上 下
335 / 800
★ピタラス諸島第二、コトコ島編★

324:危険信号発動!!

しおりを挟む
   ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン

「モッモ! まだ南かっ!?」

「まだ! 南っ!!」

「けどよ! このままだと、山頂に着いちまうぞっ!?」

   爆音と七色の煙を吐き出しながら、空中を行く金属箒。
   片手でカービィの体にしがみつき、もう片方の手で望みの羅針盤を確認する俺。
   やはり、金色の針はまだ南を指している。
   ここまでずっと、南へ南へと進んで来たが……
   カービィの言うように、自然と山道を登ってしまっていて、もうすぐコニーデ火山の山頂に着いてしまう。

「もしかしたら……、ハンニはまだ! 山頂にいるのかもっ!! ほら、喜勇達は、山頂で倒れてたって!!! そこにまだ、ハンニがいるのかもっ!!!!」

「なるほどなっ! でも、そんなにずっと同じところにいるか普通っ!? 何か仕掛けてくるなら、移動するだろうっ!??」

「そんな事言ったって! 僕にはわかんないよぅっ!!」

   爆音と向かい風の中で、声を張り上げる俺とカービィ。
   眼下には、黒い岩山の道を懸命に走るギンロの姿がある。
   その背には、こちらも必死な様子でギンロの背に掴まる、グレコと砂里の姿が見えた。

   このまま山頂に行って、もしハンニがいなかったら……、どうしようっ!? 俺が責められるっ!??

   変な冷や汗を大量にかきながらも、俺の手の中の羅針盤の金の針は、変わらず南を指し続けている。

   お願いっ! この先にハンニがいますようにっ!!
   ……あ、でも、本当にいたら怖いっ!!!

「モッモ、山頂が見えたぞっ! ケツの穴閉めろよぉおっ!!」

「なんでお尻……、って!? ひょえぇえぇぇ~!!?」

   ヴォンヴォンヴォンヴォン、ヴォオォォーーーン!!!

   金属箒はこれまでよりも更に速度を上げて、俺とカービィはコニーデ火山の山頂に到達した。

「あっついっ!? なんじゃこりゃっ!??」

「あちちちちっ!?!?」

   コニーデ火山の山頂には、恐ろしい光景が広がっていた。

   黒い岩の地面には無数の赤い亀裂が走り、そこかしこから白い煙が立ち上っている。
   そして山頂の中央、ぽっかりと空いた大きな穴の中にあるのは、グツグツと煮えたぎる火の泉。
   今にも噴火してしまいそうな程に、ムクムクと盛り上がるマグマ。  
   そのほとりに、白くて大きな石碑が立っているのだが……
   
「これでもかっ!? これでもかぁあっ!??」

   何やら大声をあげながら、白い石碑に対して、巨大な鎌を何度も振り下ろしている何者かの姿が見えた。

   人型をしたそいつは、全身が毛のないつるんとした赤色で、背には蝙蝠のような黒い翼を持ち、お尻の上からは細長い尻尾が生えている。
   そして、後ろ姿でもわかるくらいに、長く鋭い真っ赤な三本の角を、額から生やしていた。

   あの石碑はおそらく、俺と勉坐で解読した、五百年前の真実を語る碑文が書かれている大事な石碑だ。
   あんなに大きな鎌を、あんなに力一杯振り下ろしたら、石碑が壊れてしまうのでは!? と思ったが、何故だか石碑は無傷のままだ。
   どうしてだろうと目を凝らすと、薄っすらとだが、石碑の周りに水色の魔力のオーラがある事に俺は気付いた。

「そんな事しても無駄だぞっ!?」

   なっ!? カービィ!??

   明らかに怪しい相手に向かって、カービィは平然と声をかけた。
   するとそいつは、ピタッと動きを止めて、ゆっくりとらこちはを振り返ったではないか。
   その顔は、人ではない……、生き物でもない……
   完全なる、悪魔だ。

   血のように赤く染まった皮膚に、同じように赤く長い三本の角。
   二つある瞳は黒目がなくて真っ白で、口は裂けそうに大きくて細かく尖った歯が無数に並んでいる。
   しかし、生き物であれば、そこにあるべきはずの鼻がない。
   そして、耳が生えているべき場所には、小さな穴がポコッと空いているのみなのだ。
 つまり、目と口しかない……
   かなり異質なその風貌に、俺の全身に悪寒が走った。

   危険信号発動! 危険信号発動!!
   直ちにここから退避せよ!!!
   ピポピポピポー!!!!!

   俺の中の危険感知センサーが、大音量で鳴り響く。

「あぁ、お前かぁ~? グノンマルが教えて来た、時の神の使者って奴はぁ~??」

   ニンマリと笑いながら、そいつは口から紫色の長い舌を垂らした。
   
   グノンマル? グノンマルって確か、イゲンザ島にいた悪魔サキュバスの名前じゃ……??

「おまいが悪魔ハンニだな!?」

   目の前にいる、明らかに気味の悪い相手に対し、恐れる事なくカービィは問い掛ける。

「ハンニハンニハンニハンニ……。どいつもこいつも、人様の名前を呼び捨てにしてくれてよ~お……。自分がこの世で一番偉いとでも思ってんのか? あぁ?? きひひひひっ。哀れなもんだぜ全く……。そうさっ! 俺がお探しのハンニ様だっ!! ギャハハハハッ!!!」

   ハンニは、気が狂ったような笑い声を上げた。
   
「西の村のオマルを操ってるのもおまいだなっ!?」

「操る? かぁ~っ!? んな面倒な事はしねぇさぁっ!!! あいつはなぁ、自分の意思であぁしているのさ。俺は少~し、ほんの少~しだけ、奴を素直にさせてあげたまでよ~お」

「やっぱりそうか……。一度だけ聞くっ! 降参する気はねぇんだなっ!?」

「降参? なんだそりゃ?? おまえ、気は確かか??? この大悪魔ハンニ様を相手に、ちんけなお前に勝機があるとでも思ってんのか???? きひひひひ……、ギャーハッハッハッハッ!!! 見た目通りのお気楽な奴だぁっ!!!! それで時の神の使者とは、笑わせてくれるぜぇえっ!!!!!」

   ……うぅ、怖い。
   なんなんだあいつ、完全に目がいってるし、気も狂ってるぞ。
   けどあいつ、どうやら俺には気付いてないみたいだ。
   カービィの陰になっていて、俺の事は見えてないんだな。
   ……よし、これは好都合だ!

「馬鹿野郎っ! おいらは時の神の使者じゃねぇっ!!」

   んんっ!? おいカービィ!??
   何か余計な事を言うんじゃなかろうなっ!?!?

   俺がカービィの言葉に肝を冷やした、その時だ。

「モッモ! カービィ!!」

   後方から、ザッザッザッと足音を立てながら、ギンロが俺たちに追い付いた。
   その背には、グレコと砂里も乗っている。

「あぁん? ま~た虫ケラが湧いて出……、な……、んだと??」

   ギンロの背に乗るグレコを目にするなり、それまで大口開けて笑っていたハンニの様子が一変した。
   一瞬、一切の感情を無くした無表情になったかと思うと、次の瞬間、これでもかと言うほどに歯を食い縛り、ギリギリと擦り鳴らしながら、「グルルルル~」という猛獣のような鳴き声を上げ始めたのだ。

「やべっ!? ギンロ、下がれっ!!」

   カービィの言葉に、ギンロは背にグレコと砂里を乗せたまま、スッとカービィの後方に回った。

「グルル……、グルルル……」

   人型だったハンニは、低い唸り声を上げながら、身体中から白い煙を発し始めた。
   両手を地面につけ、赤い皮膚がボコボコと波打ち始めたかと思うと、見る見るうちにその姿は、四本足の魔獣へと変化していくではないか。
   身体中を覆う、真っ赤な炎。
   尻尾は、先ほど手にしていた鎌と同じ形になり、両手は完全に前足の形になっている。
   ただ、顔だけは人型だった時と変わりがなく、世にも奇妙な怪物が、目の前に現れた。
   そして……

「グルルァ~、グルルルルル……。グルルァラァア~!!!」

   大量のヨダレを垂らしながら、鋭い無数の牙をむき出しにしながら、魔獣と化したハンニは俺たちに向けて、口から大量の黒い炎を吐き出した。
   
守護アミナ!!!」

   杖を振り、呪文を唱えたカービィの前に、ピンク色の巨大な光の盾が現れる。
   盾は黒い炎を防ぎ、見事に俺たちを守った。
   でも……

「ちっ、略式じゃ駄目だな。魔導書がねぇと、太刀打ち出来ねぇ」

   カービィの言葉通り、黒い炎は防いだものの、盾は粉々に砕け散ってしまったのだ。

「モッモ! 降りて戦うぞっ!!」

「あっ!? あいぃいっ!!!」

   本当は降りたくないけどぉおっ!

   箒を下降させて、カービィと俺の短い足が地面に着いた……、次の瞬間!

「コトコ~……、返せぇ~……、我が心臓を~、返せぇえぇ!!!」

   叫び声を上げながら、口からダラダラとヨダレと黒い炎を吐き出しながら、ハンニが此方に向かって突進して来た!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~

物太郎
ファンタジー
 “彼女”は死後、一枚のカードを手に取った。  そこに書かれていたのは「役:悪役令嬢」。 『いいかい? 君はそこに書かれた君の役目を果たせばいい。失敗すれば死。一つでも取りこぼせば死。分かった?』  彼女を転生させるという謎の少年はそう言った。  アルベラ・ディオールとして転生した彼女は時に頼れる仲間を作り、時に誰かを敵に回し、“悪役令嬢”という役を成し遂げるべく二度目の人生を奔走する。 ※「追放」「復讐」主体の話ではありません ※◆=イラストありページ ・「アスタッテ」って何? 転生の目的は何? をさくっと知りたい方は「65話」と「151話」をどうぞ 第一章、怪しいお薬 十歳偏  ―完―  5年後に迎える学園生活&悪役業に備えるべくアルベラは模索する。そんな中、10歳時のヒーロー達と出会ったり、父の領地で売られている怪しげな薬の事を知ったり、町で恐れられてるファミリーと出会ったり……。※少しずつ文章を修正中 第二章、水底に沈む玉 十三歳偏  ―完―  高等学園入学まであと2年。アルベラは行き倒れの奴隷の少年を見つける。それから少しして魔族の奴隷も拾い……。  彼らの出会いとアルベラの悪役令嬢としてのクエストが関わり何かが起きる? 第三章、エイヴィの翼 前編 学園入学編  高等学園の入学前に、とある他人種の少女と出会ったアルベラ。少女にもらった地図が切っ掛けで、学園一度目の長期休暇は十日前後の冒険に出ることに。  ヒロインやヒーローとも新たに出会い、自分を転生させた少年とも再会し、アルベラの悪役業も本番に。彼女の賑やかで慌ただし学園生活が始まる。 第三章、エイヴィの翼 後編 一年生長期休暇と冒険編  学園入学後の初の長期休暇。入学前に出会った他人種の少女の里観光を口実に、手に入れた地図を辿りお宝探しへ。その先でアルベラ達一行はダークエルフの双子の企てに巻き込まれる事に。

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~

日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました! 小説家になろうにて先行公開中 https://ncode.syosetu.com/n5925iz/ 残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。 だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。 そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。 実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく! ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう! 彼女はむしろ喜んだ。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...