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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

417:朝がやってきた。

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   朝がやってきた。
   雲ひとつない澄んだ空が広がる、爽やかな朝だ。

   東の空が白み始め、星達の輝きが見えなくなる頃。   
   最初に目を覚ましたゲイロンとレズハンは、ホムンクルスとの戦いに備えて準備をし始める。
   その後、物音に気付いたギンロも起床。
   テントの中で眠っていた三人も、それとほぼ同時に起きたらしく、ゴソゴソと外へ出て来て……

「ふぁ~あ~あ~。久しぶりのグレコさんテントはなかなかだったな……、って、えぇっ!? ……どうしたモッモ?? ひでぇ顔だぞ???」

   大欠伸をしながら起きて来たカービィは、俺を見るなりギョッとする。

「ちょっと……、眠れなくて……」

   そう言った俺の顔は、目の下に濃ゆ~い隈ができ、自慢のふんわりほっぺは全体的に重力に負けて垂れ下がっていて、かなりゲッソリとしているに違いない。

   昨晩、ギンロはあの後、焚き火の近くで座ったまま、グーグーと寝息を立て始めた。
   困ったのは俺だ。
   頭の中で、ギンロが口にした気味の悪いあの言葉が際限なく繰り返されて……
   ギンロが眠る横で、俺は小さくプルプルと震えながら、一睡も出来ずに朝を迎えたのだった。

   テントの中に戻って休もうかとも思ったのだが……
   テントの扉を開けた瞬間に、何か怖いものが中から飛び出してくるかも知れない!? と、有りもしない妄想に拍車がかかってしまって出来なかった。
   結果、完全なる寝不足ピグモルが出来上がった次第です、はい。

「モッモ殿も、拙者と同じく寝不足でござるか~」

   そう言ったカサチョは、かなり清々しい顔をしている。
   その顔のどこが寝不足なんだよ? 
   どう見ても、よく眠れました~♪ って感じじゃねぇか。

「あぁ、これくらいじゃ足りねぇか? カサチョは昔からよく寝てたもんな。学生時代なんか、毎日十ニ時間くらい寝てたもんな」

   ヘラヘラと笑うカービィ。    
   一日十ニ時間て……、子供かっ!?

「ねぇねぇ、僕お腹が空いたよ~」

   またかメラーニア!?
   お前も子供かっ!??

「我は甘味が食べたい」

   またまたかギンロ!?
   太るぞっ!??

「俺っち達の分もあるかい? 戦に行くならなんとやらだ!」

「ゲイロンよ。それを言うならば、腹が減っては戦はできぬ、であるぞ。かく言う私も、戦に向けて食わねばならぬな」

   お前達もか!?
   ゲイロン、レズハン!!!

「よっし! 朝飯食って、おいら達もフラスコの国へ出発だ!! モッモ、飯っ!!!」

   カービィに、朝ご飯を作るよう命じられる俺。
   仕方がない、今のこのメンバーじゃ、まともなご飯を作れるのが俺だけなのだから。
   俺が寝不足だとか、フラフラだとか、そんな事はみんな御構い無しなのである。

   ……うぅ、え~んっ!
   グレコぉっ!!
   朝ご飯作りに来てよぉ~!!!






   スライスしたお肉をジュージュー焼いて、味付けは作り置きしてあったグレコお手製の甘辛ソースをたっぷりと。
   それを、スーンとした香りが特徴のキャベツみたいな葉野菜と一緒にパンに挟んで、簡単サンドウィッチの出来上がり。
   
   みんな美味しそうに、ガツガツとそれを食べる。
   俺はというと、寝不足で食欲は全く無いが、食べておかないと今日はキツそうなので、無理矢理に口へと運んだ。
   すると……

「モッモ、聞こえる? こちらグレコ」

「ふんっ!? グレコらっ!!?」

   俺の神様アイテムの一つ、絆の耳飾りを使って、グレコが連絡をとってきた。
   俺は、口に詰め込んだサンドウィッチを急いで飲み込む。
   
「うん……、うん……、うん、わかった。じゃあ、その三子岩みつごいわって場所で落ち合おう。うん? え、大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけ。うん……、うん、頑張るよっ! 了解っ!!」

   今日、これからのケンタウロス達の動きを説明して、グレコは通信を切った。
   グレコは、俺の声が元気ないって言って、心配してくれた。
   うぅう……、今夜はグレコの手料理が食べられますようにぃっ!!!

「グレコさん、何だって?」

   カービィが尋ねる。
   お口のソースを拭いたらどうだい?

「あ、うん、なんか……、このタウラウの森の北端に、三子岩っていう大きな三つの岩が並んでいるらしくて、そこで森は終わってるんだって。で、そこはもうフラスコの国の目と鼻の先らしくて、そこでみんなで落ち合って体制を整えて……、総攻撃を仕掛けようって。アイビー達にも連絡済みみたい」

「そっか……、うん。とりあえず、一旦落ち合えるなら、そこでおいら達が立てた作戦をみんなに伝えよう!」

   おっと……、あの、俺が先頭切って突っ込む作戦?
   いやいや、グレコは絶対反対すると思うけどな。
   
「いよいよ戦いでござるな!」

   カサチョがふんどしをギュッと締める。
   早く上の服を着なさいよ。

「ホムンクルス共め……。我が粉々に切り刻んでやろうぞ」

   ギンロが剣の柄をギュッと握り締める。
   吐息が甘いのはきっと、さっき一人でクリームを舐めてたからだな。
   ギンロ用に買っておいた、甘~いホイップクリームみたいなやつ。

「遂にこの時が来た……。母の仇、必ずやとってみせる」

「俺っちも本気出して行くぜっ!」

   殺気立つゲイロンとレズハン。

   みんながやる気満々になる中、寝不足でゲッソリしてるが為にやる気が皆無な俺。
 それとは別に、隣に座るメラーニアも少々複雑な表情をしている事に俺は気付く。

「……メラーニアも行くの?」

   コソッと、メラーニアに尋ねる俺。

「え? あ……、うん……、どうしよう」

   困った様に、下を向くメラーニア。

   まぁ、それもそうだな。
   数十年生きてるからって言っても、メラーニアはまだ子供なんだ。
   戦いの場になんて、本当は連れて行っちゃ駄目だろう。
   いくら魔法が使えて、本来なら犯罪級である人間を馬面に変えるなんて悪戯をしてはいても、彼はまだ未熟なのだ。
   血みどろの戦いになるであろうこの先へ、無理して連れて行く必要は全く無い。

   幸いにもメラーニアは、この森を一人で移動する事が出来る。
   もし万が一、ホムンクルスやそのペットの凶暴野鼠に出くわしたって、魔法で逃げ切る事が出来るのだから。

「メラーニアは、ここで引き返してもいいよ? ほら……、殺し合いの現場なんて、見たくないでしょ??」

「え? いや……、違うんだ」

   俺の言葉にメラーニアは、両手をギュッと握りしめてこう言った。

「僕は、その……。いや、僕も行くよ。みんなを助けなくちゃ」

   真っ直ぐに俺を見つめるメラーニアの赤い瞳には、決意の炎が灯っていた。
   
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