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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

579:思い当たる節

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「な、なんだ? 今のは……??」

 爆音と揺れが収まり、ゆっくりと立ち上がる俺。
 周りのみんなも、緊張した面持ちで辺りを見渡している。
 しかし、これといって特に異変は見当たらない。
 だけど……

 ゾワゾワ~

 ゾワゾワゾワ~

 身体中を、あのゾワゾワ~が襲い続けている。
 なんていうかこう、引いては返す波が押し寄せるような、そんな感じだ。
 なんだか、とてつもなく嫌な予感がする。

「モッモ君、感じるか?」

 声を掛けてきたのはゼンイだ。
 その視線は真っ直ぐに、扉の外へと向けられている。

「ゼンイもなの? なんか、ゾワゾワ~って」

「精霊を召喚出来る君も感じているのならば、やはりこれは霊力の波。この王宮の何処かで、誰かが、とてつもない霊力を放ったんだ」

「誰かって……。霊力は、精霊か精霊召喚師にしかないものなんだよね?」

「そうだ。だからこれは、恐らくミルクのものだ」

「ミルクの? だとしたら……」

 俺は頭をフル回転させて、現状何が起きているのかを、理解しようとする。

 消えたチャイロことイグと、行方知れずのミルク。
 イグは、金山の中に捕らえられている、友である蛾神モシューラを救うと言っていた。
 ロリアンは、邪神と化したモシューラを捕らえた神殿の封印を解く鍵は、精霊召喚師が持つ霊力だと言っていた。
 そしてミルクは精霊召喚師……、つまり、霊力を持っている。
 
「やばい……、絶対やばいよ……。イグは、ミルクの力を使って、封印を解くつもりなんだ。邪神モシューラを、外に出すつもりなんだよ!」

 俺の言葉に、ゼンイは目を見開いた。

「邪神だとっ!? まさかそんな……、この国には、邪神が存在するのかっ!??」

 おぉっとぉお~っ!?
 そっから説明しなきゃ駄目かいっ!??
 あんた、悪魔にも気付かなかったし、案外何にも知らないのねっ!!??

「ポポッ!? 邪神とはいったい、どういう事ポねっ!??」 
  
 俺とゼンイの会話を聞き、驚いたのは近くにいたノリリアだ。

 ノリリアもかぁあっ!?
 てか何も知らないのは隠してた俺達のせいだよね、ごめんっ!!
 けど、けど……、今はのんびり説明している場合じゃない気がするぞぉっ!??

「このリザドーニャ王国には、古くから蛾神モシューラが存在していたの。けれど五百年前、ロリアンさんが邪神と化しているモシューラに気付いて、当時の国王の協力の元、このピラミッド内に封印したらしいのよ。その封印を解く鍵となるのが、精霊召喚師が持つ霊力なの」

 グレコが、めちゃくちゃ分かりやすくみんなに説明してくれた!
 さすがグレコ!! グッジョブッ!!!

「じゃあ、先程から感じるこの波動はやはり、誰かの霊力……?」

 マシコットがボソッと呟いた。
 そういやあんたも半分精霊だったわね!?
 あんたも感じていたのね、このゾワゾワ~を!!?

「モッモ、何か心当たりはねぇのか? このピラミッド内に邪神が封印されてんのは分かってんだ。後はその封印が施された場所、つまり神殿に繋がる扉がどっかにあるはずなんだよ。その扉がどこにあるか、思い当たる場所はねぇか??」

 カービィに問い掛けられて、俺は戸惑う。

「そんな、扉なんて……、どこにあるんだか、僕には……」

 するとカサチョが、短い顎に手を当ててこう言った。

「例えばでござるが……。邪神なる者は、その体から瘴気しょうきと呼ばれる悪気を放つと言われているでござる。強力なものならばまだしも、封印されているとなればそれは微々たるものとなり、常人は到底気付かぬはず。故に、邪神が封印されし土地に住まう者達は、知らぬ間に体を侵され、病が流行る原因にもなると……。しかしながら、神の力を持つ者には、それを感じ取る能力があると聞いた事があるでござる。それは煙の如き黒であったり、毒のような紫色であったり、時には腐物の如き悪臭を放つのだとか……。モッモ、何か思い当たる節はござらんか?」

 えっ!? 何っ!??
 説明が長いし、カサチョの話し方、いつも分かりにくいんだよっ!!!

「しょ、瘴気? 何それ?? 僕にはそんなもの、分か、ら……、な……、はぁあっ!?」

 俺は、瞬間的に思い出していた。
 地面から立ち昇る、あの黒い煙を。

 おぉっ!? 思い当たる節ぃっ!!?
 一箇所だけあるぞぉおっ!!!

「もももっ!? もしかしたらっ!! 中庭かもっ!!?」

 声を震わせて、俺は叫んだ。

 王宮の中央にある、あの美しい中庭。
 その地面からは、奇妙な黒い煙のような物が漏れ出ていたのではなかったか!?
 もしかすると……、いやもしかしなくても、あそこがっ!??

「行こうっ!!!」

 声を上げたのはゼンイだ。
 ゼンイが駆け出すと共に、俺達も走り出した。

 玉座の間を飛び出し、立ち尽くす奴隷達の間を走り、通路を駆け抜けて、真っ直ぐに中庭へと向かう。
 階下を見渡せる通路の端まで辿り着いた俺達が目にしたものは、まさしく最悪の事態だった。

「くっ!? 遅かったかっ!!?」

「ポポポッ!? 大変ポォッ!!?」

 目の前にあるのは、巨大な、紫色が混じったドス黒い煙の柱だ。
 中庭のある階下から空へと向かって、逆流する滝の如く、煙が勢いよく大量に噴出しているのだ。
 それは、嗅いだ事のある焦げ臭い臭いと、何にも例え難いヌメヌメとした沼底のヘドロのような、吐き気を催す悪臭を放っている。
 煙の中には赤い光を放つ細かな粒子が無数に漂っていて、それが王宮の壁や床にベタベタと付着すると、煌びやかな黄金は一瞬にして真っ黒に変色し、周りを腐蝕し始めた。
 ここから見える下階は既に真っ黒で、濃い紫色の煙が充満していた。

「あっ!? あそこっ!!」

 グレコが指差す先にあるのは、美しかったはずの中庭だ。
 生茂る草木や花々で満たされ、色鮮やかな蝶が舞っていたはずの中庭は、死の庭園へと一変している。
 そこにあったはずのガラスのドームは粉々に砕け散り、草木は枯れ果て、花々は腐り落ち、見た事のないウネウネとした奇妙な寄生植物がそこら中に蔓延っているのだ。
 周囲を流れる水は黒く染まり、そこにいたはずの蝶は全て息耐えて地面に落ち、白いカビの温床となっていた。

 そして、そんな死の庭園の中心に、彼らはいた。
 倒れているミルクと、その隣に佇む小さな影……、生贄用の黄金のミイラ姿のままのチャイロだ。
 すぐ側の地面には、轟々と止めどなく煙が噴出し続ける、歪な形の巨大な穴が空いていた。
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