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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
501:何かを変えるのは、勇気がいるけれど……
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ガクブルガクブルガクブル
俺は今、猛烈に震えている。
自慢の前歯はカタカタと鳴り、体はブルブルと小刻みに振動し、額からは大量の汗がタラタラと流れているのだ。
何故そのような状態に陥っているのかというと、目の前に、恐ろしい紅竜人が二人、現れたから……
「そいで、そのちっこいのは何なんだい? あたしへの手土産かい??」
てっ!? みっ!?? ち……、違いますぅっ!!!
右側にいる紅竜人は、片方しかない左腕で俺を指差し、まるで食べ物でも見るかのような目付きで、ニヤリと笑ってそう言った。
声が幾分か高いので、どうやら女性らしいのだが……
そもそも紅竜人は、その見た目では男女の区別がほとんどつかない。
つまり、哺乳類型獣人の女性なら必ずと言っていいほど存在するお胸が、紅竜人の女性にはないのである。
だからもしかしたら、声が高いだけで、本当は男なのかも……?
「ちげぇよ。こいつはゼンイの仲間で、今回の策の肝になる奴だ。ほれ、自己紹介しろや」
スレイは竹籠を肩から下ろし、空中で乱暴に逆さ向けにする。
「ひゃっ!? ピギャッ!??」
顔面から地面にダイブした俺は、奇妙な悲鳴を上げてしまった。
い……、痛い……、そして酷い。
鼻血が出たんじゃなかろうか?
強打した顔をそろそろと撫でながら、俺はスレイを睨み付けた。
「ほぉ~? まん丸に太ってて美味そうじゃねぇか。味見もしちゃいけねぇのか??」
ひぃっ!? なんて恐ろしい事をっ!??
左側にいる男の紅竜人が、舌舐めずりしながら、俺のふくよかなボディーを見つめている。
そいつは額に、包帯であろう汚い布を、何重にもグルグルと巻いている。
それに加えて、お尻の上から生えている尻尾が、他の紅竜人に比べて異様に短く、その先端は遠い昔にちょん切れてしまったのだろう、渇いた切断面が露わとなっていた。
やっべ……、グロテッスク……
直視しちゃ駄目だ、生々し過ぎる。
渇いてても駄目、気持ち悪い……
「やめとけやめとけ。お前の味見は丸呑みだろうが」
ヘラヘラと笑いながらスレイがそう言った。
なんっ!? そんなのごめんだっ!!
やめてくれぇっ!!!
「あんた、喋れるのかい?」
こちらは先程と変わらぬニヤニヤ顔で、女紅竜人が問い掛けてきた。
お……、俺に聞いてんだよな?
俺のこと、ジッと見てるし……、俺が答えるんだよな??
俺はゴクリと生唾を飲み込み、鼻血が出てない事を確認して顔から手を離し、グッと両手の拳を握りしめて言った。
「ぼっ! 僕はっ!! ぴっ、ピグモルの……、もっ……、モッモだぁっ!!!」
若干裏声になりながらも、精一杯大きな声で叫ぶようにそう言った俺に対し、目の前の二体の紅竜人は大層驚いた顔付きになる。
まるで、鳩が豆鉄砲を食ったような、素っ頓狂な顔をしているのだ。
……けっ。
どうせ、鼠が喋るなんて信じられないっ! とかなんとか思ってんだろ?
俺は喋れるぞ馬鹿野郎っ!!
こん畜生めがぁっ!!!
「こっちがメーザで、こっちがバレだ。二人とも、ここでずっと一緒に育ってきた奴隷仲間さ」
スレイはそう言って、どかっと地面に腰を下ろした。
ここは、先程の建物とよく似た造りでありながらも、部屋中に木箱が所狭しと積み上げられた、倉庫のような場所だ。
箱の中身は恐らく、剥ぎ場で使用されていた蝋燭、その名も薬蝋と呼ばれるものだろう。
なんとも言えないヌトっとした感じの薬の匂いが、部屋中に満ちている。
「いや~、まさかこの世に喋る鼠がいるなんてね。思いもしなかったよ」
メーザという名の女紅竜人は(やっぱり女でした)、木箱の一つに腰掛けて、物珍しそうに俺を見ながらそう言った。
……俺もね、思いもしませんでしたよ。
この世に、こんなにデッカくて恐ろしくって、二足歩行する真っ赤なトカゲがいるなんてね。
カービィいわく、テトーンの樹の村で暮らすバーバー族も竜人族で、いわば紅竜人と同じ爬虫類型獣人に分類されるらしいのだが……
全くもって信じられませんね、そんな事は。
あっちはトカゲと言われれば納得するけれど、こっちは喋る恐竜にしか見えませんよ、はい。
「こいつがゼンイの策の肝だと? ……大丈夫かよ、その作戦」
訝しげな目で俺を見つめ、失礼な事を言ったのはバレだ。
先程と全く違うその目付きは、どうやら俺が言葉を発した事によって、俺という存在が彼の食物カテゴリーから外れたらしい、という事を表していた。
だけど、全く信頼はされてないようだ。
「まぁ、ゼンイがそう決めたんだ、何とかなるんだろうよ」
スレイはそう言って、これまでの経緯を二人に話した。
偶然にも俺を拉致って、そこにゼンイが現れた事。
五年前に生贄に出されたはずのゼンイが何故生きていたのか、この島にどうやって戻ってきたのか。
更に、ゼンイがこれからやろうとしている事、奴隷制度を無くす為に、都の王族を一人残らず抹殺する計画など、全てを打ち明けた。
……ただ、王族の中に悪魔がいるかも知れない、という部分は、きっとスレイ自身がよく理解できていなかったのだろう、話には出てこなかった。
「そんなわけで、俺とクラボは、ここトルテカで同志を募ろうと思ってな。お前たち、協力してくれるだろ?」
にこやかなスレイの問い掛けに、二人はすぐさま頷くかと思いきや……
「反乱かぁ……。ゼンイの気持ちも分からねぇわけじゃねぇが……。ここ数年のトルテカをあいつは知らねぇからな。確かに俺たちは今も奴隷のままだが、生贄に出されたのはあいつが最後……。何の気紛れかは分からねぇが、それ以降は一人も犠牲になってない。王が改心したとは到底思えねぇが、ここで反乱を起こせば、王はまた生贄を求めてくるだろう。そうなりゃ、餓鬼共が犠牲になる……」
バレは両手を組んで俯いた。
「最近は、ユカタンの町の商会の連中が、秘密裏に薬蝋を届けてくれてる。そのおかげで、以前なら失われていた命が助かっている。おまけに生贄にされる事もないとなれば……。確かにあたしらは奴隷だ。この身を犠牲にして生きてきたし、このまま何も変わらなければ、子供らはいずれあたしらのようになるしかない。けどね……。反乱には賛成出来ないよ。もしあたしらが反乱を起こし、失敗したらどうなる? 残されたあの子らの命はどうなるんだい?? ……ゼンイが考えている事は、あくまでも理想論だよ。そんな簡単に、王族を暗殺できるわけがないさ」
メーザも、なかなかに現実主義らしい。
モーロクと似たような事を口にした。
……でもさ、それだと何も変わらなくない?
あんなに小さな(俺よりは大きいけど)子供達がさ、毎日痛みに耐えながら鱗を剥がされて、泣いていて……、それで良いわけないでしょう??
その何とかって町の商会の人たちも、商売道具である鱗が欲しいから、なくなったら困るから薬蝋を届けているだけで、決して善良な思いでそうしてるわけじゃなさそうだけどな。
そんな……、そんな生活を、これから先もずっと続けていく、それで本当にいいわけ???
俺と同じ事を、スレイは考えていたらしい。
難色を示す二人に対し、真っ直ぐな目でこう言った。
「俺は……、俺も、ゼンイと同じく、ずっとジピンの事が忘れられなかったんだ。だけど俺は、あいつみたいに行動を起こす事が出来ずにいた。自分が生きる為に、それだけに必死だったからだ。けど、それじゃ駄目なのさ。何も変わらねぇ、変えられねぇ……。自分の命を捨ててでも他の奴らを助ける……、俺たち奴隷の為に命を懸けてくれたジピン、そして同じように、命を懸けて国を変えよう、奴隷を救おうとしているゼンイを、俺は助けてやりてぇ、手伝ってやりてぇ。お前達も本当は分かってんだろ? 餓鬼共を本当の意味で救うには、全てを変えるしかねぇんだよ。痛い思いをするのも、辛い思いをするのも、全部終わりにさせようぜ?? 出来るか分からねぇ、失敗するかも知れねぇ、けど! やらなきゃ何も変わらねぇっ!!」
……俺を拉致した極悪人と同一人物だとは思えないほどに、スレイはカッコいい事を言っている気がする。
何事もそうだけど、現状に満足しちゃってたら、何も変えられない。
それを一番良く知っているのはこの俺だ。
故郷のテトーンの樹の村で、ぬくぬく、ぶくぶくと生活し続けてたら、これまでの色んな経験、体験は一切出来なかったわけだ。
勿論、幸せな事ばっかじゃなかったし、なんなら何度も死にかけたけど……、でも、大切な仲間に出会えて、掛け替えのない日々を送れている気がする……、たぶん。
だから俺は、村を出て、旅に出て良かったと思っている。
「何かを変えるのは、勇気がいるけれど……、大切な事なんだ」
独り言のように、俺は呟いていた。
頭の中で考えていた言葉が、勝手に口をついて出てきたのだ。
スレイとメーザとバレは、その鋭い瞳(たぶん普通に見ただけ)を、一斉に俺へと向けた。
ひゃあぁ~。
こ、ここ、怖い。
で、でも……、い、言わなくちゃっ!
「ぜ、ゼンイは……、み、皆の為に、頑張るって……、決めたんだよ。僕も、自分に何が出来るのか分かんないけど……、でも、頑張るって決めたんだ。奴隷制度なんておかしいよ、同じ種族なのに……、仲間なのに。あ、あなた達は、そんな……、頑張るって決めたゼンイを、見捨てるような……、そんな関係じゃないでしょう? 仲間なんでしょう?? 友達なんでしょう??? だったら……、だったらさ、一緒に戦おうよ。戦って、勝って、自由を手に入れようよ。その為にも……、お願いします、協力してくださいっ!」
そして、ピンチの時は助けてください、お願いしまっす!!
俺は、プルプルと小刻みに震えながら、頭を120度ほど下げた深々としたお辞儀でそう言った。
俺に出来る事なんて、これくらいしかないからね。
彼らが協力してくれるか否かは、俺の今後の身の安全に大いに関わってくるのだ……
お願いだから、協力してくれぇえっ!!!
「……分かったよ。見ず知らずのあんたにそこまで言われちゃ、あたしらも一肌脱がないとね」
言葉を発したのはメーザだ。
俺はバッ! と顔を上げる。
「いいのかよ? きっと、じじぃは許さねぇぜ??」
バレはまだ迷っている。
「馬鹿だね~、あんたは。いつからじじぃの犬に成り下がったんだい? ここトルテカじゃ、奴隷はみんな平等なんだ。何年生きてるか知らないが、あんな老いぼれに指図される覚えはないね。あたしはゼンイに手を貸すよ」
「そ、そうか……。じゃあ……。うん、俺も」
おおっ!? やったぁあっ!!!
メーザとバレは笑顔になって、ゼンイの作戦に協力する事を約束してくれた。
隣に座っていたスレイが、「やるじゃねぇか」って顔付きで、俺を軽く小突いた。
俺は今、猛烈に震えている。
自慢の前歯はカタカタと鳴り、体はブルブルと小刻みに振動し、額からは大量の汗がタラタラと流れているのだ。
何故そのような状態に陥っているのかというと、目の前に、恐ろしい紅竜人が二人、現れたから……
「そいで、そのちっこいのは何なんだい? あたしへの手土産かい??」
てっ!? みっ!?? ち……、違いますぅっ!!!
右側にいる紅竜人は、片方しかない左腕で俺を指差し、まるで食べ物でも見るかのような目付きで、ニヤリと笑ってそう言った。
声が幾分か高いので、どうやら女性らしいのだが……
そもそも紅竜人は、その見た目では男女の区別がほとんどつかない。
つまり、哺乳類型獣人の女性なら必ずと言っていいほど存在するお胸が、紅竜人の女性にはないのである。
だからもしかしたら、声が高いだけで、本当は男なのかも……?
「ちげぇよ。こいつはゼンイの仲間で、今回の策の肝になる奴だ。ほれ、自己紹介しろや」
スレイは竹籠を肩から下ろし、空中で乱暴に逆さ向けにする。
「ひゃっ!? ピギャッ!??」
顔面から地面にダイブした俺は、奇妙な悲鳴を上げてしまった。
い……、痛い……、そして酷い。
鼻血が出たんじゃなかろうか?
強打した顔をそろそろと撫でながら、俺はスレイを睨み付けた。
「ほぉ~? まん丸に太ってて美味そうじゃねぇか。味見もしちゃいけねぇのか??」
ひぃっ!? なんて恐ろしい事をっ!??
左側にいる男の紅竜人が、舌舐めずりしながら、俺のふくよかなボディーを見つめている。
そいつは額に、包帯であろう汚い布を、何重にもグルグルと巻いている。
それに加えて、お尻の上から生えている尻尾が、他の紅竜人に比べて異様に短く、その先端は遠い昔にちょん切れてしまったのだろう、渇いた切断面が露わとなっていた。
やっべ……、グロテッスク……
直視しちゃ駄目だ、生々し過ぎる。
渇いてても駄目、気持ち悪い……
「やめとけやめとけ。お前の味見は丸呑みだろうが」
ヘラヘラと笑いながらスレイがそう言った。
なんっ!? そんなのごめんだっ!!
やめてくれぇっ!!!
「あんた、喋れるのかい?」
こちらは先程と変わらぬニヤニヤ顔で、女紅竜人が問い掛けてきた。
お……、俺に聞いてんだよな?
俺のこと、ジッと見てるし……、俺が答えるんだよな??
俺はゴクリと生唾を飲み込み、鼻血が出てない事を確認して顔から手を離し、グッと両手の拳を握りしめて言った。
「ぼっ! 僕はっ!! ぴっ、ピグモルの……、もっ……、モッモだぁっ!!!」
若干裏声になりながらも、精一杯大きな声で叫ぶようにそう言った俺に対し、目の前の二体の紅竜人は大層驚いた顔付きになる。
まるで、鳩が豆鉄砲を食ったような、素っ頓狂な顔をしているのだ。
……けっ。
どうせ、鼠が喋るなんて信じられないっ! とかなんとか思ってんだろ?
俺は喋れるぞ馬鹿野郎っ!!
こん畜生めがぁっ!!!
「こっちがメーザで、こっちがバレだ。二人とも、ここでずっと一緒に育ってきた奴隷仲間さ」
スレイはそう言って、どかっと地面に腰を下ろした。
ここは、先程の建物とよく似た造りでありながらも、部屋中に木箱が所狭しと積み上げられた、倉庫のような場所だ。
箱の中身は恐らく、剥ぎ場で使用されていた蝋燭、その名も薬蝋と呼ばれるものだろう。
なんとも言えないヌトっとした感じの薬の匂いが、部屋中に満ちている。
「いや~、まさかこの世に喋る鼠がいるなんてね。思いもしなかったよ」
メーザという名の女紅竜人は(やっぱり女でした)、木箱の一つに腰掛けて、物珍しそうに俺を見ながらそう言った。
……俺もね、思いもしませんでしたよ。
この世に、こんなにデッカくて恐ろしくって、二足歩行する真っ赤なトカゲがいるなんてね。
カービィいわく、テトーンの樹の村で暮らすバーバー族も竜人族で、いわば紅竜人と同じ爬虫類型獣人に分類されるらしいのだが……
全くもって信じられませんね、そんな事は。
あっちはトカゲと言われれば納得するけれど、こっちは喋る恐竜にしか見えませんよ、はい。
「こいつがゼンイの策の肝だと? ……大丈夫かよ、その作戦」
訝しげな目で俺を見つめ、失礼な事を言ったのはバレだ。
先程と全く違うその目付きは、どうやら俺が言葉を発した事によって、俺という存在が彼の食物カテゴリーから外れたらしい、という事を表していた。
だけど、全く信頼はされてないようだ。
「まぁ、ゼンイがそう決めたんだ、何とかなるんだろうよ」
スレイはそう言って、これまでの経緯を二人に話した。
偶然にも俺を拉致って、そこにゼンイが現れた事。
五年前に生贄に出されたはずのゼンイが何故生きていたのか、この島にどうやって戻ってきたのか。
更に、ゼンイがこれからやろうとしている事、奴隷制度を無くす為に、都の王族を一人残らず抹殺する計画など、全てを打ち明けた。
……ただ、王族の中に悪魔がいるかも知れない、という部分は、きっとスレイ自身がよく理解できていなかったのだろう、話には出てこなかった。
「そんなわけで、俺とクラボは、ここトルテカで同志を募ろうと思ってな。お前たち、協力してくれるだろ?」
にこやかなスレイの問い掛けに、二人はすぐさま頷くかと思いきや……
「反乱かぁ……。ゼンイの気持ちも分からねぇわけじゃねぇが……。ここ数年のトルテカをあいつは知らねぇからな。確かに俺たちは今も奴隷のままだが、生贄に出されたのはあいつが最後……。何の気紛れかは分からねぇが、それ以降は一人も犠牲になってない。王が改心したとは到底思えねぇが、ここで反乱を起こせば、王はまた生贄を求めてくるだろう。そうなりゃ、餓鬼共が犠牲になる……」
バレは両手を組んで俯いた。
「最近は、ユカタンの町の商会の連中が、秘密裏に薬蝋を届けてくれてる。そのおかげで、以前なら失われていた命が助かっている。おまけに生贄にされる事もないとなれば……。確かにあたしらは奴隷だ。この身を犠牲にして生きてきたし、このまま何も変わらなければ、子供らはいずれあたしらのようになるしかない。けどね……。反乱には賛成出来ないよ。もしあたしらが反乱を起こし、失敗したらどうなる? 残されたあの子らの命はどうなるんだい?? ……ゼンイが考えている事は、あくまでも理想論だよ。そんな簡単に、王族を暗殺できるわけがないさ」
メーザも、なかなかに現実主義らしい。
モーロクと似たような事を口にした。
……でもさ、それだと何も変わらなくない?
あんなに小さな(俺よりは大きいけど)子供達がさ、毎日痛みに耐えながら鱗を剥がされて、泣いていて……、それで良いわけないでしょう??
その何とかって町の商会の人たちも、商売道具である鱗が欲しいから、なくなったら困るから薬蝋を届けているだけで、決して善良な思いでそうしてるわけじゃなさそうだけどな。
そんな……、そんな生活を、これから先もずっと続けていく、それで本当にいいわけ???
俺と同じ事を、スレイは考えていたらしい。
難色を示す二人に対し、真っ直ぐな目でこう言った。
「俺は……、俺も、ゼンイと同じく、ずっとジピンの事が忘れられなかったんだ。だけど俺は、あいつみたいに行動を起こす事が出来ずにいた。自分が生きる為に、それだけに必死だったからだ。けど、それじゃ駄目なのさ。何も変わらねぇ、変えられねぇ……。自分の命を捨ててでも他の奴らを助ける……、俺たち奴隷の為に命を懸けてくれたジピン、そして同じように、命を懸けて国を変えよう、奴隷を救おうとしているゼンイを、俺は助けてやりてぇ、手伝ってやりてぇ。お前達も本当は分かってんだろ? 餓鬼共を本当の意味で救うには、全てを変えるしかねぇんだよ。痛い思いをするのも、辛い思いをするのも、全部終わりにさせようぜ?? 出来るか分からねぇ、失敗するかも知れねぇ、けど! やらなきゃ何も変わらねぇっ!!」
……俺を拉致した極悪人と同一人物だとは思えないほどに、スレイはカッコいい事を言っている気がする。
何事もそうだけど、現状に満足しちゃってたら、何も変えられない。
それを一番良く知っているのはこの俺だ。
故郷のテトーンの樹の村で、ぬくぬく、ぶくぶくと生活し続けてたら、これまでの色んな経験、体験は一切出来なかったわけだ。
勿論、幸せな事ばっかじゃなかったし、なんなら何度も死にかけたけど……、でも、大切な仲間に出会えて、掛け替えのない日々を送れている気がする……、たぶん。
だから俺は、村を出て、旅に出て良かったと思っている。
「何かを変えるのは、勇気がいるけれど……、大切な事なんだ」
独り言のように、俺は呟いていた。
頭の中で考えていた言葉が、勝手に口をついて出てきたのだ。
スレイとメーザとバレは、その鋭い瞳(たぶん普通に見ただけ)を、一斉に俺へと向けた。
ひゃあぁ~。
こ、ここ、怖い。
で、でも……、い、言わなくちゃっ!
「ぜ、ゼンイは……、み、皆の為に、頑張るって……、決めたんだよ。僕も、自分に何が出来るのか分かんないけど……、でも、頑張るって決めたんだ。奴隷制度なんておかしいよ、同じ種族なのに……、仲間なのに。あ、あなた達は、そんな……、頑張るって決めたゼンイを、見捨てるような……、そんな関係じゃないでしょう? 仲間なんでしょう?? 友達なんでしょう??? だったら……、だったらさ、一緒に戦おうよ。戦って、勝って、自由を手に入れようよ。その為にも……、お願いします、協力してくださいっ!」
そして、ピンチの時は助けてください、お願いしまっす!!
俺は、プルプルと小刻みに震えながら、頭を120度ほど下げた深々としたお辞儀でそう言った。
俺に出来る事なんて、これくらいしかないからね。
彼らが協力してくれるか否かは、俺の今後の身の安全に大いに関わってくるのだ……
お願いだから、協力してくれぇえっ!!!
「……分かったよ。見ず知らずのあんたにそこまで言われちゃ、あたしらも一肌脱がないとね」
言葉を発したのはメーザだ。
俺はバッ! と顔を上げる。
「いいのかよ? きっと、じじぃは許さねぇぜ??」
バレはまだ迷っている。
「馬鹿だね~、あんたは。いつからじじぃの犬に成り下がったんだい? ここトルテカじゃ、奴隷はみんな平等なんだ。何年生きてるか知らないが、あんな老いぼれに指図される覚えはないね。あたしはゼンイに手を貸すよ」
「そ、そうか……。じゃあ……。うん、俺も」
おおっ!? やったぁあっ!!!
メーザとバレは笑顔になって、ゼンイの作戦に協力する事を約束してくれた。
隣に座っていたスレイが、「やるじゃねぇか」って顔付きで、俺を軽く小突いた。
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「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
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