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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

574:反乱

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 武器を手に、戦いを繰り広げる紅竜人達。
 その周りには事切れた兵士や奴隷が多数倒れており、辺りには大量の血が飛び散っていて……
 ここはまるで、地獄への入り口のようだ。

 やべぇっ!?
 やべぇえっ!!?
 やべぇえぇっ!!??

 すると、凄惨な光景を前に、どうすれば良いのかとキョロキョロしていた俺の目と、近くにいた紅竜人兵士の目がバッチリと合ってしまった。

「んんっ!? おいっ! あそこに逃亡中の鼠がいるぞっ!!」

 叫ぶ兵士。

 はっ!? 俺のことっ!??

「何っ!? 本当だっ! あいつこそ、この反乱の主犯格だ!! 捕まえろぉっ!!!」

 別の兵士が俺を見て叫ぶ。

 えっ!? 俺のことっ!??

「うおぉぉぉぉおぉぉっ!!!!」

 俺の姿を見た兵士数名が、剣を振り上げ、雄叫びを上げながら突進してくるではないか。

 やっっっべぇえええぇぇぇぇっ!?!!?

突風カティギダー!」

 カービィがすかさず杖を振り、魔法を行使する。
 杖の先から放たれた黄緑色の光は、丸い空気の塊となって兵士達に真っ直ぐ向かっていき……

「うわぁあぁっ!?」

「なんだぁあっ!!?」

 兵士達の体は目に見えない何かに押されて、ズザザザザザー! と、王宮の通路を勢いよく飛ばされて行った。
 危機一髪! セーフ!!
 しかし、その様子を見ていた別の兵士達が俺達に気付いて……

「敵がまた攻め込んできたぞっ!」

「魔法使いだ! 気を付けろっ!!」

「迎え撃てぇっ!!!」

 更に多くの兵士がこちらに向かってくるではないか。

 ゲェエッ!?
 逆効果っ!!?

守護アミナ!」

 カービィは杖を振り、守護魔法を行使する。
 俺とグレコとカービィの体は、薄らと光を放つ青い魔力のオーラに包まれる。
 よし、これで一安心! かと思いきや……

「物理攻撃は下手すりゃ通過すっから! 逃げるぞっ!!」

 カービィはそう叫び、一目散に走り出した。

 はぁあぁぁっ!?
 意味ねぇえっ!!?

「モッモ、行くわよっ!」

 グレコも走り出す。

「ちょっ!? まっ! 待ってぇえっ!!」

 俺も走り出そうとしたのだが……
 お決まりのように、ローブの裾を踏ん付けて、すってんころりんと派手に転んでしまう。

 ひぃいっ!?

「今だっ! 討ち取れっ!!」
 
「諸悪の根源めぇっ!!!」

「死ねぇえええぇぇぇっ!!!!」

 五人の兵士が剣を振り上げ、飛びかかってくる。
 カービィがそれに気付き、足を止めて振り返るも、既に距離があって間に合わない。
 グレコが俺に向かって手を伸ばしているが、俺の手が短くて届かない。

 ギャアアァァァァーーーーー!!!
 こっ!? 殺されりゅうぅぅぅーーーーー!!!!!

 俺は死を覚悟し、ギュッと目を瞑った……、その時だ。

 ズシュッ! ズシュシュシュッ!!

「ぐぁあぁぁっ!?」

「ガバァアッ!!?」

 ガシャガシャ! ガッシャーン!!

 肉が斬られる生々しい音、金属が床に落ちる音が聞こえて、嫌~な血の匂いが辺りに充満した。
 恐る恐る目を開くと、そこにあるのは、見覚えのある傷だらけの上半身が二つ。
 身体中のそこかしこに、鱗を剥がれた傷痕が残るその体は、かつて俺を連れ去った二人のものだ。

「スレイ!? クラボ!??」

 思わず二人の名前を叫んだ俺。
 すると二人は、恐ろしいまでに悪人面な笑い方で俺を見下ろした。

「よぉモッモ、まさか生きていたとはな。悪運の強い奴だぜまったく、ギャギャギャ!」

「言えてらぁ! ギャハハハ!!」

 二人は、武器など一切使わずに、その手に生える鋭利な爪のみで、俺に迫っていた兵士達の首元を見事に引き裂いていた。
 倒れた兵士達は、首からドバドバと血を流しながら息絶えている。

 ひょえ~! グロテッスクッ!!
 二人とも、こんなに強かったの!?
 ……てか、どうして二人がここに!??

 状況が飲み込めずにいると、何やら背後にある王宮の入り口から、ドドドドドーっという大勢の足音と、猛々しい雄叫びが聞こえ始めたではないか。
 そして現れたのは、奴隷の大軍だ。
 しかも、その大半が老人と子供の奴隷達だった。

 なんだなんだ!?
 年寄りと子供は、反乱に参加しないんじゃなかったの!??
 何がどうなってんだ!?!?

「そんなとこで寝っ転がってたら踏み潰されるぞ!?」

 そう言って、スレイは俺の首根っこを掴み、ヒョイと肩に乗せてくれた。
 
「モッモ! 大丈夫!?」

「なんだ、知り合いか!?」

 遅ればせながら、グレコとカービィが俺の元へと戻って来た。

 あんたら二人とも酷いよっ!
 離れるなとか言っておきながら、置いていくんじゃないよまったくぅっ!!
 
「えと、知り合いっていうか、その……」

 説明が難しく、言葉を濁す俺。
 さすがに、俺を攫った二人です、とは紹介出来ない。
 しかしクラボは……

「俺達がこいつを攫ったのさ、ギャハハ!」

 ギャハギャハ笑いながらそう言ったクラボを、言葉が通じないグレコとカービィは不思議そうに見つめる。
 そして、早く通訳してくれと言わんばかりに、二人は俺を見た。

「あ~……。港で僕を攫った二人です」

 嘘をつくのが面倒臭くなった俺は、素直に翻訳した。

「なっ!? あんた達がモッモを攫った犯人なのっ!??」

 怒って弓を構えるグレコ。

「おおっと!? 落ち着けグレコさん!!」

 慌てて止めに入るカービィ。

 お願いグレコ!
 今ここで、これ以上敵を増やさないでっ!!

「ギャギャ! 怒るのも仕方がねぇが、今はお前らの相手してる場合じゃねぇんだよ、悪りぃな。第一陣が玉座の間まで到達したと知らせが入ったんだ。だから俺たち第二陣が正面から攻め込んだのさ。こっから一気に王宮を落とす!」

「えっ!? なっ!?? 王宮を落とす!?!?」

「おおともよ。モッモ、ジジィ達の気が変わったんだ。ゼンイの作戦に加わると言ってな。あの後、メーザとバレから知らせを受けて、俺達は一度トルテカに戻った。そこで作戦を立ててたんだが、昨晩から何故か、トルテカの警備兵が手薄になったんだ。既に外にいた俺たちで残りの警備兵を始末して、俺達はトルテカを解放した。そんでもって、秘密の抜け道を使って、奴隷達は王都へ集結。大人も子供もみんな、ここにいる。今夜この国は変わる。リザドーニャは、終わるのさ」

 ニヤニヤ笑いながら、これまでの経過を話すスレイとクラボ。
 話が見えないグレコとカービィに説明する俺。

「マジかっ!? 本気でそう言ってんのかこいつ!??」

「となると……、やっぱり、ここにいちゃ危ないわね」

 スレイとクラボの言葉は、どうやら本当らしい。
 王宮の入り口には、後から後からドンドンと、奴隷達が流れ込んでくるのだ。
 年寄りと子供ばかりだが、さすがは蛮族指定されているだけあって、戦闘能力はどちらともとても高い。

 年寄りは、その見た目からは信じられないほどのしなやかな動きで、兵士の足元を狙い、倒していく。
 しかも、生きてきた年数が長いだけあって、経験豊富なのだろう、兵士の攻撃を見事に全てかわしているのだ。
 倒れた兵士に襲い掛かるのは子供の紅竜人だ。
 子供だからと侮る事なかれ……、小ちゃな怪獣と化した子供達は、血に飢えた猛獣のように、その爪と牙で兵士に群がり、襲い掛かっている。
 兵士の断末魔の叫び声が、辺りにこだまする。

 ……怖い。
 トルテカにいた時は知らなかったけど、まさかこんな怖い奴らに囲まれていただなんて。

 ガクブルガクブル

 それでもやはり、身体能力的には、若い大人である兵士達の方が数倍上らしい。
 隙あらば年寄りにも子供にも、容赦無く攻撃を加えてくる。
 しかしながら現状、既に第一陣が通った後とあって、王宮入り口付近の兵士はかなり手薄のようだ。
 多勢に無勢とはまさにこの事だろう。
 奴隷達の方がかなり優勢だと、俺には見えた。

「俺たちはこのまま、王宮の奥にある玉座の間まで攻め入る。お前らはどうすんだ?」

 スレイが、王宮の奥を指差しながらそう言った。
 でも……、どうするんだと、言われても……
 俺はスレイの言葉を二人に伝える。

「普通、謁見は玉座の間で行われるはずだ。おいら達も行こうっ!」

 決断の早いカービィ。

「モッモ、羅針盤でギンロを探して!」

 冷静なグレコ。

「はっ! なるほどその手があった!!」

 俺はすかさず望みの羅針盤を取り出して、心に思う。
 ギンロとノリリアとその他諸々のみんなはどこですかっ!?
 すると羅針盤の金色の針は、真っ直ぐに北を指した。

「うしっ! 奥だなっ!!」

「私達も玉座の間へ行くわ!!!」

 カービィとグレコの言葉に、その表情で意味を理解したのだろうスレイとクラボは、ニヤリと笑って頷く。

「モッモ、落ちんじゃねぇぞっ!」

「ひゃへっ!?」

 スレイはそう言うと、俺の返事など待たずに、全速力で駆け出した。
 その足の速さは、獣化したギンロ並で……
 
 のぉおおおぉぉぉ~っ!?
 風圧やべぇへぇえええぇぇぇ~っ!??

 俺は、傷だらけのスレイの体に、必死にしがみついていた。
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