上 下
469 / 800
★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

458:金の鍵

しおりを挟む
「ママン、もう行くの?」

「えぇ。欲しい物は手に入ったし、用は済んだからね。長居は無用よ」

「そんな……、久しぶりに会えたのに……」

   ニベルーの懐中時計を懐にしまい込み、帰り支度を始めたアルテニースに対し、クリステルがしゅんとした声を出す。

「そんなしょげないのっ! それより……、これを渡しておくわね」

   ローブの内側をごそごそと探って、一枚の紙切れを取り出し、クリステルに差し出すアルテニース。

「なぁにこれ? ……マドーラ??」

「そこに書いてあるのが今の私の住所よ。いろいろと落ち着いたら、子供と一緒に訪ねて来なさい♪」

「子供って……、えぇっ!? どうして知ってるの!??」

   顔を真っ赤にして驚くクリステル。
   咄嗟に足が内股になってしまっていて、かなり気持ち悪い。

「私を誰だと思ってるのよ。天下の大予言者、アルテニース様よ!? 自分の息子の未来くらいお見通しよ!! クリステル……、あなたは今のままでも十分魅力的だし、彼女もそれを許してくれているけれど……。子供を持つんだから、しっかりしなきゃダメ。クリステルのままでもいいけど……、家族はちゃんと守りなさいね、バイバルン」

   アルテニースの言葉に、俺とグレコは眉間に皺を寄せる。

   クリステルに、子供が生まれる?
   そんな……、なんの話だ??
   クリステルは男で、オカマで……
   彼女だって???
   オカマのくせに、ちゃっかり女の子と付き合って、子供が出来ちゃったと????

   ……くっ、さすがは半分ケンタウロス。
   父方の好色の血が色濃く流れてますなっ!

「あ……、はぁ~……。さすが、あたしのママンね。分かったわ。全部ちゃんと落ち着いたら、三人でママンを訪ねに行くわ」

「ふふ♪ 四人だけどね♪」

「え? ……えっ!? それってどういう事っ!??」

「あはははっ! 楽しみにしてるわねっ!! それじゃあモッモ君、グレコちゃん、またね♪ 今度は空の上で会いましょ!!!」

   空の上ってそんな……、縁起でもない。

   アルテニースは一人、愉快そうにケラケラと笑いながら、クリステルの家から出て行った。
   残ったのは、机の上に置かれたニベルーの遺産である金の鍵と、呆然とする俺とグレコ、そしてクリステルの三人。

「……とても、迫力のある人だったわね」

   ポツリと零すグレコ。
   その言葉通り、なんともまぁ……、嵐のような女性だったなと、俺は思うのであった。







「モッモちゃん、グレコちゃん、お元気でね。またこの島に来る事があれば、お店に顔を出してちょうだいね♪」

   クリステルに別れを告げて、俺とグレコはケンタウロスのお尻を後にした。
   空はまだ明るくて、雲一つない快晴だった。

   俺とグレコは小道を抜けて、大通りへと歩き出た。
   すると、なんともタイミング良く、町へと戻ってきたノリリア達とばったり出くわした。

「ポポ!? モッモちゃん、グレコちゃん!??」

   俺たちにいち早く気付いたノリリアが、険しい形相で駆け寄ってくる。

「お~、モッモ~!」

   のんびりとした様子で手を振っているのはカービィだ。
   まだ少し、眠そうな顔をしていた。

   その他には、ギンロとライラック、アイビーにマシコットにカナリー、ブリックとチリアンとレイズンと、ミルクとパロット学士、最後尾にはミュエル鳥を複数従えたモーブとカサチョが一緒だった。
   
「ニベルーの遺物は見つかったポか!?」

   猛ダッシュの末、至近距離にまで近付いてきたノリリアが、前のめりになって尋ねてきた。

「うっ!? うんっ!! あったあった!!!」

   俺は、ストップ! の意味も込めて、体の前に両手を突き出した格好でそう答えた。
   可愛らしいながらもかなり真剣なお顔のノリリアは、いつもより鼻の穴が膨らんでいてとても面白く、それでいて勢いがありすぎて怖い。

「これ……、えっと……。森で見つけたんじゃないんだ。そこの……、バーで、さっきアルテニースと会って……」

   金の鍵をノリリアに手渡しながら、もごもごと口籠もりがちに説明する俺。

「ポッ!? アルテニース!?? アルテニース・パラ・ケルーススポかっ!?!?」

   目をパチクリさせて驚くノリリア。
   その声のボリュームがかなり大きかった為に、後からこちらに向かって歩いてきていたカービィ及び他の騎士団の耳にもそれが届いた。

「んん!? アルテニースだって!??」

   最初に反応したのはカービィだ。  
   パッと目の色を変えて、俺たちの元へと小走りでやって来た。
   他の騎士団のメンバーも、只事では無い様子で駆け寄ってくる。

「うんとね……。そこの角を曲がった先にある、ケンタウロスのお尻っていうお店の店主であるクリステルが、アルテニースの息子さんなのよ。それでね……」

   グレコが、先程までの出来事を簡単に、ノリリア達に説明した。
   そして、既にアルテニースは去ってしまった事も伝えた。

「くぁあっ!? 大予言者アルテニース!! 一目でいいから会いたかったぜぇえっ!!!」

   真底悔しそうに悶絶するカービィ。

「ポポポゥ……、アルテニース・パラ・ケルースス……。三十五年前に国立学会から失踪し、未だに国家捜索特級行方不明者に認定されている超有名な未来予知魔法の使い手ポね。それをみすみす取り逃がすなんて……。団長にバレたら、ただじゃ済まないポよ……」

   頭を抱え、表情を強張らせるノリリア。

「ま……、まぁ、そこはほら……、報告書を少し濁しておこうか」

   気休めを言うアイビー。

「ノリリア、その鍵とやらを見せて頂けますかな?」

   パロット学士に言われて、ノリリアは金の鍵を手渡した。
   しげしげとそれを観察し、少しばかり険しい顔付きになるパロット学士。

「ふむ……、どうやらこれは、ニベルーの遺物に間違いないようですな。この持ち手部分の装飾の形……、コトコの遺物と同じく、【サルヴァトル】のものです」

   パロット学士は、何故かコソコソと、ノリリアにそう耳打ちした。
 とても小さな声だったし、聞き慣れない言葉が混ざっていた為に、俺にはよく理解できなかった。  
   でも、どうやらこの金の鍵がニベルーの遺物である事は間違いないらしい。
   無事に役割を果たせた事に、俺はホッと胸を撫で下ろした。

「ポポ。なら、今回の探索調査も一応の成功とみなせるポね。なんとかこれで、プロジェクトを続行させられるといいポが……。とりあえず、一度船に戻るポよ。モッモちゃんとグレコちゃんも一緒に」

   ノリリアの言葉に俺たちは皆一様に頷いて、商船タイニック号が停泊する港へと向かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

処理中です...