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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

394:錬金術とホムンクルス

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   ***

   ホムンクルス。
 またの名を造出生命体は、文字通り、作り出された生き物の事である。
   その工程には、化学と魔法を融合させた技、錬金術が使用される。
   しかしながら、その定義は実に曖昧であり、製造方法も確立されていない。

   現在、ホムンクルスの製造は世界的に禁止されており、万が一にも製造した者には、即刻極刑が課せられる。
   それ程までに、生命体の製造は禁忌であり、犯してはならない神の領域なのである。
   
   ***






「ここでは、その……、ホムンクルスってのが、作られていたっていうこと?」

   目の前にある、何かの実験装置の様に見える巨大なガラスのオブジェを見つめながら、俺はカービィに尋ねる。

「さぁ~、そういう事になるかも知れねぇな……。実際に成功したかどうかは分からねぇが……」

   カービィは、カサチョに手渡された羊皮紙を熱心に読みながら、そう答えた。

「これが何の装置なのか、僕たちにはサッパリ見当もつきませんが……。この、所々に付着している黄色の結晶……。カービィさん、これはもしかして……?」

   マシコットは、ガラスの管の内側に付着している、綺麗な黄色い結晶を指差す。

「うん……。ここに書いてある事と、その結晶から放たれている魔力から考えるに……、そいつは【イリアステル】に違いねぇ」

   いり? あすてる??

   聞いた事のないカタカナ言葉に、俺は大きく首を傾げた。

「さすればこれは、やはり錬金術の……、イリアステルを取り出す装置でござるか?」

「そういう事だろうな。これを見る限りだと、イリアステルの製造には成功しているはずだ。だとすると……、ここに書いてあるホムンクルスの製造にも、恐らく成功しているだろうな……」

   カサチョとカービィは、同時にふ~んと大きく息を吐き、難しい顔をする。

「とにかく、外にいるカナリーにこの事を伝えてきます。レイズンと……、既に手遅れかも知れませんが、インディゴにも、再度通信させてみます」

「うん、頼むぞ!」

   マシコットは急ぎ足で外へと出て行った。

   ……う~んとぉ~。
   状況がサッパリ理解出来ないな。

   アーレイク・ピタラスの弟子の一人であるニベルーは、この隠れ家で錬金術を使って、そのホムンクルスとやらを作っていたわけか。
   でも、そのホムンクルスを作る事は、世界的に禁止されているわけで……、つまりは法律違反。
   ニベルーは犯罪者、という事なのかな?

   けど……、さすがにもう、その犯罪を犯したニベルー本人はこの世にいないだろうし……
   ホムンクルスとやらも、ここにはいない。
   カービィやカサチョ、マシコットは、いったい何を慌ててるんだろう??

「ねぇ、いまいち話が見えないんだけど。その、ホムンクルスってのがどうかしたの?」

   俺の問い掛けに、ようやく説明する気になったらしいカービィが重い口を開いた。

「今から二千年以上前、世界中で一斉に、魔法を使わない化学という学問が流行した時代があったんだが……、今ではもう滅んで、その文献すらもほとんど残っていない。化学ってのは、なんていうかこう……、全ての物質は、小さな物質の集まりによって構成されるとかなんとか、とにかくややこしい学問でな。目に見えない事を想像し、仮定して考える学問で、全く何の役にも立たなかったんだよ。だけど、その化学に興味を持った魔導師も沢山いてな。そいつらが、化学と魔法を合わせて用いた錬金術っていう術式を操る様になったのが、全ての事の始まりさ」

   ほう……、二千年前まではこの世界にも化学があったのかね?
   ていうか、全く役に立たないって……、俺の前世は化学だらけだったんだぞ??
   役に立たない事もないでしょうよ。
   あれだよ、きっと魔法が便利すぎて、化学の分野がさほど発展しなかったって事じゃないのかなぁ???

「錬金術はいわば、ある物質を別の物質に変換させる術式なんだ。例えば、何の変哲も無い鉱物を価値のある貴金属に換えたり、ただの水を薬に変えたりする。おいら達が日頃使っている薬用ポーションや、魔素を凝縮して液体化させた【エリクサー】と呼ばれる高額の魔力補充アイテムなんかは、錬金術を研究する過程で生まれた物だ。最も高度な発明は、あらゆる物質変化を可能とする【賢者の石】だな。千年以上前には、国家プロジェクトとして、国中の錬金術師を集めて、賢者の石の生成に取り組んだ時代もあったそうだが……。完璧な賢者の石を作り上げる為には、およそ百年に渡って、多大なる魔力を注ぎ込む必要があると結論付けられた為に、そのプロジェクトは後に中止された。そんな事しなくても、金が欲しけりゃ鉱山に掘りに行けばいいんだって、みんな気付いたんだろうな。それから錬金術師たちは、次第にその数を減らしていった」

   ふむふむ……、いつもお世話になっているポーションは、錬金術が生まれたおかげで、発明されたアイテムだったのか!
   エリクサーや賢者の石とかいうのも、何となくだけど、前世で聞いた事があるな。
   
「だが、そんな中で、とんでも無い事を考えた奴がいた。その名も【ボン・バストス】、歴史上最低最悪の錬金術師と呼ばれている。そいつが初めて作ったんだよ、現在では禁忌とされる、生命体の製造によって出来た生き物、造出生命体……、別名ホムンクルスをな」

   ほうほう……、また知らない名前が出てきましたね。
   ボン・バストス……、ボンバーマンみたいな感じ??

「その……、なんで作っちゃ駄目なの?」

   俺は素直に、疑問に思った事を口にした。
   
「うん……、この際、倫理的な問題は抜きにして……、その製造工程に問題があったんだ」

「工程……、難しかったとか?」

「というか……、モッモ、おまい、そこら辺にある黄色い結晶から、何か感じねぇか?」

   カービィに問われて、俺はテーブルの上にあるガラスの装置の、あちこちに付着している黄色い結晶を眺める。
   キラキラキラと輝いて、宝石のように綺麗だ。

「ん~……、何にも感じないっ! 綺麗だな~って思うけど」

   俺の言葉に、カービィは「ふっ」と顔を緩めて、あからさまに馬鹿にした笑い方をする。
   
   なんだよぅっ!?
   他に何を感じろって言うんだよぅっ!??

「モッモ殿よ……、そこにある結晶は、イリアステルと呼ばれるもの。拙者の国では塊魂かいこんと呼ばれる、生者の源でもある、魂なのでござる」

   た? たますぅいぃ~!?

   カサチョの説明に、頭の中がこんがらがる俺。

「え……? つまりこれは……?? 誰かの魂を、結晶化させた物、って事???」

「そういう事だ。現に、今ここにあるイリアステルには、持ち主であった者達の魔力が、微弱ながら残っている」

   うぇえ~!? 何それぇっ!??
   ……え、そもそもが、魂って何よっ!?!?

「錬金術によって作り出されし造出生命体は、体こそあれ心を持たなかった……。故に、魂の移植が必要であった。しかしながら魂は、そう簡単には本来の持ち主以外に譲渡出来ぬもの。且つ、死してしまえば失われるものでござる。故に錬金術師共は、生きた者より魂を抜き取るが為、その魂の意思を打ち砕いた上で、無理矢理に本体から引き剥がし、己が魔力を加え、化学の力でもって結晶化し、造出生命体への移植を可能にしたのでござる」

   えっ!? 
   えっ!??
   えっ!???

   なんか……、なんかもう、難しすぎて頭が……
   ちょっと、一旦まとめようか。
   だからそのぉ~、つまりは魂がぁ~……?

「えっと……、それってつまり……。生きている者から、無理矢理その……、魂を抜きとって、錬金術で作った別の体に植え付ける事で、ホムンクルスを完成させた……、って事?」

   自分でそう言ってから俺は、全身からさーっと血の気が引いていくのを感じた。
   生きたまま魂を抜き取られるなんて、絶対やばいに決まってる。

   チラリとカービィを横目で見る俺。

   お願いカービィ!
   違うって言って!!
   もしそれが本当なら、気持ち悪すぎるぅっ!!!

「そういう事だ」

   ぎゃあぁぁ~っ!!!
   きっ!?? 気持ち悪いぃいぃ~!!??

   抜き取られてないのに、魂が体から出ていってしまったかのような錯覚に陥った俺は、小さな体がガタガタと震え始める。
   そして、カービィの次の言葉が、俺にとどめを刺した。

「しかも、ついでに言うとだな……。ホムンクルスの体を作るのに最も必要な素材が、なんと男の精液ときた! こりゃもう……、ゲロゲロだろ!?」

   ゲロゲロォォッ!!!
   気持ち悪すぎるぅうぅぅっ!!??
   オエェェ~……

   ニヤニヤと笑いながら話すカービィの横で、俺はもはや白目を向いていた。
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