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★寄り道・魔法王国フーガ編★

478:団長室

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   コンコンコン

「どうぞ~」

   団長室の扉をノックする黒髪お姉さん。
   すると中からコニーちゃんの声が返ってきた。
   ゆっくりと開かれる大きな扉。
   その先には……、真っ白でラブリーな、どこかの温室のような部屋が広がっていた。

   うっひゃ~……、こりゃまた、すげぇな……

   予想外の光景に、俺は目を見張る。

   棘のある緑色の蔦が部屋中を覆い、無数の白薔薇が部屋中に咲き乱れ、甘い香りが充満するこの部屋は、壁と天井がガラス張りで、まるでこの部屋自体が夜空の中に浮かんでいるかのような不思議な空間だ。
   床だけは大理石のような白い石造りで、其処彼処に細い水路が通り、清らかな水が流れていて、それが周りの白薔薇の自生を助けているようだ。
   部屋の中央には小さな噴水があり、静かに水を吹き上げている。
   
   手前に置かれているのは、大きな丸いローテーブルが一つと、それを囲う一人掛けのソファーが六つ。
   部屋の一番奥には、天蓋付きのベッドが一つ、レースのカーテンが閉じられた状態で置かれている。
   それら部屋の中にあるもの全てが白のロココ調のもので、かなりお洒落、かつラブリーだ。
   そして、天井から吊り下げられている豪華なガラスのシャンデリアが、キラキラとしたスノーダストのような光を放ちながら、部屋を明るく照らしていた。

   黒髪お姉さんは、空いていた一人掛けソファーに腰を下ろす。
   部屋の中には既に、他の副団長が勢揃いしており、それぞれの定位置なのであろうソファーに腰掛けていた。
   ただ、真ん中にある、一際可愛らしいフリフリレースの椅子だけは空席だ。
   たぶんだけど、あそこはローズの席で……、コニーちゃんが奥のベッドの脇に控えているので、ローズは眠っているようだ。

「カービィちゃん、モッモちゃんも……、座ってポ」

   ノリリアに促されて、俺とカービィは二人で一つの椅子に座った。
   一人掛けソファーゆえ、少々窮屈だが……
   ライネルがソファーの真後ろに立っているあたり、どうやら席を譲ってくれているようなので文句は言えまい。

「ローズ、全員揃ったぞ」

   コニーちゃんが、その容姿に似合わない口調と声で、カーテンが閉じられたベッドに向かって声を掛ける。
   すると、中からとても小さな声で……

「先に始めてて~」

   という、眠たげなローズの声が聞こえた。
   その言葉通りに、コニーちゃんはローズの席の真横までやって来て、話し始めた。

「さて……、同志諸君、この度は団長ローズが多大なる迷惑をかけた。誠に申し訳なかった」

   ぺこりと頭を下げるコニーちゃん。

「コニー、お前が頭を下げてどうにかなる問題ではない。ローズはまだ起き上がれないのか?」

   そう言ったのは黒髪お姉さんだ。
   こちらは見た目に違わぬ凛々しい物言いで、鷹のような鋭い瞳でギロリとコニーちゃんを睨み付ける。
   ローズとコニーちゃんの事を呼び捨てにする辺り、どうやら副団長の中でも地位が高いとみたぞ。

「まだ無理だ。先程エリクサーを五本飲んだが……、逆に眠くなってしまったようでな」

   コニーちゃんは、申し訳なさそうな表情で首を横に振った。

「ま、団長がいなくてもいいじゃん? 話を進めようよ!」

   そう言ったのは、見る限りでは普通の人間の、金髪の少年だ。
   顔付きや背丈は小学校低学年くらいにしか見えないし、喋り方も声もまんま子供である。
   とてもじゃないが……、騎士団の副団長とは思えない風貌だ。

「ならばライネルよ、お前がこの場を仕切れ。俺はさっき戻ったばかりでな、なかなかに状況が飲み込めてない。説明してくれ! はっはっはっ!!」

   そう言ったのは、馬鹿でかい木のおじさん。
   こちらはもう、なんていうか……、本当に木なのだ。
   形は人なのだが、肌は完全に、ガサガサとした茶色い樹木の幹肌だ。
   そして、頭からは細い枝が空に向かって幾本も伸びていて、青い葉がワサワサと茂っている。
   木人間……、もしくは人面樹……、そういった呼び名が相応しい姿である。

「分かった。ここはわしが取り仕切ろう。まず……、皆に紹介せねばな。ジオーナとトゥエガは顔見知りだろうが、ウィルは初対面だろう? こちらに座っておられるのが、カービィ・アド・ウェルサーさん。およそ二年前まで騎士団に所属し、救助救護部の部長及び副団長を務めていた、虹の魔導師だ」

   ライネルの言葉に、カービィはエッヘン! と胸を張る。
 その紹介に、驚いたのは俺である。

「……は? え?? ちょ、待ってよ……。えぇっ!? カービィって、騎士団の副団長してたのっ!??」

   まさかの新事実に、俺は顔を思いっきり歪める。

「ありゃ? 言ってなかったか??」

   ヘラヘラと笑うカービィ。

   聞いてねぇぞこんにゃろめっ!!!

「わぁあっ!? カービィって、あのカービィ!?? レイドアナの英雄のっ!?!?」

   金髪の少年が、目をキラキラとさせて興奮する。

「口を慎めウィル。その呼び名は侮辱に値する」

   はしゃぐ金髪の少年に対し、黒髪お姉さんがピシャリとそう言った。

「はっはっはっ! そう言ってやるなよジオーナ。ウィルはそっちの意味で言ったんじゃない。こいつは本当に、英雄カービィに憧れてここにいるんだからな。なぁ、ウィル?」

   木のおじさんに問われて、金髪の少年はコクコクと頷く。

「どちらにしても私の気に触る。その言葉、二度と口にするな」

   何故だか一人、キレてる黒髪お姉さん。
   どうやらこのお方、かなり気難しく、更には怖い人のようだ。
   出来るだけ関わらないようにしよっと……

「それで、こちらがモッモさん。今現在、カービィさんと共に、ピタラス諸島の調査探索クエストに同行されているお方だ。そして、時の神の使者でもあるそうだ」

   ライネルの言葉に、黒髪お姉さん、金髪の少年、木のおじさんの視線が、一斉に俺に向けられる。
   もうほんと、バッ! と向けられた。
   しかも何故か、三人が三人とも無表情になっちゃって、怖いのなんのってもう……
   だけども、俺は例によってずっとローブのフードを被ったままなので、あちらから俺のお顔はよく見えないだろう。

「時の神の使者だと? ……本当にいたのか??」

   木のおじさんがゴクリと生唾を飲む。

「まさか、そんな……、実在するなんて……。僕てっきり、誰かの作り話か何かだと思ってたよ」

   金髪の少年が目をパチクリする。

「だが……、何故顔を隠している? 見られて困る事でもあるのか??」

   黒髪お姉さんが、その鋭い瞳で俺を睨み付ける。

   ひゃあぁぁ……、怖い怖い怖い……

   ガクブルガクブル

「それは……、モッモさん。フードをとって頂けますかな?」

   遠慮がちに、ライネルがそう言った。
 
   まぁ別に、減るもんじゃないしいいけれど……、なんとなく、一抹の不安が頭をよぎるな。
   しかしながら、俺の心情なんて御構い無しなカービィが…… 

「勿体ぶらずに……、ほれっ!」

「わわわっ!?」

   スルッとフードを脱がされて、俺の可愛らしいお顔が露わとなる。
   すると今度は、三人が三人とも、ギョッとした顔となって……

「なっ!? かっ!?? ……可愛いじゃねぇかぁあっ!!??」

   ギャハハハハッ! と、大笑いする木のおじさん。

「まさかっ!? ピグモル!?? 愛玩動物のピグモルなのっ!?!?」

   こちらはまた、違う意味で興奮する金髪の少年。
   そして……

「こ、んな……。こんなチンケな生き物が、時の神の使者、なのか?」

   唖然とする黒髪お姉さん。

   ……おっ、おいこらっ!
 お前ら揃いも揃って失礼なっ!!
   チンケとはなんだっ!?
   愛玩動物とはなんだっ!??
 おっさんは笑い過ぎだしっ!?!?
   こちとら世界一の愛らしさを誇るピグモル様だぞっ!!!!!

   三者三様、それぞれに失礼な態度を取られた俺は、両の拳を膝の上でギュッと握りしめて、プルプルと小刻みに震えていた。
   隣ではカービィが、噴き出すのを必死に堪えているかのような表情で、こちらも同じくプルプルと小刻みに震えていた。
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