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★寄り道・魔法王国フーガ編★

481:条件

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「是が非でも、ノリリアがプロジェクトの続行を希望するならば、わたくしは二つの条件を課します。まず一つ、本プロジェクトは故アーレイク・ピタラスの墓塔の探索調査、及びそれに付随する重要遺物が眠るという各所の探索調査のみであって、今後一切、残留悪魔の捜索及び討伐は禁止とする事。もう一つ、そこに居る時の神の使者とその仲間達の船への乗船、つまりはプロジェクトへの同行は認めましょう。しかし、あなた方の目的に、騎士団の者達を巻き込む事は断じて許せない。万が一にも、悪魔を倒そうなどと馬鹿げた事を考えているのならば……。カービィ・アド・ウェルサー、それはあなた一人がやってのけなさい。騎士団の助力は一切無しに」

   眠たげながらも、迫力のある視線を俺たちに向けて、ローズはそう言った。

「ポポッ!? 団長っ!??」

   驚くノリリアと、四人の副団長達。

「ローズ……? ノリリアをプロジェクトに戻すのか?? 即ちそれは、クエストを続行すると……???」

   ジオーナの問い掛けに、ローズは面倒臭そうに溜息をつく。

「いくら私でも、現国王の命令に逆らうのはあまり良くなくてよ? 国王直々のクエストである以上、プロジェクトを中止したとなれば、学会や政会の老いぼれ達が黙っていないだろうし……、騎士団の汚点にもなり兼ねないわ。そうなれば、皆に迷惑がかかってしまう……。だけど、ノリリア達を危険な目に遭わせるのも嫌。だからこの際、国王が言っていた残留悪魔の存在は完全無視して、墓塔の攻略だけを遂行すればいいわ」

「そ、それは……、良いポか?」

「良いに決まっているじゃない。そもそも、最初に公表されたクエストの内容は、墓塔の探索調査のみであって、残留悪魔の討伐なんて話は、国王と謁見した私とノリリアしか知り得ない話だったんですもの。一応、身に危険が及ぶ可能性があるから、プロジェクトのメンバーには事前に話を通してもらってはいたけれど……。騎士団内部と国王しか知らない事なのだから、わざわざ危ない真似なんてしなくてもいいわ。もし、次の島でも悪魔に遭遇したら……。必要な情報だけ持って、とっととお逃げなさい」

「ポッ!? 逃げるっ!!? ……で、でも、悪魔を放置して、もし島に暮らす者達に被害が出たら???」

「それは仕方ないわよ。魔連だって世連(世界共和連合の略)だって、大規模な調査を行っているとか言いながら、その残留悪魔の存在すら確認できていないわけでしょう? そんなの、島の一つや二つ滅んだって、あなたのせいではないわ。全ては詰めの甘い魔連や世連が悪いの!」

 何ともまぁ……、無慈悲な事を言いなさるな、ローズ団長様よ。
   けれど、逃げるのは賛成だな。
   よくよく考えてみれば、今こうして無事に生きていられる事が奇跡なほどに、俺たちはいくつもの危機に直面してきたんだ。
   それを回避できるのなら、俺は敵前逃亡も上等だぜ!

   だけども、ノリリアはそんな風には考えられないようで……

「ポ……、ポポゥ……、でも……」

   悲しげな表情で俯いている。

「ノリリアよ、お前が迷う気持ちは分からんでもない。しかしながら、騎士団の一員である以上、団長の命令は絶対だ。この条件が飲めないのならば、お前は船に戻るべきじゃない」

   トゥエガが、優しげな声で諭すようにそう言った。

「そうだよノリリアさん。墓塔の探索が出来るなら、別に悪魔なんてどうでもいいじゃないか。そりゃ、島にいる人が困っていたら、助けてあげたいって思うのも無理ないけどさ……。でも、知ったこっちゃないよ。そういうのはさ、魔連や世連がやればいいんじゃないかなぁ? 僕達のような一国のギルドが、わざわざ命を懸けてする事じゃないよ」

   こちらはどうやら、本気でそう思っているようだ。
   ウィルはなかなかに冷徹な性格の持ち主らしい。
   
   しかしながら、二人の言葉を聞いてもなお、ノリリアは小さな手の拳をギュッと握りしめ、唇をキュッと噛み締めている。

   ノリリアは、人一倍真面目で正義感が強い。     
   悪魔を前にして逃げるなんて、そんな無責任な事……、とてもじゃないが出来ないのだろう。
   だけど、今ここでローズの条件を飲まなければ、ノリリアは船に戻る事が出来ない。
   プロジェクトを続行出来なければ、クエストが達成されなかった事となり、白薔薇の騎士団の名誉にも関わってくる。
   つまりは、ローズの条件を受け入れる他、残された道は無いのだ。  
   それを全て理解しているからこそ、ノリリアは言葉に詰まっていた。
   
「なははっ! ノリリア、それでいいじゃねえかっ!?」

   カービィが、いつものお気楽能天気な声で笑う。
   あまりに場の空気にそぐわないその声色に、俺はうんざりした目でカービィを見つめた。

   ノリリアがこんなに悩んでるってのに……
   もうちょい緊張感持てよっ!?

「元々は墓塔の攻略がメインのクエストなんだ。ローズの言う通り、悪魔なんざほっとけばいいさ!」

   そう言ったカービィに対し、ジオーナの眉毛がピクリと動き、ローズがカッ! と目を見開く。

「カービィ……? ローズの名を口にするなと、何度も忠告したはずだが??」

「あ……、悪りぃ悪りぃ、つい昔の癖でな~」

   ジオーナの言葉とローズの視線をさらりとかわしつつ、カービィはヘラヘラと笑う。
   そんなカービィを横目で見つつ、ノリリアは意を決して口を開いた。
 
「でも……、団長。それは、本当に団長の意志ポ? 団長は、目の前に敵がいたとして……、助けを求める人達がそこにいたとして、それを放っておいて逃げられるポか??」

   震える声で、ノリリアはそう言った。
   その問い掛けに対しローズは、それまでのツンケンした態度をやめて、少しばかり表情を緩めてこう言った。

「ノリリア、私はあなたが好きよ。だから、あなたには寿命以外の原因で死んで欲しくないの。ちゃんと天寿を全うして、暖かい寝床の中で、優しい家族に見守られて、逝って欲しい……、なんなら私もその場に居たい。ノリリア……。残念だけど、私とあなたは違う。私ならどうにか出来る場面でも、あなたにはどうにもならない事もある。それはあなたが一番良く分かっているでしょう? だから、もう一度言うわ。悪魔の捜索、及び討伐は禁止。もし遭遇してしまった時は、団員達を連れて退避する事。それがあなたの正義に反しようが、プライドを傷付けようが関係ない……。白薔薇の騎士団団長の名の下に、命令します」

   強い決意がこもったその言葉、ローズの真っ直ぐなその瞳に、ノリリアはグッと言葉を飲み込んで……

「分かったポ。団長の命令に、従いますポね」

   力無く、こくんと小さく頷いた。

「そう。分かってくれて良かったわ。それで……、カービィ・アド・ウェルサー、あなたも分かってるわよね?」

 瞬時に声色を変えて、カービィを睨み付けるローズ。

「ん? ……おうっ! 分かってるぞ!! もし万が一、次の島で悪魔に遭遇したら、おいらが責任持って、ノリリアと騎士団のメンバーを逃すっ!!! おまいがおいらに求めてるのはそういう事だよな?」

   刺すようなローズの視線を物ともせず、カービィはニヤリと笑う。

「分かっているなら結構! 約束を破って私の前に現れたのだから、少しくらいは役に立って頂戴っ!! ……ふぁ~あ~、また眠くなってきたわ~」

   ローズは、言いたい事を全て言い終えたのか、スッと席を立ち、膝の上のコニーちゃんを腕に抱きしめたまま、大きな欠伸をしながらベッドへと戻っていった。

「……ま、なんとか丸く収まって良かったですな」

   背後に立つライネルが、コソッとそう言った。  
   それでもやっぱりノリリアは、両手の拳を握りしめたまま、複雑な表情のままで、俯いていた。
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