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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

584:本気モード

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『オビャッ!? オビャッ!?? オビャビャビャッ!?!?』

 頭上に光る巨大な十字型の封印結界に阻まれて、飛び立とうにも飛び立てずに、モシューラは困惑した鳴き声を上げた。
 それでも尚、六枚の羽をバッサバッサと羽ばたかせ、腐蝕の原因である赤い鱗粉を大量に撒き散らしながら、モシューラはもがく。

「ポポゥ!? やっぱり五人じゃきついポよ!! カービィちゃん、モッモちゃん、なんとかしてポォ!!!」

 背後で叫ぶノリリア。
 封印結界を維持する為に、青い光を放つ杖を上空に向けたポーズのまま、空中で止まって身動きが取れないらしい。
 そして、守護魔法で守られているとはいえ、大量の鱗粉を浴びたが為に、ノリリアの体はそのピンク色の毛が所々黒ずみ始めている。
 俗に神の呪いと呼ばれるその現象は、以前グレコが蜥蜴へきえき神の心臓を喰らった時に見られたものだ。

 このままだと、ノリリアの命が危ないっ!?
 ノリリアだけじゃない、アイビーもインディゴもマシコットも、カービィも俺も、みんな危ないっ!??

「モッモ! なんか出来ねぇのかっ!?」

 こちらも、杖を上空に向けたままの体制で、無茶振りするカービィ。

「なっ!? なんかって言われてもっ!!?」

 俺の思考回路は停止寸前だ。

 こんな危機迫る状況で、無力な俺に何をしろとっ!?
 そもそも何故、俺にどうにか出来ると思ってんだ!??
 俺なんか、何にも出来ない最弱のピグモルなんだぞっ!?!?

「おまい、前言ってたよな!? おいらと出会う前、グレコさんとギンロとおまいの三人で、虫型の邪神を倒したって!! そん時はどうやったんだっ!!?」

 カービィと出会う前!?
 虫型の邪神って……、カマーリスの事かっ!!?

「あっ! あの時は!! ギンロがカマーリスの首を斬ったんだ!!!」

 今でも忘れない、巨大な蟷螂とうろう神カマーリスに果敢に立ち向かい、三つある頭を全て斬り落とした、あのギンロの雄姿を。

 だけど今、ギンロは気を失ってて無理だ!
 それに目の前のモシューラは、カマーリスよりもデカいし、何より発している瘴気が多過ぎて濃過ぎて、やば過ぎるっ!!
 こんなのを倒すなんて……、いったい何をどうすればいいんだっ!!?

「モッモ! バルンよっ!!」

 突然耳元でグレコの声がした。
 絆の耳飾りで交信してきたのだ。

「グレコ!?」

「バルンを呼ぶのよっ! カマーリスの時を思い出して!! バルンなら、邪神に対抗できるはずっ!!!」

 バルン!? 
 ……あっ!?? あぁあっ!?!?
 そうか、バルンだっ!!!

 現状にテンパリすぎて思い出せなかったけど、カマーリスと戦った時、水が効かないと分かった俺は、火の精霊サラマンダーのバルンを召喚した。
 そしてバルンに最大限の力を発揮する事を許したら、いつもは小っちゃなトカゲみたいな姿のバルンが、なんと真っ赤なドラゴンに変身したのだ。
 その姿になったバルンの炎は凄まじく、カマーリスの腹部をドロドロに溶かしていた。

「カービィ! 火の精霊を呼ぶよっ!! バルンなら、邪神を倒せるかもっ!!?」

「おぉっ! ローズの炎を食っちまったあいつかっ!? あいつならやれそうだなっ!! 呼べ呼べぇっ!!!」

 よぉ~っし!
 一か八かだっ!!

「火の精霊! サラマンダーのバルン!!」

 大声で叫ぶ俺。
 すると、目の前にボボボッと青い炎が現れたかと思うと……

『我、火の精霊サラマンダーなり。契約者の命にて、悪き者を討ち滅ぼす』

 いつもとは明らかに違う低い声が聞こえて、眩しい程の赤い光と共に、真っ赤な鱗を持つドラゴンが炎の中から現れた。
 背に生える翼で空中を優雅に滑空し、尾の先にある炎は青く燃え上がっている。

「あいつがっ!? 前と全然違うくないかっ!??」

 バルンの変貌に驚くカービィ。

「あれが、本気モードのバルンなんだっ!」

 説明が下手糞かも知れないけど、それ以上の事は俺にも分からんっ!

『我が炎を受けよっ! 業火の炎うぉおぉぉっ!!』

 雄叫びを上げながら、モシューラの羽目掛けて、バルンは口から大量の青い炎を噴き出した。
 轟々と燃える青い炎に焼かれて、モシューラは悲鳴を上げる。

『オビャーーーー!? オビャビャーーーーー!!?』

 青い炎を浴びたモシューラの羽は、見る見るうちにドロドロと溶けていく。
 あまりの苦痛に、モシューラは羽ばたくのを止めて、ピラミッドの上に力無く伏せた。

「おしっ! 効いてるみたいだぞっ!?」

「うんっ! いっけぇぇぇっ!! バルーーーン!!!」

 モシューラの周りをグルグルと旋回しながら、その巨体に何度も青い炎を噴き付けるバルン。
 悲鳴を上げながら、苦しそうにもがくモシューラは、反撃しようと足を伸ばす。
 しかし、バルンがそれに捕まる事はない。
 大きさこそ随分と劣るが、バルンの飛行速度はとても速く、苦し紛れに動かしているだけのモシューラの足になど捕らえられるはずがないのだ。
 それに加えて、バルンの赤い鱗の体は瘴気をものともしない。
 空中を高速で自由自在に移動して、何度も攻撃を繰り返すその鮮やかな戦法と、優勢な現状に、俺とカービィはテンション上がりまくりだ。

「いいぞバルン! やれやれぇえっ!!」

「頑張れバルーーーン!!!」

 モシューラは既に、六枚の羽のほとんどがバルンの炎によって溶けてしまい、身動きすら取れなくなっている。
 勝敗は既に決したと思われた、その時だった。

『わしの友を……、苦しめるなぁああぁぁぁっ!!!!!』

 どこからか雷鳴のごとき怒号が聞こえたかと思うと、一筋の光が俺の目の前を掠めていった。
 その光は、まるで流れ星のように美しく、煌めく七色をしていて……
 上空を飛行していたバルンの胸を、スンッ! と貫いた。

『グゥオォォォ!?!?』

 悲鳴とも取れるバルンの声が、辺りに響き渡る。
 そしてその体から赤い光をカッ! と放ったかと思うと、ドラゴンであったはずのその姿は、一瞬で、いつもの小さなトカゲに戻ってしまった。
 翼を無くしたバルンは、暗い空から真っ逆さまに落下して……

「なっ!? バルンっ!??」

「危ねぇっ!」

 カービィは瞬時に杖を下ろし、箒を急発進させる。
 反動で飛ばされないようにと、カービィにしがみ付く俺。
 なんとか間一髪、バルンの落下地点に滑り込んだ俺たち。
 すると俺の元に、小さなバルンがぽすんと落ちてきた。

「バルン!? バルン大丈夫っ!??」

 腕の中のバルンを、ユサユサと揺する俺。
 その体は冷たくて、実体がないかのように半透明になっている。
 半開きになった口からはダランと長い舌を垂らし、閉じかかったつぶらな瞳が俺をジッと見つめていた。

『モッ、モ……。ごめん、うぉ……。ちょ、っと……、眠、い、うぉ……』

 そう言うとバルンは、スーッとその姿を消してしまった。
 いつもなら、ボォッ! と燃え上がって豪快に消えるはずのバルンが、まるで炎が鎮火したかのような静かな消え方をした事で、俺は更に動揺する。
 
 そんな……、まさか、死……?

 頭の中が真っ白になる俺。
 するとカービィが、サッと杖を取り出して、前方に向かって無言で構える。
 見るとそこには、全身に虹色の光を帯びて、物凄く怒ったような顔をしているイグが、フワフワと空中に浮いていた。
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