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2章

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カウンターで本日の一杯を飲みながらギィが迎えに来るのを待ってる。今日は苺ミルクだ。

「ないなぁ」

愛用の植物図鑑には俺の探してる草は載ってない。
今探してるのは依頼用じゃなくて自分用だ。
獣の嫌がる臭いを出してて持ってるだけで近寄って来なくなるような草を探してる。
蜂の時に使った弾と同じ効果なんだけど、あの草は乾燥させて細かい粉にしないと効果がでない。粉を袋に入れてもいいんだけど、もっとお手軽な物がいいんだよなー。
まあ、普通の冒険者はそんな物必要ないしな。獣を見つけたらラッキーって感じなのに、見つける前に獣が逃げていくような物を欲しがるはずがない。

「坊主、熱心だな。調べ物か?」

いつものテーブルのおじいちゃんが話しかけてきた。この時間帯は給仕担当はいないから注文は客が自分でカウンターで直接ダスさんにして、できた料理も自分でテーブルに運ぶ。

「探してる草があるんだけど名前もわからないし、載ってなくて」
「どんなのだ?古い記憶だが何か思い出せるかもしれんぞ」

注文した料理が出てくるまでカウンターで待つついでに一緒に探してくれるらしい。

「獣が嫌う臭いがしてて持ってるだけで寄って来なくなるような草ないかなあって」
「獣避けか?道具じゃ駄目なのか?」

確かに、冒険者じゃなくて農家の人とかが持つ道具に似た物がある。だけどなぁ、魔力鉱石を使う道具ってことは起動に魔力がいるんだよなぁぁ。起動するだけに動力の5倍魔力を使っちゃう俺としてはできれば使いたくない。あと、その道具結構大きいし。

「俺、魔力が少ないんで道具じゃないのないかなって」
「ほーん。じゃあアレだな、エラニ草だな」
「えっ!?あるんで…あるの!?」
「あぁ、俺らの若い頃は使われてたが道具が出たらそっちの方が便利だからな。今じゃ誰も使ってないだろうなぁ」
「え、え、待って。エラニ草って図鑑に載ってない」
「そりゃ、採取依頼が出るようなもんじゃないからな。その辺に生えてるぞ」

おじいちゃんの料理が出てきた。あっ、行っちゃうんだよね。今からご飯だもんね。あぁ、でももっとちゃんと聞きたいっ。

「続きはテーブルで聞いたらいいんじゃないか?」
「おぅ、食べながらでもいいなら話してやるぞ。来るか?」
「えっ、いいの?行きます!」

ダスさん、ナイスフォロー!
苺ミルクと図鑑を持っておじいちゃん達のテーブルにいそいそ移動する。

「お邪魔しまーす」
「おぅ、どうしたどうした。これ食うか?」
「エラニ草の使い方を教えて欲しいってよ」
「おぃおぃ、懐かしい話だな!俺らが坊主くらいの時の話じゃないか!?」

おじいちゃん達は思い出話も織り交ぜながら教えてくれた。エラニ草は若い葉が獣の嫌がる臭いを発していて、昔は畑の周りとかに植えられてたけど今じゃ単なる雑草扱いになってるそうだ。勿体無い気がするけどなー。俺以外にも使う人いそうだと思うんだけど。

「大昔は野営も大変でな。携帯食も今ほどないから食事が苦労したもんだ」

濾過が面倒で川の水をそのまま飲んでお腹を壊したとか、雨の日に火が熾せなくて森で採った葉っぱをそのまま齧ったとか。今は水を浄化する道具も火をつける道具も冒険者の必需品で色々あるけど、魔力無いとどれも使えないんだよな。

「カイト」

ギィが来た。いつものカウンターじゃなくおじいちゃん達のテーブルにいるからちょっと不思議そう。

「ギィ、おかえり。ね、ね、エラニ草って知ってる?」
「エラニ草?歩道の隅とかに生えてるあれか?」

あー、やっぱりギィでもその認識なんだ。

「獣避けになるんだって!教えて貰ってたんだ」
「A級が冒険者になった頃にはもう道具が出回ってたしな。知らなくて当然だろ」
「道具を使わずに飲み水作ったり火を熾したりもさ。ほら、俺、魔力少ないからさ」
「なるほど。食事をしながらゆっくり聞くか?」
「いいの?いつもより早い時間の晩御飯になっちゃうけど」
「この後の予定もないし、夜中に腹が減りそうだったら帰りに何か買って帰ればいいだろう。
話を聞かせてもらっても構わないか?」

おじいちゃん達はギィに言われてちょっとびっくりしたみたいだけど、心良く了承してくれた。
改めて隣のテーブルをくっつけてギィが注文してきてくれた料理を並べる。みんなで分けられる料理も選んでくるなんて、流石ギィ。
2つのテーブルに沢山お皿が並んでワイワイしながらおじいちゃん達の武勇伝を聞くのって楽しい!
食堂に入って来た人達は、おじいちゃん達と一緒に食事をしているギィを見て驚いてたけど。

「それにしても道具を使わない方法を知りたいなんざ、坊主も変わってんな!」
「うーん、俺の魔力が少ない(っていうかないんだけど)からって言うのもあるけど、俺がいたとこで昔大きな災害があってさ、道具が使えなくなったり動力がなくなったりして大変な事があったんだって。そういう時に道具を使わない方法を知ってる人とか動力のいらない簡単な道具を持ってた人とかが周りの人を助けて復旧までみんなで耐えたって聞いてて、俺もいつか災害復旧作業に行くかもしれないし、でも魔力少ないから少なくても出来ることを知っとこうかなって!」

災害のとき爺ちゃんは村で大活躍だったらしい。普段からキャンプとかでサバイバルしてたしな。俺もそういう時に役に立てるようになりたい。

「カイトの話は一理あるな。俺たちは魔力が多い者が大半だから魔力鉱石が空になっても自分達で何とか出来るが、街の住人では無理だろう。災害時に冒険者が駆けつけるまでの間だけでも住人が自分達で対応できれば被害は格段に減らせる。これはギルドを通して考えるべきだな」
「もう役に立たないかと思ってた古い知識も役立てるのは嬉しいわなぁ」
「坊主は意外と色々考えてるんだな」
「意外とってひどいなー」
「カイトはかわいい見た目に反してしっかりしてるが、なかなか無鉄砲なところもあって目が離せん」

ギィ、頭撫でながら言われると怒れないんだけど!
あと、それって口説いてんの!?禁止だよ!?

「A級に面倒みてもらってんのかと思ってたが、こりゃA級が付きまとってんのか!?」
「かわいいからな」
「ギィ、ちょっと!約束は!?」

頭擦り寄せんな!

「これは口説いてるんじゃないぞ。惚気てるって言うんだ」
「A級から惚気が聞けるとはなー!坊主も大変だな、こりゃ逃げられないんじゃないかー?」
「逃すつもりなどない」

おじいちゃん達は大盛り上がりで、楽しい晩御飯になった。


お腹はいっぱいだけど念の為夜食も買って宿に帰ってきた。
メモを取りながら話を聞いたけど、一度試してみないとな。とりあえず明日はエラニ草を採取だ。

「カイトは別の視点から物事を見て考えることが出来る。冒険者に必要な資質を備えているな」

おかえりのキスの合間にギィが囁く。
2人一緒に帰って来てるのにな。って思うけどギィは毎回扉を入ってすぐに俺を引き寄せてキスをする。

「俺にこっちの常識が無いからだけかもしれないけど、でも冒険者にむいてるんだったら嬉しい」
「カイトは行動に移すだろう?そこが重要なんだ」

どんどん優れた冒険者になっていっていつか置いていかれるんじゃないかと思えて不安になるがな。って唇をくっつけたまま冗談みたいに笑いながらギィが言うから、俺は吹き出しちゃった。

「俺がギィよりすごい冒険者になるなんて有り得ないよ!」
「そうか。なあ、カイト、好きだ。俺を側に置いておいてくれよ」
「ギィ…ん、ん」
「もっとか?」
「うん…」
「はは。かわいいな」

俺が欲しがれば欲しがるだけいつもギィは俺の好きなキスをくれるんだ。
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