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★寄り道・魔法王国フーガ編★

463:空の旅

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   サクッ……、ボファーン!!!

「おぉおっ!? 出来たっ!!!」

   商船タイニック号の甲板、メインマストの根元に、俺は黒い爪楊枝を差し込んで、導きの石碑を立てた。
   無論、ザサーク船長の許可を得ての事だ。
   
   まさか、船に石碑を建てられるだなんて思ってもみなかったから、俺は目をパチクリさせて驚いた。
   試しに世界地図を広げて見ると、ピタラス諸島の内海にポツンと一つ、石碑の光が追加されていた。

「よしっ! これで大丈夫だな~!!」

   にししと悪戯に笑うカービィ。
   
「モッモ……、本当に行くの?」

   グレコが複雑な表情で俺を見る。

「うん、行くよ。だって……、僕が行かないと、カービィもノリリアもここに戻れないからね」

   神様鞄をよいしょと持ち直して、俺はそう言った。

   港町ニヴァを出港した数時間後、突然空から現れたウサギの人形コニーちゃん。
   コニーちゃん曰く、白薔薇の騎士団のローズ団長がとてもお怒りで、ノリリアに一時帰還の命令を出したとのこと。
   しかしながらカービィの予想だと、距離的にも、一度帰還してしまえば、ノリリアがプロジェクトに復帰する事は不可能に近い。
   だから、テレポートが出来る俺と、ローズ団長を説得してみせるというカービィが同行する事となったのだ。

   ……という趣旨の話を、コニーちゃんの絶叫と恫喝の声を聞きつけて、驚いた様子で甲板に勢揃いしたみんなにカービィは伝えていた。

「我も共に行こうか?」

   ギンロが心配そうな声を出す。

「なら私も行くわ。モッモが心配だもの」

   グレコもかなり心配そうだ。

「う~ん……、本当は二人にも付いてきて欲しいけど……。でも、ギンロはフェンリルだし、グレコはブラッドエルフだから……。ほら、カービィがさっき僕に言ってたでしょ? 僕はピグモルだから、フードを目深に被って周りに正体を晒すなって。僕は小さいからそれで乗り切れるけど、二人は無理じゃない?? フェンリルは世界最強の魔獣で、ブラッドエルフは絶滅寸前のエルフ族でしょ??? もしバレたら……、面倒臭い事になると思うんだ」

   俺の言葉に、二人は揃って「う~ん」と唸る。

   フェンリルもブラッドエルフも、世界的に見ればとても珍しい種族なのである。
   カービィの説明だと、魔法王国フーガはおろか、周辺諸国においても、その国内には一人も存在しない種族なのだとか。
   となると、どっかでバレて、変な輩に絡まれでもしたら……、かなり面倒な事になる。
   それでなくても、ノリリアはローズ団長に怒られに帰るわけだから、既にとても面倒な状況なのだ。
   これ以上、面倒を増やすわけにはいくまい。

「分かったわ、待ってる。けどモッモ、一つ約束して。絶対にカービィの側を離れない事! いい!? 騎士団の本部があるフーガの王都へ向かうわけだから、それほど危険は無いとは思うけど……、万が一という事もあるわ。私やギンロが助けに行けない以上、唯一の味方であるカービィの側を絶対に離れちゃ駄目よっ!!?」

   グレコは、母ちゃんみたいな顔してそう言った。

「うん、分かった! でも……、大丈夫だよ、きっと!!」

   俺はニカッと笑ってそう言った。

   ……正直なところ、俺は今、かなり気持ちが浮かれている。
   何故って? そんなの決まっているじゃないか。
   とっても楽しみだからだっ!
   考えてもみろ、フーガは世界一の魔法王国だぞ??
   憧れないわけがないじゃないかっ!!
   常々俺は、いつかフーガへ行ってみたいと思っていたのだ!!!

   しかも王都は、白薔薇の騎士団の本部があるような……、おそらく都会だ。
   絶対の絶対の絶対に、素晴らしい街に決まってる。
   そんな場所に、予定外ではあるものの行けるのだ!
   楽しみじゃない方がおかしいぜぇっ!!
   ヒャッハーーーー!!!
   
   不謹慎ながら、俺の心は踊っていた。

「それじゃあ、ノリリアの星雲のペンダントで帰還するよ。目的地は王都。たぶん、騎士団の誰かが待ってるはずさ」

   コニーちゃんの言葉に、俺とカービィ、そしてノリリアが頷く。

「ノリリア、必ず戻って来いよ」

   アイビーが、無理矢理に笑顔を作ってそう言うと……

「ノリリア副団長! 待ってますからねっ!!」

「必ず戻って来てくださいっ!!!」

「自分達には、ノリリア副団長が必要ですからぁっ!」

   騎士団のみんなは、口々にノリリアを激励した。
   ノリリアの目には、また涙が浮かんでいた。

「なはは! そんなしょげくれてんじゃねぇよ、ノリリア。笑って返してやれ。必ずおいらがここへ戻してやっから」

   ノリリアの頭をポンポンと軽く撫でるカービィは、ちょっとだけイケメンに見えた。
   ……本当に、ちょっとだけね。

「ポポゥ……、みんな……、ぐすん。必ず戻って来るポ! 待っててポね!!」

   涙を堪えながら、ノリリアは精一杯そう言った。

「モッモ! 何かあったらすぐ連絡しなさいよ!!」

「あいあいさ~!」

   グレコの言葉にふざけた返事をする俺。

「それじゃあ二人共……、あたちの肩に手を置いてポ」

   ノリリアの指示に従って、俺とカービィはその小さな肩にそっと手を乗せた。
   コニーちゃんは、ノリリアの足の上にちょこんと座った。

「それじゃあ、行くポよ? ……モッモちゃん、何があっても、手を離しちゃ駄目ポよ」

「ふぇ? ……うん、オッケー♪」

   首から下げている星雲のペンダントを取り出して、魔力を解放するノリリア。
   ペンダントから七色の眩い光が溢れ出し、俺たちを丸く包み込んでいく。
   そして……

   ボボボボボボボボ~~~!!!

   強烈な破裂音と共に、体がふっと宙に浮いた。
   少し怖くなった俺は、ギュッと目を閉じる。

   ……さぁ、次に瞼を開いた時にはもう、そこには魔法王国フーガの王都の風景が?

   期待に胸と鼻の穴を膨らませる俺。
   だがしかし……

   ボボボボボボボボボボボボボボ~~~!!!!

   やかましい破裂音が続く。
   体の感覚も……、宙に浮いたままだ。

   はて? まだ到着しないのかな??

   しばし待ってみるも、破裂音は止まず、体もフワフワした感覚のままだ。
   それどころか、何やら強い風圧を感じる。

   何が、どうなってんだ???

   恐る恐る目を開けてみると……

「……ん? うっ!? うぉおおぉぉあぁぁっ!??」

   あまりの光景に、俺は外見に似合わぬ野太い声で絶叫した。
   ノリリアとカービィと俺とコニーちゃんを包んだ七色の光の玉は、猛スピードで空を駆けていた。
   それも、随分と下の方に海面が見える、遥か上空を猛スピードで。

   なんっ!? なんこれっ!??
   飛行機から見る光景じゃーーーんっ!?!?

   アワアワと焦る俺。

「モッモ! 離すなよっ!!」

   ともすれば、ノリリアの肩から手を離してしまいそうな俺の体を、カービィがギュッと掴んで支えてくれた。
   だがしかし……、その行動はむしろ、俺には逆効果であった。

   あああんっ!? 
   背中をギュッと握らないでぇえんっ!!?
   ゾクゾクしちゃううううんっ!!??

   想像だにしていなかった空の旅は、その後十分ほど続いて……
   地に足が着く頃には既に、俺の意識はすっかり飛んでしまっていた。
   
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