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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

330:置いてけぼり

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   勉坐の家の中には、未だ目を覚まさずベッドに横たわる喜勇達三人と、壁際にもたれかかる千草、その他にも見覚えのない女や子供、年老いた鬼が多数いた。
   みんな、気を失ってはいるが、息はしているし怪我も大した事がなさそうなので、構わずに俺たちは玄関から外に出た。

   外はまさしく戦場だ。
   よく似た風貌の、同じ種族の者が争うその光景は、あまりにも凄惨なものだった。

「覚悟ぉおっ!!!」

「喰らえぇっ!!!」

   俺たちの目の前で、二人の男が相打ちをして倒れる。
   双方共に急所に当たり、激しく血飛沫を上げていた。

   男も女も、子供も年寄りも関係ない。
   皆が皆、その手に武器を持ち、命をかけて戦っている。
   辺りには大量の血が飛び散って、道端には動けなくなった者達が多数倒れていた。

「酷い、こんな……。どうして……?」

   あまりの光景に、手足が震えるグレコ。
   
「みんな、おかしくなってる……。見て、みんなの目が……」

   砂里の言葉に、俺は戦う紫族達の瞳を注視する。
   すると、透き通るような紫色であるはずの瞳が、真っ白に染まっている者が多数いるのだ。
   おそらくその者達が、ハンニに思想魔法をかけられた西の村の者達だろう。

   やばい……、やばいやばい……、かなりやばいぞっ!?
   既に死んだハンニのせいで、まだこんなに大勢が操られてるっていうのかっ!??

   すると、少し離れた民家の中から、小さな子供がフラフラと出てきた。
   身体中血塗れで、大声で泣き叫びながら……

「はや……、早く助けないとっ!?」

「待って! グレコさん駄目っ!!」

「サリ!? だって、あそこに子供がっ!!!」

「今飛び出したら、あなたが危ないっ!!!」

   走り出そうとするグレコを、必死に止める砂里。
   子供までの距離は数十メートル。
   そこに到達するまでには、闇雲に武器を振り回しながら戦っている、沢山の鬼達の間を潜り抜けなければならない。
   無傷で済むはずがない。

「ぼっ! 僕が隠れ身のローブを使うよっ!!」

   咄嗟にローブを裏返そうとした俺を、砂里はまたしても止める。

「駄目っ! モッモさん!!」

「どうして砂里っ!? あの子を助けないとっ!??」

「モッモさん! グレコさん!」

   焦る俺とグレコの耳に届いたのは、聞き覚えのある声。
   血塗れで泣き叫ぶその子供をヒョイっと抱えて、こちらに向かって走ってくるのは、騎士団のポピーとエクリュだ。
   エクリュはその背に、別の紫族の子供を二人負ぶっている。
   隣にいるポピーは、先ほどの子供を抱えながら、紫族の戦いに巻き込まれないようにと、自分達の周りに守護結界を張りながら走っていた。
   
「エクリュ! ポピー!?」

「話は中で! ここは危険よっ!!」

   ポピーに押されて、俺たちは一度家の中へ、なだれ込むようにして戻った。

   玄関の扉をバタン! と閉めて、エクリュはすぐさま子供達の治療を始める。
   ポピーが抱きかかえていた、血塗れで泣き叫んでいた子供は、どうやら返り血を浴びただけらしく、まだすすり泣いてはいるものの意識はハッキリしているようで、自分の両足でしっかりと立っている。
   だが、エクリュが背負っていた二人の子供は、外傷はなさそうだが、明らかに苦しそうな表情で既に気を失っていた。

「可哀想に、家に火を放たれたのよ。なんとか助けられたけど、煙を吸ってしまって意識がないの。エクリュ、何とかなるっ!?」

「何とかしますっ!」

   先程、喜勇達を診ていた時とはまるで違う、頼り甲斐のあるキリッとした表情で、エクリュはそう言った。

「ポピー、みんなを止めないとっ! これ以上被害が拡大する前にっ!!」

   グレコがポピーに訴える。

 早く! 早く行かないとっ!!
 でも、どうやってみんなを止めればいいんだぁあっ!!?

「グレコさん、とりあえず落ち着いて! モッモさんも!! 戦場において最も危険なのは、自分がすべき事を見失う事!!! 一度深呼吸して、落ち着いてっ!!!!」

   いつもはブリブリブリっ子なポピーが、グレコと俺の肩に順番に手を置いて、目を真っ直ぐに見てそう言った。
   ポピーの言葉に、グレコと俺はハッとして……
 お互いに大きく深呼吸をし、一旦心を落ち着かせた。

「ごめんなさい、取り乱して……。それで……。どうすれば、みんなを止められる? そういえば……、ノリリアはどこ? 他の団員達は??」

「ノリリア副隊長と私たちは、このベンザさんの家を拠点にして村中を走り回っているの。怪我してしまった鬼達を一人でも多く助ける為にね。けど、それにも限界がある。外の奴らを見た? 西の村から攻めてきた鬼達は、完全に我を忘れてしまっている。あれは恐らく思操魔法の一種だろうけど、力が強すぎて、私たちにはどうする事も出来ない。何か、彼らの目を覚ます何かがないと……」

 目を覚ます何か……? 
 何かって、何っ!??

「勉坐様と、雄丸様は今どこに?」

 砂里が尋ねる。

「オマルというのは西の村の首長の名ね? それが……、そのオマルの姿を、私たちは一度も見ていないの。武器を持った鬼の軍勢が一気に攻めてきて……。もしかしたらその中にいたのかも知れないけれど。そうこうしているうちに、そこら中で戦いが始まってしまって。ベンザさんも、いつの間にかいなくなってしまわれて」

 雄丸は姿を現していないのか!?
   それに加えて勉坐は行方不明っ!??
 一体全体、どうなってんだぁあぁっ!?!?

「もしかして……。姫巫女様のところじゃ……?」

 グレコがポツリと呟く。

「桃子のとこっ!? どうしてっ!??」

「ハンニの最後の言葉、覚えている? 雨を本当に奪っているのは誰か、とかなんとか……。もし、ハンニがオマルさんにも、同じことを告げていたとしたら? 現時点で、雨を呼べるのは姫巫女様だけよ。だからオマルさんは、姫巫女様を狙って、東の村に奇襲をかけたんじゃ……??」

 グレコの予想は、あくまでも予想だ。
 でも、もし本当に、そうだとしたら……

「姫巫女様が危ないっ!?」

 砂里は、そう叫ぶと同時に、家を飛び出して行く。

「ちょっ!? モッモ!! 追うわよっ!!!」

 砂里を追って、駆け出すグレコ。

「えっ!? ちょっと待っ!??」

 俺は一人出遅れて……
 玄関扉の外に出た頃にはもう、砂里もグレコも随分遠くに走って行ってしまっていた。

 ……えっ!? 置いてけぼりなわけっ!??
 そんな、まさか……、お留守番????
 いやいやいやいや……、主人公はこの俺です。
 主人公がお留守番て、そんなそんな、ははははは!
 
 ……えっ!? ここから俺一人でどうしろとっ!?? 

 俺があわあわとしている間に、走り行く二人の姿は見えなくなってしまった。  
  
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