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★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

329:絶対に死なせないでねっ!

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「た、倒した……? や、やったぁっ!!」

   白い灰の山と化したハンニを前に、俺は小さくガッツポーズをする。
   しかし、次の瞬間……

   ゴゴゴゴゴォ~!!!

   強烈な地響きが、俺たちを襲った。

「なんっ!?」

「きゃあっ!?」

「くっ……、モッモ! グレコさんにサリさん!! こっちへ!!!」

   地面が大きく揺れる中、なんとか俺はカービィの元まで走る。
   カービィは既に、治癒魔法をギンロに向けて発動していた。
   しかし、倒れたままのギンロは、地面に大きな血溜まりを作っていた。

「ギンロ!? だっ、大丈夫なのっ!??」

「まだ何とかなる! 急いで村へ戻ろうっ!!」

「わかった! 導きの腕輪で……、グレコ!! 砂里!!! 早くっ!!!!」

   こちらに向かって走ってくる二人に、俺は呼びかける。
   するとまた……

   ゴゴゴゴゴゴゴォ~!!!
   ボコボコボゴォッ!!!

「きゃっ!? 危ないサリ!!」

「きゃあぁっ!??」

   より一層大きな地響きが、俺たちを襲う。
   それと共に、マグマの泉の炎が大きく膨れ上がって、空中へと弾け飛んだではないか。
   真っ赤な炎の塊は、地面の上へボチャン! と落ちて、真っ黒な岩をドロドロに溶かしていく。

   こっ、怖ぇえぇっ!
   あんなもの食らったら最後……
   全身火傷なんかじゃ済まないぞぉっ!?

   間一髪でそれを避けたグレコと砂里は、全速力で俺たちの元まで戻ってきた。

「早く村へ戻りましょう! なんだか様子がおかしいわっ!!」

「ま、まさか……。噴火っ!?」

「可能性はなきにしもあらずだっ! モッモ!! 腕輪使えっ!!!」

「はっ! はいぃっ!!」

   俺は、ギンロに触れているカービィの手と、グレコと砂里の手が俺の体に触れていることを確認してから、導きの腕輪の青い宝石に手をかざした。
   ものの一瞬で、紫族の東の村の、勉坐の家の中庭へと戻った俺たち。
   ホッと安心したのも束の間……

「ゴホォッ!!!」

   ギンロが口から大量の血を吐いた。

「ぎっ!? ギンロォっ!!?」

「やだっ!? しっかりしなさいよギンロ!!?」

   慌てて駆け寄る俺とグレコ。
   しかしギンロが意識を取り戻すはずもなく、それどころか、体が大きく痙攣し始めたではないか。

「くそっ! 内臓までやられてんのかっ!?」

   急いでローブの内側から魔導書と杖を取り出すカービィ。

止血アモスティコ

   呪文を唱えると、杖の先から白い光が放たれて、ギンロの腹部の傷口からの出血が止まった。
   しかし、未だ体の痙攣は治まらないし、傷口も開いたまま……
   腹部の生々しい赤い肉が、今にもそこから飛び出しそうだ。

「さすがに一筋縄じゃいかねぇな……。モッモ、グレコさん、サリさん、おいらはここでギンロの治療をする! だから、外のことは任せた!!」

   カービィにそう言われて初めて、俺は気付いた。

   外って……、えっ!?
   なんだこの音っ!??

   先程からずっと聞こえていたのだろうが、ギンロの事に必死で、俺はそれらの音を気に留める余裕が無かったのだ。
   庭の外から聞こえてくる音、声……、それは……

「うぉおおぉぉっ!!」

「きゃあぁぁっ!」

「うらぁあぁっ!!!」

「やめてぇっ!?」

「死ねぇえっ!!!!」

「助けてぇっ!!!」

「あ~ん! あ~ん!! お母ちゃ~ん!!!」

「一人残らずぶち殺せぇっ!!!!!」

   この世のものとは思えないほどに、恐ろしい声の数々。
   紫族の、西の村の戦士達が、東の村の者たちを襲う声だ。
   そして、助けを乞う、沢山の女子供の声も……、ガキンッ! ガキンッ!! という、刃物がぶつかり合う音も、絶え間なく聞こえてくる。
   まるでここが、戦場のど真ん中のような……

「たぶん、ハンニが使ったのは思操魔法だ。思操魔法は、魔法をかけた相手の心の奥底にある感情を呼び起こし、己の意思で行動させる魔法なんだ。おそらくハンニは、その思操魔法を使って、西の村の連中の心に怒りや恨みといった負の感情を呼び起こさせたのさ。その矛先が、東の村の者達に向かうように小細工をしてな」

「小細工って……、いったい何を?」

「ハッキリとはわからねぇが……。同種で意味なくこれだけの殺し合いをするなんざ、いくらなんでも考えられねぇ。ここまで行動させる何か……、例えば、命の危機に晒されるような何かを、奴はみんなに与えたに違いねぇ」

   命の危機に晒されるような何か!?
   ……何それ!?? わかんないしっ!!??

「さっき……、ハンニが妙な事を言ってなかった? 雨を奪っているのは、本当は誰なのか、とか……。もしかして、その誰かがこの東の村にいるって、みんな吹き込まれたんじゃないかしら??」

「有り得るな。まぁ何にせよ、みんなを止めなきゃならねぇ。もう、諸悪の根源であるハンニは倒してんだ。なのに、せっかく生き残れた仲間同士で、無意味な殺し合いをするなんざ馬鹿げてる。おそらく外ではノリリア達が応戦しているだろう。モッモ、グレコさん、サリさん、行ってくれ! ギンロの事はおいらが何とかするっ!! だから、外は任せたぞっ!!!」

   カービィは、視線をギンロの傷口から離さずにそう言った。
   一瞬でも余所見が出来ないほどに、ギンロの状態は危ないようだ。
   魔導書と杖を握るカービィの手が、微かに震えている。

「カービィ……。うん、わかった。グレコ、僕たちは外へ行こう! 出来る事をしようっ!!」

「う、うん! そうね!! サリも一緒に来てくれるわよね?」

「はいっ! 勿論ですっ!!」

   未だ渡す相手のいない、破邪の刀剣が入った木箱を抱えながら、砂里は大きく頷いた。

「よし! カービィ、ギンロの事は頼んだよ。絶対……。絶対に死なせないでねっ!!」

   そう言った俺の声は、涙声になっていたに違いない。

   ギンロとは、あの虫だらけの恐ろしい森で出会ってから、ここに来るまでずっと……、ずっと一緒だったんだ。
   こんな所で死んじゃうなんて……、そんなの絶対に嫌だっ!
   もっともっと先へ、もっともっと遠くまで、俺はギンロと一緒に旅をしたいんだよぉっ!!

「へへっ、わかってらぁ! サッサと行って、戦いを止めて来いっ!!」

   無理して笑うカービィを前に、俺は零れ落ちそうになる涙をグッと堪える。

   今は、カービィの魔法と、ギンロの生命力を信じるしかない。
   俺は、俺に出来る事、俺にしか出来ない事をしなければっ!

「行こうっ! グレコ!! 砂里!!!」

   カービィにギンロを託し、俺とグレコと砂里は、家の外の戦場へと向かうのであった。
  
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