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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★
413:ミッション2
しおりを挟む【ミッション2:赤い小箱の鍵を探せ!!!】
パカラッ! パカラッ!! パカラッ!!!
小気味の良いリズムを刻みながら、ケンタウロスは夜の森を走る。
辺りはもう真っ暗で、月の明かりも届かぬほどに鬱蒼と茂る木々の為に、一寸先は闇だった。
けれど、先頭を行く箒に乗ったカービィの、その手に持っている杖の先が光を放っている為に、俺たちがバラバラになる心配はなさそうだ。
「メラーニア! 方角あってっかぁっ!?」
前を行くカービィが、振り返らずに大声を出す。
「うんっ! 大丈夫!!」
メラーニアも、負けじと大声で返事をした。
俺たちが、以前のケンタウロスの里があった場所へと向かう事をタインヘンに伝えたところ、護衛としてゲイロンとレズハンが同行してくれる事になった。
ゲイロンの背には俺とカサチョとメラーニアが乗り、レズハンの背にはギンロが跨った。
人数配分がおかしいように思えるけれど、総重量で考えたら、それでどっこいどっこいなのである。
ゲイロンとレズハンは、前を行くカービィに続いて、軽快に森を走る。
上下に激しく体が揺れて、なかなかにお尻が痛いけど、自分で歩いたり走ったりするよりかは断然速いので、俺は泣き言を言いたい気持ちをグッと堪えて我慢した。
カービィは、いつものあの五月蝿いエンジン付きの箒ではなく、マシコットから借りた普通の箒に跨っている。
さすがに、どこに敵が潜んでいるかわからない夜の森で、あの爆音を鳴らすべきではないと分かったらしい。
けど……
「モッモ! おまいも羅針盤で方角確認しろよぉっ!?」
「はっ!? はいぃっ!!!」
先程からのこの大声。
ホムンクルス達が、これを聞き取れないほど耳が遠いとは思えないのだが……
ねぇカービィ、方角確認したいのは分かるけどさ、もうちょい違うやり方ないのかな?
ほら、君が少しスピードを落とすとか、一度停止するとかさ、もうちょい考えた方がいいと思うんだけど??
そのような事を一人ぶつぶつと考えつつ、俺は首から下げている羅針盤を手に取った。
神様が、旅に出る俺に授けてくれた、超絶便利なアイテムの一つ、望みの羅針盤。
二つある針のうち、銀の針は常に北を指し、金の針は俺の望むものを指してくれる、夢のようなコンパスである。
俺は、心の中で念じる。
赤い小箱の鍵はどこですかぁっ!?
すると金色の針は、ぶれることなく俺たちの進行方向を指し示した。
それはちょうど、北を指す銀の針から少し右側、北北東の位置を向いている。
「大丈夫! 方角あってるよっ!!」
「ブ・ラジャー!!!」
俺の声を聞き取ったカービィは、なおスピードを上げる。
それについて行こうと、ゲイロンとレズハンも走る速度をより上げた。
ひぃいっ!?
振り落とされちゃうぅっ!??
俺は知らず知らずのうちに、前に座るカサチョの袴の裾を、ギュギュギュッ! と強く握りしめていた。
吹き抜ける風のように、森の中を走り続けること数時間。
俺たちは、蹄族の以前の里の跡地へと辿り着いた。
「……右よし、……左よし、……前方も問題な~し」
カービィが、今更ながらの小声でそう言って、辺りの安全を確認する。
その言葉通りに、俺のよく見える目とよく聞こえる耳が、近くに危険な者はいないと告げていた。
蹄族の以前の里は、たった十年前までここにケンタウロス達が住んでいたとは思えないほどに、荒れ放題だった。
ホムンクルスと凶暴な野鼠達の襲撃によって、家々は壊れ、様々な家財道具が其処彼処に転がっていて、雨晒しになったそれらは既に自然に飲み込まれかけている。
そしてその真ん中に、元々は畑だったのだろう、不自然なほどに広い草原が、森の中にポツンと存在していた。
「ビノの家はこっちだよ」
メラーニアの案内で、俺たちは里の端にある大きなケンタウロスの家へと向かった。
現在のビノアルーンの家とよく似た造りのそれは、他の家々に比べると更に激しく、屋根が落ちたり柱が折れたり床が抜けたりと、あちこちがボロボロに壊れてしまっていた。
「こりゃまた……、随分派手にやられたようだな」
周りを見渡しながら、カービィがポツリと呟く。
「突然だったからね……。それまでも、凶暴な野鼠を引き連れた妙な輩が森の入り口を徘徊しているっていう話は度々あったんだけど、里が襲われる事は無かったんだ。しかも、あの日は夜だったし……。みんな、逃げる事しか出来なかった」
当時を思い出しているかのように、遠い目で話すメラーニア。
「モッモ、鍵がどこにあるかわかるか?」
ギンロに問われて、俺は望みの羅針盤を使う。
金色の針は真っ直ぐに、壊れた家の中を指していた。
「間違いないよ、ここにある」
「よしっ! 手分けして探すぞ!! ギンロとゲイロンとレズハンは見張りを頼むっ!!!」
こうして俺たちは、体が大きい組は見張りを、体が小さい組は鍵の捜索を開始した。
ビノアルーンの崩れた家は、まるで廃材の山のようだ。
俺とカービィとカサチョは、小さな体を活かして、慎重に中を調べていった。
しかしながら、中は余りにゴチャゴチャで、ボロボロで……、こんな場所から、あの小さな赤い箱の、更に小さな鍵を探すなんて、不可能に近かった。
そして、時間ばかりが過ぎて行った。
「だぁあっ!? 見つかんねぇなぁっ!??」
最初に匙を投げたのはカービィだった。
元々そんなに気が長い方じゃないから、仕方がないな。
「これでは拉致があかぬでござるな……」
いつの間にか、何故か衣服を脱ぎ捨てて、ふんどし一丁の姿になっていたカサチョも、フ~ンと大きく鼻を鳴らした。
「どうしよう……、せめて、この周りの廃材だけでも無くなれば、もう少し探しやすいと思うんだけど……」
そう言ったメラーニアは、少々疲れが顔に出ている。
かくいう俺も、少々……、いや、かな~り疲れていた。
「ふぅ……、よいしょっと……」
おもむろに、近くにある壊れた木箱の残骸に腰掛けて、俺は夜空を仰ぎ見る。
時刻はおそらく真夜中を過ぎているだろう、頭上には無数の星々が輝いていた。
その美しさとは裏腹に、俺の心にはどんよりとした雲が立ち込める。
……なんだって、こんな事になったんだ?
朝からずっと歩きっぱなしで、ようやくケンタウロスの里に着いたかと思うと、縄で縛られて木の上に吊り上げられて、おまけに族長はドMの変態。
ニベルーの小屋を捜索するも、分かった事は最悪の事実と事態だけ。
神の瞳を河馬神タマスに返せたのは良かったけれど、あいつ中身が本当にアホっぽいから、返す前の姿のままでいた方が良かったよな、絶対に。
結局、いろいろしているうちに夕飯はすっかり食べ損ねてしまって、お腹はペコペコ、体はヘトヘト。
目的の鍵は、ここで一晩中探したって見つかりそうもない。
メラーニアが言うように、せめて、この余計な廃材が全部無くなればなぁ……
疲れ切った体と頭では、もはや立つ気力も無くなってしまい、俺はボンヤリと夜空を眺めていた。
すると、何やら妙な気配が俺の背後をかすめた。
そして、どこかで嗅いだ事のある、どんよりとした匂いが鼻に届いて……
『お前、本当に分かってんのか……?』
聞き覚えのある嫌~な声が、俺の耳元で囁いた。
なんっ!? だっ、誰っ!??
俺は慌てて立ち上がり、身構えて、視線を向ける。
そこにあるのは、光る二つの黄色い目玉。
ガリガリに痩せ細ったその体は黒く、影のように薄っぺらくて、夜の闇に同化してヒラヒラと揺らめいていた。
「あ……、え? 君は確か、闇の精霊ドゥンケルの……、イヤミー??」
俺の言葉にイヤミーは、チッと舌打ちして、何故だかちょっぴりキレている。
なんで? なんでここにいるの??
え……、俺、呼んでないけど???
困惑する俺の事を、陰険な顔付きで睨み付けるイヤミー。
かなり苛ついている様子で、ない足の代わりに手が貧乏ゆすりをしていた。
なんだろう? どうしたのだろう??
何故だか俺に対して、とってもとっても怒っているようだ。
……けどさ、こっちが呼んでもいないのに、勝手に出てきてその態度は正直どうかと思うぞ。
『お前、本当にあの国に行くつもりなのか?』
「えっ!? ……あの国って、フラスコの国にってこと??」
『それ以外に何があんだよ? あぁんっ!?』
「ひっ!? う、うん……。行くよ。仲間が……、危険、なんだよ」
『ったく、どこまでも馬鹿だなっ!? それはお前がやるべき事かっ!?? あぁあんっ!?!?』
「ひぃいっ!? そっ、そんな事言ったって……、仲間が、仲間がぁ……」
強面の田舎のヤンキーのような、すっごく怖い喋り方をするイヤミーに対し、俺はブルルと震え上がる。
状況を説明しようと試みるも、恐喝に近いイヤミーの態度にビビるあまり、言葉が上手く出てこない。
だけどイヤミーは、それ以上は何も言ってこなかった。
そして、何故か真顔になってこう言った。
『敵は待ってはくれねぇぞ。全ては時間との勝負だ。モタモタしてっと、この世界は消滅しちまう。分かったなら、サッサと前に進め、このあほんだら』
あほんだらって……、いくらなんでも酷くない?
仮にも俺は、君の召喚主なんですけど??
……てか、召喚してませんけどねっ!??
するとイヤミーは、その掌から、赤と青が入り混じった、黒く渦巻く禍々しい球体を生み出した。
内から外へ、外から内へと、気味悪く回転するこの球体は、闇の精霊ドゥンケルであるイヤミーの力、その名も虚無の穴。
球体の真ん中にポッカリと空いた穴からは、死霊の叫び声のような、悍ましい音が響いている。
「げっ!? 何を吸い込むつもりっ!??」
ビクビクと怯えながら、後退る俺。
ようやく異変に気付いたカービィ達が、こちらに視線を向ける中、イヤミーは言った。
『お前の行く手を阻む物は何であれ、俺が全て取り払ってやる。仮の物を虚無へと誘え……、吸引!』
ズゾゾゾゾ~!!! と、轟音を立てながら、辺りの廃材を吸い込み始める虚無の穴。
それはもう、目にも留まらぬ速さで、物凄い勢いで吸い込んでいって……、これなら鍵を探しやすくなるかも! と、思ったのだが……
はっ!?
やべぇっ!??
俺がやべぇえぇぇっ!!??
己の置かれた現状に気付いた俺は、廃材と一緒に吸われてしまわないようにと、慌ててギンロの元へ走る。
そして、虚無の穴にすいこまれないように、ギンロの逞しい足に全力で掴まった。
瞬時に事態を理解したカービィ達三人も、急いでゲイロンとレズハンの元へと走り、その足に飛び付いた。
虚無の穴は、グングンとその威力を増して、廃材は次々と吸い込まれて行く。
その吸引力に負けないようにと、ギンロ、ゲイロン、レズハンの三人は、必死の形相で踏ん張った。
しばらくして轟音が止み、全てが綺麗さっぱり無くなった頃、既にイヤミーもその場から姿を消していて……
そこに残ったのは、剥き出しになった地面と、ポツンと転がる銀製の小さな鍵が一つ。
……なんていうか、結果オーライ? なのか??
「わ~お……、お掃除、ありがとうございまぁ~す」
みんなが放心する中、馬鹿みたいなカービィのセリフが、静かな夜に響いた。
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