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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

514:友達になってよ!?

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   俺が今日からお世話をする、リザドーニャ王国次期国王であるチャイロ様は、なんとなんと、お子様だった。
   歳は5歳で(本人がそう言いました)……、想像以上にめっちゃ歳下、もはや幼児。
   身長は俺とほぼ同じで、体付きは太くもなく細くもなく……
   話す口調はしっかりしているけれど、言葉の端々にまだ幼さが残っているなと俺は感じた。
   服装は、寝間着なのだろうか、白くて裾の長いパジャマのような服に身を包み、足元は素足で、とてもじゃないが王子様には見えない。
   
   しかしながら、驚くべきは年齢や服装よりも、その容姿だ。
   最も特徴的なのが目で、チャイロが持つ紅竜人特有の真っ赤な瞳は、顔の三分のニを占めるほどに馬鹿でかい。
   これまで出会ってきた紅竜人達とは比べ物にならないほど、その瞳は巨大だった。
   俺の前世の記憶の中には、メガネザルと呼ばれる目がめちゃくちゃ大きな猿の情報があるのだが、チャイロはそれのトカゲ版とでも言えよう姿だ。
   ともすれば、トカゲよりはヤモリに近いような、可愛らしい印象の顔をしている。

   そして、他の紅竜人達とは全く違う特徴がもう一つ……
   チャイロの体表である鱗は、赤ではなく黒なのだ。
   それに加えて、頭には鶏冠のような、オレンジ色と緑色の羽毛が生えている。
   そう……、その姿はまるで、レイズン改め、ゼンイの姿とそっくりだった。

   ……これが何を意味するのか、俺にはさっぱり分からないが、偶然にしちゃおかしな話だろう。
   だけど、その理由を考えたとて、俺には皆目見当もつかないので、とりあえず今は考えない事にした。







「じゃあモッモは、世界中を旅してるの?」

「うん。……あ、はい。でも、まだ旅を始めてそんなに経ってないから、まだまだだよ。……あ、ですよ」

「そうなんだ。いいな~、僕も外の世界を見てみたいな~。でも……、船旅って、やっぱり大変?」

「ん~……、いや、そうでもないよ? ……ないですよ。僕がお世話になっている船のみんなは、とっても良い人ばかりだし、航海の腕も確かだからね。船酔いするかどうかじゃないかなぁ?? ……あ、じゃないですか???」

「船酔い……。僕はどうなんだろう? モッモは平気なの??」

「そこまで酷い船酔いになった事はないかなぁ? 二日酔いの時は気持ち悪いけど……、それは違うからなぁ。ほとんど平気! ……です」

「あはは! もう敬語は使わなくていいよ!! それよりさ……、さっきの、もう一個ちょうだい?」

「あ……、チョコシュークリーム?」

「そうそれ♪ お願い! もう一つ食べたい!!」

「うん、いいよ!」

   俺は、鞄の中をガサゴソと漁って、チョコレートクリームが中に入っている手の平サイズのシュークリームを取り出し、チャイロに手渡した。
   これは、魔法王国フーガにて手に入れた、カービィおすすめのシュークリーム屋さんのチョコシュークリームである。
   船に戻ったら皆に配るつもりだったのだけど、煙人間の事やら、グレコが怒ってるやらで、その存在をすっかり忘れていたのだ。

   さっき、焼きオカカの実をバカ食いした為に、俺の体には美味しそうなチョコレート臭が染み付いていたらしく……
   
「何か良い匂いがするね。君……、何か美味しい物でも持っているの?」

   と、握手を交わした直後に、チャイロは俺に尋ねてきた。
   さすがに、全部食べてしまってもう無い! とは言えず、焦った俺は鞄の中をゴソゴソと漁り……
   そうしたら、このチョコシュークリームが出てきたのだ。
   正直、私物のお菓子を王子であるチャイロに与えて良いのかどうか迷ったが……、キラキラとした無垢な眼差しで俺を見つめるチャイロを前に、お預けなんてとても出来なかった。

   パクッ! ムシャムシャムシャ

「う~んっ♪ 美味しいっ!!」

   チャイロはそう言って、真っ赤な大きな目を細めて、満面の笑みを俺に向ける。

   出会ってからまだ十分程しか経っていないだろうが……、既に俺とチャイロは、良い感じに打ち解けていた。
   これもひとえに、俺の人徳の致すところ……、いやいや、チャイロの性格が穏やかで、人懐っこかったおかげだろう。

   チャイロは、紅竜人以外の種族の者と話をするのは、生まれて初めてだったらしい。
   その大きな瞳で俺をジロジロと観察し、思いつくままにいろんな質問をぶつけてきたのだ。
   俺の名前、性別、種族、どこから来たのか、何しに来たのか、などなど……   
   正直に答えられない部分もあったが、それなりに上手くかわしつつ、俺は質問に答えてあげた。
   終始にこやかに、屈託無く楽しげに話すチャイロにつられて、さっきまでの緊張と恐怖が嘘のように、俺もリラックスしていた。

「あぁ……、本当に美味しいっ! 外の世界には、こんなに美味しい物があったのか~!!」

   チャイロは、俺が差し出した二つ目のチョコシュークリームを、実に美味しそうにペロリと平らげる。
   ついさっき、一つ目を口にした時なんて、そのあまりの美味しさに、チャイロは涙を流していた。
   こんなに甘くて美味しい物、今まで食べた事ないっ! と感動しながら……

   王子様という高貴な身分だというのに、普段いったい何を食べさせられているんだろう?
   普通に考えれば、王子様なのだから、良い物、美味しい物を食べさせてもらっているはずなのだが……
   いや、そもそもが、寝言が酷いからといって、こんな部屋に一日中閉じ込めておく必要もなかろうに。
   こんなに素直で良い子なのに、可哀想に……

   俺は、ティカが俺に、「チャイロ様を孤独から救って欲しい」と言った意味が、少しだけ分かった気がした。
   
「ねぇ、チャイロ……、様はさ、この部屋から出た事がないの?」

「様は付けなくてもいいよ、モッモ。僕たちが話している事なんて、どうせ誰にも聞こえないんだしね……。僕は、物心ついた頃からずっと、ここにいるよ。一度も部屋を出た事はない。一度もね」

   笑顔で俺の問い掛けにそう答えたものの、チャイロはちょっぴり寂しそうだ。

「本当は、外に出てみたいんだ。けど、僕の目は光に弱くて……、昼間は布で窓を隠しておかないと、眩しくて痛くなっちゃうんだって」

   あ……、なるほど、そういう事か。
   確かに、こんだけ目が大きかったら、眩しいのは苦手だよね。
   
   俺は、黒いカーテンがかかっている窓を見つめる。
   北東に位置するこの部屋でも、昼間はそれなりに光が入ってくるのであろう、黒いカーテンからは微量ながらも光が透けている。
   城の中の窓は全て、窓枠も窓ガラスもない吹き抜けだったが、ここの部屋は少し勝手が違っているらしく、窓にはガラスがはめ込まれているようだ。
   その証拠に、外の匂い、外の空気が全く感じられない。
   つまりここは、出入り口である扉に外から鍵をかけてしまえば、完全なる密室の空間になるのだった。

「夜は暗くなるから大丈夫なんだけど……。僕、すぐに眠くなっちゃうみたいなんだ。日が沈んだと思ったら、気が付いた時にはもう朝なんだよ。だから、夜のお出掛けも出来なくて……。僕は外に出られないんだ……」

   悲しげに俯くチャイロ。

   この言い方だと、チャイロ本人は、夜言よごとと呼ばれている殺人寝言の事は知らないようだ。
   これは、不幸中の幸いだろう。
   自分の寝言のせいで、これまでに八人が死んだ、なんて酷な現実……、五歳の子供には荷が重過ぎる。
   気付いてなくて良かったよ、本当に。

「ねぇモッモ! 友達になってよ!?」

「ふぇっ!?」

   心の中でチャイロを哀れんでいた俺は、突然のチャイロの申し出に、うっかり変な声を上げてしまった。

「僕ね、友達って憧れなんだ! これまで僕のところに来てくれた侍女達はみんな、身分がどうのこうのって言って……、友達になってくれなかったんだ。ずっと敬語だし、余所余所しいし……。モッモだけなんだよ、こんな風に、僕と普通に話をしてくれたの。僕、今とっても嬉しくて、楽しいんだ!! 絵本にはね、い~っぱい友達の話が出てくるんだよ!!! 友達って、一緒に冒険したり、一緒にご飯食べたり、一緒に敵と戦ったりするんだよね? 僕ね、そういう友達が欲しい!!!! モッモなら、そういう友達になれるよね?? だって……、沢山の冒険をしてきたんだもん。ねぇモッモ、友達になってくれるよね!?!?」

   こちらを真っ直ぐに見つめる、キラキラと輝く大きな大きな瞳を前に、誰が首を横に振れようものか……
   眩し過ぎるほどに純粋なチャイロを前に、俺は迷わずこくんと頷いた。

「僕なんかで良ければ……。うん! 友達になろうっ!!」

   俺の返事に、チャイロはパーッと笑顔になる。
   
「ほんとっ!? やったぁあっ!!!」

   万歳して喜ぶチャイロを見て、俺も笑顔になる。
   そして……

「僕、友達って初めてなんだ! 歳も同じだし、これからずっと仲良しでいられるねっ!!」

   無邪気に笑うチャイロを前に、俺はピシッと固まった。

 歳も同じ……、だとぉ~?
   チャイロは、五歳……
   俺は……、十五歳なんですけどぉおっ!!!
 
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