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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
575:玉座の間
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黄金の床、黄金の壁、黄金の天井、その至る所に飛び散る血と肉片。
鳴り止まない戦いの音と、響き渡る断末魔の悲鳴。
王宮の内部は、何処もかしかも戦場だった。
通路をひた走るスレイの肩に乗り、振り落とされないようにとその逞しい首に必死に抱き付く俺は、視界を流れていく赤く血生臭い光景に半泣きになっていた。
うぅ~、酷い……
エグいし、臭いがきついし、もう吐きそう……、オエッ。
これまでにも、様々な修羅場、凄惨な光景を俺は目にしてきた。
イゲンザ島では、敵であった有尾人が、カービィとノリリアが創り出した土の巨人ゴーレムによって、グチャグチャのミンチと化していたし……
コトコ島では、鬼族である紫族達の凄まじい同種狩りを目撃したし……
ニベルー島では、半分腐乱死体のようなホムンクルスと面と向かって戦って、石にした挙句バラバラに破壊したりしたし……
グロテスクなものに対して、それなりに免疫を付けてきたつもりだったが……、今回のは駄目だ。
いや、今回のも駄目だ、やっぱり。
玉座の間へと向かう通路は、紅竜人の死体で溢れ返っていた。
真っ赤な血の海に沈む、つい先ほどまで生者であったはずの、生温かそうな肉の塊。
そのほとんどが、鎧を身につけた王宮の兵士達だった。
推測するに、奴隷達が兵士達よりも優勢なのはきっと、その身軽さ故だろう。
彼等の戦いを見る限り、一撃の力こそ鍛え上げた兵士達の方が勝っているが、動きがかなり遅いのだ。
だから、老齢の奴隷達であっても、兵士の攻撃を避ける事が出来たのだろう。
つまり兵士達は、その身を守る為に装備しているはずの重い鎧によって、身を滅ぼしたに違いない。
それに加えて、不自然な点が一つ。
理由は分からないが、息耐えている兵士達の亡骸のその顔、その目の周りが、異様に黒ずんでいるのだ。
まるで墨でも塗られたかのように……
うぅ~……、駄目だ!
イッツァ、ベリーベリー……、ベリベリベリー、グロテッスクゥッ!!
もう帰りたいっ!!!
俺は、出来るだけ臭いを嗅がないようにと、両方の鼻の穴に指を突っ込み(それでも臭ってくるからあんまり意味ないけどねっ!)、出来るだけその光景を見ないように、目を逸らしながら(興味本位でめちゃくちゃガッツリ見ちゃってるけどねっ!)、スレイの首にしがみついていた。
通路を走り抜け、階段を駆け上がり、上階へと向かうスレイとクラボ。
二人に続くグレコとカービィ。
すると、王宮の二階、真北に当たるその場所に、巨大な黄金の扉が現れた。
なんとまぁそこは、俺が何度も出入りしていたチャイロの部屋から、目と鼻の先にあるではないか。
別の通路なので気付かなかったが、それにしたって妙である。
王宮の二階は、いつでもめちゃくちゃ静かで、閑散としていて……、こんな場所に国王がいるなんて、誰も思いもしないだろう。
扉の前には、人集り……、もとい奴隷の紅竜人集りが出来ていた。
こちらは皆若くて、体がゴツゴツしていて、元々傷だらけな事も手伝って、かなり素行の悪い血気盛んな兄ちゃん達って感じの雰囲気だ。
「通してくれっ!」
前を行くクラボが叫ぶ。
すると、こちらに気付いた奴隷達は、その人相に似合わず素直に、さっと道を開けて通してくれた。
巨大な黄金の扉の真ん前には、見知った顔が二人並んでいる。
トルテカの町で出会った、メーザとバレだ。
その脇には、怪我を負って苦しそうな表情の若い奴隷達が数名、手足から血を流しながら床に蹲っていた。
「どうした!? どうなってんだ!??」
クラボの言葉に、メーザとバレが俺達に気付く。
「クラボ! スレイ!! それに……、えっ!? あの時の鼠っ!?? 生きてたのかっ!!??」
スレイの肩に腰掛ける俺を見て、驚くバレ。
メーザも目をシパシパさせて俺を見ている。
どうやら二人とも、俺の事はとっくに死んだものだと思っていたらしい……、けっ! けっ!!
「何故扉が閉まってる!? 王はどうなった!??」
肩から俺を下ろしながら、スレイが問い掛けた。
「それが……、玉座の間に攻め入ろうとしたんだが、中に妙な奴等がいてね。その中の一人がかなり強くて、こいつら皆斬られちまったんだ。見た事のない、青みがかった銀色の毛を持つ獣だったよ。あたしら皆、全然歯が立たなくて……」
メーザは、負傷した者達を手当てしながら、困惑した様子でそう言った。
青みがかった、銀色の毛を持つ獣?
しかも、手練れとな??
それって……、もしかしなくても、ギンロのこと???
「あの野郎、上機嫌で吠えてやがったぜ! くそっ、あと一歩だったってのにっ!!」
軽い怪我をしたらしいバレも、ギリギリと悔しそうに歯軋りをする。
上機嫌で吠えるって……、うん、間違いなくギンロだな。
そうか、さっき絆の耳飾りで聞こえてきた声は、攻めてきた奴隷達と闘う声だったのか。
……それにしてもギンロの奴、ややこしい事してくれたなおい。
奴隷達は一応味方なのに……、いや、味方かどうかは怪しいな、強いて言うなら知り合いだろう。
とにかく、誰でも彼でも斬っちゃ駄目って、後で言っておかないと。
グレコとカービィに、どうやらギンロがやっちゃったようだと伝える。
俺たちは、三人揃ってバツの悪そうな顔で口を閉じていた。
「じゃあ国王はまだこの中か!? ゼンイは!??」
辺りを見回すクラボとスレイ。
「姿は見えなかったが、国王は恐らく中にいるはずだ。だけど、中にいる奴等、どうやら魔法使いの集団らしいんだ。ピンク色の小さいのが何か叫んだかと思うと、みんな一人でに外に吹っ飛ばされたんだよ。それで、扉を閉められちまって、中から鍵をかけられて……。今さっき、ゼンイが中の様子を探るって、あの妙な術で影だけになって入ってったんだが……、まだ出てこねぇ」
バレはそう言って、心配そうに下を向いた。
見ると、バレが立っているすぐ側、壁にもたれかかって座っているのは、黒い鱗に頭部に橙色と緑色の羽を生やしたゼンイだ。
しかしながら、その姿はまるで眠っているようだ。
目を閉じ、口を閉じて、一言も話さず、座禅を組んで、瞑想しているかのような格好なのだ。
どうやら、眠っている本体とは別に、影だけが玉座の間の中に入っているらしい。
再度、現状をグレコとカービィに話して聞かせる俺。
すると……
「ピンク色の小さい奴って、おいらみたいな奴か?」
クラボの背後からピョコっと顔を出し、いつものヘラヘラとした調子で、自分を指差し尋ねるカービィ。
言葉はもちろん通じない筈なのだが……
「そう、ちょうどこいつみたいな……、えっ!? なんでそこにっ!??」
「中にいるんじゃなかったのかいっ!? いったい、どうなってんだいっ!!?」
バレとメーザの言葉に、周りの奴隷達がざわつき始める。
どうやら彼等には、似たようなピンク色の毛玉であるノリリアとカービィの区別が付かないらしい。
「落ち着けっ! とにかく、どうにかして扉を開けるんだ!!」
指揮を取るスレイ。
その言葉に従って、怪我をしていない奴隷達が扉の前にぞろぞろと集まる。
俺とグレコとカービィは、奴隷達の波に飲まれぬ様、少し後ろへと下がった。
「いくぞぉっ! 押せぇえっ!!」
「そ~えいっ! そ~えいっ!! そ~えいっ!!!」
独特な掛け声をかけながら、力を合わせて扉を開けようとする奴隷達。
しかしながら、かなり頑丈な造りらしい黄金の扉は、何度押してもびくともしない。
「くそぉっ! 何故開かないっ!?」
「どうなってんだっ!!?」
苛立ちを隠せない奴隷達。
すると……
「あ~……、それじゃ無理だ。ちょいと場所を空けてくれねぇか!?」
扉の前に集まる奴隷達に向かって、カービィが大きな声で言った。
だが、その言葉の意味は勿論伝わらない。
「なんだ? こいつ、何かする気か??」
「お前みたいな小さな奴に何ができるっ!?」
「引っ込んでろっ!!!」
野次を飛ばしてくる奴隷達。
だが、こちらも意味が通じてないカービィは、いつも通りの締まりのない笑顔で俺にこう言った。
「たぶんだけど、内側から何か結界が張られてんだよ。だから力だけじゃどうにもならねぇ。おいらなら、すぐ開けられるぞ。モッモ、みんなにそう言ってくれ」
カービィに頼まれて、俺はみんなにそれを伝えた。
にへらと笑う、緊張感がまるでないカービィに対し、奴隷達は顔を顰めるも……
「分かった、やってくれ!」
クラボの一言で、奴隷達はサッとその場を退いた。
「どうする気?」
「本当に開けられるの??」
心配になって、コソコソと尋ねる俺とグレコ。
「なぁ~に。おいら様の真の力を、とくとご覧あれだ」
カービィはそう言うと、ニンマリと笑って腕まくりをし、珍しく魔導書を取り出した。
そして扉に向かって杖を構え、空中に真っ赤な、巨大な魔法陣を浮かび上がらせた。
「あれは……、はっ!? みんな!! 離れてっ!!!」
グレコが両手を広げて、慌てて奴隷達に声を掛ける。
その様子から、急いで扉から離れる奴隷達。
「何っ!? 何なのっ!!?」
ワタワタする俺。
「モッモ、あの魔法陣、見た事あるでしょ!? 前の島でほら、ホムンクルスの国を攻めた時のっ! アイビーのっ!! あの、ドカーンッ! てなるやつ!!!」
はっ!? ドカーンッ!??
何それっ!?!?
グレコの抽象的な説明に、勘の悪い俺は何を言っているかさっぱり分からない。
魔法陣は、眩しいほどの赤い光を放ちながら、時計の歯車の様にカチカチと、一定の間隔で回転している。
カービィの全身は、いつぞやの戦いで見た事のある、膨大な魔力のオーラとも言えよう七色の光に包まれていた。
「吹き飛んじまえ……。最大級! 爆破!!」
カービィが大声で呪文を唱えると同時に、魔法陣は目を開けていられないほどの光を放ち、レーザーの様な鋭い閃光が扉に向かって一直線に走った。
そして……
ドゥオッ! ゴァアァァァーーーーンッ!!
「ひぃいぃぃっ!?!?」
なんちゅうメチャクチャな事するんだぁあっ!!!!!
黄金の扉に接触した赤い光は大爆発を起こし、扉は周りの壁もろとも粉々に吹き飛んでしまった。
悲鳴を上げる奴隷達と俺。
巻き上がる粉塵と、ガラガラと崩れ落ちる扉と壁の残骸。
出来上がった大きな穴の周りには、爆破によって破られたのであろう、糸のように細く黄色い光を放つ結界の残骸が垂れ下がっている。
その先に見えてきた光景は……
「え? あれは……??」
黄金の玉座の間にて、床に倒れているのは白薔薇の騎士団の面々とギンロ。
王の座るべき玉座と思われる豪勢な椅子には、見知った顔の紅竜人が腰掛けているのだが……、その者は胸から大出血を起こし、血色の悪い顔で気を失ってグッタリしている。
玉座の周りには、真っ赤な血溜まりが出来上がっており、そのすぐそばに立ち尽くす者が一人。
曲がったその背は見るからに年寄りで、身に纏った白いローブを返り血で真っ赤に染めて、身体中からは気味の悪い黒い煙を放っている。
そこから徐々に漂ってくる、嫌な腐敗臭。
そして、老いたその手には、まだドクドクと脈を打つ、生きたままの、真っ黒な心臓が握られていて……
「ジピーーーン!!!」
少し離れた場所で、黄色い糸の様な光で羽交い締めにされている影が、悲痛な声でその名を叫んでいた。
鳴り止まない戦いの音と、響き渡る断末魔の悲鳴。
王宮の内部は、何処もかしかも戦場だった。
通路をひた走るスレイの肩に乗り、振り落とされないようにとその逞しい首に必死に抱き付く俺は、視界を流れていく赤く血生臭い光景に半泣きになっていた。
うぅ~、酷い……
エグいし、臭いがきついし、もう吐きそう……、オエッ。
これまでにも、様々な修羅場、凄惨な光景を俺は目にしてきた。
イゲンザ島では、敵であった有尾人が、カービィとノリリアが創り出した土の巨人ゴーレムによって、グチャグチャのミンチと化していたし……
コトコ島では、鬼族である紫族達の凄まじい同種狩りを目撃したし……
ニベルー島では、半分腐乱死体のようなホムンクルスと面と向かって戦って、石にした挙句バラバラに破壊したりしたし……
グロテスクなものに対して、それなりに免疫を付けてきたつもりだったが……、今回のは駄目だ。
いや、今回のも駄目だ、やっぱり。
玉座の間へと向かう通路は、紅竜人の死体で溢れ返っていた。
真っ赤な血の海に沈む、つい先ほどまで生者であったはずの、生温かそうな肉の塊。
そのほとんどが、鎧を身につけた王宮の兵士達だった。
推測するに、奴隷達が兵士達よりも優勢なのはきっと、その身軽さ故だろう。
彼等の戦いを見る限り、一撃の力こそ鍛え上げた兵士達の方が勝っているが、動きがかなり遅いのだ。
だから、老齢の奴隷達であっても、兵士の攻撃を避ける事が出来たのだろう。
つまり兵士達は、その身を守る為に装備しているはずの重い鎧によって、身を滅ぼしたに違いない。
それに加えて、不自然な点が一つ。
理由は分からないが、息耐えている兵士達の亡骸のその顔、その目の周りが、異様に黒ずんでいるのだ。
まるで墨でも塗られたかのように……
うぅ~……、駄目だ!
イッツァ、ベリーベリー……、ベリベリベリー、グロテッスクゥッ!!
もう帰りたいっ!!!
俺は、出来るだけ臭いを嗅がないようにと、両方の鼻の穴に指を突っ込み(それでも臭ってくるからあんまり意味ないけどねっ!)、出来るだけその光景を見ないように、目を逸らしながら(興味本位でめちゃくちゃガッツリ見ちゃってるけどねっ!)、スレイの首にしがみついていた。
通路を走り抜け、階段を駆け上がり、上階へと向かうスレイとクラボ。
二人に続くグレコとカービィ。
すると、王宮の二階、真北に当たるその場所に、巨大な黄金の扉が現れた。
なんとまぁそこは、俺が何度も出入りしていたチャイロの部屋から、目と鼻の先にあるではないか。
別の通路なので気付かなかったが、それにしたって妙である。
王宮の二階は、いつでもめちゃくちゃ静かで、閑散としていて……、こんな場所に国王がいるなんて、誰も思いもしないだろう。
扉の前には、人集り……、もとい奴隷の紅竜人集りが出来ていた。
こちらは皆若くて、体がゴツゴツしていて、元々傷だらけな事も手伝って、かなり素行の悪い血気盛んな兄ちゃん達って感じの雰囲気だ。
「通してくれっ!」
前を行くクラボが叫ぶ。
すると、こちらに気付いた奴隷達は、その人相に似合わず素直に、さっと道を開けて通してくれた。
巨大な黄金の扉の真ん前には、見知った顔が二人並んでいる。
トルテカの町で出会った、メーザとバレだ。
その脇には、怪我を負って苦しそうな表情の若い奴隷達が数名、手足から血を流しながら床に蹲っていた。
「どうした!? どうなってんだ!??」
クラボの言葉に、メーザとバレが俺達に気付く。
「クラボ! スレイ!! それに……、えっ!? あの時の鼠っ!?? 生きてたのかっ!!??」
スレイの肩に腰掛ける俺を見て、驚くバレ。
メーザも目をシパシパさせて俺を見ている。
どうやら二人とも、俺の事はとっくに死んだものだと思っていたらしい……、けっ! けっ!!
「何故扉が閉まってる!? 王はどうなった!??」
肩から俺を下ろしながら、スレイが問い掛けた。
「それが……、玉座の間に攻め入ろうとしたんだが、中に妙な奴等がいてね。その中の一人がかなり強くて、こいつら皆斬られちまったんだ。見た事のない、青みがかった銀色の毛を持つ獣だったよ。あたしら皆、全然歯が立たなくて……」
メーザは、負傷した者達を手当てしながら、困惑した様子でそう言った。
青みがかった、銀色の毛を持つ獣?
しかも、手練れとな??
それって……、もしかしなくても、ギンロのこと???
「あの野郎、上機嫌で吠えてやがったぜ! くそっ、あと一歩だったってのにっ!!」
軽い怪我をしたらしいバレも、ギリギリと悔しそうに歯軋りをする。
上機嫌で吠えるって……、うん、間違いなくギンロだな。
そうか、さっき絆の耳飾りで聞こえてきた声は、攻めてきた奴隷達と闘う声だったのか。
……それにしてもギンロの奴、ややこしい事してくれたなおい。
奴隷達は一応味方なのに……、いや、味方かどうかは怪しいな、強いて言うなら知り合いだろう。
とにかく、誰でも彼でも斬っちゃ駄目って、後で言っておかないと。
グレコとカービィに、どうやらギンロがやっちゃったようだと伝える。
俺たちは、三人揃ってバツの悪そうな顔で口を閉じていた。
「じゃあ国王はまだこの中か!? ゼンイは!??」
辺りを見回すクラボとスレイ。
「姿は見えなかったが、国王は恐らく中にいるはずだ。だけど、中にいる奴等、どうやら魔法使いの集団らしいんだ。ピンク色の小さいのが何か叫んだかと思うと、みんな一人でに外に吹っ飛ばされたんだよ。それで、扉を閉められちまって、中から鍵をかけられて……。今さっき、ゼンイが中の様子を探るって、あの妙な術で影だけになって入ってったんだが……、まだ出てこねぇ」
バレはそう言って、心配そうに下を向いた。
見ると、バレが立っているすぐ側、壁にもたれかかって座っているのは、黒い鱗に頭部に橙色と緑色の羽を生やしたゼンイだ。
しかしながら、その姿はまるで眠っているようだ。
目を閉じ、口を閉じて、一言も話さず、座禅を組んで、瞑想しているかのような格好なのだ。
どうやら、眠っている本体とは別に、影だけが玉座の間の中に入っているらしい。
再度、現状をグレコとカービィに話して聞かせる俺。
すると……
「ピンク色の小さい奴って、おいらみたいな奴か?」
クラボの背後からピョコっと顔を出し、いつものヘラヘラとした調子で、自分を指差し尋ねるカービィ。
言葉はもちろん通じない筈なのだが……
「そう、ちょうどこいつみたいな……、えっ!? なんでそこにっ!??」
「中にいるんじゃなかったのかいっ!? いったい、どうなってんだいっ!!?」
バレとメーザの言葉に、周りの奴隷達がざわつき始める。
どうやら彼等には、似たようなピンク色の毛玉であるノリリアとカービィの区別が付かないらしい。
「落ち着けっ! とにかく、どうにかして扉を開けるんだ!!」
指揮を取るスレイ。
その言葉に従って、怪我をしていない奴隷達が扉の前にぞろぞろと集まる。
俺とグレコとカービィは、奴隷達の波に飲まれぬ様、少し後ろへと下がった。
「いくぞぉっ! 押せぇえっ!!」
「そ~えいっ! そ~えいっ!! そ~えいっ!!!」
独特な掛け声をかけながら、力を合わせて扉を開けようとする奴隷達。
しかしながら、かなり頑丈な造りらしい黄金の扉は、何度押してもびくともしない。
「くそぉっ! 何故開かないっ!?」
「どうなってんだっ!!?」
苛立ちを隠せない奴隷達。
すると……
「あ~……、それじゃ無理だ。ちょいと場所を空けてくれねぇか!?」
扉の前に集まる奴隷達に向かって、カービィが大きな声で言った。
だが、その言葉の意味は勿論伝わらない。
「なんだ? こいつ、何かする気か??」
「お前みたいな小さな奴に何ができるっ!?」
「引っ込んでろっ!!!」
野次を飛ばしてくる奴隷達。
だが、こちらも意味が通じてないカービィは、いつも通りの締まりのない笑顔で俺にこう言った。
「たぶんだけど、内側から何か結界が張られてんだよ。だから力だけじゃどうにもならねぇ。おいらなら、すぐ開けられるぞ。モッモ、みんなにそう言ってくれ」
カービィに頼まれて、俺はみんなにそれを伝えた。
にへらと笑う、緊張感がまるでないカービィに対し、奴隷達は顔を顰めるも……
「分かった、やってくれ!」
クラボの一言で、奴隷達はサッとその場を退いた。
「どうする気?」
「本当に開けられるの??」
心配になって、コソコソと尋ねる俺とグレコ。
「なぁ~に。おいら様の真の力を、とくとご覧あれだ」
カービィはそう言うと、ニンマリと笑って腕まくりをし、珍しく魔導書を取り出した。
そして扉に向かって杖を構え、空中に真っ赤な、巨大な魔法陣を浮かび上がらせた。
「あれは……、はっ!? みんな!! 離れてっ!!!」
グレコが両手を広げて、慌てて奴隷達に声を掛ける。
その様子から、急いで扉から離れる奴隷達。
「何っ!? 何なのっ!!?」
ワタワタする俺。
「モッモ、あの魔法陣、見た事あるでしょ!? 前の島でほら、ホムンクルスの国を攻めた時のっ! アイビーのっ!! あの、ドカーンッ! てなるやつ!!!」
はっ!? ドカーンッ!??
何それっ!?!?
グレコの抽象的な説明に、勘の悪い俺は何を言っているかさっぱり分からない。
魔法陣は、眩しいほどの赤い光を放ちながら、時計の歯車の様にカチカチと、一定の間隔で回転している。
カービィの全身は、いつぞやの戦いで見た事のある、膨大な魔力のオーラとも言えよう七色の光に包まれていた。
「吹き飛んじまえ……。最大級! 爆破!!」
カービィが大声で呪文を唱えると同時に、魔法陣は目を開けていられないほどの光を放ち、レーザーの様な鋭い閃光が扉に向かって一直線に走った。
そして……
ドゥオッ! ゴァアァァァーーーーンッ!!
「ひぃいぃぃっ!?!?」
なんちゅうメチャクチャな事するんだぁあっ!!!!!
黄金の扉に接触した赤い光は大爆発を起こし、扉は周りの壁もろとも粉々に吹き飛んでしまった。
悲鳴を上げる奴隷達と俺。
巻き上がる粉塵と、ガラガラと崩れ落ちる扉と壁の残骸。
出来上がった大きな穴の周りには、爆破によって破られたのであろう、糸のように細く黄色い光を放つ結界の残骸が垂れ下がっている。
その先に見えてきた光景は……
「え? あれは……??」
黄金の玉座の間にて、床に倒れているのは白薔薇の騎士団の面々とギンロ。
王の座るべき玉座と思われる豪勢な椅子には、見知った顔の紅竜人が腰掛けているのだが……、その者は胸から大出血を起こし、血色の悪い顔で気を失ってグッタリしている。
玉座の周りには、真っ赤な血溜まりが出来上がっており、そのすぐそばに立ち尽くす者が一人。
曲がったその背は見るからに年寄りで、身に纏った白いローブを返り血で真っ赤に染めて、身体中からは気味の悪い黒い煙を放っている。
そこから徐々に漂ってくる、嫌な腐敗臭。
そして、老いたその手には、まだドクドクと脈を打つ、生きたままの、真っ黒な心臓が握られていて……
「ジピーーーン!!!」
少し離れた場所で、黄色い糸の様な光で羽交い締めにされている影が、悲痛な声でその名を叫んでいた。
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こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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