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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

416:何とかなるだろっ!?

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『お前は来るな。地獄を見る事になるぞ』

   ……、……、……!?

「ぶふぁっ!?」

   俺は、身の毛もよだつような悪寒に襲われて、目を覚ました。

「はぁ、はぁ……、なんだ?」

   目をバッチリと見開いて、左右に視線を向ける。
   しかしながら、俺の目に映ったのは、見慣れたテントの天井と、眠るみんなの姿だった。

「ふぅ……、夢か……。もぉ~、カービィが無茶苦茶な作戦立てるからぁ~。こんな悪夢にうなされるんだよぉっ!」

   ブツブツと文句を言いながら身を起こし、額に浮かぶ大粒の汗を拭う。
   すぐ傍では、カービィとカサチョ、メラーニアの三人がスヤスヤと……、いや、カービィとカサチョはゴーゴーと寝ている。

   ……うなされたのは、こいつらの酷いイビキのせいじゃなかろうか?

   一番近くにいたカービィを、えいえいと足蹴りする俺。
   だけど、そんな事したって全く目を覚まさないほどに、カービィは深い眠りの中にいた。
  





   数時間前。

「よしっ! 名付けて、《石にしちゃうぞ~?突撃大作戦》だっ!!」

   万呪の枝のおかげで、俺にも石化魔法が使えると知ったカービィは、めちゃくちゃな作戦を立てた。

「これ見てみろ」

   そう言ってカービィが広げたのは、アルテニースの残したフラスコの国の地図だ。   
   国と言っても、土地はさほど広くなく、ともすれば小さな村と同等の規模なのだが……、驚く事にそこは名前の通り、本当にフラスコの形をした国らしいのだ。

   というのも、フラスコの国は、巨大なフラスコの中にある国だという。
   地図によると、フラスコの国の丸い領土は、透明の、ガラスのような材質でできた頑丈な壁で囲まれており、それは空に向かってどこまでも高く伸びて、徐々に湾曲して国中の空を覆い、その最上部からは煙突のような物が長く突き出ているらしい。
   つまりは、化学の実験で使うような、まんまフラスコのような謎の巨大物体の中に、ホムンクルスの国は存在しているという事だった。
   
   俄かに信じがたいが……、実際にはまだ目にしていないので、なんとも言えない。
   仮にもし本当に、国の周りが頑丈なガラスのようなもので覆われていて、それこそ巨大なフラスコの中に国があるのだとしたら……、入ったら最後、出られないのでなかろうか?
   そう考えると恐ろしくて、俺の前歯はカタカタと鳴っていた。

「いいか? フラスコの国に入るには、南側に一つだけある門をくぐる以外に方法がねぇ。周りが何かに覆われてるんだ、空から入るってのは不可能だろう。だからもう、正々堂々と、正面の門から入る! そして、先頭に立つモッモが、迎え撃つホムンクルス達を次々と石化する!! そうする事で、多少なりとも相手はひるむはずだ!!!」

   鼻息荒くそう言ったカービィだったが……
   俺は、自分が先陣切って突入しなければならないらしいその作戦には、大反対だった。

「無理だよ!? 無理無理っ!?? なんで僕が先頭なのっ!?!?」

「なんでって……、奇襲かけるにはそうするしかねぇだろ。おいらやカサチョか先頭行って、石化魔法を行使してもいいっちゃいいけど……。魔力が切れればそれまでだ。その後はただの役立たずになるんだぞ? 何が起こるかわからねぇ以上、魔力は温存しておきてぇ。なら、際限なく相手を石化できるおまいが、先頭行った方が確実じゃねぇか」

   いつものように、ヘラヘラと笑いながら説明をするカービィに、俺はふつふつと心が煮えたぎるのを感じていた。

「その後はどうするでござるか? どうやってノリリア副団長殿たちを探す??」

「とりあえず、ホムンクルスの一匹でも捕まえりゃあ、居場所を吐かせる事が出来るからな。まぁ、捕まえられればの話だが……。無理だとしても、こっちには地図があるんだ。怪しいところを探していけばいいさ」

「ふむ……。して、目星は付いているでござるか?」

「まぁな。ここ見てみろよ」

   カービィはそう言って、地図に記されている、国の領土の一番北側に位置する大きな建物を指差した。
   そこには《城》という文字が書き込まれている。

「ここがきっと、ホムンクルス共の親玉の住処だろうな。ご立派に城まで建てているとは、恐れ入ったぜ。アルテニースの残した地図は、そのほとんどが城内の地図だ。という事は、この城が奴らの心臓部。つまり、ノリリア達を捕まえているのも、この城の何処かだな」

「なるほど……。して、城のどこでござる?」

「それは分からん!」

   かぁあっ!?
   分からんのじゃ駄目でしょうがっ!??

「まぁ! 何とかなるだろっ!? なははははっ!!!」

   カービィの乾いた笑い声が、俺の耳にこだましていた。


  
 


   俺はなんだか目が覚めてしまったので、やんわりとした明かりが見えるテントの外に出た。
   辺りはまだ薄暗く、空には星が瞬いている。
   テントに入ってから、さほど時間は経ってないらしい。

「ぬ? どうしたモッモ、眠れぬか??」

   テントの外で焚き火をしていたギンロが、こちらを振り返る。
   護衛としてついて来たはずのゲイロンとレズハンは、何にもない地面の上で完全に眠りこけていた。

「ギンロこそ……、寝なくていいの?」

   俺の問い掛けに、ギンロは視線を別の場所に向ける。
   カービィとカサチョが作った守護結界の向こう側、そこにあるのは巨木が生い茂る森だ。

「何やら妙な気配がしてな……」

   ギンロはそう言って、前方に広がる森を睨み付けた。

   まさか……、ホムンクルス達がすぐそこにっ!?

   ギンロの視線の先を、注意深く探る俺。
   しかしながら、そこには何者も見当たらない。
   臭いも……、うん、しない。

「何も……、居ないんじゃない?」

   恐る恐る尋ねる俺。
   一応、ギンロより俺の方が五感は優れているはずだ。
   だから、ホムンクルスはおろか、近くに生き物はいないはず……

「いや、いる。ずっとこちらを見ている奴らが複数……。だがあれは、もしや生者ではないやも知れん」

   え? 今なんて??
   生者ではないって……、それってもしかして……??

「お……、お化け……、って事?」

   ギンロの言葉に、ガタガタと震え出す俺の小さな体。
   しかし残念な事に……

「ぬ? おばけとはなんだ??」

   ギンロにはお化けが通じませんでしたぁっ!
   
「お化けは、その……、死んだ者の魂が体から抜けて、地上をふらふらしてる奴だよ」

   ザックリとした説明をする俺。

「死んだ者の魂? なるほど、あれはそういうものなのか」

   納得したように頷くギンロ。
   どうやら彼には、何かが見えているらしい。

   ……ひぃいぃぃ~!? こえぇええぇえっ!!?

「ぎ……、ギンロは、その……、見えるの? お化けが……、今、み、見えてるの??」

「……うむ。同じ顔をした女子が複数、このテントを取り囲むようにして、森に潜んでおる」

   きょっ!? きょえぇええええっ!??
   
   お化けで、女の子で、複数って……
   それもう完璧ホラーじゃんっ!?
   笑えねぇえっ!!?
   こんな時間に外に出るんじゃなかったぁあっ!!??

「して……、モッモよ。眠らなくて良いのか?」

   はぁあっ!?
   周りにお化けがいるって知らされたら、眠りたくても眠れないに決まってるじゃんっ!??
   馬鹿なのギンロ!?!?

「もっ!? もう寝れないよぉおっ!!?」

   全身がガタガタと震えて、ちびりそうになりながらも、なんとか怒る俺であった。
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