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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

353:紫族と外界とを繋ぐ橋渡し

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「そうですか、紫族の村からここへ……。それはさぞ遠かったでしょう?」

   カービィとグレコが、これまでの事をちょっぴり話すと、精肉店で働く鬼族の青年は、爽やかな笑顔でそう言った。

「お前の故郷なんだよな、トーカ?」

   精肉店の店主らしい、黒豚のようなドデカイ獣人が会話に混じる。

   ……黒豚が店主の精肉店って、全く笑えないよ。

「えぇ、はい。でも、僕の村は二十年前に失われましたからね。だから、火山の向こう側から来たって事ですよね?」

「そうだぞ~。本当に遠かった!」

   なっはっはっ! と笑うカービィに対し、「ひぇ~!? そんな遠くからかよっ!??」と驚く黒豚店主と、あはは! と笑う鬼族の青年。

   ……何だろうな。
   俺、こいつの事知っているような気がする。
   えっと……、誰だっけ? どっかで会ったっけな??

   グレコ達が、その青年と一緒に肉を物色している間、俺はずっと彼の顔を見つめていた。

   どこで会ったっけ? 
   そもそも、会ったっけか??
   トーカ……、トーカ……、聞き覚えがある名前なんだけどな……
   確か、えっと……、砂里が……、ん???
   あっ!? 灯火かっ!!!?

「砂里の!? 双魂のっ!?? 幼馴染の灯火君っ!?!?」

   突然大声を出した俺に対し、グレコもカービィもギンロもビクゥッ! と体を震わせた。
   しかし、鬼族の青年だけは……

「あ……、砂里を、知っているんですか? うわぁ……。あ、砂里は、元気ですか!?」

   パアァッ! と表情を明るくして、俺に満面の笑みを向けたのだった。






「そうだったの……。えっと、双魂子ふたたまのこ? その話は初めて聞くわね」

   チラリと俺を見るグレコ。

「あ、うん……。だって……、ほら、話すタイミングが……、ね? 無かったから、さ??」

   歯切れの悪い俺の言葉に、グレコはいささか不機嫌そうに、ふ~んと息を吐いた。

   俺は、砂里から聞いた灯火の話、双魂子の話を、三人に簡単に説明した。
   砂里がもともと次期姫巫女候補だった事と、それを支える役目を灯火が担っていた事、などなど……
   灯火が気を悪くしないようにと、細部は濁しておいた。

「今から二十年ほど前に、僕は父と共に、この港町コニャに移り住みました。それからはずっと、ここで暮らしてます。数年前から父と共にこの店で働かせてもらっていて、昨年父が他界してからは、親父さんが僕の親代わりになってくれてて……。親父さんにはもう、本当に、感謝しかないです」

「よせやいっ! 照れるわっ!!」

   黒豚獣人は、灯火の言葉に顔を真っ赤にして、店の奥へと引っ込んだ。

   ……黒豚が鬼の親だなんて、自然界の法則を無視し過ぎじゃなかろうか?
   灯火は仮にもあの鬼族、紫族の生まれなのだ。
   黒豚なんて……、まんま食料じゃないか。

   でも、一つだけ気になる事がある。
   豚とは関係ない事だ。
   かつて存在していた紫族の南の村は、悪魔ハンニと、この目の前にいる灯火のせいで、滅んだのではなかったのか?
   確か、志垣はそう言っていたはずだが……

「他の鬼族は助からなかったのかしら? あなたと、あなたのお父様だけが助かったなんて……」

   グレコの意図せずぶっ込んでいる言葉に、灯火は少しばかり表情に陰を落とす。

「村を壊滅させたのは、僕の母でした。母は、心の弱い女性だった……。僕の記憶の中にいる母は、いつも不安気な顔をして、何かに怯えていて……。もともととこに伏せがちだったのが、あの日は少し違っていた。高齢の為に体が不自由となった祖父母に対し、母がずっと謝っていたんです。今までの事と、これから起こる事について、謝っていた。それを見た父は何かを感じ取ったのでしょう。母が怪物と化す前に、僕を村から連れ出したんです」

   なるほど、それなら辻褄が合うな。
   怪物と化し、村を滅ぼしたのが灯火の母ちゃんで、志垣が確認したっていう遺体は、おそらく灯火の爺ちゃん婆ちゃんのものだったのだろう。
  
「そうだったのね……。ごめんなさい、辛い過去を思い出させてしまって……」

   灯火の心中を思いやり、謝罪するグレコ。

「いいえ。僕にとってはもう、全て過去の事です。確かに、僕は双魂子として生まれました。けれど僕には、周りが期待するような、あるべき力は無かった。父は巫女守りの……、妖の族と呼ばれる一族の生まれでしたが、母は違った。だから僕には呪力がない。僕は、砂里を支えられる器ではなかったんです。それでも砂里は、いつも笑って僕の手をとってくれた。だから……。今日、砂里が元気に生きている事を知れて、良かったです。ありがとうございます、モッモさん」

   真っ直ぐ過ぎるほどに真っ直ぐな目で、灯火はそう言った。

   何処かで、何かが違っていたら、砂里と灯火は今でも一緒にいられたのかも知れない。
   果たして砂里が、本当に桃子の後を継げたかどうかは別として……
   砂里にとって灯火は、きっと特別な存在だったはずだ。
   もし今も、灯火が生きていると知ったら、砂里はきっと喜ぶに違いない。

「あ、あの……。灯火さんは、紫族の村へは帰らないんですか?」

   おずおずと、問い掛ける俺。

「そうですね……。彼らは元来、外者を嫌う性質を持っていますから。外の生活に慣れてしまった僕は、彼らと共には生きていけないでしょうね」

   悲しげに笑う灯火だが……

「あ……、それならきっと問題ないわよ、トーカさん。紫族は今、昔から続く掟を捨てて、新しく生まれ変わろうとしているの。外の者との交流を始めようとしている。だから……、そうよ! もし、あなたが良ければ、紫族と外界とを繋ぐ橋渡しになってくれないかしら!?」

   ナイス! グレコ!!

   グレコの提案に、灯火は驚いた顔をする。

「まさか、そんな……。紫族が外者と交流を? そんな事は、いくらなんでもあり得ませんよ」

「いんや、本当なんだなこれが! 現に、おいら達はその紫族の村へ行って、まぁ~いろいろあったが、無事にここに戻って来たんだ。首長であるベンザさんと、巫女さんのお付きのヤグサさんが、村の在り方を変えるって言ってたらしいからな!! なっ、モッモ?」

「あ、うん! そうなんだ!! だから、その……。もしさ、都合が取れるなら、一度紫族の村へと足を運んでみてくれないかな? 長年ずっと、外の世界との関わりを絶っていたから、どうやって関わりを持てばいいのか、きっとみんな分からないと思うんだ。君が行ってくれれば、みんな助かると思う。それに、砂里も喜ぶと思う!!!」

   カービィと俺の言葉に、灯火はまだ困惑した様子で頭を抱える。
   するとギンロが……

「サリ殿は、とても美しい女子であった。あのように美麗な友を持ちながら、己の無事を知らせぬなどとは、なんとも勿体無い。サリ殿はお主を待っておるぞ、トウカ殿。今すぐにとは言わぬ、しかし、必ず会いに行け。そして己の口で、サリ殿に伝えるのだ、息災で何よりだとな」

   うわぁ……、なんていうか……
   ちょっと芝居掛かってないかい?
   息災でって……、ギンロ、よくそんな言葉知ってたね。
   絶対さ、変な事考えてるでしょ??
   砂里と灯火がラブだとか、考えてるでしょ???
   ほんっとにもう、どうしようもなく恋愛脳だね君は。

「そう……、ですね。はい。わかりました。親父さんにお願いして、暇をもらって……。紫族の村を訪ねてみます。砂里に、会いに行きます!」
  
   爽やかな灯火の笑顔に、俺たち四人もニッコリと笑った。






「結局、残りのお金はいくらなの?」

「……9700センス」

「かぁあっ!? 本物の貧乏パーティーだなこりゃあっ!??」

「仕方あるまい。生きる為に食事は欠かせぬ。必要な出費であろう」

「まぁ、確かにそうだけど。ちょ~っと買いすぎたかもね? 次の島に着いたら導きの石碑を立てて、一度ジャネスコに戻って銀行に行った方がいいわね。さすがにその残金じゃあ不安だわ」

   ……そう言うならさ、さっきの精肉店で、ちょっとお高い生ハムなんて買わなきゃ良かったんじゃないかい? グレコさんや。

「そうだな! チャチャっとジャネスコに行って、お金下ろして来い、モッモ!!」

「えっ!? カービィも来てよ!! 僕一人で銀行に行くなんて無理だよ……」

   あのジャネスコの銀行には、強面のライオンみたいな獣人支店長がいるんだぞ。
   そんな場所に、俺が一人で行けるかってんだっ!

「うむ、皆で行こうぞ。またモッモが怪しい輩に拉致されてもつまらぬ」

   ぐっ……、拉致の事を掘り返さないでギンロ!
   あれは俺のピグモル生で一番の汚点なんだよぉっ!!

「あ、どうせ銀行に行くなら、残りのお金で魚の干物も買いましょうよ!? ほらあそこ! 干物のお店よ!!」

「ぬっ!? 行こうぞモッモ!!」

   くぅうぅ~!?
   なけなしのお金を使い切るおつもりですねっ!??

「よ~しっ! 残金ゼロにしちゃおうぜぇっ!!」

   ノリノリになるなカービィこの野郎っ!
   でも、もうこの際だ……

「僕は……、貝の干物がいいっ!」

   ……こうして俺たちは、港町コニャでのお買い物を堪能して、商船タイニック号へと戻ったのだった。

   船では、ザサーク船長を始めとする乗組員達が、笑顔で俺たちを迎えてくれた。
   どうやら今夜も、出航前夜の宴を開くらしい。
   甲板の上には既に、山盛りの料理と酒樽が並べられていた。

   よせばいいのに、もう……
   懲りないんだから。

   美味しそうな匂いにつられて、船内で休んでいた騎士団のみんなも甲板に上がって来た。
   みんな一様に疲れた顔をしているけれど、今までと変わらない気さくな態度で俺たちに接してくれる。
   プロジェクトに参加出来なくなったとしても、もう俺たちは仲間だ。
   次の島からは別々だけど、きっと、それなりに上手くいくよね?

   美味しい料理と美味い酒と共に、コトコ島最後の夜は、穏やかに更けていくのだった。
   
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