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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

433:怖いけどっ!!

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   ……うん、落ち着け俺。

   大丈夫だ。
   相手はたかが見知らぬお化けじゃないか。
   そいつの言う事なんて無視して、さぁ行こうっ!

『お待ちなさいと言っているでしょうっ!?』

「ひぃいっ!?」

   くるりと背を向けて、狭い小部屋から出ようとする俺の顔の真ん前に、背後にいたはずのお化け御婦人の顔がニュッ! と現れて、俺を恫喝した。
   あまりの出来事に、俺は悲鳴をあげると共に後ろへとぶっ倒れる。

   なななっ!?
   何なんだよぉおぉぉっ!??

   自らをテジーだと名乗る初老のお化け御婦人は、そのスケスケの体でじりじりと、腰を抜かした俺に詰め寄ってきた。

『あなたは行ってはなりません! ここで救出を待ちなさいっ!!』

   目力半端ねぇえっ!!!

「で、でもぉっ!? 鍵がっ!?? 鍵を開けないとぉっ!!!」

   ここで待っていては駄目なんだ!
   この小部屋から出て、隣の製造室へ行き、レバーを操作して城壁の鉄扉を開けないと、助けは来ないんだよぉおっ!!

『なりませんっ! あなたのお仲間が城内で戦っている事も、城外で大勢が待機している事も知ってます。しかし、あなたは行ってはいけないっ!! 自分の身を守る事すら出来ないあなたが、他者を助けようなどと馬鹿げた事を口にしないでちょうだいっ!!!』

   ひぃいいぃぃっ!?
   怖いしおっかないし、それにかなり失礼じゃないぃっ!??
   こっちがビビってるのをいい事に、ディスり放題だなこのお化けぇっ!!??

   もう、いろいろビックリしすぎて、俺の小ちゃなマイハートは爆発寸前である。
   普段は静かな心臓が、ドキドキドキ……、いや、ドクドクドクと、とんでもない音とスピードで鼓動していた。

   ……お、落ち着け俺。(二回目)

   とりあえずだな、ここから出る為には、このお化け御婦人をなんとかしなければなるまい。
   唯一の出入り口を、鬼のような形相で仁王立ちで塞がれちゃ、ビビリの俺には成す術がないのである。

「あ……、えと……、ふぅ~、ふぅ~」

   うむ、とりあえず深呼吸だ!

「……あの! あなたは、テジーさん……、なんですよねっ!?」

   俺は、お化け御婦人を真っ直ぐに見つめてそう言った。

『如何にもそうです。先程名乗ったでしょう?』

   うぅ……、睨まないでくだぱい、怖いでぷ……

「ご、ごめんなさい……。ちょっとその、あの……、混乱してて……」

   モゴモゴと話す俺に対し、お化け御婦人ことテジーは、少々表情を緩める。

『まぁ、混乱するのも無理はないでしょう……。私は、とうの昔に死んだ身なのですから。本来ならば、こうして生きている者の前に立てる存在ではないのです』

   お、おぉ……、やっぱりお化けなのだな……
   うぅう~、怖いっ! 怖いけどっ!!
   なんとか説得して、ここから出してもらわないとっ!!!

「あの! テジーさん!! 僕は、仲間を助けなきゃならないんですっ!!! だからそこを通してくださいっ!!!!」

『何度言えば分かるのですか? あなたの頭は空っぽなのですか??』

   なっ!? なんだとぅっ!??
   失礼すぎるだろ、このババアめっ!!!
   
「あっ! あなたに何と言われようと!! 僕は仲間を助けるんだっ!!!」

『それは出来ません。あなたは時の神の使者でありながら、何の力も持ち合わせていない』

「そっ!? そんな事っ!?? ……くぅ~!!!」

 返す言葉が見つからず、歯を食いしばる俺。
   しかしながら、俺にも出来る唯一の事を思い出し、パァッ! と顔をほころばせる。

「力ならありますっ! 僕は精霊を呼べるっ!! 精霊達に力を貸してもらって、みんなを助けるんだっ!!! だからそこを」

『ならば今ここで! すぐっ!! 精霊を呼んでみなさいっ!!?』

   きょっ!? きょわいっ!??

   俺の言葉に対し、被せ気味でそう言ってきたテジーは、またも恐ろしい形相で俺を睨み付けている。

   こんな、グレコですら足元にも及ばないようなおっかない女と結婚していただなんて……、ニベルーはとんだ変態ドM野郎だなっ!?
   今すぐここでって……、あぁいいさ!!
   呼んでやるよっ!!!

「リーシェえぇぇっ!!!」

   俺は、一番付き合いが長く、尚且つこの目の前のテジーにも負けないくらい強烈な性格の持ち主である風の精霊の名を、大声で叫んだ。
   だがしかし……

「ん? あれ?? ……リーシェ???」

   リーシェは、どこからも現れてくれない。
   ここが室内だからだろうか?
   空が見える場所じゃないと、召喚出来ないとか??

『何も召喚出来てないではないですか?』

   意地悪そうに片眉を動かすテジー。

「うっ!? まだだ!! バルン!!!」

   今度は火の精霊の名を呼んだ。
   バルンは、最初出会った場所が洞窟の中だった。
   即ち、建物の中でも召喚出来るはず!
   ……と、思ったのだが。

   シーーーーーーーン

「えっ!? あれっ!?? バルンどこっ!?!?」

   なんと、バルンも現れてくれないではないかっ!?
   何がどうなってるんだぁあっ!??

『この国に、精霊は入れません』

「ぬぁっ!? なんでっ!??」

『あなたは、この国の外形を見ましたか? 透明で巨大な何かに囲われていたでしょう??』

「透明で巨大な……、はっ!? あのフラスコ型のっ!??」

『そうです。あれの役目は二つ……。この国の中にメタナール防腐剤の含まれた空気を留めさせておく事。そして、外部からの全ての侵入を防ぐ事。それは、物理的な物に限らず、精霊のような自然エネルギー体、魔法使いが使う通信魔法による念波も同じ事です』

   うわぉっ!? マジかよっ!!?
   そっか、だからみんなは通信魔法が使えなかったのかぁ~!?!?
   ……てか、精霊すら呼べないとか、無力過ぎるだろう俺ってばよぉおっ!?!!?

   頭を抱えて、今日何度目かの悶絶をする俺。

   けど……、何でそんな物が……?
   そんな、物質だけでなく、精霊や魔法までもを遮断できちゃう凄い何かが、どうしてこの国を覆ってるんだ??
   いったい誰が、何の目的で……???

   頭の中に、沢山のクエスチョンマークが浮かび上がる。
   しかしながら、どれもこれも、俺がいくら一生懸命に考えたって、答えなんか出そうにないものばかりだ。
   それでも必死に考えようとする俺の目と、冷ややかにこちらを見下ろしているテジーの目がバッチリ合った。
   そして俺は気付いたんだ。

「あ……、もしかして……? あなた、全部知ってますよね??」

   俺の問い掛けに、テジーの眉毛がピクリと動く。

   そうだ……、そうだよ。
   目の前にいるこのお化け御婦人がテジーなら、昔のゴタゴタとか、今どうしてこんな事になっているのかとか、全部知ってるんじゃないか!?

『ようやく、冷静になれましたね。本当にあなたという人は……、そのような無茶苦茶な生き方では、この先、命がいくつあっても足りませんよ?』

   ポカンとする俺に対し、テジーはまたあの嘲笑をして見せた。
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