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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

358:カポーン……、ザブーン!

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   カポーン……

「いやぁ~、極楽極楽~♪」

「癒されますなぁ~♪」

   商船タイニック号の中で食堂の次に好きな場所である大浴場にて、俺とカービィは間抜けな声を出す。
   揃って頭に綿の手ぬぐいを乗せて、肩まで湯船に浸かって、じっくり、ゆっくりと、久しぶりのお風呂を堪能中です。

   コトコ島にいた七日間は、風呂に入る余裕などまるで無かった。
   ……というか、鬼族の村にはそもそも風呂がなかったんだけどねっ!
   昨日は移動疲れでそのまま寝ちゃったし、今日は朝からゴラの事とかこれからの事とか洗濯とか……、結局何やかんや忙しくて、風呂なんぞ完全に後回しになっていたのである。

   湯船に浸かる前に俺とカービィは、お互い体をゴシゴシと洗い合った。
   身体中に溜まりに溜まった汗やら泥やら何やらが、綺麗に洗い流されて……
   俺とカービィからは、ドロドロの茶色い液体が流れ出ていた。

「ふぅ~……。ねぇ、ギンロはやっぱりまだお風呂入れないの?」

「ん~、入らねぇ方がいいだろうなぁ~。正直、あれだけの深手を負って、助かった事自体奇跡なんだ。あんなに酷い傷、おいらも初めて手当したからな~。風呂に入って傷口が開く可能性もある。もうしばらくは安静にしておいて貰いたいっ!」

「そっかぁ……。でもさ、ギンロの体も相当汚れてるんじゃない? 痒がってなかった??」

「ん? なははっ、あいつはそんなの気にしねぇだろう!? そもそもが野生のフェンリルなんだ、風呂に入る習慣なんざ元々ねぇだろうさ」

   ……まぁ、言われてみればそうだな。
   最近でこそ俺たちと同じように風呂に入って清潔にしているから臭わなかったけど、出会った頃のギンロときたら、獣臭にも程がある! ってくらいに臭ってたからな。
   あの時の事を考えれば、数日お風呂に入ってない今ぐらいの状態なんて、ギンロには屁でもないわけか。

   すると、浴室の扉が開いて、大きな影が二人入ってきた。
   
「おやおやおやおやっ!? モッモとカービィさんではないですかぁっ!??」

   かなり早口で喋るこいつは、ミュエル鳥の飼育師であるモーブ。
   ムスクル族という種族で、薄紫色の毛並みのデブッチョ鼠獣人だ。
   服を脱いでいる為か、いつもよりもその真ん丸お腹が前に出ている気がする。

「あらま~、奇遇ですねぇ~♪ すみませんが~、我々もご一緒させて頂きますよぉ~」

   語尾が伸び伸びなこちらは、同じくミュエル鳥の飼育師である虫人インセクターのヤーリュ。
   顔は人に近いものの、体は全体的に節くれ立っていて、肌は甲殻虫のそれのようにツルンと光沢を帯びている。
   そして極め付けは、四本もある腕だ。
   二本は人と同じ様に肩から生えているものの、残りの二本は脇腹辺りから生えている。
   裸になって、その奇妙な体の全貌が更に顕著に見えてしまっている為に、俺は思わず小声で「おっと……」と呟いた。

   真ん丸のモーブと細長いヤーリュのこの二人を、俺は勝手にベースボールコンビと名付けていた。
   ザブーン! と、遠慮なく湯船に浸かる二人。

「ブハッ!?」

「オゴォッ!??」

   なかなかに水かさが増して、俺とカービィは危うく溺死しかける。

「あらあらあらっ!? すみませんすみませんっ!! お二人ともこれをどうぞ、はいはいはいっ!!!」

   モーブは大きなお腹を揺らしながら、丸い桶を二つ湯船に沈めて、俺とカービィをその上に座らせてくれた。

「いや~、何度入っても良いもんですねぇ~。フーガにもこのように広いお風呂があればいいのですが~」

「フーガには温泉がねぇからなぁ~。あれだぞ、隣のヴェルハーラには、地面の底から湧き出る温泉っていうでっかい風呂屋があるんだ! いいぞぉ~、あそこはっ!!」

「ほほほ、そうでしたか~!? ならば、プロジェクトから戻ったら早速足を運んでみますかね~」

   節くれ立った細長い体は軽いらしく、プカーっと水面に浮かぶヤーリュ。
   その様はまるで流木のようだ。

「まぁまぁ、次の島で我々はお留守番だからねぇ! しばらくは貸し切りでお風呂に入り放題!! うんうんうんっ!!!」

「え? モーブとヤーリュは、探索に行かないの??」

「そうなんだよ! うんうんっ!! 今回はミュエル鳥を連れて行かないからね、船に残って世話をしないと!!!」

   なるほど、二人はお留守番なのか。

「通信班のレイズンと、衛生班のエクリュも待機組ですね~。毎度の事ですが、もしもの時の為に残るようです~」

   ふむ、レイズンにエクリュか……

   レイズンは影の精霊とのパントゥーで、身につけている騎士団のローブの下は、モヤモヤとした黒い煙だ。
   だから、その姿形をハッキリと見た事はない。
   ついでに会話をした事もほとんどない。

   エクリュはパカポ族という獣人で、前世でいうアルパカが二足歩行している感じだ。
   鬼族の村では活躍するあまり、汗だくになって、別の種族みたいに毛がぺたんこになっていたな。

   この二人に加えて、モーブとヤーリュのベースボールコンビが船に残るのか……
   待機組は、なんとも個性的なメンバーですな。

「そういやさ、あのレイズンって奴、新入りなのか? おいらが騎士団にいた頃にはいなかったよな??」

   え? そうなの??
   知り合いじゃなかったのか、カービィ。

「あぁ、えぇそうですね~。三ヶ月ほど前に入団してきまして、さほどクエスト実績があるわけでもないのですが、団長の指示で今回のプロジェクトメンバーに選出されたのですよ~。ほほほ、ラッキーというやつですねぇ~」

   ……プロジェクトのメンバーって、案外適当に選ばれてるのかね???

「ふ~ん……。ま、あいつが選んだ奴なら間違いはねぇだろうが……。なんかこう、臭うよなぁ~?」

「臭う? ……レイズンがですか??」

「う~ん、なんだろう……。大魔導師の勘ってやつぅ~!?」

   なんだよそれっ!?
   刑事の勘、みたいに言ってるけど……
   毎度のことながら、アバウト過ぎるんだよカービィはっ!
   
「わはははっ! さすがカービィさんですっ!! はいはいはいっ!!! けども安心してください、レイズンは良い奴ですよ、うんうんうんっ!!!!」

   そう言うと、モーブとヤーリュは揃って湯船を上がって、洗い場へと向かった。

「うっし……、モッモ、そろそろ上がろうぜ。おいら、逆上せそうだぁ~」

「そうだね、上がろう上がろう」

   俺は、全身を泡で包まれて綿菓子みたいになっているモーブと、毛のない頭を泡だらけにして一生懸命に洗っているヤーリュを横目に見つつ、カービィと共に風呂場を後にした。
   
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