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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

489:紅竜人

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「ギャハハ! なんだこいつっ!? 何でこんなの連れてきたんだっ!??」

「ギャギャギャギャ! ついでだよついで!! 積荷の辺りでウロチョロしてたもんでよ。たまたま目があったのさ。見てみろよ、この毛色。ここいらじゃ見かけねぇ鼠だ。ブクブクと太ってて美味そうじゃねぇかっ!!!」

「ギャハハハハ! 違いねぇっ!! しかし……、よく見ると、なかなかに可愛い顔してんじゃねぇか」

「ん? そうか?? まぁ……、普通の鼠よりは可愛いか??? 美味けりゃなんでもいいがな、ギャギャ」

「いやいや、こいつぁ~……、食うよりも、王宮に献上した方が儲かるんじゃねぇか? 新種の鼠を捕まえたとでも言やぁ、大金叩いて買ってくれるはずだぜ」

「ギャギャギャ! そいつぁ~いいなっ!! こいつ一匹食ったって腹の足しにもならねぇからなっ!!!」

「ギャハハハハハ! 違いねぇっ!! 高額で買い取らせて、その金で肉と酒をたんまり頂こうじゃねぇかぁっ!!!」

「ギャギャギャギャ! 楽しみだぁっ!!」

   ……う、うぅう~。
   なんで? どうして??
   俺は何故、こんな場所にいるんだ???

   真ん丸の大きな瞳に大粒の涙を浮かべながら、俺は今、成す術無く震えている。
   両手両足が縄できつく縛り上げられている為に身動きが取れず、口には猿轡さるぐつわのような物を装着されてしまっているので、声を上げる事すら出来ないのだ。

   星一つ無い、真っ暗な夜空の下。
   焚き火の明かりに照らされて、煌煌と光を反射する真っ赤な鱗。
   目の前にいるのは、世にも恐ろしい、真紅の体を持ったトカゲのような獣人二人。
   見るからに筋肉質なその体は、推定身長2メートル……、つまりは、二人共ギンロ並みの背の高さがある。
   おまけにお尻には、長く太い爬虫類の尻尾が生えていて、その長さも足すと体長は軽く3メートルは超えるだろう。
   ギラギラと光る鋭い赤眼と、裂けそうなほどに大きな口と、そこに生え並ぶ無数の牙。
   手には人と同じように五本の指があるのだが、その先にある爪は長く、刃物のように鋭利に尖ってて、明らかに殺傷能力が高そうだ。
   あんなので引っ掻かれた日にゃもう……、やわやわな俺なんて一発即死だろう。
   
   その風貌だけでも恐ろしいというのに、彼等の体にはもっとヤバイものがある。
  二人共、衣服はズボンのみを履いていて、上は裸なのだが……
 その露わになった上半身には、これまでによほど酷い傷を負った事があるのだろう、肉が抉れて鱗が剥げ落ちてしまっている古傷の跡がいくつもあるのだ。
   それはまるで、拷問を受けた事があるかの様な、あまりにも痛々しい姿だった。

「んん? ギャハハ!? なんだこいつっ!?? 泣いてるぞっ!?!?」

「情けねぇっ! ギャギャギャギャ!!」

   うぅ……、こ、怖いよぅ……

「安心しなチビ鼠。今ここでお前を食うのはやめだ。明日の朝一でみやこへ発つ。お前はそこで、王宮へ差し出す献上品となるんだ。ギャハハハハ、その後はどうなるか知らねぇがなぁっ!」

「ギャギャギャ! 相変わらず非道だぜ、おめぇはよっ!!」

 俺を丸ごと飲み込めそうなほどに大口開けて、笑う二人の紅竜人クリムゾン・リザード
 
   うぅう~……、食われるのは勿論嫌だけど、献上品にされるのも嫌だぁあっ!
   誰かっ!!
 誰か助けてぇえぇぇっ!!!







   時を遡る事、数時間前。

「野郎ども、錨を下ろせっ! ロリアン島に到着だぁっ!!」

「おぉお~!!!」

   煙人間ことアーデル達の幽霊船を離れ、船を進める事丸一日。
   前世の11月に当たるノヴァの月の1日に、商船タイニック号は無事、ピタラス諸島第四の島、ロリアン島へと到着した。
   
   呪いをかけられ我を忘れたアーデルによって、危うく窒息死させられかけた船長ザサークだったが、俺たちが船に戻る頃には意識を取り戻し、今はまるで何事も無かったかの様にピンピンしてる。
   さすか元海賊……、心と体の鍛え方がまるで違いますね!

   時刻は日暮れ時。
   ロリアン島の最南東に位置する港町ローレは、赤みを帯びた石造りの建物が立ち並んでいて、夕日の光を受けてオレンジ色に染まっていた。

「うわぁ……、あれが紅竜人……?」

   港の桟橋にいる、見るからに凶暴そうな赤い鱗のトカゲ獣人を前に、俺はブルルと身を震わせた。

   つるんとした頭と、爬虫類特有の鋭い目と大きな口。
   鼻は、顔面に二つの小さな穴が空いているだけで、耳も見当たらない。
   身に付けている衣服はそれなりのもので、文化水準は低くはなさそうだ。
   中には傭兵か何かなのだろう、甲冑を身に付けた者も多数いた。
   彼等の見た目は男女差がなく、恐らく衣服でしかその違いを見分ける事は出来ないだろう。
   だけど悲しい哉……、煌びやかなドレスを身に纏った女性の紅竜人を複数発見したが、お世辞にも似合っているとは言えなかった。

「おぉ……、ワラワラいるな」

   隣で同じ光景を見ていたカービィも、武者震いのように体を震わせていた。

「ふむ、なかなかに図体のデカい……。いや、我の方が逞しいな」

   自分とそう変わらない体格を持つ紅竜人を目にし、ギンロは何故か対抗心を燃やしていた。

「ひゃ~……、こんなにいるの? 紅竜人って……??」

   グレコがそう言ったのも無理はない。
   だって……、本当に、ここから見えるだけでも数十人以上の紅竜人が、そこにはひしめいていたのだから。

「悪いねみんな、外食だなんて……。ザサークの気紛れで、あいつらの船に食料のほとんどを置いてきちまったからね」

   呆れたようにそう言ったのは、タイニック号の船員でコックのダーラだ。
   少し離れた場所で、この島で売りさばく予定の積み荷を船員達に下ろすようにと指示しているザサークを横目に、小さく溜息をついた。

   ザサークは、危うく殺されかけたというのに、海の真ん中で俺たちを待つアーデル達の為、船にあったほとんどの食料を彼等に譲った。
   お人好しというか、何というか……、器が大きいにも程があるよ。

   煙化の呪いをかけられたとて、アーデル達は生きているのである。
   食事もすれば、ウンコもするらしい。
   あの体で、どうやったらそうなるんだと問い掛けたかったが……、きっとその原理は彼等にも分からないだろう。
   
「気にしないで、ダーラ。船長がそう決めたんだもの」

   グレコが笑顔で答える。

「ありがとうね。客にこんな事をするなんざ、いつものザサークならあり得ないんだが……。あの煙連中がグレコちゃんの知り合いだと聞いて、助けたくなっちまったんだろうね」

「あははは。直接の知り合いでは無いんだけどね~……」

   アーデルは、彼が言ったように、本当にハイエルフの一族だった。
   幽霊船の操舵室らしき部屋で、航海日誌が見つかったのだ。
   そこには船員名簿と、ハイエルフが暮らす国から出港した記録が残されていた。
 そして、日誌の最後に書かれている日付は、今からおよそ百五十年前のものだったそうだ。
   つまり彼等は、百五十年もの間、記憶すら曖昧な呪われた身で、当てもなく海を漂っていたのだ。
   そんな彼等に同情したのか、ザサークは商品以外の食料品のほとんどを、彼等の船に残してきたのだった。

「みんなが船に帰ってくるまでには、ちゃんと食料を買い足しておくからね! 安心しておくれね!!」

   ドンッ! と胸を叩き、ポヨヨンと揺れるダーラの豊満なお胸。

「なはははっ! ダーラの手料理を楽しみに頑張るぜっ!!」

「我も! ダーラ殿の手料理を楽しみにしているぞ!!」

   鼻の下のびのびのカービィとギンロは、ニヤニヤと笑いながらそんな事を言っていた。

「みんな、町で食事を終えたら船に戻ってポ! 夜の八時から、食堂で明日からの予定を確認するポね!! それから、出来るだけ一人きりでの行動は控えてポ!!!」

   まるで修学旅行中の生徒に対して言うように、ノリリアは大きな声でみんなにそう言っていた。
   新しい町に着くと、みんな心なしか浮き足立つからね。
   かくいう俺も、その一人で……

「モッモ、どこ行くの!?」

「ちょっとトイレ!」

   グレコとカービィとギンロと、更には騎士団のヤーリュとモーブのベースボールコンビを加えた六人で、夕食の為に町へと繰り出そうとしていたその時。
   俺は急にオシッコがしたくなり、みんなの輪から一人で離れてしまったのだ。
   みんなの前で立ちション出来るほど、俺は大胆な性格じゃ無いからね! なんて思いながら、船から降ろされた積み荷の陰で用を足していた……、その時だった。

   積み荷の陰で怪しく蠢く、大きな影が一つ。
   そいつの鋭い目と、俺の可愛らしい目が、バッチリと合ってしまい……

「んあ? 見られちまったか」

   低い声で、唸るようにそう言って、そいつはのっそりと立ち上がった。

   赤く、傷だらけの上半身と、背に担いでいる歪な形の大きな皮袋。
   見るからに人相の悪いその顔に、俺は思わず全身が固まった。

「ひ……、ひゃあぁぁ~!!??」

   必死に叫んだ声も虚しく、俺は頭から大きな皮袋を被せられて、そのままどこかへと連れ去られてしまったのだった。
 
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