あり余る嘘と空白

リミル

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オメガ5

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「昨日ここに飲み切れないくらい中出しされてたなぁ。もう孕んでるんじゃねぇの」

「あ……あぁ、ん……」

男の指が埋まっていく感覚に、立花は身震いする。薬での発情期はとうに鎮まったものの、男に抱かれるために調教された身体は官能を芽吹かせていく。

「いやぁ……あぁっ、あ」

「立花ちゃん、あんな爺さんによがってんだから嫉妬もするよ。仁居のやつ、他にもオメガを飼ってるくせに。なあ、立花ちゃんも若い男のほうがいいだろ?」

立花の身体を軽々持ち上げると、勃ち上がったものを突き刺した。力が入りきらない立花を壁に押しつけて、きゅうきゅうと貪欲に頬張る筒を奥まで穿った。激しい抽挿で堅い壁に擦られているうちに背中が痛くなると、立花は仕方なしに男の首へ手をまわした。

「俺が番にしてやるからさ、他の男と寝るのはもうやめなよ。包海さんの元にいるとずっとこのままだよ?」

今の会話も今までの行為も、全てがカメラを通して瑛智に知られているため、立花は首を横に振った。過去に魅力的な誘いで立花を引き抜こうとした者もいたが、瑛智に見抜かれて酷く折檻されたことがある。

だからもうどれだけ甘く囁かれても、逃げ出そうとは考えなくなった。頷かないままでいる立花に苛立った男は、尻を打った。

「好き者だな。まわされてるほうがそんなにいいのかよ。……ああ、そうか。オメガってそういう生き物だったか」

まるで人間のカテゴリとは違うというような言い草で、けらけらと笑った。否定しない……否定出来なかった。たとえ薬を使われなくとも、発情期には1人ではなくてその他大勢を求めてしまうのだから。生存と繁殖に秀でた希少種の能力は、大多数からすれば理解されがたいらしい。

「あ、あっ! あ、ん……ああぁ」

「包海さんには俺から上手く言ってあげるから、ね。ヒートになったアルファがオメガを噛む事故なんて、よくあることだろっ? だからさ、この邪魔な首輪取ってよ」

内側で燻る熱を鎮めて欲しい。噛んで、噛んで、引きちぎって……。

──違う……こいつは運命なんかじゃない。

「くそ……っ! こんな革1枚に……。なあ、立花ちゃん、すっげぇよくしてあげるから、これ、外しなよ」

「無理っ……。鍵は、違う場所に、あるからぁ……あ、あっ」

立花の言葉を理解していないのか、男は首輪を爪でがりがりと引っ掻く。首輪の境目の皮膚は剥がれて、空気に触れる度に痛んだ。男の指が徐々に細い首に絡まり、埋まりつつある。気道を狭められて、ひゅうひゅうと笛の音のような呼吸を必死に紡いだ。意識が遠退いていく間際に、部屋のロックが外れる音がして、立花は助かったと安堵する。部屋を自由に行き来出来るカードキーを持っているのは、このホテルを経営している瑛智だ。

「そろそろ時間は過ぎた頃合いだが? 私の美しい立花に魅入る気持ちも分かるが、遊びの範疇を超えられるのは少々困りますな」

小学生の立花と出会ったときから、瑛智の容貌はまるで変わらない。この場にそぐわない、上品なグレーのスーツを着た瑛智が目を細めると、男は立花の中から出ていき、衣服を最低限整えて部屋を退出した。

ばたばたと騒がしい音が消えて、瑛智はシャワー室で力なく横たわる立花に声をかける。

「やはり若い男を連れてくるべきではなかったな。遊びに礼儀も作法もない。……洗浄が終わったら、隣の部屋に来なさい。立花」

頷く代わりに、立花は薄い紅茶色の目を伏せた。


×  ×  ×


ここに来る前に着ていた服は、他人と自分の体液でぐちゃぐちゃに汚れていたので、再びそれを身につけたくはなかった。身体の奥まで全て洗い流した後、備えつけてあったバスローブだけを羽織って、瑛智の仕事部屋へ向かった。

古典イタリアを彷彿とさせるルネサンス様式の内装は、立花のいる最上階だけではなく、ホテルの全室に施されている。彼が学生時代に留学した先で、最も感銘を受けた建築スタイルだ。クラシカルな雰囲気で統一されている格式高い部屋は、神殿風の丸いアーチやドームが仕切り代わりにつくられている。

瑛智が仕事で使っている部屋も、間取りは違えど客室と同じような装飾になっている。奥では瑛智が誰かと話しているようで、立花はぴたりと止まった。

「遅かったね、立花。……何を遠慮している。いつもの場所まで来なさい」

「……はい」

優しい声色だが、逆らえない。座っている瑛智の膝の上へ、立花は跨がった。

「仁居先生は大変満足されていたよ。オメガの中でもお前の身体は極上だと。どんなことをさせてあげたんだ?」

「……っ。いつも通り、です……。あ、あ……入れて、気持ちよく、なってもらいました」

瑛智の手がバスローブの下の、白い肌を滑っていく。薄手のタオル生地の内で、立花の半身が頭をもたげ始めた。

狂おしいほどの快楽を叩きつけられた後でも、瑛智に触れられると身体は否応なく反応して、その手を求めてしまう。立花が身じろぐと、腰帯だけで留められていた一枚の布は、ばさりと音を立てて床に落ちた。
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