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★寄り道・魔法王国フーガ編★

482:蛮族指定

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『王様と五つの魔導書グリモワール

  
   昔々……

   ある国の、ある村で、一人の元気な男の子が生まれました。
   
   男の子は、優しい心と、とても強い魔力を持っていました。

   旅の予言者は言いました。

「この子は、とても偉大な事を成し遂げるであろう」

   時が経ち、男の子は魔導師となりました。

   魔導師となった男の子は、広い世界を見てみようと、村を旅立ちました。

   いろんな場所で、いろんな人に出会い、いろんな魔法を覚えて、男の子は成長していきました。

   そうしていつしか、魔導師となった男の子の噂は、国中に広まりました。

   男の子の噂を聞き付け、たくさんの人が、男の子に力を貸して欲しいと、助けを求めてくるようになりました。

   男の子は、自分が出来る精一杯の事をし、人々を助けました。

   そんな男の子の活躍は、国で一番偉い、王様の耳にも届いていました。

「わしも、彼に力を借りたい」

   王様は、男の子を王宮へと招く事にしました。

   何故なら、その時王様は、不治の病で苦しんでおられたからです。

   男の子は、これまでの経験を元に、見事、王様を助けてみせました。

   こうして、王様を助けた男の子は、次の王様になる事となりました。

   時が流れて、王様となった男の子は、国をより良くする為に、毎日、神様に祈りを捧げていました。

   すると神様は、王様となった男の子に、五つの、特別な魔導書を授けたのです。

   王様となった男の子は、その五つの特別な魔導書を使って、国を一層豊かにしようと決意したのでした。


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   ……パタン。

「……何? この、超絶子供騙しな絵本は??」

   見るからにボロボロの、幼児向けの絵本を読み終えた俺は、怪訝な顔付きでカービィに視線を向けた。

「そこに書かれてるのが、さっき言ってたゾロモン王とゴエティアの話なんだよ」

   そう言ってカービィは、包帯でぐるぐる巻きにされている手の、唯一動かす事の出来る指先だけを器用に使って、テーブルの上にあるクッキーを摘み上げ、パクッと口へと放り込んだ。

   ここは、白薔薇の騎士団本部一階の事務所、その奥にある休憩室である。
   団長室を後にした俺は、カービィ、ライネル、ウィルと共に、ここへと移動した。
   中央ホールは、未だ復興作業に忙しい魔導師達で溢れかえっている。
   そんな彼らを横目に、俺はカービィを睨み付ける。

「いや……、これじゃ何が何だか分かんないよ」

   絵本をカービィに突き返しながら、不服な声を出す俺。  

   先程の、団長室でのみんなの会話が全くもって理解不能だった俺は、カービィに説明を求めた。
   するとカービィが、これを読め! と言って、この絵本を差し出してきたのだ。
   だがしかし……

   これの、何がどう説明になると思ったんだ?
   どこぞの男の子が魔導師になって、王様になって、五つの特別な魔導書を貰った……、それだけしか書かれてねぇ~しっ!?
   俺が聞きたいのはそんな事じゃねぇ~しぃっ!!!

   もそもそとクッキーを咀嚼する間抜けなカービィを前に、俺はローズの真似して目を細くしてみせた。
   しかしながら勿論、そんな事したってカービィは動じない。
   ……いや、むしろ小馬鹿にされたかのように笑われてしまった。

   時を遡る事、数十分前。
   団長ローズに、なんとか船に戻る事を許可して貰えたノリリアは、足りなくなった備品を補充してから戻るポ! とか言って、一人どこかへと消えてしまった。
   ジオーナとトゥエガは、それぞれに仕事があるらしく、そそくさと団長室を後にした。
   ウィルだけは、どうやら俺に興味津々のようで、何やら執拗に話し掛けてきたのだが……、どう扱っていいのか分からないまま、今も隣に座っている。
   そんなわけで、カービィ、ライネル、おまけのウィルと共に、今俺は、どこかへ行ってしまったノリリアを待っています、はい。

「いや~、まさか……、絶滅したはずの幻獣種族ピグモルに出会えるなんて、夢にも思ってなかったよ! ヤーリュにモーブめ……、君の事を僕に一切報告しないだなんて、ほんと意地悪だなぁ~!!」

   ウィルはずっと、こんな調子だ。
   俺の体をジロジロ観察し、急に頭の毛並みをソッと撫でたり、耳をツンと触ったりするもんだから、その度に俺はブルブルと震えなければならず、堪ったもんじゃない。
   今も、至近距離で俺の尻尾を見つめてらっしゃる。

「……あ、あの、もう少し離れてくれませんか?」

   遠慮がちにそう言ってみるものの、俺の言葉なんか全く聞いちゃいない。
   それどころか、またもやサワサワと尻尾に触れられて、俺は思わずブルンッ! と身震いした。

「魔法王国フーガの歴史において、第74代国王ゾロモンの名は、この国の始まりである建国宣言に勝らずとも劣らぬ程に有名だ。何故なら、唯一国王でありながら、国を滅ぼそうとした悪王だったのだからな」

   ライネルが、低い声で話し始める。

「そもそもの始まりは、その児童書に描かれておる、神が授けし五つの魔導書であった。その名をレメゲトンと呼ばれる五つの魔導書は、それぞれに強力な魔法が記された、現代では何人たりとも閲覧する事すら許されていない代物なのだ。その一つ、ゴエティア。史上最強にして最悪の魔導書……。ゴエティアは、こことは別の異世界……、魔界と呼ばれしその場所より、悪魔を召喚する事の出来る、恐ろしい魔導書だったのだ」
   
   悪魔を召喚する!?
   何それ、おっかねぇえっ!!!

「第74代国王ゾロモンは、そのゴエティアを使って悪魔を召喚し、国を破滅寸前まで陥れたのさ。その陰謀に気付いたのが、今現在王位に就いている国王ウルテルの祖先、若き日のビダ家のサルテルだった、ってわけだ。おまい、前にノリリアに見せてもらったろ? アーレイク・ピタラスが妻に宛てた手紙に、サルテルの名前が書かれていただろう??」

   そう……、だったかしら?
   あんまり細かい部分は覚えられないタチなのよ、ごめんにゃさいね。

「つまり、今現在、国王の元にあるべきゴエティアが何者かに盗まれた事と、魔連が時空間の歪みをピタラス諸島周辺に感知したという事、更にはピタラス諸島に残留悪魔が存在しているという事。この三つが全くの無関係とは考えにくい! という事をだな、みんなはさっき話し合っていたわけだ」

   ふむふむ、なるほど、そういう事か……、ん?

「じゃあ……、質問に戻るけどさ。僕達はどうするべきなの? ノリリア達は、悪魔退治はもうしないんでしょ?? ていうか、しちゃいけないんでしょ??? ならさ、僕達もやめとこうよ。ただでさえも次の島には、紅竜人クリムゾン・リザードなんていう、かなり野蛮な原住種族が暮らしてるんだし……」

   紅竜人の事は、俺、しっかりと覚えてました。
   だって、名前がちょっぴりカッコいいからね。

「紅竜人……。世連が蛮族ばんぞく指定する種族の中でも、その野蛮さが上位五種族に入るほどの危険な種族ですな」

   ひぃいぃぃ~!?
   そ、そうだったのねぇ~ん!??

   ライネルの唸るような声に、俺は二重にビビる。

「なはは! そう脅かしてやるなよライネル!! モッモ、紅竜人は別に気にしなくてもいいと思うぞ~」

   なんだとっ!? 
   またそんな適当な事言ってぇっ!!?
   そのヘラヘラ顔はもう見飽きたぜっ!!!!

「また無責任な事を……。なんでそんな事言えるのさっ!? 根拠はっ!??」

   会った事でもあるんですかぁあっ!?!??

「だっておまい……、フェンリル族は、世連の統計調査が始まって以来、常に蛮族指定の上位一位なんだぞ?」

   ふぁ? フェンリルが??
   つまりは……、ギンロが世界で一番危険っ!??

「フェンリル? 何故今フェンリルの話などなさるので??」

   首を傾げるライネル。

「いや~……、なはは。おいら達の仲間にフェンリルがいるんだな~、これが」

   ヘラヘラと答えるカービィ。

「なんとっ!? それはそれは……。ならば紅竜人など取るに足りませんなっ!!」

   ワッハッハ! と豪快に笑うライネル。

   くぅ~……、もうヤダッ!
   みんな、いろいろとおっかなすぎるんだよぅっ!!
   もっと可愛らしい種族を仲間にすれば良かったぁあっ!!!

「まぁとにかくだな……。おいら達はおいら達でやるべき事をやろうぜ! ロリアン島にも、神の光があったろう?」

「え? あ、う……、うん、あったね」

「なら、それを目指して突き進もうぜ! もし悪魔の奴が邪魔してきたら、その時はぶっ倒してやればいいさっ!! なははははっ!!!」

「……っつ、はぁ~~~」

   能天気に馬鹿笑いするカービィを前に、俺は大きな大きな溜息を吐いた。
   すると、その時……

「モッモ!? モッモ聞こえるっ!??」

   耳元で、慌てた様子のグレコの声が響いた。
   
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