上 下
513 / 800
★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

500:ゴチャゴチャ

しおりを挟む
「おい、スレイ。……おい、起きろって!」

「んぐっ!? がっ!?? ってぇ~? ……なんだ、クラボじゃねぇか」

「なんだじゃねぇよ、ぐっすり眠りやがって……。じじぃと話がついた。お前、メーザとバレのとこ行って、ゼンイが戻ってきたって伝えろ。そんでもって、反乱を起こすからお前達も協力しろって言ってこい」

「なるほど……、って、なんで俺が? お前が行きゃいいじゃねぇかよ。俺は難しい話はてんで駄目だぜ」

「何も難しかねぇだろうが。メーザもバレも、当時の事は知ってんだから、細けぇ事は言わなくていいさ」

「ふ~ん……、で、お前はどうすんだよ? まさか、ここで寝るつもりじゃねぇだろうな?? 俺を顎で使っておいて……」

「馬鹿か、そのつもりだよっ! こっちは徹夜で走った後だってのに、あの糞じじぃ共の長ったらしい話に付き合ってやったんだぞ!? それに、お前今寝てたじゃねぇかっ!?? 交代だ!! 出発まで眠らせろっ!!!」

「あ~も~、分かった分かった! じゃあ……、あ、お前はどうすんだよ? 俺と一緒に来るか、モッモ」

   スレイとクラボの視線が、同時に俺へと向けられる。

「えっ!? うっ!?? ど……、どうしよっかな~? ははは~」

   俺は、引きつり笑い気味でそう言った。

   モーロク達の元を去った後、俺はクラボに連れられて、最初の建物へと戻ってきた。
   中ではスレイが、地面に直に敷いたボロ布の上で、グースカと眠りこけていた。
   その姿を見たクラボは少しばかりイラっとしたらしく、スレイの小さな鼻の穴に二本の指を思いっきり突き刺して、無理矢理に起こしたのだった。   
   そして、どうやらクラボは今から仮眠をとるらしい。
   その間にスレイは、なんとかっていう奴隷仲間の元へ行って、ゼンイの作戦を話さねばならない、と……
   それに同行しないかと、俺に尋ねたのである。

   正直言うと……、俺は眠くない。
   一晩中籠の中にいたとはいえ、しっかりと熟睡出来ていたようなのだ。
   体に疲労感は残ってない。
   だがしかし……、しかしだな……
   あのモーロクじじぃの昔話を聞いたせいで、心がとても疲れているのですよ。
   なんていうかこう、ズーンって沈んでる感じ。
   だから、出来ればここで、ボーッとしていたいですね、はい。

   しかしながら、クラボがそんな俺の様子を汲み取ってくれるわけもなく……
   
「モッモ、お前はスレイと一緒に行って来い。ゼンイの策には、お前が必要不可欠。つまりお前は、ゼンイの策の肝なわけだ。だから自己紹介でもして来いや。俺たちの仲間と顔見知りになっておけば、いざって時には助けてくれるかも知れねぇぜ?」

   いやぁ……、自己紹介って、そんなそんな……
   今から国王様の元へ献上品のペットとして差し出されるモッモです、どうぞよろしく! ……とか言えってか?
   シュール過ぎるわそんなの。
   それに、いざって時には助けてくれるかもって……、いざって時って何よ、どんな時よ??
   そんな、誰かに助けてもらわなきゃならないような状況には、絶対の絶対の絶対に、置かれたくないんですけどねっ!

   ……しかしまぁ、一人で見知らぬ王宮に潜入する俺にとっては、この先何が起こるか全く分からない状況なのだ。
   仲間が多いに越した事はない。
   ただでさえも今回は、レイズン改めゼンイの、個人的かつ完全なる私情による作戦に、俺は参加してしまっているわけで……
   白薔薇の騎士団のみんなは何にも知らないわけだし、俺の仲間は事情を知ってても、再会できるのがいつになるのか分からない。
   それまで俺は、たった一人で行動しなければならないのである。
   もしも……、本当にもしもの時は、逃げるしか道はない。

   ……いやまぁ、そもそも何から逃げるのか、どこに逃げるのかすら全く分からないのだけどね。
   例えば、王様に正体がバレて(何の正体だ?) 、兵士達に追っかけられて、命からがら城の外に逃げおおせたとして、その先で助けてくれる者がいなければジ・エンドだ。
   さっきの話だと、スレイとクラボ、その他にも何人かの奴隷仲間達がゼンイの作戦に協力してくれそうだから、ここでその紅竜人達と顔見知りになっておけば、俺の身に危険が降りかかってきた時に助けてもらえるかも知れない、うん。

   ……いやいや、危険なんて降りかかられちゃ困るけどね!!

「じゃあ……、うん、分かった。僕も行くよ!」

   頭の中でゴチャゴチャと考えを巡らせた結果、どのみち断る勇気もない俺は、決心したかのようにそう言った。

   正直、紅竜人を見たのは昨日が初めてで、更には出会いが拉致だったもんだから、彼等に対して良い印象など全くなくて、あんまり大勢の紅竜人達と顔見知りになる事に抵抗感があるのだけど……
   でもやっぱり、背に腹はかえられぬ、とはこの事である。
   自分の身を自分で守れない以上、俺は誰かに守ってもらうしかない運命なのだ!
   危険を回避する為に、守ってくれる相手を増やしておく事は良い事に変わりない!!
   
「ギャギャギャ! あんまり妙な期待をかけねぇ方がいいぞぉ~!?」

   一人納得する俺を横目で見て、ニヤニヤと笑うスレイ。

「な、何も期待なんてしてないよ! ただ……、本当に困った時はその……、頼れる人が多い方がいいな~って思って……」
   
   唇を尖らせ、若干口籠もりながら俺がそう言うと……

「まぁあれだ……。深い意味はねぇが、今から会いに行くメーザもバレも、鼠の丸焼きが大好物だな」

   そう言って、厭らしく笑うスレイ。

   ……え? 何それ、どうゆう事??

   俺は、全身が石になったかのようにピシッと固まった。

   鼠の丸焼きが、大好物?
   そんなの、味方じゃなくて……、もはや敵じゃない??

   固まってしまった俺をヒョイと抱え、竹籠へと入れてそれを背負い、既に舟を漕いでいるクラボをこの場に残して、スレイは外へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転移は定員オーバーらしいです

家具屋ふふみに
ファンタジー
ある日、転校した学校で自己紹介を行い、席に着こうとしたら突如光に飲まれ目を閉じた。 そして目を開けるとそこは白いような灰色のような空間で…土下座した人らしき物がいて…? どうやら神様が定員を間違えたせいで元の世界に戻れず、かと言って転移先にもそのままではいけないらしく……? 帰れないのなら、こっちで自由に生きてやる! 地球では容姿で色々あって虐められてたけど、こっちなら虐められることもない!…はず! え?他の召喚組?……まぁ大丈夫でしょ! そんなこんなで少女?は健気に自由に異世界を生きる! ………でもさぁ。『龍』はないでしょうよ… ほのぼの書いていきますので、ゆっくり目の更新になると思います。長い目で見ていただけると嬉しいです。 小説家になろう様でも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...