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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
565:保身
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最後に見えたのは、血のように真っ赤な魔法陣だった。
複雑に入り組んだ線と丸、そして読解不能な文字。
空中に浮かび上がったそれは、禍々しい浅黒い光を放ちながら、ゆっくりと回転していた。
ドッ…… ボォオオォォーーーーン!!!
大量の供物と共に、俺は水面へと叩き付けられた。
なんとか手足を動かして泳ごうとしてみるも……、無駄だった。
黒く濁った水から無数に伸びる、半透明の白い手。
それらが次々に俺の顔や体に纏わり付き、水底へと引き摺り込もうとしているのだ。
「ヒィッ!? たっ!?? 助けっ!?!? ガボボボボッ!!!!!」
頭、手、胴体、足、尻尾までもを、無数の白い手に掴まれて、為す術無く水中へと誘われる俺。
真っ暗な水中で、身動きの取れない状態のまま、開いていた口には大量の水が流れ込み、呼吸が出来ず、俺は死を覚悟した。
するとその時、視界の端に、見覚えのある丸い光が現れて……
ポワーン!
「ゴホッ! ゴホゴホッ、ゴホホッ!! ゲェエッ!!! はぁはぁはぁ……、な、何が……?」
急に辺りから水がなくなったかと思うと、俺はやんわりと光るシャボン玉のような球体の中にいた。
俺の体がすっぽり入るくらいのこの球体の中には、どうやら空気が満ちているようだ、息ができる。
そして、そこには不細工な魚顔のあいつがいた。
『ギョギョ……、相も変わらず間抜けな奴め。このように不気味な水に浸るとは、笑止千万! 何故貴様は毎回、気味の悪い水にばかり近付くのだ!? 最初は紫の水、次は緑の水、今度は黒い水ときた。いったい、そのチンケな頭の中はどうなっているのだっ!?? 部を弁えろ、毛玉めっ!! ウンディーネ皇国の皇族である朕が、貴様のような小物にわざわざ仕えてやっておるというのに、易々と死なれては第四皇子である朕の名に泥を塗るようなものではないかっ!!!』
水の精霊ウンディーネのゼコゼコだ。
こちらもまぁ、相も変わらず偉そうな物言いだが……
「ぜ……、ゼコゼコ? はぁ、はぁ……、来てくれたんだね、ありがとう」
もう本気で死んじゃうと思っていた俺は、助かった事に心から安堵して、ゼコゼコの態度なんて全く気にせずに、感謝の意を述べていた。
するとゼコゼコは、お礼を言われた事が意外だったのか、ギョッ!? とした顔付きになり、口をパクパクとさせながら、アセアセと視線を周囲に泳がしている。
「はぁ……、はぁ……、ふぁあぁぁ~! し、死ぬかと思ったぁあ~!!」
脱力し、その場にぺたりと倒れ込む俺。
毎度の事だが、何故こうも俺は死にかけてばかりいるのか……?
いやまぁ、俺の考えが浅いせいもあるだろうが、それにしてもだなぁ……
もうちょっとこう、すんなりと、予想通りに物事が進んでくれないものかね??
呼吸を整えつつ、ウダウダと考えを巡らせる俺。
すると、視線の先に妙なものが映り込んだ。
俺の真下にいる、誰か……
そいつは真っ赤な瞳を俺に向け、異様に細いその両手で、俺を捕らえようとしているではないか。
「ぎっ!? ぎゃあぁぁ~!??」
驚き悲鳴を上げて、慌てて俺は身を起こす。
見るからに不気味なそいつは、薄らと光る半透明の骨だけで構成された、世にも奇妙な姿をしている。
顔や体の骨格から推測するに、どうやら紅竜人だった者のようだが……
瞳だと思ったそれは、眼球があるべき場所が窪んでいて、そこに真っ赤な光が宿っているだけだった。
そいつは、ペタリペタリと、俺が入っている光る球体に手を当てて、しきりに何かを探っているようだが……
ゼコゼコの作ったこの球体は、どうやら見た目より随分と頑丈らしい。
奴の手が球体を貫通する事は無さそうだ。
「な、なんだよこいつ? 何して……、ひぃっ!?」
ホッとしたのも束の間、俺の顔の真横に貼り付く別の顔に、俺はまたしても驚き跳ね上がる。
真っ赤な光を宿す、骨だけの顔。
それも一人ではない。
一つ二つ、三つ四つ、五つ六つと、無数の対なる真っ赤な瞳が俺を見つめているのだ。
いつの間にか、薄らと光を放つ彼らは、球体の周りにひしめいていた。
そりゃもう沢山、うじゃうじゃと……
その大きさは様々ではあるものの、恐らく皆紅竜人だったのだろう。
骨だけになってしまった手をペタペタと、球体にくっつけてくるのだ。
気持ち悪いのなんのって……、もう最悪。
『ギョギョギョ……。この世に強い未練があるのだろう。此奴らは死して尚、この地に留まり続ける死霊ぞ』
しっ!? 死霊っ!??
じゃ……、じゃあこいつらが、あの声と、あの白い手の正体って事か?
なんともまぁ……、なんちゅう恐ろしい姿だこと。
死霊と呼ばれたそいつらは、球体の周り以外にも沢山いて、暗く黒い水の中を流れるように漂っている。
とても苦しげな表情で……
『しかしながら、このように醜い怨念と成り果てた者の姿など、朕は今までに見た事がない。辺りに満ちている水もまた然り。なんと悍しい水だ。怒りと悲しみ、憎しみによって、完全に汚されてしまっている。……このような場所には、長くいるべきではないぞ』
珍しく偉そうではない普通の口調で、ゼコゼコはそう言った。
「いいい、いるべきではないって言われてもっ!?」
俺にどうしろとっ!?
『貴様が望むなら、丘へと運んでやるぞ、ギョギョ』
何故だかちょっぴり恥ずかしそうな表情になるゼコゼコ。
どうやら、お礼を言われたのがかなり嬉しかったようだ。
その不細工なギョロ目で、チラチラと俺を見ている。
しかし、困ったのは俺の方だ。
もちろん、ゼコゼコのその様子にではなく、彼の提案に対してである。
ゼコゼコの言ってる事は至極まともだ。
こんな、化け物紛いな気味の悪い死霊達がひしめく黒い水の中になど、本来なら一秒たりとも居たくない。
すぐに地上に出て、グレコやカービィと合流し、チャイロが生贄にされる前に救わなければならない、のだが……
「こ、こいつらさ……。なんか、下に押してない?」
そうなのだ。
周りを取り囲む死霊達は、俺とゼコゼコが中にいるこの球体を、その手で下へ下へと押しているのだ。
『押しておるな。しかし、此奴らは霊体以下の存在故、朕ならば蹴散らす事も簡単にできるぞ。どうする?』
ゼコゼコに、普通に尋ねられて……
うん、なんだろう。
ゼコゼコと、こんな風に普通に会話が出来て、ちょっと嬉しいな。
……いや、今はそんな事を考えている場合ではないぞ俺!
このままだと、こいつらに泉の底まで連れて行かれちゃうっ!!
……ん? 泉の底??
『ギョッ!? 毛玉よ! 下を見ろっ!! 何かがあるっ!!!』
ゼコゼコに言われて、俺は慌てて下を見る。
足元よりも更に下、球体の向こう側には、薄らと光が見えるのだ。
この禍々しい黒い水の中にあって、澄んだ青色をしているその光は、まるで俺を呼んでいるかのように、ゆっくりと点滅している。
「まさか、あれが……? 泉の底には、ロリアンの鍵が眠っている。そうだよ、行かなくちゃ。ゼコゼコ、このまま底まで行こう」
俺の言葉に、ゼコゼコは目を見開いて驚く。
『ギョギョッ!? 正気か貴様っ!?? このような怨念渦巻く水の底に埋まっているものなど、きっとまともなものではないぞよっ!?!? 考え直せっ!!!!!』
……召喚主を、毛玉とか貴様とか言っちゃう奴が、まともなものがどうとか言うんじゃないよ。
それに、それ以上目を見開くと飛び出しちゃいそうだよ?
「いや、行く。供物と一緒に落とされなくても、どっちみち僕は、ここに沈まなきゃいけなかったんだ。このまま下まで行って……、求める物があるかどうか、この目で確かめる!」
グッと拳を握ってそう言った俺に対し、ゼコゼコは不細工ででかい口をあんぐり開けて、かなり引いている様子だが……
『ぐぐぐ……、し、仕方あるまい……。し、しかし……、朕の身に危険が及ぶと感じた場合、速やかに退散するぞ!』
かなりびびりながらも、ゼコゼコは俺の命令に従ってくれるようだ。
「うん、分かった。……けどさ、言い方おかしくない? 普通さ、召喚主である僕の身に危険が及びそうなら、って言わない??」
『調子に乗るな、小物め』
「あ~! いけないんだ~!! そんな言い方したら、君のお父さんに文句言うぞ?」
いつもの脅しをかける俺。
しかしながら、今日のゼコゼコは少し違った。
『ふんっ! そのような戯言にはもう惑わされんっ!! 知っているぞ、貴様に我が父と繋がりを持つ力など無いとっ!!!』
おっとぉ~? どうやらバレたらしいな。
口から出まかせ言って、かまをかけてゼコゼコを脅していた事。
「なんだ、知ってたのか」
そうなると、今度から言う事を聞いて欲しい時は、どうやって命令すればいいんだろうな?
何か他に、脅す材料を探さないと……
『そのような戯言を言わずとも、朕は貴様にしかと仕える。妙な策を巡らせるなっ!』
「え……? そうなの?? なんか……、変わったね、ゼコゼコ」
思ってもいなかったゼコゼコの言葉に、俺は不意打ちにあったかのような表情になる。
まさか、あのチンチン言ってうるさかったゼコゼコから、こんな言葉が聞ける日がくるとはな。
俺、ちょっぴり感動しちゃう……
『ふんっ! 勘違いするでないぞ。朕は、朕の為に貴様に仕えてやるのだ。断じて貴様の為ではないっ!! 貴様に仕え、救い、生かしておかねば、国での朕の立場が危ぶまれるのだ。だから、何がなんでも生きていろ、小物めっ!!!』
あ~、なるほどそういう事ね。
改心したわけじゃなく、保身の為なのね。
感動して損したわ。
……けどまぁ、言う事を聞いてくれるならなんでもいいか。
呆れたような、納得したような心境になりつつ、俺はゼコゼコと共に、死霊が蠢く暗い泉の中を、下へ下へと沈んでいった。
複雑に入り組んだ線と丸、そして読解不能な文字。
空中に浮かび上がったそれは、禍々しい浅黒い光を放ちながら、ゆっくりと回転していた。
ドッ…… ボォオオォォーーーーン!!!
大量の供物と共に、俺は水面へと叩き付けられた。
なんとか手足を動かして泳ごうとしてみるも……、無駄だった。
黒く濁った水から無数に伸びる、半透明の白い手。
それらが次々に俺の顔や体に纏わり付き、水底へと引き摺り込もうとしているのだ。
「ヒィッ!? たっ!?? 助けっ!?!? ガボボボボッ!!!!!」
頭、手、胴体、足、尻尾までもを、無数の白い手に掴まれて、為す術無く水中へと誘われる俺。
真っ暗な水中で、身動きの取れない状態のまま、開いていた口には大量の水が流れ込み、呼吸が出来ず、俺は死を覚悟した。
するとその時、視界の端に、見覚えのある丸い光が現れて……
ポワーン!
「ゴホッ! ゴホゴホッ、ゴホホッ!! ゲェエッ!!! はぁはぁはぁ……、な、何が……?」
急に辺りから水がなくなったかと思うと、俺はやんわりと光るシャボン玉のような球体の中にいた。
俺の体がすっぽり入るくらいのこの球体の中には、どうやら空気が満ちているようだ、息ができる。
そして、そこには不細工な魚顔のあいつがいた。
『ギョギョ……、相も変わらず間抜けな奴め。このように不気味な水に浸るとは、笑止千万! 何故貴様は毎回、気味の悪い水にばかり近付くのだ!? 最初は紫の水、次は緑の水、今度は黒い水ときた。いったい、そのチンケな頭の中はどうなっているのだっ!?? 部を弁えろ、毛玉めっ!! ウンディーネ皇国の皇族である朕が、貴様のような小物にわざわざ仕えてやっておるというのに、易々と死なれては第四皇子である朕の名に泥を塗るようなものではないかっ!!!』
水の精霊ウンディーネのゼコゼコだ。
こちらもまぁ、相も変わらず偉そうな物言いだが……
「ぜ……、ゼコゼコ? はぁ、はぁ……、来てくれたんだね、ありがとう」
もう本気で死んじゃうと思っていた俺は、助かった事に心から安堵して、ゼコゼコの態度なんて全く気にせずに、感謝の意を述べていた。
するとゼコゼコは、お礼を言われた事が意外だったのか、ギョッ!? とした顔付きになり、口をパクパクとさせながら、アセアセと視線を周囲に泳がしている。
「はぁ……、はぁ……、ふぁあぁぁ~! し、死ぬかと思ったぁあ~!!」
脱力し、その場にぺたりと倒れ込む俺。
毎度の事だが、何故こうも俺は死にかけてばかりいるのか……?
いやまぁ、俺の考えが浅いせいもあるだろうが、それにしてもだなぁ……
もうちょっとこう、すんなりと、予想通りに物事が進んでくれないものかね??
呼吸を整えつつ、ウダウダと考えを巡らせる俺。
すると、視線の先に妙なものが映り込んだ。
俺の真下にいる、誰か……
そいつは真っ赤な瞳を俺に向け、異様に細いその両手で、俺を捕らえようとしているではないか。
「ぎっ!? ぎゃあぁぁ~!??」
驚き悲鳴を上げて、慌てて俺は身を起こす。
見るからに不気味なそいつは、薄らと光る半透明の骨だけで構成された、世にも奇妙な姿をしている。
顔や体の骨格から推測するに、どうやら紅竜人だった者のようだが……
瞳だと思ったそれは、眼球があるべき場所が窪んでいて、そこに真っ赤な光が宿っているだけだった。
そいつは、ペタリペタリと、俺が入っている光る球体に手を当てて、しきりに何かを探っているようだが……
ゼコゼコの作ったこの球体は、どうやら見た目より随分と頑丈らしい。
奴の手が球体を貫通する事は無さそうだ。
「な、なんだよこいつ? 何して……、ひぃっ!?」
ホッとしたのも束の間、俺の顔の真横に貼り付く別の顔に、俺はまたしても驚き跳ね上がる。
真っ赤な光を宿す、骨だけの顔。
それも一人ではない。
一つ二つ、三つ四つ、五つ六つと、無数の対なる真っ赤な瞳が俺を見つめているのだ。
いつの間にか、薄らと光を放つ彼らは、球体の周りにひしめいていた。
そりゃもう沢山、うじゃうじゃと……
その大きさは様々ではあるものの、恐らく皆紅竜人だったのだろう。
骨だけになってしまった手をペタペタと、球体にくっつけてくるのだ。
気持ち悪いのなんのって……、もう最悪。
『ギョギョギョ……。この世に強い未練があるのだろう。此奴らは死して尚、この地に留まり続ける死霊ぞ』
しっ!? 死霊っ!??
じゃ……、じゃあこいつらが、あの声と、あの白い手の正体って事か?
なんともまぁ……、なんちゅう恐ろしい姿だこと。
死霊と呼ばれたそいつらは、球体の周り以外にも沢山いて、暗く黒い水の中を流れるように漂っている。
とても苦しげな表情で……
『しかしながら、このように醜い怨念と成り果てた者の姿など、朕は今までに見た事がない。辺りに満ちている水もまた然り。なんと悍しい水だ。怒りと悲しみ、憎しみによって、完全に汚されてしまっている。……このような場所には、長くいるべきではないぞ』
珍しく偉そうではない普通の口調で、ゼコゼコはそう言った。
「いいい、いるべきではないって言われてもっ!?」
俺にどうしろとっ!?
『貴様が望むなら、丘へと運んでやるぞ、ギョギョ』
何故だかちょっぴり恥ずかしそうな表情になるゼコゼコ。
どうやら、お礼を言われたのがかなり嬉しかったようだ。
その不細工なギョロ目で、チラチラと俺を見ている。
しかし、困ったのは俺の方だ。
もちろん、ゼコゼコのその様子にではなく、彼の提案に対してである。
ゼコゼコの言ってる事は至極まともだ。
こんな、化け物紛いな気味の悪い死霊達がひしめく黒い水の中になど、本来なら一秒たりとも居たくない。
すぐに地上に出て、グレコやカービィと合流し、チャイロが生贄にされる前に救わなければならない、のだが……
「こ、こいつらさ……。なんか、下に押してない?」
そうなのだ。
周りを取り囲む死霊達は、俺とゼコゼコが中にいるこの球体を、その手で下へ下へと押しているのだ。
『押しておるな。しかし、此奴らは霊体以下の存在故、朕ならば蹴散らす事も簡単にできるぞ。どうする?』
ゼコゼコに、普通に尋ねられて……
うん、なんだろう。
ゼコゼコと、こんな風に普通に会話が出来て、ちょっと嬉しいな。
……いや、今はそんな事を考えている場合ではないぞ俺!
このままだと、こいつらに泉の底まで連れて行かれちゃうっ!!
……ん? 泉の底??
『ギョッ!? 毛玉よ! 下を見ろっ!! 何かがあるっ!!!』
ゼコゼコに言われて、俺は慌てて下を見る。
足元よりも更に下、球体の向こう側には、薄らと光が見えるのだ。
この禍々しい黒い水の中にあって、澄んだ青色をしているその光は、まるで俺を呼んでいるかのように、ゆっくりと点滅している。
「まさか、あれが……? 泉の底には、ロリアンの鍵が眠っている。そうだよ、行かなくちゃ。ゼコゼコ、このまま底まで行こう」
俺の言葉に、ゼコゼコは目を見開いて驚く。
『ギョギョッ!? 正気か貴様っ!?? このような怨念渦巻く水の底に埋まっているものなど、きっとまともなものではないぞよっ!?!? 考え直せっ!!!!!』
……召喚主を、毛玉とか貴様とか言っちゃう奴が、まともなものがどうとか言うんじゃないよ。
それに、それ以上目を見開くと飛び出しちゃいそうだよ?
「いや、行く。供物と一緒に落とされなくても、どっちみち僕は、ここに沈まなきゃいけなかったんだ。このまま下まで行って……、求める物があるかどうか、この目で確かめる!」
グッと拳を握ってそう言った俺に対し、ゼコゼコは不細工ででかい口をあんぐり開けて、かなり引いている様子だが……
『ぐぐぐ……、し、仕方あるまい……。し、しかし……、朕の身に危険が及ぶと感じた場合、速やかに退散するぞ!』
かなりびびりながらも、ゼコゼコは俺の命令に従ってくれるようだ。
「うん、分かった。……けどさ、言い方おかしくない? 普通さ、召喚主である僕の身に危険が及びそうなら、って言わない??」
『調子に乗るな、小物め』
「あ~! いけないんだ~!! そんな言い方したら、君のお父さんに文句言うぞ?」
いつもの脅しをかける俺。
しかしながら、今日のゼコゼコは少し違った。
『ふんっ! そのような戯言にはもう惑わされんっ!! 知っているぞ、貴様に我が父と繋がりを持つ力など無いとっ!!!』
おっとぉ~? どうやらバレたらしいな。
口から出まかせ言って、かまをかけてゼコゼコを脅していた事。
「なんだ、知ってたのか」
そうなると、今度から言う事を聞いて欲しい時は、どうやって命令すればいいんだろうな?
何か他に、脅す材料を探さないと……
『そのような戯言を言わずとも、朕は貴様にしかと仕える。妙な策を巡らせるなっ!』
「え……? そうなの?? なんか……、変わったね、ゼコゼコ」
思ってもいなかったゼコゼコの言葉に、俺は不意打ちにあったかのような表情になる。
まさか、あのチンチン言ってうるさかったゼコゼコから、こんな言葉が聞ける日がくるとはな。
俺、ちょっぴり感動しちゃう……
『ふんっ! 勘違いするでないぞ。朕は、朕の為に貴様に仕えてやるのだ。断じて貴様の為ではないっ!! 貴様に仕え、救い、生かしておかねば、国での朕の立場が危ぶまれるのだ。だから、何がなんでも生きていろ、小物めっ!!!』
あ~、なるほどそういう事ね。
改心したわけじゃなく、保身の為なのね。
感動して損したわ。
……けどまぁ、言う事を聞いてくれるならなんでもいいか。
呆れたような、納得したような心境になりつつ、俺はゼコゼコと共に、死霊が蠢く暗い泉の中を、下へ下へと沈んでいった。
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作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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