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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

582:ミッションインモッシブル……、2!?!?

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 ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ゴキュッ!

「プハァッ!? さすがトゥエガさんのエリクサー! 力がどんどん漲ってくるぅ~!!」

 髪の毛の色と同じオレンジ色の魔力のオーラを身体中から放ちながら、騎士団の元気娘ことサンが、ハイテンションでそう言った。

「凄い……。一時はどうなることかと思ったけど、これなら大丈夫そうだ」

 体を覆う真っ赤な炎をいつも以上にメラメラと燃え上がらせながら、マシコットがそう言った。

 二人の他にも、ノリリア、アイビー、インディゴ、チリアン、ロビンズの五人がエリクサーを口にして、それぞれに魔力のオーラを放ちながら、体内に魔力が戻った事を確認している。

「なっはっはっ! 全部なくなっちまったなっ!?」

 呑気に笑うカービィ。
 白薔薇の騎士団の副団長の一人、樹木人間のトゥエガから貰ったエリクサーの小瓶は全部で七本残っていた。
 しかし、気前が良いのかなんなのか、カービィはそれらを全て、ノリリアに渡してしまったのだ。

 これで良かったのだろうか?
 カービィさんや……、あんた、次に自分の魔力が底をついたらどうするつもりだね??
 そんな馬鹿はしないと、約束でもしてくれるのかね、えぇ???

 そもそも、騎士団のみんなが何故今、魔力を補充しなければならない状態なのかというと……
 少し時を遡って説明せねばなるまい。






 俺が生贄の祭壇のある奈落の泉に沈んでいた時のこと。 

 王宮に招かれたノリリア達は、玉座の間へと通された。
 そこで待ち受けていたのは、悪魔アフープチを手中に抑えた、邪術師ムルシエ・ラーゴだった。
 しかし、勿論みんなは、極悪人のムルシエが宰相に化けているなどとは思いもしない。
 ただ、王が座るべき椅子には、気を失った状態のティカが座っていて……、奇妙に思ったノリリアが、その訳を宰相に尋ねようとしたその時、タイミング悪く奴隷達の反乱が始まってしまった。

 第一陣である奴隷達はなんと、兵士に扮して事前に王宮へと侵入していたらしい。
 そして兵士専用の抜け道から、一気に王宮へと雪崩れ込んだのだ。
 ゼンイを先頭に、玉座の間まで攻めてきた奴隷達に対し、ギンロが自慢の剣技を披露した。
 だが状況が分からない以上、無駄な交戦は避けるべきだと考えたノリリア達は、すぐさま玉座の間を締め切ったそうだ。

 しかし、それがいけなかった。
 玉座の間には、正面の扉以外に出入口が一つもない。
 まさに袋の鼠となったノリリア達に対し、宰相イカーブに扮したムルシエが本性を表したのだ。

 ムルシエは、ローブの懐から悪魔石のついたロッドを取り出し、扉に結界を張り、ノリリア達が立っている黄金の床に魔法陣を浮かび上がらせた。
 それは、魔法陣の中にいる者達の魔力を吸い取るという、恐ろしい古代の邪法だった。
 魔力を吸い取られ、更には呪縛魔法までかけられたノリリア達は、完全に身動きが取れなくなってしまった。

 その時、運良く魔法陣の外に立っていたギンロが、たった一人でムルシエに立ち向かった。
 だが、相手は国際指名手配までされている凶悪な邪術師。
 ギンロは浮遊魔法をかけられ、操られて、あちこちの壁や床に叩き付けられた。
 そして、意識を失ったギンロは、部屋の隅に落とされたらしい。

 ムルシエは高笑いしながら、懐から悪魔アフープチを封じ込めた亡者の玉を取り出し、動けずにいるノリリア達に向かって投げつけた。
 玉は床に落ちて粉々になり、中から悪魔アフープチの魂が飛び出した。
 悪魔アフープチは、ノリリア達から奪った魔力を自分のものにして、玉座で気を失ったままのティカの体へと乗り移った。
 ティカの体には、それまで無かった黒い痣が浮かび上がり、徐々に悪魔へと変貌し始めた。
 
 悪魔の復活を止めなければと、騎士団のみんなが焦っていると、影の姿となったゼンイが玉座の間へ入ってきた。
 ゼンイは、玉座で意識を失い悪魔へと変化していくティカを見て、狂ったように怒り出し、ムルシエに向かって攻撃魔法を繰り出した。
 しかしそれらは全て、ムルシエの持つ悪魔石の中へと吸い込まれて、呪縛魔法によってゼンイは壁に張り付けられてしまった。

 次の瞬間、ムルシエは、未だ気を失ったまま悪魔化の途中であるティカの心臓を、その手で抉り取ったのだ。
 真っ黒な心臓を手にしたムルシエを前に、ゼンイが叫んだ。
 何が起きたのか、その時は誰にも理解出来なかったという。

 その直後、背後にある扉が突然大爆発を起こし……
 爆風にやられて、騎士団のみんなは気を失ってしまったらしい。






 以上の事を、アイビーが俺とグレコに、簡潔に教えてくれた。
 
 なんていうか……、俺達がいない間に、そちらはとても大変だったんですね。
 ギンロが未だに目を覚まさないのは、あちこちぶつけられたせいで、脳震盪でも起こしているからだろうか?
 一応、カービィが様子を診て、問題無いって言っていたから大丈夫だとは思うけど。

 それと、最終的に騎士団のみんなが気を失った理由が、まさかカービィのあの爆破魔法のせいだったなんて……
 なんか、ごめんなさい。
 うちのカービィが馬鹿な事をしてしまって、ほんとごめんなさいです。

「ポポポ、それじゃあ作戦を確認するポ! あたちとアイビー、インディゴ、マシコットの四人は、カービィちゃんとモッモちゃんと共に、邪神の封印に向かうポ。上手くいくかは分からないポが、とりあえずやってみるしかないポね。ブリックとライラックは、防護服を着用の上、王都の壁門へと向かってポ。ヤーリュとモーブの話だと、壁門は夜間は閉じられているポよ。紅竜人の兵士達は、奴隷の反乱でほとんどが王宮に集まってしまったポね、誰かが壁門を開けないと、住人達は逃げ道がないポ。だけど長居は無用ポよ、防護服は瘴気を完全に防げるような仕様にはなってないポね。安全第一ポ、壁門を開けたらすぐ、二人はここへ戻ってポ。ロビンズとサンとグレコちゃんは、ここで待機ポ。怪我や瘴気にやられた人達の手当てをお願いするポよ。チリアンは滅瘴薬不足の事態に備えて、ここでマンドレイクの即時栽培をしてポ。ヤーリュ、モーブ、パロット学士は、ミルクとギンロちゃんの側で待機。ダート(現地調査員の象型獣人)は、ここにいる紅竜人の方々の避難誘導。以上!! 何か質問あるポかっ!!?」

 テキパキとみんなに指示を出しながら、自らの体に守護魔法をかけるノリリア。
 アイビー、インディゴ、マシコットも、同じように自分の身を守るべく守護魔法を行使する。
 それも一度ではなく、何度も何度も。

 うぅうぅぅ~~~!
 質問ならあるぞノリリアこの野郎っ!!
 何故に俺まで行かなきゃならんのだっ!?
 しかも、さっきの言い方だと、イグも邪神も俺任せだったよな!??
 俺にどうしろとっ!!??
 最弱の俺にどうしろとぉおっ!?!!?

 ワナワナ、ブルブル、ガクガクと震える俺の全身。
 これは武者震いなどではない……
 本気でビビって震えているだけなんですぅっ!!!

 確かに俺は、ロリアンに約束した。
 悪魔を倒し、邪神を倒して、イグの事もどうにかすると。
 だがしかしっ! 
 それは俺自身が奴らをどうにかする、という意味ではないっ!!
 断じてないぞこの野郎っ!!!
 俺は、俺は……、みんなにどうにかしてもらうつもりだったんだっ!!!!
 なのに、何故俺が主体なんだこの野郎っ!!!!!
 
「安心しろモッモ。おいらの守護魔法は天下一品だぞっ!?」

 そう言って、自分と俺に守護魔法をかけるカービィ。
 杖の先から放たれる青い光が、何度も俺の体を包み込んでいく。

 おぉ~い、カービィ君や。
 君さ、王宮に行く前はさ、逃げようって言ってたよね?
 今ってさ、絶対逃げるべき時だと思うの。
 この俺を……、世界最弱種族であるこの俺を、自らの箒に乗せて邪神の元まで連れて行くって……
 さっきまでとは全然意見が違うくない??
 え???
 何考えてんのさ馬鹿っ!

 それにさ、天下一品とか言うけどさ……
 これ、この守護魔法さ、下手すりゃ物理攻撃は通過するとか言ってたやつだよね?
 ほんとにこれで大丈夫なの??
 俺、嫌だぞ、腐って死ぬなんて……
 そんな死に方、絶対嫌だからなっ!!

 言いたい事は山ほどある。
 聞きたい事も山ほどある。
 もう喉の途中まで出かかっているくらいだ。
 しかし、一言も発せない。
 何故なら背後に、ただならぬ圧力を放つグレコが立っているから。

「モッモ、しっかりね。箒から落ちちゃダメよ。イグもモシューラも、止められるのはモッモしかいないんだからね。……ファイト!!!」

 ……あんたも、さっきまでとキャラ違うくない?
 え、別の人格なの??
 自分は安全な場所に留まれるからいいよね。
 俺のこと心配して守ってくれる人は、ここにはいないわけ???

 箒にまたがるノリリア達。
 俺も無理矢理、カービィのあのヴォンヴォン煩い箒の後ろに乗せられて……

「それじゃあ行くポよっ! みんな、死ぬ気で頑張るポ!! 世界の為にっ!!!」

「おぉおぉぉーーーー!!!!」

 ぬぅおぉぉ~っ!?
 は、始まってしまうのかっ!??
 これはまさに、ミッションインモッシブル……、2ツー!?!?

 ノリリア、アイビー、インディゴ、マシコットは、勢いよく空へと飛び立つ。
 俺とカービィも、続けて空へと飛び立った。

 月の無い真っ暗な空の下、聞こえてくるのは逃げ惑う人々の悲鳴と、王宮が崩れるガラガラという崩壊の音。
 そして、もはや胴体の一部までもが外へと出始めた、巨大なモシューラの叫び声。

『オビャビャビャビャビャーーーーー!?!??』

 これはまた……、なんちゅう鳴き声だよおいっ!?
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