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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

407:ケンタウロスの家

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「ここが僕の家だよ」

   メラーニアに連れられてやって来たのは、とても大きなケンタウロスの家だった。

   タウラウの森特有の、頑丈な太い木の中でも一際太く、パッとみただけでもその周囲が10トール近くありそうな巨大な樹を中央の柱として、四方に生えている別の木を外側の柱として使った、とっても広いメラーニアの家。
   さすがは元族長の住まい、他とはまるで違っていて、きちんとした建物に見える。
   ただ……、残念な事に、やはりこの家にも壁がない。
   つまり、中は外から丸見えだし、風がスースー通り抜けていた。
   
「立派な家であるな」

   ギンロは何故か、その家を褒めた。
   表情からして、本気でこの家を気に入っている様子だ。
   まぁ確かに、他のケンタウロス達の掘っ建て小屋みたいな家に比べれば立派だろうな。
   でも、こんな丸見えで、隙間風どころじゃない風が吹き抜ける家の、何が良いんだ?

   ……と、思ったのだが、フェンリルは元来、屋外で寝起きする種族だという事を、俺は思い出す。
   俺の故郷であるテトーンの樹の村を守るフェンリル、守護神ガディスは、何でもない草むらを家だと呼んでいるし、ギンロも出会った頃は枯葉の山で野宿していた。
   つまり、ほぼほぼ外と同じ環境で寝起き出来るこのケンタウロスの家は、フェンリルのギンロにとっては理想的……、なのかも知れない。

「しかし、雨晒しにも程があるでござるよ!」
 
   俺がギンロの意見に歩み寄ろうとする中で、この目の前の小屋を遠慮なくディスったのは、騎士団のニベルー島現地調査員、カサチョだ。
   かかかと笑った様子でそう言った、全く悪気のない様子のその言葉に、こいつも大概空気読めねぇなと、俺は細い目でカサチョを見つめた。

   里の広場にて、ケンタウロスの作戦会議に参加するカービィとグレコ、騎士団の残りのメンバーと連絡を取るというマシコットとカナリーを残し、俺とギンロはメラーニアと共に、里の外れにあるメラーニアの家へとやって来た。

   カサチョは、作戦会議に参加するでもなく、マシコット達の側にいるわけでもなし。
   何やら暇そうにプラプラと畑の周りを散歩していたので、どうせならと俺が声をかけて連れて来たのだが……
   今の空気の読めない発言といい、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見渡す仕草といい、まだ出会ったばかりだからカサチョの事はよく知らないけれど、カービィに輪をかけて厄介な奴なんじゃなかろうかと、俺はかなり警戒している。

「ビノがモッモさんを呼んでるんだ。こっち」

   家の中へと入って行くメラーニアに続いて、俺たち三人もお邪魔させてもらう。

   横幅がとても大きな五段の階段を上り、地面から1トールほどの高さがある高床式の家の中へ入ると、外に居た時は感じなかった強烈なアルコール臭が鼻をついた。

   くっせぇ~!? なんじゃこりゃ!??

   俺は思わず、両手で鼻を覆った。
   階段を五段上がっただけ、壁だってないくせに、まるで別空間に来たかのようだ。
   そして、アルコール臭に混じって、何処からともなく漂う獣臭と、微かな血の匂いを、俺の敏感な鼻が嗅ぎ取る。
   臭いの出所を探ると、近くにあった大きな木箱の中に、採れたて新鮮な何かの毛皮が沢山入っていて……
   見なかった事にしようと、俺は視線を他所へ向けた。

   この家には壁がないから、造りが適当なのかと思いきや、そんな事はなかった。
   床は、継ぎ目が丁寧に削られていて、隙間が見えないほどにキッチリとはめ込まれている。
   天井も同じで、雨漏りの心配は全く不要そうだ。

   こんなにしっかりとした建築物を、ケンタウロス達が作れるとは全く思えないのだが……
   だってほら、細かい事は苦手そうじゃない?
   偏見かも知れないけれど、腕力による戦闘が得意な種族って、繊細な作業が下手なイメージがあります、はい。

   その証拠に、家の造りに比べて、何故か家具は雑な物が多いのだ。
   棚や椅子は、丸太を削り出して作ったのだろう、見るからにギザギザで、肌触りは凄く悪そう。
   しかも、その棚には酒瓶が大量に並んでいて、書物や食器などは一つも見当たらない。
   棚の使い方、完全に間違ってますよぉっ!?
   ベッドらしき物もあるにはあるが……、それこそ、使い古しの布が大量に敷き詰められている風にしか俺には見えない。
   家の中にはあちこちに、家具の代わりであろう木箱や樽、大小様々な壺なんかが置かれていて、棚なんかよりよっぽど使っている感が出ていた。

   なんだろうな……
   原始人が、突然家を与えられて、慣れない生活強いられていますって感じがするな。

   この里へ最初に来た時、農作業をするケンタウロス達を見て、マシコットは、ケンタウロスはやはり文化を営んでいたのかぁっ!? とかなんとか言ってた。
   世間一般的には、ケンタウロスはかなり原始的な種族だと考えられているに違いない。
   となると……、やっぱりこの家は、ケンタウロス達が自力で造っているわけではなさそうだぞ。

   そんな事を考えながら、部屋の中を見渡していると、中央にある極太の木の柱に、様々な道具が掛けられているのが目に入った。
   恐らく、畑仕事や狩りなどに使う道具なんだろうけれど……
   どうしてかな? 俺にはそれら全てが、拷問器具に見えてしまって、ゾゾゾと背中に悪寒が走った。

「ビノ~? 帰ったよ~!? ……あれ?? 居ないのかなぁ。ビノ~???」

   メラーニアは、大きな声で呼びかけながら、家の奥へと向かう。
   そして、巨大な中央の柱の向こう側を覗いた瞬間……

「え? ……うっ、うわぁあぁぁっ!?!?」

   メラーニアが、突然悲鳴を上げた。
   反射的に駆け出すギンロとカサチョ。
   三歩ほど出遅れながらも、俺も慌てて駆け出した。

「ビノ!? ビノ!?? どうしたのさぁっ!???」

   膝をつき、必死に呼びかけるメラーニア。
   中央の柱の裏側にある、布が敷き詰められただけの巨大なベッド。
   その上には、真っ黒な体のケンタウロスが、気を失って倒れている。
   一際目立つ白髪と、額にある十字の傷跡。
   真っ赤に染まった沢山の皺がある険しい顔の、その両目は完全に白目を向いていた。
     
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