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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

431:千回

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「にっ!? ニベルー!?? メラーニアがっ!?!?」

   一体全体、何がどうなってんだぁっ!?

   更なる混乱に追い込まれ、俺の小さな頭の中はグチャグチャになる。
   すると同時に、ウィーヨン! ウィーヨン!! という、けたたましいサイレンのような音が辺りに鳴り響き始めて、目の前の巨大な青い球体が、真っ赤な光を放ち始めた。
   
   なななっ!? なんだぁあっ!??

   よく見ると、その球体の中には、ミジンコほどしかないと思われる微小な生物が、無数にうごめいているではないか。
   
   うげぇっ!? 気持ち悪いぃっ!??

「むむ!? 警報かっ!?? 仕方がない……、モッモ君、こっちへ!!!」

   そう言うとメラーニアは、ニベルーの杖を使って、倒れたままのメイクイとポピーに何かの魔法をかけ、二人の体をふわりと宙に浮かせた。
   そして、部屋の端まで小走りで移動したかと思うと、何をどうしたのかは知らないが、壁しかなかったその場所に、小さな扉が現れた。

「モッモ君、この中に隠れるぞっ! 急いでっ!!」

「はっ!? はいぃっ!??」

   突然現れた小さな扉に入って行くメラーニア。
   メラーニアに続いて、宙に浮かんだままのメイクイとポピーも扉の向こう側へと入って行く。
   何をどうすればいいのかわからず、俺も急いで扉をくぐった。

「こ、ここは……?」

   扉の中はとても狭い小部屋だった。
   本棚が一つと、小さなテーブルとベッドが一つずつ。
   
「少々窮屈だが、緊急事態故、仕方があるまい……。とにかくこの二人をどうにかせねば」

   そう言ってメラーニアは、メイクイとポピーをそっと床へと下ろした。
   ベッドに下ろせばいいのでは? と思ったが……

「え……? ひっ!? ひぃいっ!??」

   なんとそのベッドの上には、布団を被った状態の白骨死体が横たわっているのだ。
   思わず悲鳴をあげた俺は、その反動で後ろへとひっくり返った。

「安心したまえモッモ君。彼女はもう、とうの昔に死んでいる」

   床に膝をつき、手に持った杖の先から白い光を発しながら、メイクイとポピーに治癒魔法らしきものをかけているメラーニアがそう言った。

   いや……、死んでいるのは見ればわかるよっ!?
   死んでいるから怖いんでしょうがっ!??
   まぁ、この状態で生きてるなら尚更怖いけどねっ!!??
   
「そう、とうの昔に死んだんだ。何故それが受け入れられなかったのか……。我ながら理解に苦しむよ」

   メラーニアは悲しげな表情で苦笑した。

「あ、あの……、メラーニア? 君は……、さっき言っていたのって……。君が、ニベルーなの??」

   先程のメラーニアの言葉を思い出し、俺は恐る恐る尋ねた。

「そうだ。……いや、ニベルーであった、と言った方が正しいな。私は、かつてニベルー・パラ・ケルーススとして生きていた魂の、生まれ変わりなのだ」

   う……、生まれ変わり?

「それってつまり……、前世が、ニベルーだったって事?」

「いや、前世は名も無い虫であった」

   む、虫? 虫って……、はい??

「ちょ……、え? 待ってごめん、訳がわかんないや……」

   思考回路は~、ショート寸前っ♪

「君はもう知っているだろう? ニベルーが犯した自然に対する禁忌。歪な命を生み出すという、大罪を……」

 「あ……、うん……。けど、それと前世が虫っていうのは、何がどう……?」

   ニベルーは、ホムンクルスを作り出すという禁忌を犯したから、一度虫に生まれ変わって、その後にメラーニアに生まれ変わった……、て事なのかしら?

「罪を重ねた魂は、輪廻の渦ですらその淀みを浄化しきれずに、来世は虫畜生に落とされる……。私は、ニベルーとしての記憶を持ったまま、およそ千回の転生を繰り返し、罪を償って、魂を清め、今こうしてメラーニアとして存在しているのだ」

   ふぁんっ!? 千回!??
   千回って何っ!?!?
   前前前世っていう言葉は、最近よく聞いた覚えがあるけれど、千回って……

「えっ!? でも……、じゃあ記憶があるのっ!?? え、でも……、メラーニア、そんな事は今まで一言も言ってなかったじゃないかっ!?!?」

   内緒にしていたって事!?

「すまない。理由は分からぬが……、メラーニアとして生まれた時から、この城に入る今日まで、私のニベルーとしての記憶は全くといっていいほど、一度も思い起こされ無かったのだ。しかし、君達がこの国に向かうと聞いて、居ても立っても居られなくなって……。気が付けば、姉さんの背を飛び降りて、一人で水路へと走り込んでいた。そして、地下のあの光景を目の当たりにし、全てを思い出したのだ」

   そんな……、そんな事ってある?  
   ちょっと激しい物忘れ的なやつ??
   ……いや、てか前世の記憶なんて持ってる方が珍しいんだよっ!!!
    
「私には、やらねばならぬ事がある。テジーの仇を取らなければ……」

「テジーの仇って……? あの、ホムンクルスのテジーの事??」

「いや……、違う。正真正銘、テジーはこの世にただ一人。そこに眠っているのがテジー……、私の愛する妻……。生涯にただ一人の、私の伴侶だ」

「え? でも……、ニベルーの妻って、ニベルーが旅立つ前日に亡くなったんじゃ……??」

   駄目だ……、全く訳がわからない。
   何がどうなっているんだ???

「細かい事は後回しだ。とりあえず、二人の応急処置は終わった。君はここで、仲間が助けに来るのを待っていなさい」

   メラーニアはそう言うと、杖を手に立ち上がった。

「どっ!? 何処に行くのっ!??」

   慌てて問い掛ける俺。
   こんな訳わかんない状況で、訳わかんない話をして、訳わかんない場所に俺を置いて行かないでよっ!

「さっき言っただろう? 私はテジーの仇を討つ。その為にここに……、このメラーニアとして、生まれ変わったんだ。二人の事は頼んだよ、モッモ君」

   そう言って、やんわりと笑ったメラーニアの顔は、見た事がないはずのニベルーの面影を残していた。
   そしてメラーニアは一人、扉から外へと飛び出して行った。
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