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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

459:封筒

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「これを、受け取ってください」

   差し出された封筒を受け取り、中を確認したマシコットは、困った表情になる。

「これは……、お金なんて受け取れません」

   メラメラと燃えるお顔を横に振りながら、マシコットは封筒を返そうと手を伸ばす。
   だけど……

「いや、どうか受け取って欲しい。あなた方は命の恩人だ。私にとっても、町の皆にとっても」

   ベッドに横たわったままの状態で、まだ顔色が優れない様子のラーパルは、それでもニコリと微笑んだ。

   町でノリリア達と合流し、港にある商船タイニック号の前まで戻った俺たちを待っていたのは、タウラウの森で出会った、人間なのにとっても馬面なブラーウンと、その息子であるアンソニーだった。
   アンソニーの方は、ご本人に会うのは初めてだったのだけれど……、ブラーウンとそう変わらない面長の馬面で、遺伝って凄いなって、俺はくすりと笑ってしまった。

   メラーニアによって、馬の顔へと変身させられ、帰れずの集落で暮らしていた人間達は皆、数日前に、無事に港町ニヴァに帰り着いていたらしい。
   そして、あの時運悪く凶暴化したリーラットに襲われ重症だったラーパルは、カービィの懸命の治癒魔法とマシコットの状態保存魔法によって、なんとか一命を取り留めたそうだ。
   そのラーパルから話があるのだと、ブラーウンは俺たちを呼びに来ていたのだった。
   
   馬面のブラーウンとアンソニー親子に連れられて、俺とカービィとマシコットの三人は、町の入り口近くにある住宅街へと向かった。
   グレコも来るかなと思ったんだけど……、ラーパルに余り興味がなく、お風呂に入りたいと言うので置いてきた。

   住宅街には、相も変わらず黄色い壁ながら、他とは違った豪勢な造りの一軒家が立ち並んでいた。
   ここら一帯にある家は、港の辺りにある移住者や出稼ぎの者が店を出している建物とは違って、この街に永住している人間達のものだそうだ。
   そしてその中でも一際大きな、お屋敷とも言える程の巨大な建物に、俺たちは案内された。
   玄関前には、《自警団本部》と書かれた看板が立て掛けられていた。

   ブラーウンは、呼び鈴を鳴らす事なく、両開きの扉を開いて中に入っていく。
   アンソニーと俺たちも遠慮なく続くと、そこは雑然とした倉庫のような部屋だった。
   壁際には黒板のような板があり、白い文字で複数の見知らぬ名前と日付が書かれている。
   恐らくだけど……、タウラウの森に入って行方不明になった者の名前と、行方不明になった日付だと俺は推測した。
   きっとここで、捜索の作戦会議でも開いていたんだろう。
   その黒板を取り囲うように、二十脚以上はある椅子が無造作に並べられている。
   しかしながら、そのどれもが薄っすらと埃を被っていて、過ぎた月日の長さを感じさせた。

   部屋の脇にある階段を上って、俺たちは二階へと案内された。
   その一室に、負傷したラーパルはいた。
   まだ全身は包帯でグルグルだし、顔色も決して良いとは言えないけれど……
   素人の俺にも分かる、ラーパルは峠を越えたようだ。
   その証拠に、凛々しいお顔はとても清々しい表情だった。

「じゃあ、おいらが受け取るよ! ちょうど手持ちが無かったんだ。な? モッモ??」

   ヘラヘラと笑いながら、マシコットの手元にある封筒を狙うカービィ。
     
   手持ちがないとか、バラすんじゃないよカービィこの野郎っ!
   マシコットが受け取ったものに、横から手を伸ばすなんて……
   卑しい事をするんじゃないよ馬鹿野郎っ!!
   
「けど……、我々白薔薇の騎士団は、クエスト中の金銭の授受は如何なる理由があっても認められていません」

「なはは! だからおいら達が貰うんだろ!? おいらもモッモも騎士団の一員じゃねぇ。なぁラーパルさん、おいら達でもいいよなっ!??」

「うむ、勿論だ。カービィさんにも大変世話になったからな。それに、大した額は入ってない。遠慮なく貰ってくれ」

「だとよ! ほれほれ、渡したまえっ!!」

   やめぇ~いっ!
   その手の動きはやめいっ!!
   品が無さ過ぎるっ!!!

   両手の掌を見せて、くいくいっと封筒を手招きするカービィのお顔は、大層いやらしい表情だった。
   マシコットは苦笑しながらも封筒をカービィに手渡し、カービィは受け取ったそれをすぐさま俺に渡した。

「ほい! 良かったな、モッモ!!」

   ニカッと笑うカービィ。

   ……おいっ!?
   なんか、俺がねだったみたいになってないかっ!??
   確かに今、手持ちはゼロに等しいけれど……
   銀行には四千万もあるんだからなっ!?!?
   俺が欲しがったから、みたいな顔でこっちを見るんじゃないよカービィの阿呆っ!!!!!

「ところで……、聞くところによると、あなた方はこのピタラス諸島の主要五諸島を巡られてるとか……?」

   ブラーウンが口を開いた。

「あぁ……、はい、そうなんです」

   マシコットが答える。

「では、次はもしかして……、東のロリアン島に?」

「行きますね。明日の朝には船で出港します」

   マシコットの言葉に、ブラーウンはラーパルと視線を合わせる。
   双方共に、何やら顔色が優れない。

   ……はて? なんだか嫌な予感がしますが??

「私どもを救ってくださった皆さんを、みすみす危険な目に遭わせるわけにはいきません……。悪い事は言わない、あの島に行く事だけは考え直された方がいいですよ」

   ブラーウンは、馬面の顔を少し青くさせてそう言った。

「なんでだ? 紅竜人クリムゾン・リザードがいるからか?? それならおいら達も知ってるぞ」

   カービィは、いつも通りのヘラヘラ顔だ。

「それは島内の話……。私たちが言っているのは、ロリアン島までの航路の事です」

   ……ほう? 航路とな?? 

「航路って……。我々は内海を通って、ロリアン島の港町ローレへ向かう予定です。その航路に何か問題でも?」

   マシコットの言葉に、ブラーウンは口をつぐみ、ラーパルは表情を強ばらせる。

「実は……。先日海で、十年ほど前にこの港町ニヴァとロリアン島の間の内海を縄張りとしていた海賊が目撃されたのだ。奴等は血も涙もない野蛮な連中だ。私の耳が片方ないのも、奴等のせいなのだ。十年前の当時、奴等は度々このニヴァの町にやって来て、好き勝手に暴れていたからな。しばらく見ないので安心していたが……、どうやら戻って来たらしい」

   うぇえっ!? かっ、海賊ぅうっ!??

   ラーパルの言葉に、俺は目玉が飛び出そうな程に驚く。

   しかしながら、ふと思い出す。
   そういや、今俺たちがお世話になっている商船タイニック号の船員であるダイル族の皆さんは、確か昔、海賊だったとかなんとか……?
   だとしたらさ……、元同業者、的な??
   なら、あんまり怖くない気がする。

「海賊かぁ~。けどまぁ、行かねぇわけにはいかねぇよな?」

「はい、そうですね。仮に海賊の縄張りだとしても、相手は原住種族でもなければ保護対象種族でもありませんし……、我々が引き下がる理由にはなりません。そもそも海賊を名乗っているのならば、むしろ討伐の対象ですね」

「んだな! いっちょ捕まえてやっかっ!?」

   カービィとマシコットは、強気な発言で笑い合う。
   だけど、ブラーウンとラーパルは表情を緩めない。
   すると、今まで黙っていたアンソニーが、ポツリとこう言った。

「あいつらは捕まえられないよ。だって……、だって幽霊だからっ!」

   ……ファッツ? 今なんと??

   怯えた様子のアンソニーの言葉と、それを否定しないブラーウンとラーパルを前に、俺は背筋に嫌~な汗が流れるのを感じた。
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