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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

505:《世界一可愛い従魔はいかがですかっ!?》

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「……なぁ、本当にその格好で行くつもりか?」

「勿論っ! これが最善の策だよっ!!」

「しかしなぁ……。結局は脱がされるかも知れねぇんだぞ? 荷物は俺達に預けりゃいいじゃねぇか」

「嫌だねっ! 売られちゃ困るもんっ!!」

「それは言葉の綾ってやつでだなぁ……。さすがに売ったりはしねぇよ、なぁ?」

「おうよ。さっきのは軽い冗談だぜ? 悪い事は言わねぇ、荷物は置いてけ」

「ぜぇ~ったいっ! 嫌だっ!! これで行くっ!!!」

「はぁ~……。分かった、好きにしろ。けどな、検問所で身ぐるみ剥がされて、怪しまれて、助けてくれって言われても俺達は知らねぇからな?」

「うっ!? ……だ、大丈夫だよっ!!」

   呆れ返るスレイとクラボ。
   しかしながら俺は、頑として首を縦には振らなかった。

   自分の身は自分で守る!
   大事な物も自分で守る!!
   それくらい、俺にだって出来るさ!!!

   差し出された竹籠の中に、鼻息荒く潜り込む俺。
   その格好は、先程までと比べると、ガラリと様変わりしていた。

   このロリアン島に上陸する際、俺はいつものウルトラマリンサファイアの原石がボタンとなったピグモル服を身に付けていた。
   やっぱりというかなんというか、長年着慣れた服が一番動き易いし、しっくりくるのだ。
   その上に神様から貰った隠れ身のローブを纏い、鞄を下げていたのだが……
   俺は、それら衣服は全て脱ぎ、神様アイテムである装飾品も全て取り外して、鞄の中へと詰め込んだ。
   自分の身を、自分の持ち物を、自分で守る為に。

   俺の鞄は、故郷であるテトーンの樹の村周辺に生息するウサギの皮で作った、何の変哲もないただの小さな肩掛け鞄であるにも関わらず、神様の力でその中が異空間へと繋がっている、超絶不思議な魔法道具なのである!
   鞄の中は、何でも無限に収納が可能で、加えて中の時間が止まっている為に食べ物や水は全く鮮度が落ちないし腐らない。
   正しく、優れもの過ぎる鞄ちゃんなのである!!
   しかもこの鞄は、俺の意思無くしては機能しない仕様となっている為、もし万が一、誰かに鞄を奪われたとしても、中の物を取り出される事はない。
   つまり、大事な物をしまっておくのに、この鞄の中ほど安全な場所はないのである!!!

   脱いだ服とローブ、更には指輪や耳飾りなどの装飾品の全てを鞄にしまい込んだ俺は、その中から別の服を取り出した。
   首元や袖口にレースがあしらわれた、レトロでカッコ可愛いお洒落着。
   グレコの故郷である、セシリアの森のブラッドエルフの里にて頂いた、俺専用のエルフ服である。
   本当は、何かのパーティーとか、改まった場で着用したかったのだが……、状況が状況なのだ、致し方ないだろう。

   俺は久しぶりに、エルフのお洒落着に袖を通した。
   サイズはぴったりなのだが、いかんせん着慣れていないので、なかなかに窮屈に感じられた。
   そして、本来なら余裕を持って履けるはずのズボンの中に、俺の全財産を隠した鞄をグイッと押し込んだ。
   こうしておけば、外からは鞄を持っているようには見えないのである。
   まぁ、お尻はいつもの二倍に膨れ上がり、かなり不格好だし動き辛いけれど……、この際、文句は言っていられない。

   よいしょと竹籠を背負い上げたクラボに対し、俺は問い掛ける。

「さっき教えた言葉、ちゃんと覚えてくれた?」

「あぁ? あ~っと……。『港で捕まえた鼠です、エルフ族の従魔だと思われます、俺たちの言語は理解できませんが、頭はとても良いので、簡単な作業ならやれるはずです、是非国王様のペットとしてお側に置いてやってください』、……だろ?」

   クラボは、俺が教えた言葉をしっかりと暗記してくれていた。

「うん、完璧だね! 僕は君達の言葉を喋れない、理解出来ない体でいるから。二人とも、絶対に僕に話しかけちゃ駄目だよ!!」

   念押しのようにそう言った俺に対し、クラボは「分かった分かった」と、少々面倒臭そうに返事をするのであった。

   今回、俺が考えた作戦、それは……
《世界一可愛い従魔はいかがですかっ!?》作戦だ!

   これまでの旅路で、俺が従魔に間違えられた回数は数知れず……
   というかむしろ、自己申告無しに獣人として扱われた事なんて、ただの一度も無かったんじゃなかろうか?
   それほどまでに俺は、従魔としての才能に満ち溢れているのである!!
   
   ……ま、そんな才能なんて、本当はこれっぽっちも欲しく無いけどね。
   だけど今回ばかりは、その才能をフルに活用してやろうと思うのだ。
   ただの鼠ではなくて、頭の良い従魔として献上されれば、さすがに食べられる事は無いはず……、たぶん……
   それに、従魔なら衣服を身に付けていてもおかしくないはず……、うん、たぶん……
   
   という事で、一張羅であるエルフのお洒落着に身を包み、一か八か、俺は献上品となる覚悟を固めたのだった。

   ……スレイに伝言を頼まなかったのは、スレイの方が阿呆そうだからだ。
   まだクラボの方が、教えた事をちゃんと伝えてくれそう。

   献上品は、王宮のある金山の麓、検問所と呼ばれる国王軍の駐屯所にて引き渡される。
   つまり、そこから俺は、スレイとクラボと引き離されて、本当の本当に単独行動となるのだ。  
   ザッザッザッと道を歩く二人の足音と共鳴して、俺の小っちゃなマイハートが、ドキドキドキと大きく鼓動する。
   
   ここからだ……、ここからだぞ。
   いよいよ本当に、悪魔が潜んでいるかもしれない紅竜人の王宮に乗り込む時が来たんだ。
   いつも以上に真剣に、気を引き締めて、辺りを警戒して、目一杯の注意を払って行動しなくちゃ。

   ドキドキドキ

   ドキドキドキドキ

   ドキドキドキドキドキドキドキドキ

   二人が歩く事数分。
   金山の麓、国王軍の待ち構える検問所へと、俺は辿り着いた。
 例によって、赤岩でできた、四角い建物である。

「止まれ。合言葉を言え」

   そう言ったのは、鋼の鎧に身を包み、槍を手に持つ兵士紅竜人だ。
   国王軍の者なのであろう彼は、スレイとクラボより少々背が高く見えて、筋肉質で屈強な肉体を持っている。
   二人はゆっくりと歩みを止めた。

「リザドーニャに栄光あれ」

 スレイの言葉を聞いて兵士紅竜人は、頭をクイッと傾けた。
 たぶん、こっちへ行け、という合図なのだろう。
 スレイとクラボは静かに歩き、建物の裏へと回った。
 建物の裏には、先程の兵士とよく似た背格好の兵士達がゾロゾロといて、鋭い視線をこちらに向けている。
 
「俺たちは使者だ、献上品を持ってきた」

   クラボはそう言って、俺の入っている竹籠を、そばにあった机の上にドンと置いた。
   スレイもそれに習い、背負っていた荷物を隣に降ろした。
   すると、一番近くにいた兵士が、おもむろに近づいて来て、俺が入っている竹籠の中を覗いて、ニヤリと笑ってこう言った。

「ほう? 鼠か。見かけない姿をしているが……、美味そうだな」

   舌舐めずりする兵士。
   その余りの恐ろしさに、俺は思わず……

「ひぃっ!? ぼっ!!? 僕は……、食べ物じゃないっ!!!」

   そう叫んでしまった。
   その結果……

「なっ!? 鼠が……!?? 鼠が喋ったっ!?!?」

   驚き慌てふためいた兵士の言葉に、周りの兵士達が反応して、視線が一斉にこちらに向けられる。
   背後にいるスレイとクラボは、無表情でだんまりを決め込んでいた。
   そして、俺はというと……

   し……、しまったぁあああっ!!!
   喋っちまったぁあああああっ!!!!
   やっべぇえええええええぇぇ~っ!!!!?

   冷や汗ダラダラ、足はガクガク、全身がガタガタと震えた状態のまま、思考だけはフリーズしてしまっていた。
   
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