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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

427:おろおろする??

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「目覚めたらって……、えっ!? どういう事っ!??」

   こいつら全員、朝になったら「おはよ~」って動き出しちゃったりするとかっ!?

「厳密にいうと、こいつらはまだホムンクルスじゃねぇ」
   
   はんっ!? なんとっ!??
   じゃあ……、何これっ!?!?

「ホムンクルスになる前の、魂の入っていない、ただの肉塊……、という事でござるな?」

   ほんっ!? 魂がないっ!??
   じゃあ……、どうなるのっ!?!?

「恐らくそうだろうな。この容器の中を満たしている青い水。これは、メタナール草を高濃度で抽出した防腐液だろう。薬学名はホルマリン液。普通、標本を作る時なんかに使うもんなんだけど……、こんなに高濃度の物はおいらも初めて見るな、真っ青じゃねぇか」

   ……俺のお顔も真っ青です、はい。

   ガラスの容器の中に浮かぶ、眠るホムンクルス達。
   その姿形は様々で、人間、エルフ、ケンタウロス、更にはリーラットっぽいのまでいる。
   おいおいおい……、リーラットの魂を使って、ホムンクルスを作っているはずなのに、それをまたわざわざリーラット型ホムンクルスに植え付けるつもりなのか!?
   意味あるのかそれ!??

「じゃあ……、朝になっても、こいつらは動かないの?」

「んだな、まだ魂が入ってねぇ肉体だけのもんだろうから、しばらくは動かねぇだろうよ。しっかしまぁ……、こんな大量に作りやがって……。作った奴の目的は何なんだ?」

「外の街並み然り……、妙でござるな。カビやんの言うように、真の黒幕がヴァッカという名の悪魔だとして、何故このような事をするのか……?」

「外の街並みって、全部ハリボテだったんだよね? 確かに、あれだけ豪華な街、住む者もいないのに、どうして作ったんだろう??」

「豪華なだけじゃねぇんだ、モッモ……。あの街はな……、そっくりなんだよ。魔法王国フーガの北部に位置する街、オロノノスにな」

   ……お、おろ? おろおろする??

「な……、何なのそれ? 何処??」

「魔法王国フーガの北部領、広大なその地に存在する最大の街、オロノノス。フーガに四つの魔法学校があるのは知ってござるか? オロノノスはその内の一つ、オロノノス魔法学校がある街でござるよ。そしてその街は、故ニベルー・パラ・ケルースス殿の故郷なのでござる」

「えっ!? そうなのっ!?? じゃあ……、え、なんで???」

「なんでかは分からねぇが、外の街は完全にオロノノスを模して造られている。この城も、中身は違うが、外観だけ見ればオロノノス魔法学校そっくりだ。ギルドの遠征で何度も行った事があるから間違いねぇ。となると……、悪魔ヴァッカがオロノノスの街並みを知っていたとは考えにくい。他に可能性があるとすれば、もしかするとこの国は、ニベルーが作ったのかも知れねぇ」

「ニベルーが? この国を?? ……えっ!? ニベルーが、このホムンクルスの国を作ったの!??」

「可能性があるって言っただけだ、何もそれが真実と決まったわけじゃねぇ。けど、ニベルーは私欲の為にホムンクルスを作り上げた犯罪人だ。妙な事を考えて、この国を作ったとも考えられる。もしかしたら……、黒幕は、ニベルー自身か……?」

   そ、そんな……

「しかし、ニベルー殿は五百年も前の人物故、現在まで存命とは考えにくいでござるよ、カビやん」
   
「いや、それがなぁ……。同じアーレイク・ピタラスの弟子であるイゲンザ・ホーリーは、現代に蘇ってんだよ。五百年もの時間を、イゲンザ島の神殿で、時の揺籠を使って飛び越えちまったんだ。ま、こっちの詰めが甘かったせいで、まんまと逃げられちまったけどな~」

「なんと!? そうでござったか……。うむ、なれば、ニベルー殿もまだ御存命であるかも知れぬと?」

「そういう事だ! 黒幕が何者か分からねぇ以上、慎重にいかねぇとな!!」

   ……なんだか、事が深刻になってきたな。
   こりゃもう、メイクイとポピーの二人を救い出して終わり、なんてわけにはいかなさそうだ。
   こんなに沢山のホムンクルスを、誰が、いったい何の為に作り出したのか。
   もしかしたら、世界征服の為とかっ!?
   あ~も~、そうじゃありませんようにっ!!!

   ……てか、どの口が慎重にとか言ってんだよカービィこの野郎。
   さっき水路で、ド派手に炎をぶっ放してたのと同じ奴の言葉とは思えないねっ!
   メラーニアもメラーニアだよ!!
   何でちょっと教えてもらっただけで、あんな威力のある魔法が急に使えるようにな……、あれ?

「メラーニアはどこ?」

   俺の問い掛けに、カービィとカサチョもはたと気付く。

「……あれ? あいつ、どこ行った??」

「先程までは拙者の隣にいたはずでござるが……、むむ? あそこに倒れているのは何奴!?」

   カサチョが指差す先には、確かに誰かが倒れている。
   しかしながらそれは、メラーニアにしては大き過ぎるし、しかも複数だ。

「見に行こうっ!」

   カービィの言葉に、俺たちは駆け足でそこへ向かう。

   この地下室の出口なのであろう、半開きの大きな鉄の扉の前に、それらは横たわっていた。
   眠るホムンクルスが入った青いガラスの球体に囲まれて、ピクリとも動かない彼等は、間違いなくホムンクルスだ。
   その数およそ三十人以上。
   人型をしている辺り、ハイエルフ型の者がほとんどのようだが、皆体が一様に酷く腐蝕していて、とんでもない異臭を放っている。
   そしてその死に顔は、かなり苦しんだのであろう、酷く歪んでいた。

「ひでぇ臭いだな」

   カービィが思わず鼻を覆う。
   無理もないな、まるで死んだ魚の山の中にいるような、とてつもない腐敗臭が辺りに漂っているのだから。
   かく言う俺も既に、この悪臭に耐え切れず、見た目なんて全く気にせず、左右の鼻の穴に手をピースの形にして指を突っ込んでいた。

「此奴ら、まだ生暖かい……? 即ち死して間もないという証拠でござる。されど、この体の腐敗具合は、相当な月日を経てなろうものを……。まさか、一瞬にしてここまで腐敗したのでござろうか??」

   近くに横たわるホムンクルスの亡骸を触りながら、鼻を覆う事もなくカサチョはそう言った。

   よくもまぁ……、触れるなそれを。
   もうそいつ、腐り過ぎてグジュグジュで、原型が無くなりかけているじゃないか。
   おえぇ~、早くここから立ち去りたい。

「多分そうだろうな。この数から見て、さっきおいら達が焼き払ったリーラットの魂を体内に持っていた奴らだろう。どうやって知ったのかは分からねぇが、おいら達が水路から来る事を知って、リーラット達を放ったんだ。そいて、元々の魂の持ち主であるリーラットが死んじまったから、こいつらも事切れた……。となると、早いとこここを出ねぇとな。別の奴らが来そうだ。行こうっ!」

   カービィの言葉に頷き、俺たち三人は力を合わせて、何故か半開きのままである目の前の大きな鉄の扉を開け放つ。
   その先には、長く暗い階段が続いていた。

   この大量の、いつ目覚めるかも分からないホムンクルス達を、このままここに放置しておく事はとても気掛かりだが……
   今ここで、これら全てをどうにかしている時間はない。
   まずは、メイクイとポピーを助けなくちゃっ!

   俺たちは階段を駆け上がり、保管庫のある地下室を後にした。
      
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