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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

419:開戦

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「……彼らには、負けられぬ理由があった。信頼する友が、助けを待っているからである。相手は死をも乗り越える化け物、ホムンクルス。命を懸けた戦いである。しかしながら、この戦いは、正史には残らないであろう。歴史の闇に葬り去られ、人々に語り継がれる事はない。だがしかし! 彼らは行く!! 愛すべき仲間を、救う為にぃっ!!!」

「カービィ!? うるさいっ!!!」

   ゴチーン!

   レズハンの背に跨って、何やら興奮気味に語っていたカービィの頭に、同じくレズハンの背に跨っているグレコの拳骨が振り下ろされる。
   カービィの頭の上にはチカチカと、七色の星が飛び交った。

   フラスコの国への入り口は、今俺たちの目の前にある国門ただ一つ。
   国全体が奇妙なガラスに覆われている為に、上空からの奇襲は不可能なのだ。
   つまりは、本当の本当に、真正面から戦いを挑む事になる。
   よって、アイビーたち騎士団の残留組も、ここまで乗ってきたミュエル鳥は飼育班のヤーリュとモーブに任せ、ケンタウロスの背に跨った。

「モッモ君、大丈夫かい? 体が……、すごく震えているよ??」

   背後から、心配気なアイビーの声が聞こえた。

「だ、だだ……、大丈夫ぅっ!」

   とは言ったものの、緊張のあまり体の震えは止まらないし、手足の先は冷たいし、前歯はカタカタ鳴っている。
   全然……、全然大丈夫じゃないっ!!

「何をそんな……、相手がどんな化け物であろうと、我らの敵ではないっ!」

   力強くそう言ったのはシーディアだ。
 さすがは次期族長、勇ましさはケンタウロス一だな。
 身を守る為の甲冑のような物を身につけ、更にはアイビーと俺がその背に跨っているというのに、重そうな素振り一つ見せない。
   そして、その全身から発せられている熱はまるで、シーディアの闘志そのものに思えた。

「じゃあ! 最後におさらいだっ!! まず、シーディアさんとアイビーとモッモ、この三人が国門まで行って、奴らに開門を迫る。そこで奴らが応じればいいが、応じなかった場合は、アイビーが爆破魔法で扉を破壊し、後ろに控えているおいら達も一緒に、一斉に中へなだれ込む!!!」

 うぅう~……、強行突破ってやつか!?

「開門に応じてくれた場合はどうするでござるか?」

「その場合もなだれ込むっ!!!!」

   なっ!? 結局なだれ込むんかぁ~いっ!??

「まぁ、奴らも馬鹿じゃねぇ。この数相手に、十中八九、開門はしねぇだろうな。で……、さっきも説明したように、ホムンクルスは不死身の化け物だ。先頭を行くモッモが、中にいる奴らを出来る限り石化してくれるはずだから、おいら達は石化されたホムンクルスを粉々にするんだ。そうすれば奴らは蘇らない。けど、モッモ一人だと限界があるだろうし、あの中にホムンクルスがどんだけの数いるかは不明だ。よって、乱戦になるだろう。その場合は……、野郎どもっ!? わかってんなぁっ!??」

   カービィの問い掛けに、ケンタウロス達は頭上高く武器を掲げ、そして……

「斬って! 殴って!! 蹴り上げるっ!!!」

   みんなで声を揃えて叫ぶのだった。

「よぉ~しっ! 開戦だぁあっ!!」

「おぉおお~!!!」

   あぁああぁぁ~!?!?






   パカラッ! パカラッ!! パカラッ!!!

   軽快な足音を立てながら、シーディアが駆け出す。
   背に跨るのは、俺とアイビー。
   鋭い視線で前を見据えるアイビーのその両手には、既に魔法の杖と魔導書が握られていた。

   俺はというと……

   やっべぇ~!?
   やっべぇ~始まったぁ~!??
 ぎゃあぁああぁぁぁ~~~!!??

   もはや引き返せないと頭では理解しつつも、心は逃げたい気持ちでいっぱいだ。
   しかしながら、ちょっとだけ……、たぶん、思考の一割にも満たないくらいの、やってやるぞ! という小さな勇気が、俺を奮い立たせていた。

   フラスコの国の国壁が近付くにつれて、体の震えと前歯のカタカタが激しくなる。
   俺は、パニックにならないようにと、頭の中でグレコに言われた事を何度も反芻する。

「いい? 右手に武器、左手に盾、体は透明だし、後ろにはアイビーがいる。だからモッモ、あなたは決してやられたりなんかしない……、大丈夫!」

   そうだ……、そうだぞ。
   右手には、ホムンクルス供を石化出来る万呪の枝。
   左手には、身を守るのに最適なエルフの盾。
   体は神様アイテムの一つ、隠れ身のマントで透明になっていて、周りからは俺の姿が見えない。
   それでももしピンチになった時は、すぐ後ろのアイビーを頼ればいい。
   大丈夫! 大丈夫っ!!

   そして、頭をよぎる、カービィの言葉。

「いいかモッモ。ホムンクルスはなぁ……。とにかく醜いから、その姿を見ちまっても取り乱すなよ?」

   ニヤニヤ、ヘラヘラと、笑うカービィの顔……

   だぁあっ!? 余計な事言いやがってぇっ!??

   頭の中でグルグルと、グレコの言葉とカービィのいやらしい笑顔が回る中、シーディアはフラスコの国の国門へと到達した。

「我が名はシーディア! ケンタウロスが蹄族の次期族長なりっ!! 畏まって門を開けよっ!!!」

   門に向かって、叫ぶシーディア。
   
   国門は、タウラウの森に生えるあの巨木を用いて造られており、とても頑丈そうに見える。
   その周りをぐるりと囲む国壁も然り。
   一筋縄ではいかなさそうだと、俺はぶるりと体を震わせる。

   すると、門の上にある国壁の回廊から、深緑色のローブを身につけた者が顔を出した。
   例によって、頭にはスッポリとフードを被り、口元は同じ色のマスクで隠れている為、目元しか確認できないが……
   たぶんあれは、ハイエルフ……、の、ホムンクルスに違いない。

「我が国に何用か? ……ぬっ!? なんだあの大軍は!?? くっ……、ケンタウロス風情が、ここが高貴なるハイエルフの国と知っての無礼か!?!?」

   そいつは、かなりキレた様子で、侮辱的な言葉を投げ掛けてきた。
   するとシーディアは、すぐさま頭に血が上ったらしく、腰に装備している刀剣の柄に手を掛ける。
   しかし、アイビーがそれを制止した。

「突然訪ねてきて申し訳ない。私は、魔法王国フーガ王立ギルド、白薔薇の騎士団所属の魔導師、アイビー・ルフォシリアン。お尋ねしたい事があってここまで来たのです。どうか門を開けて頂けませんか?」

   丁寧な言葉でそう言って、真っ直ぐに頭上へと視線を向けるアイビー。
   
「お前は確か……、なんだ? 聞きたい事があるのならば、そこで問え! 私が答えよう!!」

「では……。先日、あなた方の国より迎えがあり、私の仲間がこの国へと招かれました。しかし、彼らが旅立ってから早三日、一度も連絡が取れずにいます。彼らの安否を確かめたい。私の仲間はここにいますか?」

   アイビーの問い掛けに、ハイエルフのホムンクルスは目を細める。

「……知らぬ、そのような者達は一切知らぬ。我が国は何人たりとも招かぬ、立ち入れぬ! 我が国に、お前の仲間を迎えに行った者などいはしない!! 即刻立ち去れっ!!!」

   ハイエルフのホムンクルスは、威嚇するかのようにカッ! と目を見開く。
   もう……、顔はほとんど見えてないけれど、その目力だけでこっちが石にされちゃいそう~。 

   ガクブルガクブル

「では、あなた方ではないというのなら……。私共の元に残っていたあの奇妙な野鼠も、あなた方のものではなく、我々で処分してよろしいという事ですね?」

   アイビーの言葉に、ハイエルフのホムンクルスの眉がピクリと動く。

「な!? 野鼠だと!?? ……まさか、幹部殿達の? 知らぬ間にはぐれて、港に置き去りにしてしまったのか??」

   少し焦っているかのような相手のその言葉に、アイビーはニヤリと笑った。

「何故今、港と仰ったのですか? 私は、港などとは一言も言っておりませんが……??」

 アイビーの問い掛けに、ハイエルフのホムンクルスは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 おぉ~! アイビーめ、なかなかに頭がキレるな!!
 確かにアイビーは、港なんて一言も言ってない!!! 

   それにそもそも、そんな置き去りにされた野鼠なんていないのだ。
   知的で戦略的なアイビーは、カマをかけたのだった。

「この国に、私達の仲間が招かれた事は紛う事なき事実……。仲間の無事を確かめたい。さぁっ! 門を開けてもらおうっ!!」

   叫ぶアイビー。

「むっ!? 断じて断るっ!! 衛兵っ!!!」

   ハイエルフのホムンクルスが背後に向かって呼び掛けると、同じ様な格好をしたハイエルフが国門の上に沢山現れて、弓矢をこちらに向けて構えて来た。
   その数およそ……、十二、十三……、じゅ!? 十八だぁあっ!??

「アイビー! ヤバイよっ!?」

   アイビーのローブの裾を、ギュッと掴む俺。
   するとアイビーは、サッと杖を構え、魔導書を開いて……

「モッモ君、シーディアさん……、突撃しますっ! 爆破エクリクシー!!」

   杖の先から、巨大な光の玉を発生させ、国門目掛けて放った。
   
   ドッ……、ゴァアーーーーン!!!!!

「ぼわぁあっ!?」

   光の玉は、見事国門に着弾し、大爆発を起こした。
   耳をつんざく爆音と、巻き起こる熱風。
   頑丈そうに見えた国門は、その周りの国壁もろとも吹き飛んで、その上にいたホムンクルス達の姿をも一瞬にして消し去ってしまった。

   それと同時に背後から、法螺貝ほらがいを吹く音が聞こえてきた。
   ブォーン、ブォブォーン、という低い音が、辺りに響き渡る。
   そして、「わぁあぁぁ~!!!」という歓声……、いや、怒声? が聞こえたかと思うと、激しい地響きが湧き起こった。
   駆け出す無数の足音と、武器防具が擦れ合う音が聞こえてきて……

「行くぞっ! 振り落とされるなよっ!!」

「はいっ!」

「ひっ!? ひゃ~!??」

   剣を手に、シーディアは駆け出した。
   目の前にポッカリと空いた、爆炎登る国門の向こう側、フラスコの国のその内部へと。
   
   白薔薇の騎士団&ケンタウロス vs ホムンクルス。
   今、開戦っ!!!
   
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