上 下
435 / 800
★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

424:水路

しおりを挟む
   ザザザザザーーーー……、ピチョン、ピチョン

   流れる水の音と、滴る雫の音を聞きながら、俺たち三人は水路を進む。
   水路と言ってもここは、黒い岸壁をくり抜いて作ったような、半ば洞窟のような場所である。
   辺りは真っ暗で、カービィの杖の光が照らす前方以外は、ほとんど何も見えない。
   というか……、流れる水以外は何もなかった。
   足下が湿り、苔のようなものが蔓延って滑りやすい為、俺たちはとても慎重に歩いていた。

「この臭いは、チリアン殿の言っていた腐止草ふしそうのものでござろうか?」
   
   俺の後ろを歩くカサチョが、鼻をクンクンさせながらそう言った。
   実は、この水路内にも、フラスコの国の中で感じたあの妙な臭いが充満しているのだ。
   決して良い匂いとは言えない、ツーンとした、体にとっても悪そうな臭いが。

「そうだろうな。奴ら、ちょっとでも肉体の腐敗を遅らせようと考えてんだろ」

   前を行くカービィが答えた。

「その……、ふしそうって何? 植物なの??」

   二人の会話が全く理解できない俺が、真ん中から尋ねる。

「腐止草……、それは、別名メタナール草と呼ばれる青い草でござる。その名の通り、死した体の腐敗を止める効能がある故に、薬学分野ではしばしば使われる薬用植物でござるよ。しかしながら、そのような作用がある草故、花をつけた後に出来る実は毒性が高く、使用方法を間違えれば劇薬となり得る。特に、生きている者が知らずにそれを食おうものなら、ものの数分で死に至るでござる」

   うわ~お!?
   何それ、なかなかヤバイやつじゃんっ!??

「メタナール草は、いわゆる防腐剤なんだよ。だから、体の腐敗を止めたいホムンクルス達は、それを水に溶かして国中に行き渡らせていたのさ。噴水の青い水はそのせいだ。国中に充満していたあの臭いも……、生きてるおいら達にしてみたら、相当体に悪いはずだ。正直、あそこに三日間もいたノリリア達の体が、全くどうもなかった事が、おいらは不思議だな」

   うわ~お!?
   マジかよ!??
   俺ってば……、そんな危険な水が吹き出している噴水の石垣なんかに腰掛けてたのかよっ!?!?
   ドボンしていたら、確実に死んでたな……

   ガクブルガクブル

「ノリリア副団長殿の守護壁に守られていた故、さほど毒を吸い込まずに済んだのでござろう。いやはや、天晴れでござる!」

   何処からか取り出した小さな扇を広げて、殿様のようにパタパタとあおぐカサチョ。

   それ……、何処から出したのさ?
   今必要なのそれ??
   てか、こっち向いてあおがないでよっ!!
   臭いが来るじゃないかっ!??

「けどまぁ、な~んか嫌な予感がするんだよな~」

   カービィがポツリと呟く。

「嫌な予感って……?」

   今もう十分、最悪な事態、最低の状況だと思いますけどね。
   これ以上に、もっと何か悪い事でも起きるというのかね、カービィ君や。

「モッモ、おまい……、ニベルーの小屋の机の裏で見つけた、青い手帳に書いてあった事覚えてるか?」

「青い手帳……? あ!? あ~、テジーの日記ね!?? えっと……、少しなら覚えてる」

   ……ごめん、本当は、最後のページ以外はあんまり覚えてない。
   あのページが衝撃的すぎて、他のページの内容はほぼほぼ忘れました。

「あそこによ、ヴァッカっていう奇妙な奴の名前が出てきたろ?」

「あ……、そういえばあったね。なんか、書いてある内容からすると、外見がまんま悪魔だって言ってたっけ?」

「うん。おいら……、なんだか、そいつが今回の黒幕な気がする」

「うぇっ!? マジでっ!??」

   カービィの突拍子も無い予想に、俺は心底驚く。

「何か根拠はあるでござるか? その……、悪魔がこの国を支配しているというのは」

「ん~、いや、勘だなっ!」

   お~いっ!?
   勘かぁ~いっ!??

「なるほど、勘でござるか……。カビやんの勘はなかなかに鋭い故、当たってそうでござるな」

   ふぁんっ!?
   信じるでござるかっ!??

「悪魔って何?」

   ……え?

「あん? 今更何言ってんだおまい?? 悪魔は、こことは別の世界からやってきた、悪しき魂を持つ魔族の事じゃねぇか」

「ふ~ん、そうなんだ~」

「そうなんだ~って、おまいなぁ……、緊張感なさすぎだろ!? ……ん?? 誰だ今の声???」

   ……え?? え???

   前を行くカービィが足を止める。
   続いて俺も足を止めた。
   背後のカサチョも同時に足を止めた。
   なのに、ザッザッと、別の誰かの足音が聞こえた。

   だ……、誰なの?
   ま、まさか……、おば……、おばばば!?
   お化けぇえぇぇ~!??

「誰だぁっ!?」
「誰でござるかっ!?」

   カービィとカサチョが、同時に後ろを振り向く。

「ひぃっ!?」

   俺は恐怖のあまり、その場に頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「ぼっ!? ごめんなさいっ!! 僕だよっ!!!」

   子供のような高い声で、背後にいる奴は謝った。
   
「はぁっ!? 誰だよおまいっ!?? 知らねぇぞっ!?!?」
「何者でござるかっ!??」

   知らない奴がそこにいるのっ!?
   えっ!??
   リアルにこの水路に住むお化けとかなんじゃっ!?!?

「僕だよ! メラーニアだよっ!!」

   ……へ? メラーニア??

   その言葉に、ふと冷静になった俺は、その声が確かに聞き覚えのある声だと気付く。
   そして、小刻みに震える体でゆっくりと立ち上がって、カービィとカサチョが見やるその生き物に視線を向けた。

「……え? 誰??」

   思わず俺がそう言ったのも無理はない。
   何故なら、そこに立っていたのは、俺やカービィ、カサチョと変わらない体格の、小さくて、どうしてだか真っ裸の、見た事もない白い鼠だったからだ。
   一見するとハツカネズミのように見えるそいつは、血のように真っ赤な瞳で、真っ直ぐに俺たちを見つめている。

「メラーニアだってば! 変身魔法で、モッモさんになってみたんだよっ!? どう?? 似てる???」

   自信たっぷりに、満面の笑みでハツカネズミは言った。
   しかしながら……、お世辞にも頷けないその姿を前に、俺たち三人は揃って首を傾げた。

   ……どう見ても、俺には似てないよな?
   ピグモルというよりは、間違いなくリーラットに近いぞ??
   てか、服を着ろよ、服は無いのか???

   いやいや、そうじゃなくてだな……   
   何故ついてきたんだ、メラーニアっ!?!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

処理中です...