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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

343:穂酉の日記

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   キュインキュイーン

「これが、穂酉様が生前に書き残された、琴子様より聞き及びし五百年前の真実だ」

   そう言って勉坐が取り出したのは、分厚~い書物だ。
   所々が剥げて破れていて、更にはちょっぴり黒ずんでいる。
   ……おそらくだけど、保存方法に問題があったんじゃないのかな?
   何故にそれだけ、そんな場所に??
   勉坐がその書物を取り出したのは、なんとリーラットの巣穴の中からだった。

   キュイーン、キュキュイーン

   俺とグレコは勉坐と共に、地下室の奥に繋がっている、リーラットの飼育べ……、もとい、リーちゃんの楽園にいた。
   何やら話があるのだと、勉坐が言うもんでね。

   野草は桃子と志垣の元へ戻る為、雄丸は復興作業を続ける外の鬼達を手伝う為に、俺たちより一足先に、それぞれ地上へと戻って行った。
   勉坐は、野草と雄丸に小動物好きがバレるのだけは、どうしても避けたかったようだ。
   二人が先に外へ行った事に対し、ちょっぴり安堵していた。

「……え、何これ? 私、これ読めないわ」

   書物を開いたグレコが言った。
   ……まぁ、仕方がないですな。
   だってこの書物は、グレコの知らない、紫族に伝わる漢字のような文字で綴られているのだから。

「待って、僕が読んであげる」

   ちょっぴり優越感に浸りながら、俺は開かれた書物を覗き込む。
   そこに書かれていたのは……

「えっと……、今日、野鼠達は、元気いっぱい。日照りに、強くて、良かった。雨が、降らなくても、野鼠達は、しばらくは、大丈夫そうだ。……え?」

「……本当にそう書いてあるの?」

   俺の言葉に、グレコは眉間に皺を寄せる。

   いや、その……、書いてあるまんまを読みましたよ俺は?
   何これ??
   何の本なわけ???

「それは、穂酉様の私的日記なのだ。故に、主に穂酉様の日常が綴られている」

   勉座はそう言うが……、これって、どう……?

「まさか……。その、ホトリ様という名のご先祖様も、このリーラットを好きで……、いらっしゃったと?」

   かなり遠慮がちに、言葉を選ぶグレコ。

「無論、その通りだ。野鼠というのは、間違いなくこのリーちゃん達のことだろう。私の一族は代々、植物性の食物しか口にしない。それは何故か!? 先祖代々、このリーラットをこよなく愛して止まないからだっ!!!」

   ドーン! と胸を張る勉坐。
   固まる俺とグレコ。

   ……いや、別にいいけどさ、うん。
   でもさ、そこまで堂々と出来るなら、みんなに知られても良くない?
   そこは嫌なの?? 別なの???

「琴子様の事が書かれているのは、真ん中より少し後だ。重要な文章だと思い、折り目を付けてある」

   ……それを先に言ってよ勉坐。

   勉坐の言ったように、書物のちょうど真ん中から少し後ろのページの端が、その角の部分だけペキリと内側に折れている。
   そのページに書かれていた文章、それは……





 -----+-----+-----

   本日、外来より異国の者が参った。
   名を琴子と言う女子は、自らを吸血エルフと呼んでいた。
   その小さくか細い身体には似合わぬ、大きな大きな力を内に秘めている、なんとも不思議な女子だ。
   琴子が言うには、先日の大地割れは、彼女の師の仕業であるということだった。
   そしてそれは、異空の地より悪しき者どもが入り込まぬよう、必要な措置なのだと言う。
   幸いにして、我ら一族に死者は出ていない。
   雨が降らぬ為に、生活は苦しいが、なんとかやっていけている。
   悪魔という者が何なのかは知り得ぬが、琴子はしばしここに止まりて、そやつを探すと申していた。
   
 -----+-----+-----





「これは……。アーレイク・ピタラスの大陸大分断から、数日後の話かしら?」

「たぶんそうだろうね。コトコは確かに、この穂酉って鬼族と話していたから」

   アメコに見せてもらった記憶と照らし合わせながら、穂酉とコトコの顔を順番に思い出す俺。
   ……まぁ、コトコのお顔を思い出さなくても、そっくりなのが隣にいるんだけどね。

「それで? 他には何か書いてある??」

「えっと……、ちょっと待っ……、あ、これだ! アメコが最後に言っていた事と似たような事が書いてある!!」

   俺は目を見開いて、続きを読んだ。





 -----+-----+-----

   本日、琴子と面会した。
   琴子は、親亡き子らと、村の外れの森の中で暮らし始めたという。
   育てられる大人がいない為、外から来た琴子に彼らを任せる事となってしまい、大変申し訳なく思う。
   引き続き、出来る限りの援助はすると、申し出ておいた。

   そして、琴子は、先日の話の続きを聞かせてくれた。
   彼女の使命と、今後数百年の間に起きるであろう、悪魔との戦いの話である。
   異空の地に住まう悪魔は、いつの日も、我々が住まうこの地に降り立たんと策略を巡らせているそうだ。
   彼女の師が大地割れを起こしたのは、奴らの侵攻を一時的に封じる為、との事だった。
   だがそれは、あくまでも一時的なものであり、いずれはその封術も解けてしまうという。
   そうなってしまえば、異空の地より悪魔がこの地に入り込み、占領されてしまうと言っていた。

   だが、希望はある。
   琴子の師が言うことには、これから数百年の間に生まれるであろう、新たなる力を秘めし救世主が、彼女の師が残しし封術を、完璧なものへと創り変えてくれるそうだ。
   そうする事でようやく、異空の地とこの地との繋がりは完全に絶たれて、真の平安が訪れると言う。
   琴子は吸血エルフ故に、寿命が恐ろしく長い。
   彼女は弟子の中で唯一、その救世主を待つようにと、師より命令を受けたそうだ。
   その為に、かつての大陸に縄張りを持ちし五種族のうち、最も友好的な我ら紫族の住まう島へやって来たのだと言っていた。
   
   今思えば、ここ数十年間、大陸に暮らしし他の四種族との間に争いが絶えなかったのも、もしかするとその悪魔という輩の仕業かも知れぬ。
   我ら紫族がこの世界に降り立った日より幾千年、あれほどまでに他種族との争いが止まなかった日々は史実にもなかった。
   何者かが裏で糸を引いていたのだと言われれば、納得せざるを得ない。
   永和を求めてこの地へやって来たはずの我らを再び戦火の中へと追いやった、その悪魔という輩を、私は決して許さない。

 -----+-----+-----





「……モッモの事が書かれているわね。救世主、ですって?」

   何故だか半笑いで、グレコはちらりと俺を見る。
   俺はというと……
   勿論、顔面蒼白ですよ、はい。

「きゅ……、きゅうせいちゅ……? まさか、しょんな……」

   む~……、無理無理無理!
   何をどうやったら、こんな非力でプニプニな俺が救世主なんかになれるのさっ!?
   ちょっと待って!!!
   絶対に人違……、ピグモル違いだぁあっ!!!!
   も、もももももうっ、悪魔となんか関わりたくないのぉおぉぉっ!!!!!
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