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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

578:ゾワゾワ〜

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「くそっ! 取り逃したっ!!」

 足をダンッ!と踏み鳴らして、カービィはそう言った。
 
「カービィちゃん、悔しがってる暇は無いポよ。みんなを助けないとポ」

 ノリリアはフラフラとしながらも、側に倒れているインディゴを起こしにかかる。
 カービィもすぐさま気持ちを切り替えて、近くにうずくまっているロビンズに駆け寄って行った。

 騎士団は、ほぼ全員がここにいるようだ。
 一名、見覚えの無い、馬鹿にでかい体の象みたいな獣人がいるが、騎士団のローブを身につけているので、恐らくロリアン島の現地調査員だろうと俺は推測した。
 ただ……、なんとなく、数が少ないような気がするぞ?
 本当に全員いるのかしら??

「ギンロ! しっかりしなさいよギンロ!!」

 少し離れた場所で、グレコがギンロの頬をピシピシ叩いている。
 外傷こそないが、ギンロは白目を向いていた。

 ねぇグレコ……、出来るならもう少し、優しくしてあげてくだぱい。

「ギャギャ……、痛てぇ……」

「ギャハハ、油断したぜ。おいお前ら! ゼンイを助けろ!!」

 スレイとクラボはなんとか無事な様だ。
 身体中から流血しているものの、意識はハッキリしているし、笑ってるし……、ゆっくりとだが立ち上がっている。

 スレイとクラボの言葉に反応して、扉の前で待機していた奴隷達が数名、玉座の間に入ってきて、壁に貼り付けられたままのゼンイの影を助けに向かう。
 ゼンイの体を取り巻いていた黄色い光の結界は、ムルシエが姿を消すと共に、奇妙な黒い木の根のように変化していた。
 奴隷達は一瞬触れるのを躊躇ったが、思い直したように手を伸ばし、バリバリとそれを剥がしていった。
 解放されたゼンイの影は、スーッと吸い込まれる様に、扉の外にいた本体へと戻っていく。
 そして……

「……ジピン? ジピンさん!?」

 黒い鱗を持つ紅竜人の体に戻ったゼンイは、泣きそうな声を出しながら、玉座の間へと駆け込んできた。
 そして、玉座の上で息絶えているティカの前に膝を付き、床に頭を伏せて、声を押し殺しながら泣き始めた。

 俺は……、俺も、泣きそうだ。
 まさかこんな事になるなんて、思ってなかった。
 ティカが、こんな変わり果てた姿で、死んじゃうなんて……

 ゼンイが、ティカをジピンを呼ぶという事は、やはりティカのお兄さんがジピンで、ティカとジピンがそっくりだという事に他ならない。
 その事実、目の前で死んでいるのはジピンではなく、その弟のティカなのだと、俺はゼンイに告げるべきなのだが……
 絶望し、震えるゼンイを前に、俺は声を掛けられずにいた。

「どうやら、この国の国王は、随分と前に亡くなられていたようでござるな」

 ……ん? ござる??

 聞き覚えのある声と特徴的な語尾に、俺は首を横に回した。
 するとそこには、ピンピンした様子のカサチョが立っているでは無いか。

「えっ!? カサチョ??」

 そういや、倒れている騎士団メンバーの中に、カサチョは居なかったような……?
 まさかこいつ、また一人で逃げてたんじゃなかろうな??

「おうカサチョ! 無事だったか!!」

 さっきまでの悔しい顔はどこへやら、いつものヘラヘラした調子に戻ったカービィがこちらへ走ってくる。
 周りでは、気を失っていた騎士団のメンバー達が、順番に意識を取り戻していた。

「おぉカビやん。そちらも無事で何より!」

 ニコニコと答えるカサチョ。

「ねぇ、まさかとは思うけどさ……。逃げてたの?」

 思わず尋ねる俺。

「むむ、逃げていたのでは無い。ノリリア殿に頼まれて、王宮内を極秘に調査していたのでござるよ。隠密は、拙者が最も得意とする分野でござる故な」

 ふ~ん……、そうなんだぁ~。

「で、何か分かったのか? 国王がどうしたって??」

「その事なのでござるが……。カビやんが魔弾で穴を開けたあの壁の向こう側が、国王の寝室なのでござる。拙者について来るでござるよ」

 歩き出すカサチョ。
 なんとなくついて行く俺とカービィ。

 崩れ落ちた壁の向こう側は、薄暗い大きな部屋で、豪華なベッドが一つ置かれているだけだ。
 そして、なんとも言えない腐敗臭が漂っている。

「臭っ!? こいつはやべぇぞ……」

 鼻をつまむカービィ。
 俺も我慢出来ずに、鼻の穴に指を突っ込んだ。
 何故だか平気らしいカサチョは、テクテクとベッドに向かって歩いて行く。
 そこには誰かが寝ているようだが、何やらブンブンと大量の小虫が周りを飛んでいる。

「少々醜怪しゅうかい故、心して見るでござる」

 カサチョはそう言って、ベッドにかかっていた掛け布団をバサッと捲り上げた。
 そこに現れたのは……

「うっ!? うぇ~……、酷い……」

 あまりの光景に、俺もカービィも顔を背けた。
 ベッドの上には、ガリガリの、グチョグチョの腐乱死体が横たわっているのだ。
 骸骨一歩手前みたいなその死体は、死亡してから随分と時間が経っているのだろう。
 真っ赤な鱗を持つ皮膚は、腐り果ててボコボコと波打ち、そこかしこで蛆虫のような小さな白い虫がウゾウゾしていた。

「この御遺体の手に、王族の証であろう指輪がはめられているのでござる。ほら、ここ」

 そう言ってカサチョは指差すが……、その指ももはやグチョグチョに腐って原型を留めてないので、何がなんだか分からない。
 だけどそこには確かに、大きな赤い石のついた指輪がある。
 その赤い石には、見た事があるような無いような、創造神ククルカンを模したのであろう金の浮き彫りが見えた。

「御遺体を調べてみたが、殺害された痕跡は見つからぬ故、病死した後そのまま放置されていたのでござろうな。部屋には外側から厳重に鍵がかけられていたでござるよ」

 壁際にある扉を指差すカサチョ。
 
「ふむ……、となると……。リザドーニャ王家は、実質的に滅亡する事になるわけか」

 鼻をつまんだままの格好で、くぐもった声でカービィが言った。

「滅亡っ!? で、でも……、チャイロがいるから大丈夫だ……、よ? あれ?? そういやチャイロがいない……???」

 チャイロの存在を思い出すと同時に俺は、なんだか妙な感覚に陥った。
 身体中が、ゾワゾワ~っと何かを感じ取ったのだ。
 それは、誰かに体を触れられた時に感じるものとは全く違っていて……、物理的なゾワゾワではなく、なんかこう心がゾワゾワ~ってする感じだ。
 
 なんだ? なんだこれ?? どうした俺???
 何か、悪寒というか、第六感というか……、なんかヤバイ感じがするぞ????

「とにかく、みんなの所へ戻ろう。大丈夫! 国王が居なくても、もうロリアンの遺産はおいら達が見つけたからなっ!!」

「なんとっ!? そうでござったか!?? さすがカビやん、頼りになるでござるっ!!!」

 カービィが自分の手柄のように語っているのは気になったが、それよりもゾワゾワ~が気になって仕方がない俺。
 カービィとカサチョと共に、壁の穴を通って玉座の間に戻ると、目覚めた騎士団のみんなが何やらザワザワしていた。

「おう、みんな無事だな! 良かった良かった!!」

 なははと笑うカービィ。
 するとノリリアが、不安気な顔でこう言った。

「カービィちゃん。それが……、ミルクがいないのポ。一緒に玉座の間に入ったはずなのに、いつの間にか姿が消えているのポよ」

 え? ミルクが??

 ノリリアの言葉に、俺の中のゾワゾワ~が更に大きくなる。
 
 ミルクは確か……、精霊召喚師、だったよな?
 おさげ頭で、俺を敵視していて。
 ……ん?? 精霊、召喚師???
 なんか最近、誰かと、精霊と霊力について話し合った気がする。
 封印を解く為には、霊力が必要だとかなんとか。
 
 ………………はっ!?
 ま、まさかぁっ!??

 俺の嫌な予感は、的中した。
 体に感じるゾワゾワ~が、どんどんと大きくなっていき……

「なんだ? さっきから……、霊力の波が、押し寄せてる??」

 玉座の前で項垂れていたゼンイが、呟く様にそう言って顔を上げた。
 どうやらゼンイも、俺と同じように何かを感じ取っているらしい。
 そして……

 ゴガガガガガァーーーーー!!!!!

「わぁあっ!?」

「キャアァ!??」

「危ないっ!? 伏せろっ!!」

 巨大な地響きと共に、足元がグラグラと揺れて、慌てて床に伏せる俺達。 
 その直後に、ドォーン! ガラガラガラ~!! という何かが爆発して崩れたような大きな音が、部屋の外から聞こえた。
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