は手を離した。
ゆっくりと落ちゆく俺の体。
「また後でっ!!!」
頭上に見える箒に跨ったままのカービィに対し、俺は最高のピグモルスマイルでそう言った。
「死ぬなよモッモ!!!」
カービィは、一度も見たことがないような泣きそうな顔で、その場を離れていった。
ボスンッ!
「ふがっ!?」
程なくして、鈍い音を立てながら、俺はモシューラの頭部に着地した。
どこかから落下する度に毎回思うけど、体がプニプニのふかふかで本当に良かったよ、大抵の衝撃は吸収出来るから。
モシューラの頭部の上は、まるで草原のようだ。
勿論、美しい緑の草原では無い。
足元には、草紛いの細くて黒い毛が無数に生えていて、耐え難いほどのヘドロの臭いと焦げ臭い悪臭が辺りに漂っている。
言うなれば、地獄の草原だな、うん。
赤い鱗粉こそないが、何故だか腐蝕を免れている俺でも、長居するとさすがに命が危ないだろう。
さっさとやってしまおう! と思ったのだが……
『オビャビャッ!? オビャビャッ!??』
「うわっ!? とっ!?? 危なっ!!??」
飛び立とうとしているモシューラの体は、大きく上下に揺れる為、危うく転がり落ちそうになる俺。
なんとか黒い毛を掴む事で、間一髪落下せずに済んだ。
しかし今度は、別のものが俺を襲ってきた。
ガスッ! ガスッ!! ガスッ!!!
「ひぇっ!? なっ!?? やめっ!!??」
黒くて巨大な何かが、頭上から凄い速度で落下してきて、モシューラの頭部に突き刺さったのだ。
串刺しピグモルになりかけた俺は、再度迫り来るそれを慌てて避ける。
しなやかで長い鉄パイプのように見えるそれは、なんとモシューラの足だった。
きゃあぁぁ~!!!
モシューラは、俺が頭に乗った事に気付いて、自らの足で自らの頭を攻撃し始めたのだ。
刺のある足が頭部に深く突き刺さり、引き抜かれた箇所からは、血液だと思われる紫色の液体が噴き出した。
絶対に痛いだろこれっ!?
やめろよ馬鹿っ!!?
「モッモ君! 何をするつもりだっ!?」
ふと声がして見てみると、影のゼンイがすぐ側に浮かんでいた。
本人が言ったように、影の状態のゼンイは瘴気の影響を全く受けないらしい。
「ゼンイ! あそこっ!! あれ見てっ!!?」
俺はそう言って、前方にある、少しばかり登り坂になっているモシューラの頭頂部を指差す。
そこにあるのは、さわさわと揺れる二本の触角だ。
俺の身長の倍ほどはあるであろう巨大な触角だが、予想通りそれらは、細い毛が集まっているだけで、あまり丈夫な物には見えない。
「あれをどうする!?」
「今からあの触覚を、切るっ!」
俺の言葉にゼンイの影は、一瞬の間沈黙した。
おそらく、触角が何なのかを分かっていないのだろう。
あれを切ったところで何になる? そう言いたげな目をしている。
だが……
「分かった! ならば僕は、モシューラの気を引こう!!」
「うん! そうしてっ!! 足が邪魔しないよう……、ひゃあっ!??」
喋っている間にも、容赦なくモシューラの足が襲ってきて、俺は慌てて身をよじった。
前世の記憶によれば、虫の弱点は触角のはずだ。
触角は虫にとって、目よりも大切な感覚器官なのだ。
空気の流れ、熱、音、時には匂いまでもを、触角で感じ取る事が出来るという。
つまり触角は、虫が生きていく上でなくてはならないものなのである。
羽がボロボロになっても、なお飛び上がろうとし続けているモシューラだが、さすがに触角を切り取ってしまえば動けなくなるだろう、と俺は考えたのだ。
正直、虫にとっての命綱である触角を切るなんて、残忍過ぎて嫌悪感すら感じる行為なんだけど……
でも、これだけ多くの人が亡くなっている現状、仲間が苦しんでいる現状、世界の危機と言っても過言では無い現状に、俺は覚悟を決めた。
もう、切っちゃうからっ!
これ以上暴れられたらほんと困るからっ!!
かなりエグい事になるだろうけど……、切っちゃうからぁあっ!!!
モシューラの黒い毛をグイッ、グイッと掴みながら、緩やかな坂になっている頭部を登る俺。
ゼンイは、モシューラの目の前を飛び回りながら、その掌から何か黒い煙のような物を発生させている。
黒い煙はモシューラの金色に輝く大きな目を襲い、目蓋のないモシューラはそれを防ぐ事が出来ずにもがく。
完全にそちらに気を取られている為に、こちらへの足による攻撃は止んでいた。
やるなら今しかないっ!!!!
小高い丘のようなモシューラの頭頂部に辿り着く俺。
そこにあるのは、他の真っ黒な毛とは対照的な、白い触角。
細長い針葉樹の葉のような形をしたそれは二本あり、細い毛が無数に集まってフワフワと風にそよぐ様はまるで大きな綿毛だ。
しかしながら、その大きさ、高さは、俺の身長の五倍ほどもあって、かなり巨大である。
ただ、生えている根本部分を見ると、そこだけはかなり細くて脆そうだった。
俺は神様鞄の中をゴソゴソと探り、滅多に使わないあれを取り出す。
テトーンの樹の村原産の、黒曜石のような黒い石で作った小さな包丁だ。
一応刃物ではあるが、料理以外の用途では使った事がない。
少々心許ない気もするが、生憎、刃物はこれしか持っていなかった。
「よぉ~し……、切るぞっ!」
ズンズンと、触角に近付いていく俺。
グラグラと揺れる足元と、響き渡るモシューラの奇声。
出来るだけ苦しまないように、一思いにバスッと切ってやろう! と、俺の手が触角の根本をグッと掴んだ、その時だった。
『どうして? どうしてなの?? 私はただ、一緒にいたかっただけなのに……』
なななっ!?
なんだぁあっ!!?
頭の中に、誰かの美しい声が響いた。
羽がボロボロな為に上手く飛び上がることが出来ず、モシューラは何度も鳴き声を上げ、体をぶるぶると大きく震わせる。
その度に大量の瘴気が空中を舞い、王都は既にその全てが真っ黒になって腐り落ちていた。
「レイズン!? いや、ゼンイ! おまいも平気なのかっ!??」
腐蝕が進む体で、カービィが叫ぶ。
「カービィさん! 私は平気だ!! ここは任せて、逃げてっ!!!」
カービィに伝わるように、公用語で話すゼンイ。
「分かった! じゃあモッモ……、希望通り、モシューラの頭の上に落とすぞ? いいんだなっ!?」
「オーケィッ! いつでもっ!!」
カービィの問い掛けに、親指をグッと立てて見せる俺。
「うしっ! 行くぞぉっ!!」
箒を旋回させ、スピードを上げて、モシューラの頭上まで一気に飛び抜けていくカービィ。
振り落とされないようにと、カービィの背に俺は必死で捕まる。
そして、目的の物が視界に入ったところで、俺は手を離した。
ゆっくりと落ちゆく俺の体。
「また後でっ!!!」
頭上に見える箒に跨ったままのカービィに対し、俺は最高のピグモルスマイルでそう言った。
「死ぬなよモッモ!!!」
カービィは、一度も見たことがないような泣きそうな顔で、その場を離れていった。
ボスンッ!
「ふがっ!?」
程なくして、鈍い音を立てながら、俺はモシューラの頭部に着地した。
どこかから落下する度に毎回思うけど、体がプニプニのふかふかで本当に良かったよ、大抵の衝撃は吸収出来るから。
モシューラの頭部の上は、まるで草原のようだ。
勿論、美しい緑の草原では無い。
足元には、草紛いの細くて黒い毛が無数に生えていて、耐え難いほどのヘドロの臭いと焦げ臭い悪臭が辺りに漂っている。
言うなれば、地獄の草原だな、うん。
赤い鱗粉こそないが、何故だか腐蝕を免れている俺でも、長居するとさすがに命が危ないだろう。
さっさとやってしまおう! と思ったのだが……
『オビャビャッ!? オビャビャッ!??』
「うわっ!? とっ!?? 危なっ!!??」
飛び立とうとしているモシューラの体は、大きく上下に揺れる為、危うく転がり落ちそうになる俺。
なんとか黒い毛を掴む事で、間一髪落下せずに済んだ。
しかし今度は、別のものが俺を襲ってきた。
ガスッ! ガスッ!! ガスッ!!!
「ひぇっ!? なっ!?? やめっ!!??」
黒くて巨大な何かが、頭上から凄い速度で落下してきて、モシューラの頭部に突き刺さったのだ。
串刺しピグモルになりかけた俺は、再度迫り来るそれを慌てて避ける。
しなやかで長い鉄パイプのように見えるそれは、なんとモシューラの足だった。
きゃあぁぁ~!!!
モシューラは、俺が頭に乗った事に気付いて、自らの足で自らの頭を攻撃し始めたのだ。
刺のある足が頭部に深く突き刺さり、引き抜かれた箇所からは、血液だと思われる紫色の液体が噴き出した。
絶対に痛いだろこれっ!?
やめろよ馬鹿っ!!?
「モッモ君! 何をするつもりだっ!?」
ふと声がして見てみると、影のゼンイがすぐ側に浮かんでいた。
本人が言ったように、影の状態のゼンイは瘴気の影響を全く受けないらしい。
「ゼンイ! あそこっ!! あれ見てっ!!?」
俺はそう言って、前方にある、少しばかり登り坂になっているモシューラの頭頂部を指差す。
そこにあるのは、さわさわと揺れる二本の触角だ。
俺の身長の倍ほどはあるであろう巨大な触角だが、予想通りそれらは、細い毛が集まっているだけで、あまり丈夫な物には見えない。
「あれをどうする!?」
「今からあの触覚を、切るっ!」
俺の言葉にゼンイの影は、一瞬の間沈黙した。
おそらく、触角が何なのかを分かっていないのだろう。
あれを切ったところで何になる? そう言いたげな目をしている。
だが……
「分かった! ならば僕は、モシューラの気を引こう!!」
「うん! そうしてっ!! 足が邪魔しないよう……、ひゃあっ!??」
喋っている間にも、容赦なくモシューラの足が襲ってきて、俺は慌てて身をよじった。
前世の記憶によれば、虫の弱点は触角のはずだ。
触角は虫にとって、目よりも大切な感覚器官なのだ。
空気の流れ、熱、音、時には匂いまでもを、触角で感じ取る事が出来るという。
つまり触角は、虫が生きていく上でなくてはならないものなのである。
羽がボロボロになっても、なお飛び上がろうとし続けているモシューラだが、さすがに触角を切り取ってしまえば動けなくなるだろう、と俺は考えたのだ。
正直、虫にとっての命綱である触角を切るなんて、残忍過ぎて嫌悪感すら感じる行為なんだけど……
でも、これだけ多くの人が亡くなっている現状、仲間が苦しんでいる現状、世界の危機と言っても過言では無い現状に、俺は覚悟を決めた。
もう、切っちゃうからっ!
これ以上暴れられたらほんと困るからっ!!
かなりエグい事になるだろうけど……、切っちゃうからぁあっ!!!
モシューラの黒い毛をグイッ、グイッと掴みながら、緩やかな坂になっている頭部を登る俺。
ゼンイは、モシューラの目の前を飛び回りながら、その掌から何か黒い煙のような物を発生させている。
黒い煙はモシューラの金色に輝く大きな目を襲い、目蓋のないモシューラはそれを防ぐ事が出来ずにもがく。
完全にそちらに気を取られている為に、こちらへの足による攻撃は止んでいた。
やるなら今しかないっ!!!!
小高い丘のようなモシューラの頭頂部に辿り着く俺。
そこにあるのは、他の真っ黒な毛とは対照的な、白い触角。
細長い針葉樹の葉のような形をしたそれは二本あり、細い毛が無数に集まってフワフワと風にそよぐ様はまるで大きな綿毛だ。
しかしながら、その大きさ、高さは、俺の身長の五倍ほどもあって、かなり巨大である。
ただ、生えている根本部分を見ると、そこだけはかなり細くて脆そうだった。
俺は神様鞄の中をゴソゴソと探り、滅多に使わないあれを取り出す。
テトーンの樹の村原産の、黒曜石のような黒い石で作った小さな包丁だ。
一応刃物ではあるが、料理以外の用途では使った事がない。
少々心許ない気もするが、生憎、刃物はこれしか持っていなかった。
「よぉ~し……、切るぞっ!」
ズンズンと、触角に近付いていく俺。
グラグラと揺れる足元と、響き渡るモシューラの奇声。
出来るだけ苦しまないように、一思いにバスッと切ってやろう! と、俺の手が触角の根本をグッと掴んだ、その時だった。
『どうして? どうしてなの?? 私はただ、一緒にいたかっただけなのに……』
なななっ!?
なんだぁあっ!!?
頭の中に、誰かの美しい声が響いた。
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