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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

526:耳がキーーーーーン!!!

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「……っつ、はぁあぁぁ~~~~~」

   俺は、本日何度目か分からない大きな溜息を吐く。
   薄暗いチャイロの部屋の、チャイロがすやすやと眠るベッドのへりに腰掛けて、首がもげそうなほどにガクーンと、下を向いて項垂れていた。

   なんだって、こんな事になっちゃったんだ?
   まさか、あのゼンイが、嘘をついていただなんて……
   頼りにされていると思っていただけに、気持ちの沈み具合が半端ない。

   結局俺は、ゼンイの口車にまんまと乗ってしまい、囮として上手く利用されただけなのか?
   あの時、焚き火の前で俺に頭を下げたのも、全てゼンイの芝居だったのか??
   本当は心の中で、馬鹿正直に信じやがってクソネズミがっ! ……とか、思ってたのか???
   そんなの、俺に見抜けるはずないじゃないか、根っからの性善説主義者だぞ俺は。
   ゼンイは良い奴で、仲間の為に命張るようなカッコいい奴で、俺の助けを求めてるんだって、思ってたのに……

「うぅ……、うぅう~」

   もう俺、人間不信になっちゃうよぅ。

   目に涙をいっぱい溜めながらも、決して泣くまいと、下唇をきつく噛み締めながら、俺は必死に我慢していた。

   下階の書庫で、明日の夜、王宮を襲撃する旨を俺に伝えたゼンイは、もう時間切れだとかなんとか言って、俺の手伝いなんざ1ミリもせずに、その場から姿を消した。
   予想だにしなかったゼンイの裏切りに、俺の思考は完全に止まってしまっていた。
   それでも、一度やると決めた事はやり遂げねばと、書庫の中を調査しようと試みたのだが……
   残念、棚に収められている石版は、どれも馬鹿みたいに重くて、非力な俺には持つ事も動かす事も出来なかった。
   つまり、何の成果も得られないまま、俺はトボトボと上階のチャイロの部屋へと戻ったのでした。

   ……あぁ、俺はいったい、何の為にここにいるんだ?
   こんな場所に一人で、いったい何が出来るっていうんだ??
   王宮内の情報一つすら掴めないというのに、なんだって俺は、自分なら出来ると過信してたんだ???
   
「くぅ……、はぁあああぁぁぁぁぁ~~~~~」

   大きく大きな、長く長い溜息を吐く俺。
   しかしながら、項垂れていたって先には進めない。
   何かしないと、どうにかしないとと、無い頭で考え始める。

   ゼンイは明日、王宮を襲撃すると言っていた。  
   それまでに俺はここを出なければならない。
   ゼンイが何をどうするつもりなのかは知らないけれど、殺戮現場になり得る場所になど、俺は留まっていたくないのだ。
   下手したら巻き込まれて、お陀仏になる可能性も無きにしも非ずなのだからな。
   うぅ~、恐ろしや恐ろしや……

   けどゼンイの奴、王と姫君を暗殺するって言ってたな。
   つまりそれは、ゼンイはまだ、チャイロの存在を知らないって事だ。
   
   すやすやと寝息を立てるチャイロに視線を向ける俺。
  
   もし俺が、自分の保身の為だけに、ここをそっと抜け出したとして……、チャイロはその後どうなるだろう?
   ティカや他の兵士たち、トエトが守ってくれるだろうか??   
   ゼンイはまだ、チャイロの存在も、王子だという事も知らないけれど、もしそれを知ったらどうするだろう???
   王族の一人として、チャイロも殺害するのだろうか????
   こんな場所に閉じ込められて、外の世界も、他者との触れ合いも知らないままに、亡き者にされるなんて……、あんまりだ。

   そこまで考えて俺は、丸まってた背筋を真っ直ぐに伸ばして、落ち込むのをやめた。

   ゼンイは俺を裏切った、騙していた……、それはもう仕方ない、過ぎた事だ。
   ゼンイが言っていたように、簡単に人を信じた俺が悪かったんだ。
   うん、もうそういう事にしておこう、考えたって時間の無駄だ。

   だけど、チャイロは違う。
   チャイロは俺に、友達になって欲しいと言った。
   あの言葉は嘘なんかじゃない、と思う……
   現に昨日は沢山一緒に遊んだし、俺とチャイロはもう友達なのだ。
   友達を見捨てるなんて、男のする事じゃない。

   俺は立ち上がり、ふ~んと鼻から大きく息を吐いた。
   これは溜息ではなく、これから頑張る為の一呼吸だ。

   よし、決めたぞ!
   俺はチャイロを守る!!
   そんでもって、ここから一緒に逃げる!!!  
   正直、囮にもなれなかった俺に、そんな大それた事ができるかどうか分からないが……
   ここでチャイロを一人残して逃げるような、そんな薄情者にはなりたくないっ!!!!

   そう思った俺は、すぐさま行動に出た。
   絆の耳飾りに意識を集中させて、交信を試みる。

「グレコ。グレコ、聞こえる?」

「あ! ちょっ!? ……はい、聞こえるわよ、どうしたの?」

   少し慌てた様子のグレコは、小声で応答してきた。

「ごめん、今大丈夫? 話せる??」

「うん、ちょっと待って……」

   しばしの沈黙。
   どうやら、お取り込み中だったらしい。
   ……どんなお取り込み中だ?

「ふぅ……。いいわよ、どうしたの?」

   グレコの声色が、いつも通りになる。
   
「あ、えと……、今どこなの?」

「今ね、ノリリア達と一緒に、ピラミッドの麓にいるの」

   はて? ピラミッド??
   ……あぁ、金山の事か。

「紅竜人の国王軍が在中する駐屯所みたいなとこがあってね、そこが王宮の入り口らしくて……。国王への謁見を申し込みに来たんだけどね、様子がおかしいのよ」

「おかしいって……、何が?」

「分からないけど、なんだか雲行きが怪しくて……。謁見は不可能みたいで、王宮の中にも通してもらえなさそうなの」

「うわ、マジか……」

   思っていたより良くない状況だな。
   てっきり、宰相イカーブが王様に代わってノリリア達に会うと思ってたんだけど……、それすら出来ないとは。

「さっきからずっと粘ってるんだけど、なかなか……。もしかしたら、今日中に王宮に入る事は無理かもしれないわ」

   ふむ、なるほど、そうきたか。
   となると……、もう自力でなんとかするしかないな。

「モッモは? 大丈夫なの?? なんか……、カービィから聞いた話じゃ、子供の面倒を見てるとかなんとか……」

   カービィめ、またザックリとした説明しかしてねぇな、あんにゃろう。
   
「えと……、そうなんだけど……。とりあえずは大丈夫。けど、あんまりノンビリして居られなくなったんだ」

「ノンビリ? ……モッモあなた、王宮でノンビリしてたの??」

   くっ!? ……そこはスルーしてよグレコっ!!
   てか、ノンビリなんてしてねぇしっ!!!

 「聞いてグレコ。ゼンイは……、レイズンは、明日の夜、王宮を攻めるつもりなんだ」

「えぇっ!?」

   グレコの驚く声で、耳がキーンとなる俺。
   でかいし、高いし、よく響く。

「攻めるってどういう事っ!? 奇襲をかけるの!?? 一人でっ!?!?」

「いや、分かんないよ。何をどうするのかは分からないけど、タイムリミットは明日の夕刻だって言ってた。王宮に攻め入って、王様とお姫様達を暗殺するって」

「あんっ!? ちょ、本気なのっ!??」

   ……たぶん、本気だと思うよ、知らないけどさ。
   
「それで、僕には自力で逃げろって言ってて」

「自力でっ!? 無理でしょっ!!? なんで助けてくれないのっ!?!?」

   グレコ……、その言い方だと、心配しているのか、はたまた俺を軽視してるのか、ちょっと分からないよ?

「たぶん、裏切られたんだと思う……。けど、自分でな」

「裏切られたっ!? 何よそれっ!?? どういう事っ!?!?」

   うぅ~、グレコ~。
   怒らずに最後まで話を聞いてぇ~。

「と、とにかく……。僕は明日の夜までに、何とかして自力で王宮を抜け出そうと思う。大丈夫、精霊達に力を借りるから」

「せっ!? ……そうね、それなら何とかなりそう」

   ほっ……、良かった、グレコが冷静になってくれた。

「それでね、一人、連れ出したい子がいるんだ」

「連れ出したい子? ……あ、カービィが言っていた、今モッモが面倒見ている子ね??」

「そう。チャイロって言うんだけど、第一王子様でね、それで」

「王子ぃっ!?!!?」

   またしても、耳がキーーーーーン!!!

   カービィあんにゃろ、チャイロが王子だって事すらグレコに伝えていないとは……
   帰ったらお尻百叩きの刑だなっ!

「王子って、えぇっ!? ちょっと待ってよ!!? 何がどうなってるの……???」

   まぁ、そうなるよね。
 でもさ、何がどうなっているのかは、俺も誰かに聞きたいのだよ、グレコ君や。

「ま、まぁ、詳しい事は後で話すからさ。とりあえず、そのチャイロと一緒に王宮を抜け出すから、そのつもりでいてよ」

「そのつもりでって、どのつもりよっ!? 連れ出して、その後どうするのよっ!!?」

「あ、いや、分かんないけど、その……」

   しどろもどろする俺。
   連れ出した後の事なんて、全く考えてなかった。
   答えられない俺に対し、グレコは諦めたかのように、ハァ~っと大きく溜息をつく。

「分かった。とりあえず、無事に逃げ出してきて頂戴。こっちに動きがあった時は、すぐ連絡するから」

   グレコは俺の気持ちを察してか、優しくそう言ってくれた。

「あ……、うん! ありがとう!!」

「けどいいっ!? 絶対に無茶しちゃ駄目よっ!!? もし危険が迫ったら、その子の事を庇ったりなんてしなくていいから、自分一人で逃げなさいっ!!!」

「あ、はい……。なんかグレコ、どんどん母ちゃんに似てくるね」

   クスッと笑う俺。

「はぁ!? 何言ってんのよ、まったく……。あ、カービィが呼んでるわ。じゃあ、また何かあったら連絡してね!!」

「うん! 分かった!!」

   俺の言葉を最後に、グレコとの交信は途切れた。

   ……さて、グレコの了承は得られたぞ。
   これでもう、心配する事はない。

   何を隠そう、俺は怖かったのだ。
   勝手に第一王子であるチャイロを連れ出した俺に対し、グレコが怒りの雷を落とすとも限らない。
   それが怖くて怖くてもう……、心中ガクブルガクブルだったのだ。
   しかしながら、もう恐れは無くなった。
   連れ出した後の事は、後で考えよう……、みんなでね。

   俺は腕まくりをし、両手の拳をギュッと握り締めた。

   とにかく俺は、チャイロと一緒に、無事に王宮を出る! 
   絶対っ!!
   やってやるぞぉ~!!!
   うぉおおおぉぉ~~~!!!!
 
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