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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

449:掘って、彫る

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「土の精霊さ~ん! 来てくださ~い!!」
  
   メラーニアを手伝って、九体の白骨死体を小屋の外へと運び出した俺は、何も無い空間に向かってそう叫ぶ。
   
『は~い! こんにちは、です!! 召喚主様!!!』

   柔らかいオレンジ色の光を纏った、栗色お下げ髪の小さな土の精霊が、すぐさま目の前に現れた。
   彼女を呼び出すのは、コトコ島のコニーデ火山の頂上で、悪魔のハンニを倒した時以来だが……
   ごめんなさい、名前を忘れました。

「あ、えと……、こんにちは! その……、お墓を作りたいんだけど、手伝ってくれるかな?」

   彼女の名前を思い出せない俺は、言葉を選びながらそう言った。

『お墓を作るのですね? お安い御用です! このチルチルにお任せくださいっ!!』

   可愛らしいお顔でニッコリと微笑んで、やる気満々で腕まくりをし、何処からともなくあの小さなスコップを取り出す土の精霊。
   どうやら彼女の名前はチルチルと言うらしい。
   ちゃんと覚えないとな、チルチル……、チルチル……、チルチル……

「やだ可愛いっ!? モッモったら、いつの間にこんなに可愛い精霊を呼び出せるようになったの? ウンディーネのあいつに比べれば雲泥の差ねっ!」

   つい先程まで、小屋から運び出された九体の白骨死体を見て、血の気が引いたような顔をしていたグレコであったが……
   チルチルの登場によって気が紛れたらしい。
   満面の笑みをチルチルに向けて、そんな事を口走った。

   グレコの言いたい事は、分からなくも無いが……
   ゼコゼコもこの間、めちゃくちゃ頑張ってくれたんだよ? 
   小屋の地下に溜まっていた緑色の水を……、見るからに腐ってヤバそうだったあの水を、死にそうな顔してお口に入れて、全て除去してくれたんだから……
   ま、グレコは知らないと思うけどさ。

『何処に穴を掘りましょう? いくつ掘りましょう??』

   小さなスコップを手に、キラキラとしたピンク色の瞳で俺に尋ねるチルチル。

「あ~っと……、メラーニア、どの辺りがいいの?」

「う~ん、そうだなぁ……。じゃあ……。あそこの大きな岩の側にしようかな」

   少し離れた場所にある大きな黒い岩を指差すメラーニア。
   確かにあそこなら日当たりも良いし、あの黒い岩を墓石代わりに出来そうだ。

「いくつ掘る? バラバラに九つ掘る??」

「いや、一つでいいよ。みんな一緒の方がきっと、安心して眠れると思う」 

「オッケー♪ じゃあチルチル、あそこに掘ってくれる? 大きな穴を一つ」

『了解しましたっ!』

   俺の要望に、チルチルはすぐさま作業に取り掛かる。
   一見すると玩具にしか思えない小さなスコップで、サクサクと地面を掘り進め、ものの数秒で、黒い岩の前に巨大な墓穴を掘り上げた。
   そのあまりの速さ、手際の良さに、メラーニアとグレコは目をパチクリさせていた。
   俺は一応二度目なので、そこまで驚いたりはしないけど……
   しかしながら、それでもそのチルチルの神業を前にしては、心から感心せざるを得なかった。

『お墓でしたら墓石が必要ですね! この黒い岩に何か彫りましょうか!?』

   チルチルが提案する。

「あ、そんな事も出来るのっ!? じゃあ……、メラーニア、何て彫る?」

「えっ!? えと……、あ……。よく分かんないや。ケンタウロスの文化では、死んだ仲間は焼いて土に埋めるだけだから……。はかいし? っていうのは……、何??」

   おっと……、なるほどそこからか。

「墓石っていうのはね、ここに亡くなった方が埋まってますよっていう印なの。墓石には亡くなった方の名前を掘ったり、亡くなった方に贈りたい言葉を彫ったりするのよ」

   グレコの的確かつ分かりやすい説明には、いつもながら脱帽です!

「そうなんだ。じゃあ……、うん! 《みんな、また会おう》そう彫りたいっ!!」

   メラーニアの言葉に、俺もグレコも一旦瞬きを止めたものの……、世間知らずなメラーニアらしくていいなと思い直す。

「オッケー♪ チルチル、墓石には《みんな、また会おう》って彫ってくれる?」

『了解ですっ!』

   チルチルは嫌な顔一つせず、大きな黒い岩にその言葉を彫った。
   そして、より墓石らしく見えるようにと、尖っていた周りを削って形を綺麗に整えて、その表面に草花の模様を彫ってくれたのだった。

「わぁ~素敵っ! 私のお墓もこんな感じのがいいなぁっ!! その時はチルチルに頼もうっと♪」

   全くもって理解不能な感想を言うグレコ。
   さっき、しっかり墓石の説明をしていたのと同一人物とは思えないほどの、意味不明っぷりである。

   自分のお墓って……、いったい何年後に入るつもりなんだろう?
   百年?? 二百年??? 三百年????
   果たしてその頃、チルチルを呼べる俺は生きているだろうか……
   否、骨もなくなってるわきっと、あはは。

「ありがとうチルチル。後は自分達でやるからね」

『はいっ! お役に立てて良かったです!! それでは失礼致しますっ!!!』

   可愛らしい微笑みを浮かべながら、チルチルの体は徐々に小さなピンク色の光の粒となって、その場からパッと消え去ったのだった。
  





   浮遊魔法を行使して、九体の白骨死体を墓穴の中へと静かに運び入れるメラーニア。
   それは、とてもとても大切なものを扱うかのように、慎重かつ丁寧で、優しい魔法だった。

   九体全てを穴の中へと入れた後、俺とグレコ、それから暇そうにしていたゲイロンとレズハンにも手伝ってもらって、上から土を被せて墓穴を埋めた。
   そして、近くに咲いていた花を沢山摘んで、墓石の前に供えた。

「みんな、ありがとう……。僕はもう間違えない。この両足でしっかりと、この僕の人生を、生きていくよ」

   墓石に向かって、メラーニアは誓った。
   その瞳は真っ直ぐで、とても力強かった。

   いつの間にか西の空へと傾いた太陽が、辺りを夕焼け色に染め始める。
   俺とグレコとメラーニア、ゲイロンとレズハンは、そっとその場を後にした。
  
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