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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

436:スカッ!!!

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   再び鬼の形相となったテジーは、部屋の出入り口に仁王立ちになる。

   くぁあぁぁっ!?
   これじゃあ振り出しに戻るじゃないかぁっ!??
   くそぉ~、テジーの話なんか無視して、さっさと外に出れば良かったぁあっ!!!

   ビビるあまり、前歯をカタカタと鳴らしながら、俺は苦悩した。
   しかし、こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎて行くのだ。
   いくらカービィとカサチョが強くても、あの山のような不死身のホムンクルスを相手にして、尚且つ扉が開けられずに増援がないんじゃ勝ち目はない。
   
   なんとか! なんとかここから出なければ!!
   俺が扉を開けなくちゃならないんだっ!!!

   俺は、視線をテジーに向けて、キッ! と睨む。
   しかし……

『絶対に通しませんよっ!!!!!』

   大蛇のごとき鋭い瞳を俺に向け、全力で威嚇してくるテジーを前に、俺は震える事以外は何も出来そうにない。

   ど、どどど、どうしようっ!?
   でも、出ないと……、ここを出ないとぉっ!!!

   アワアワとする俺の目が不意に捉えたのは、冷たい床に横たわったままのメイクイとポピーの姿だ。
   メラーニアの回復魔法が効いているのか、先程に比べると幾分か頬に赤みがさしている。

   二人がこんな目に遭う必要なんて、なかったんだ……

   目を閉じたまま、意識を失ったままの二人を見つめ、俺は一度冷静になって、考え始める。
   
   そもそもだ……、なんだってこんな事態になったんだ?
   目の前のお化けのテジーは、その……、過去にニベルーを殺したらしい、ホムンクルスの十番目のテジーがどうのこうのって言っていたけど……
   そいつは実のところ、俺を狙っていただと??
   なんで俺が狙われるんだ???

   それに……、緑色の悪魔、ヴァッカ。
   こいつはいったい、どうなったんだ?
   てっきり今回も、全ての裏には悪魔が潜んでて、そいつがラスボスだと思っていたのに……
   十番目のテジーが、そいつの心臓を喰らったとかなんとか言っていたけど……、それでそのヴァッカは死んだのだろうか??
   ホムンクルスにして悪魔という最悪の存在、って言っていたけど……
   でも……、オェエ~。
   女の子が悪魔の心臓を抉って食べる図なんて、想像するだけでもグロテスクすぎて吐き気をもよおすわ。
   
「あ……、あの、質問いいですか?」

   俺は、胃から内容物が逆流しそうなのを必死で堪えながら、出入り口の前に立ち、腕組みをしてこちらを見下ろしているテジーに恐る恐る声をかける。

『どうぞ。手短に』

   手短にって……、あんたは何も急いでないでしょうがっ!?
   急いでるのはこっちだからっ!!!
   
「えと……、その、どうして……? どうして、十番目のテジーは、僕の事を狙ってるんですか??」
   
   そう、そうなのだ。
   何故、十番目のテジーって奴は、俺なんかを狙ってるんだ?
   ホムンクルスにして悪魔である、とは言っても、十番目のテジーは本物の悪魔ではないのだ。
   イゲンザ島のグノンマルや、コトコ島のハンニのように、過去の出来事によって、時の神の使者とその仲間に恨みを持っているとは考えにくい。
   つまり、仕返しや仇討ちではないはずなのだ。
   でも、じゃあ、何故俺を狙う??

『あなたは時の神の使者です。即ち、あなたには神の力が宿っている。テジーの狙いは、その神の力なのです』

   か、神の……、力、ですか?
   そんなもの、俺にあるの??
   いやいや……、いやいやいや、ないよそんなもの。
   そんなのあるなら、とっくに外で、ホムンクルス達をやっつけちゃってますよぉっ!??
   
『神の力、その名も神力しんりょく……。この世界に数多存在する神々が持つその力は、無を有に、悪を善に、不可能を可能とする、絶大なる威力を持つ万能の力です。その力を有するが為に、彼らは神と呼ばれるのです。そして、その神々の一人、時の神に使わされた使者であるあなたには、少なからずその力が分け与えられています。テジーは、あなたの中にある神力を欲しているのです』

   神力……?
   あ~、なんか聞いた事あるぞ、その言葉。
   確か……、いつだったか忘れたけど、カービィが怪しい望遠鏡みたいなので俺を覗いて、その神力があるって言ってたな。
   でも~、俺の記憶が正しければ~、3ポイントとか……、だった気がするぞ??
   仮に本当に、俺が神力を持ち合わせているとしても、3ポイントしかないんだ……、そんなの鼻糞みたいなもんだろう???

「……その神力を、どうして? 何に使うんです??」

   3ポイントだぞ?
   鼻糞だぞ??
   そんなんでいったい、何が出来るんってんだ???

『まだ分からないのですかっ!?』

   ひぃっ!?
   またキレたっ!!?

   眉間に皺を寄せ、俺をギロリと睨み付け、わなわなと怒りに体を震わせるテジー。
   
   こいつ、絶対にカルシウム足りてないぞっ!?
   簡単にキレすぎだろぉっ!??

『ここに来るまでの間に、あなたが見たものを思い出してごらんなさいっ!? 地下室の保管庫……、そこにあったものは!?? 研究室には何がありましたかっ!?!?』

   うぅぅ……、こ、怖いよぅ~。

   怒鳴り散らすテジーを前に、ブルブルと震えながらも俺は思い出していた。
   城の地下にあった保管庫の、数百体にのぼるホムンクルスの肉体。
   そして、研究室に監禁されていた様々な種族の者たちと、気味の悪い機械。
   だけど、それらがいったい何なのか、正直俺には分からない。
   何故あんなものが……?

   返事をしない俺に対し、テジーは一層頭に血が上ったようだ。
   怒りに震えながらこう言った。

『地下の保管庫には、数百体のホムンクルスの肉体が保存されています! あれはまだ、イリアステルを入れる前段階のもので、動く事はありません。しかし!! 研究室の装置を見たでしょう!?? あれは、生きている者から生命エネルギーを吸収し、成長を始める前の生き物の細胞に過度に生命エネルギーを与える事で、その生き物自体をイリアステルとしてしまう恐ろしい装置なのです!!! イリアステルは元々、結晶化が難しい。ニベルーは、それを可能にする為に、不自然な錬金術の上に、自然の法則を重ねた。かつて、ボン・バストスが作り出したイリアステルこそが完全なるイリアステルだと言われていましたが、あれは不完全だった。何故なら、自然の法則を全く無視していたからです。けれどもニベルーは違った。より自然に近い形で、錬金術によって産まれる生命体を作り上げようとした……、その結果があれです!!!! しかしながら、イリアステルを作り出すには、膨大な生命エネルギーが必要なのです。捕らえた者たちだけでは、あの地下に眠る全てのホムンクルスを呼び覚ます事は不可能に近い。しかし、あなたがテジーに捕まり、神力を奪われれば、大量のイリアステルを作り上げる事が可能になってしまうのです!!!!! それでもまだ、あなたはここから出ると言うのですかぁっ!?!???』

   ビリビリと、部屋中に響くテジーの怒号。
   俺はもはや、ビビっているのか驚いているのか分からないほどに、体が硬直して目がまん丸になる。

   正直、テジーの説明はちんぷんかんぷんだ。
   言葉が難しいし、何より俺の理解できる範囲をゆうに超えている。
   錬金術も、生命エネルギーも、イリアステルも、何が何だかサッパリだっ!
   だけど……、そんな俺にも、一つだけ分かっている事がある。

「ぼ……、僕の持つ神力は……、さ、3ポイントしか……、3ポイントしか無いんだぞっ!?」

   若干前のめりになって、精一杯の声で、俺はそう言った。

『なっ!? 3ポイント!??』

   その言葉にテジーは、目を見開いて驚く。

『3……、3ポイント……? それは、いったい何で計測したのですか?? まさか……、フーガの王立研究所に存在する、生体測定魔道鏡でですかっ!??』

   う……? なんだそれ?? 
   そんな名前だったか???
   でも、カービィのあのオモチャみたいな、ちゃちな望遠鏡で測ったとは言えないぞ!

「そ! そうだ!! それで測ったんだ!!! これで分かったでしょ、僕の神力なんて無いに等しいんだ!!!! だから僕は、ここを出て仲間を助けに行く……、僕が助けなきゃならないんだぁっ!!!!!」

   かなりカッコよく言い放った俺だが……

『そんな……、3ポイントですって……? けれど……、えぇ?? でも、そんな事は……。アーレイク様は確か、300ポイント近くの神力をお持ちだったはず……。同じ時の神の使者だというのに、何故???』

   先程までの勢いは何処へやら、完全に困惑した様子のテジーは、視線を俺から外して考え込んでいる。

   よし! チャンスだっ!!
   今のうちにサッと出るぞっ!!!

   俺は、隣に横たわるメイクイとポピーに、再度視線を向ける。

   待っててね、二人共!
   俺があのレバーを操作して、鉄扉を開ければ、外で待機してるみんなが助けに来てくれるからねっ!!

「よ~し……、うわぁあぁ~!!!」

   俺は、テジーを跳ね除けるつもりで、全速力で走り始めた。
   その行動に気付いたテジーは、両手を広げて俺を阻もうとする。
   しかし……

   スカッ!!!

「はっ!? 通り抜けっ!??」

『しまった!? お待ちなさいっ!!?』

   お化けであるテジーの透明な体を、俺はなんと通り抜けてしまったではないか!?
   くそぉっ!!
   こんな事なら、最初からビビらずにぶつかりゃ良かったんだ!!!

   ラッキーなのかアンラッキーなのか、微妙な心境に陥りながらも、俺は狭い小部屋から外へと走り出た。
   扉から出た先は勿論、あの気色の悪い研究室で、そこではまだ、ウィーヨン! ウィーヨン!! と、けたたましいサイレンの音が大音量で響いているのだった。
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