上 下
484 / 800
★寄り道・魔法王国フーガ編★

472:嫌な結界

しおりを挟む
   受付カウンターを挟んで左右に位置するエレベーターらしき金属製の箱に乗り込む俺とカービィ。
   魔導式昇降機と呼ばれるこの機械は、中央に透明な水晶があって、乗客が自らの手でそこに魔力を流し込んで動かすらしい。
   つまり、魔力のない者がこれに乗る事は想定されてないのである……、けっ!

   カービィが短い腕を目一杯伸ばして水晶に触れると、透明だった水晶はピンク色の光を帯びた。
   そして、ガガガガガーと鈍い音を立てながら、昇降機はゆっくりと上昇を始めた。

「……ねぇ、本当に大丈夫かなぁ? さっきのセーラさん、めちゃくちゃ怯えてたよ??」

「なははっ! ビビり過ぎなんだよセーラのやつ!! 大丈夫だって。ここには凄腕の魔導師がごまんといるんだ。ローズがキレようもんなら、総出で止めてくれるさ」

   それって、ローズがキレる事前提に話してない?
   まぁそりゃそうか、どう考えても……、やっぱりキレられるよね??

   ヘラヘラと笑うカービィを、ハラハラと見つめているうちに、昇降機は目的の三階へと到着した。
   昇降機を降りて、廊下へと出る俺たち。
   ここからは中央ホールが一望できる。
   特に先程までと変わった様子はないし……、どうやらまだ騒ぎにはなってなさそうだ。
   ローズが戻って来る前に、ノリリアを連れ出さないと!

   前を行くカービィに続いて、廊下をひた走る。

「第三、第四……、あそこだ! 第五会議室!!」

   さほど大きくもない扉の前で、カービィは足を止めた。
   扉の上部には《第五会議室》というプレートが貼られている。
   そしてその扉の表面には、淡い光を放つとても複雑な白い魔法陣が浮んでいた。

   コンコンコンコン

   お上品にノックするカービィ。
   どうやら、この魔法陣は触れる分には無害らしい。

「ポ? はいポ」

   中から、ノリリアの声が返ってきた。

「ノリリア、おいらだ、カービィだよ」

「ポポ!? カービィちゃんっ!?? な……、なんでそこにいるポかっ!?!?」

   扉の向こう側で、途端に慌て出すノリリア。

「いや~、ローズに見つかっちまってよ。今からトンズラするから、おまいも来い!」

「ポポポッ!? 見つかった!?? 団長は今どこにっ!?!?」

「あ~……、知らねぇ」

   濁すカービィ。

   知らないわけないでしょうが!
   あんた、魔法でぶっ倒してたでしょうっ!?

「知らないって……、でも、あたちはここから出られないポ。団長が扉に禁錮魔法をかけたポね。とてもじゃないけれど……、いくらカービィちゃんでも、団長の魔法を解くのは無理ポよ」

   なるほど……、この白い魔法陣はローズが創ったものなのか。
   禁錮魔法って事は、ノリリアは監禁されてるんだな。

「確かに、おいらじゃ無理だろうな。けど、ここにはモッモがいる!」

   ……はい? 俺??

「ポポッ!? ま、まさかカービィちゃんっ!?? そんな事しちゃ駄目ポッ!?!?」

   再度慌て始めるノリリア。
   そんな事しちゃ駄目って……、カービィは俺に何する気なの!?

「モッモ、闇の精霊呼んでくれ」

「闇のっ!? ……あ! あぁっ!! この魔法陣を吸い込んで貰うってことっ!?」

「そういう事だ☆」

   なるほどそういう事ねっ!
   闇の精霊ドゥンケルのイヤミーは、いろんなものを吸い込む事が出来るのだ。
   その対象は物質のみに限らず、魔法で生成された魔法陣や結界も可能だ。
   けど……、あいつ呼ぶの嫌だな、いっつもドヤされるから……

「駄目ポッ! モッモちゃん駄目ポよっ!? 王都内での精霊召喚は特例を除いては禁止されてるポ!! そんな事したら……、このギルドに警備隊が大勢駆けつけてくるポッ!!!」

   なぬっ!? さっきのドカドカした感じの警備隊達がっ!??
   それは良くないのではないかっ!?!?

「気にすんなモッモ! やっちまえっ!!」

   本日、無責任が絶好調なカービィさん。

「いや、でも……、さすがに警備隊が集まってくるのはまずくない? 僕たち捕まっちゃうんじゃ……??」

「バーカ! 捕まる前に逃げるんだよっ!!」

   ばっ!? 馬鹿とはなんだよこの無責任変態がっ!!
   どうせその逃げるのも俺頼りのくせにっ!!!   
   ちょっとは俺を敬え馬鹿野郎っ!!!!

「よ~し……、やっちゃうよっ!?」

「やっちゃえやっちゃえぇっ!!!」

「駄目ポォオォォッ!?!??」

   ええい、ままよっ! 
   どうせ何したってローズはもう怒ってんだ!!
   カービィの言うように、ノリリア助けて、すぐさまトンズラだぁあっ!!!

「イヤミー!!!」

   闇の精霊の名を叫ぶ俺。
   すると、あのなんとも言えないどんよりとした臭いと共に、黄色い目玉のあいつが現れた。

『お呼びですか? ご主人様よぉ~??』

   例によって、いつも通りの陰険顔で、いつも以上に不機嫌そうだ。

「あっ!? とっ!?? そっ!!!! そこの魔法陣を消してぇっ!!!!!」

   イヤミーの威圧に負けないように、精一杯叫ぶ俺。
   すると、何処からともなく、鳥の鳴き声のような、それでいてサイレンのような音が、辺りに響き出した。

   ケケケケケケー! ケケケケケケケケケー!!

「なんだっ!?」

「あ~……、鳴ったな。なはは」

「ポポポポッ!? 国営警備隊の非常事態警報ポッ!?? 精霊召喚がバレたポよぉおっ!!!」

   もうっ!? もうバレたの!??
   はっやっ!!!?

「イヤミー! 急いでっ!!」

『言われなくても急いでやるよ。お前と違って、俺はせっかちなんでね。虚無の穴ブラックホール!』

   イヤミーが両手を頭上に掲げると、何もないその空間に、禍々しい真っ黒な球が現れた。
   ぐるぐると渦を巻くそれは、真ん中にぽっかりと穴が空いている。

『仮のものを虚空へと誘え……。吸引ザーゲン!!』

   イヤミーの言葉を合図に、ズモモモモ~! っという轟音を上げながら、虚無の穴は周りの空気を吸い込み始める。
   バリバリバリッ! と鈍い音を立て、バチバチと火花を散らす白い魔法陣。
   しかしながら、やはりローズが創ったものだけあって、一筋縄ではいかないようだ。
   魔法陣は微動だにしない。

『こんのぉ……、時間がねぇんだよっ! 剥がれやがれぇえっ!!』

   額に青筋を走らせながら、イヤミーは更に力を込めて、虚無の穴を一回り大きくさせた。

   うぉおおぉっ!?
   でっかっ!??

   てかやばいっ!!! 
   俺も吸い込まれちゃうぅっ!?!?

   俺とカービィは共に伏せ、床にしがみ付いて耐える。
   そうこうしていると、ベキベキベキィッ!! と嫌な音がして……

「んなっ!? それはやべぇっ!??」

「わわわわわっ!?!?」

   見ると、扉を囲っている壁にヒビが入って、壁紙がめくれて柱が剥き出しとなり、更にはその柱も虚無の穴の吸引に耐え切れず、大きく湾曲し始めたのだ。
   最終的には……

   ベキベキ……、バッコーーーーン!!!

   扉の両側の柱は、まるで爆破魔法でもくらったかのように粉々になり、虚無の穴へと吸い込まれてしまった。
   それを見たイヤミーは、ハッと我に返ったかのように、すぐさま虚無の穴を消滅させる。
   そして……

『くっそぉ~……、嫌な結界だぜ』

   ガチギレな表情で捨て台詞を残し、その場からスッと姿を消してしまった。

   後に残ったのは、白い魔法陣が貼られたままの第五会議室の扉と、床に這いつくばる俺とカービィ。
   そして、柱があった場所からこちらを覗く、引きつり笑いのノリリア。
   辺りにはまだ、けたたましい警報の音が鳴り響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転移は定員オーバーらしいです

家具屋ふふみに
ファンタジー
ある日、転校した学校で自己紹介を行い、席に着こうとしたら突如光に飲まれ目を閉じた。 そして目を開けるとそこは白いような灰色のような空間で…土下座した人らしき物がいて…? どうやら神様が定員を間違えたせいで元の世界に戻れず、かと言って転移先にもそのままではいけないらしく……? 帰れないのなら、こっちで自由に生きてやる! 地球では容姿で色々あって虐められてたけど、こっちなら虐められることもない!…はず! え?他の召喚組?……まぁ大丈夫でしょ! そんなこんなで少女?は健気に自由に異世界を生きる! ………でもさぁ。『龍』はないでしょうよ… ほのぼの書いていきますので、ゆっくり目の更新になると思います。長い目で見ていただけると嬉しいです。 小説家になろう様でも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅
ファンタジー
総合ランキング3位 ファンタジー2位 HOT1位になりました! そして、お気に入りが4000を突破致しました! 表紙を書いてくれた方ぴっぴさん↓ https://touch.pixiv.net/member.php?id=1922055 みなさんはボッチの辛さを知っているだろうか、ボッチとは友達のいない社会的に地位の低い存在のことである。 そう、この物語の主人公 神崎 翔は高校生ボッチである。 そんなボッチでクラスに居場所のない主人公はある日「はぁ、こんな毎日ならいっその事異世界にいってしまいたい」と思ったことがキッカケで異世界にクラス転移してしまうのだが…そこで自分に与えられたジョブは【自然の支配者】というものでとてつもないチートだった。 そしてそんなボッチだった主人公の改生活が始まる! おまけと設定についてはときどき更新するのでたまにチェックしてみてください!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...