51 / 66
第2部
49話 王女と護衛×2と侍女の日常(前編)
しおりを挟む
石垣で造られた高い砦が、青く広い平原を割って南北に走る。
俺が今居るのはその砦の屋上だ。
西を向けば水と慈愛と刃の女神を祀る、アクアラルーン国。
ティアラの夫となる王子は、アクアラルーン国の第四王子だ。
後ろを向けば遠くの方に見えるのは、俺の以前の配属先だった城の影。
朝日が眩しいから、と自分の心に言い訳をして、俺はなるべくそっちの方角は見ないようにしていた。
国境の警備は数分置きに欠伸が出るくらい緊張感がなく、暇だ。
ここに来て一ヶ月経つが、魔獣を倒した回数は両手の数にも満たない。
本来俺が望んでいたこの状況も、今となっては苦痛でしかなかった。
どうしても彼女のことを考えてしまうからだ。
「暇だな……」
俺は脳裏に浮かんだティアラの顔を振り払うため、もう何度目になるかわからない呟きを洩らした。
俺の隣に居た銀の髪の男は、覇気のない声で「そうだな」と同意の声を洩らす。
彼の名はドルガ。俺はこいつと同じ時間帯で警備することが多かった。
「そういえばお前、ここに来る前は手違いで城にいたらしいじゃないか」
石垣の上に顎を置き、遠くの空を見つめながら、突然ドルガが俺に問う。
「あぁ」
「どうだった? やっぱり城ってでかい?」
「かなりでかかったな。俺も個室を用意してもらってたし」
「マジか。いいなー個室。宿舎は二人一部屋だもんな。王族にも会ったの?」
「あぁ。っつーか王女様の護衛だったし」
「ええ!? とんでもない手違いだったんだなおい。で、王族ってやっぱ嫌な感じだった?」
「いや。……優しかった」
「へー」
聞いてきた割にはさして興味がなかったのか、ドルガは気の無い返事をしたっきり、それについてはもう聞いてこなかった。
単なる暇つぶしのための話題だったらしい。それも一瞬で終わったけれど。
王族か……。
俺はドルガと同じように石垣の上に顎を乗せ、今出た単語に思いを巡らせる。
ティアラと王子の婚約話はあれよあれよという間に進み、いよいよ今日が結婚式らしい。
婿に来るのは友好的なアクアラルーン国の第四王子ということもあって、国中がここ最近お祭りムードに酔っているようだった。
そのことを考えた刹那、俺の胸に棘が刺さったような痛みが走る。
……いや、関係ない。彼女とは、もう他人なんだ――。
ドルガは両腕を天に向かって伸ばし欠伸をすると、俺と反対方向――正確に言うと城の方角へと体の向きを変えた。
「お? 何だあれ?」
「ん?」
欠伸混じりの彼の声に、俺もそちらに視線をやる。
栗色の毛をした一頭の馬が青い平原を力強く蹴り上げ、こちらに向かって駆けてきているのが見えた。
その馬の手綱を握っている人物を認識した瞬間、俺の心臓が大きく跳ねる。
馬に乗っていたのは黒髪の美少年――。
無表情が代名詞の、俺の元同僚だったからだ。
……どうして。
どうして彼女が、あんな場所に?
俺が呆けている間にも馬は見る見るうちに砦へと近付き、そして間も無く着いてしまった。
アレクは砦の上に居た俺の姿を既に認識していたらしく、馬から降りると相変わらずの無表情のまま、即座にこちらを見上げてきた。
「マティウス!」
「な、何だよ?」
「え? 何? あの美少年、お前の知り合い?」
ドルガが俺に聞いてくるが、それに答えるよりも早くアレクがさらに下から声をかけてきた。
「今からそっちへ行く」
「いや、ここは一応関係者以外立ち入り――ってぎゃああああぁぁッ!?」
俺は言葉途中で思わず絶叫してしまった。何とアレクはこの高さを一気に跳躍して、俺の前の石垣にストンッと着地しやがったのだ。
いやいやいやいや!?
ここ普通の建物の三階分くらいの高さはあるんですけど!?お前の身体能力デタラメすぎんだろ!?
え、何? お前実は人間じゃないとかそういうオチ!?
アレクは無表情のまま石垣を飛び降りると、素早く俺との距離を詰めてきた。
「すまん。こいつを借りる。というか、今日付けでここの勤務は終わりだと隊長に伝えておいてくれ」
アレクは俺の隣で腰を抜かして放心しているドルガに淡々と言うと、俺のジャケットの襟元をぐいっと乱暴に掴んだ。
さっきから思考と言葉が追いつかない。
追いつかないが、これだけはわかる。
……今から俺は、ロクでもない目に遭うと。
「行くぞ」
言うや否や、アレクは俺を掴んだままピョンッと軽くジャンプした後、案の定砦から飛び降りやがった!
「やっぱりいいいいぃぃッ!」
俺は束の間の空中遊泳を、涙目で堪能したのだった。
「あー、その……」
硬い髪をガシガシと掻きつつ、俺は馬の手綱を握り続ける表情の無い元同僚に、何をどう話し掛けたものかと悩んでいた。
「俺を迎えに来てくれたのは嬉しいんだけどさ、えーと――」
「今日は姫様の結婚式なのは知っているな?」
俺の言葉を遮り、アレクは相変わらず無表情のまま淡々と聞いてきた。
「あぁ知っている。……メデタイじゃねーか」
「乱入しろ」
「いやいや、そんなアッサリと言うなっつーの……」
「姫様にはお前が必要だ」
アレクのそのセリフに、俺は何も返すことができなかった。
馬の蹄の音だけがしばらくの間俺達の間に渡る。
アレクは前を見据えたまま、抑揚を押さえた声で静かに語り始めた。
「この一ヶ月、姫様は一度も心から笑っていない。あの心優しい姫様が一度も、だ。大丈夫だよ、とオレ達に笑いながら言ってくださるが、あれは本当の笑顔じゃない……」
アレクの目元が、そこで少しだけ歪んだ。
「お前じゃなきゃダメなんだ。お前じゃなきゃ、姫様の心の穴を埋めることはできない」
「でも、個人の感情で動いていいもんじゃねぇだろ。あいつが一般人なら俺だって躊躇わねーけどさ。今回の婚約も国同士の利益を考えてのことだろうし。あいつはいずれこの国を統治する、王女様なんだぞ……」
俺の言葉に、アレクは真っ直ぐとこちらを見据えてくる。
その紅色の目には強い決意が湛えられていた。
「オレは姫様が本当の意味で心から幸せになってくださるのなら、国がどうなろうが、オレにどんな罰が与えられようが、構わない」
彼女の言葉と表情に、思わず俺は息を呑む。
それは死をも覚悟したものに見えたからだ。
「そして、タニヤもオレと同じ気持ちだ」
「…………」
俺は彼女の言葉にただただ、絶句する。
なんて……なんて馬鹿なんだよお前ら……。
国がどうなろうが構わないって、どんな罰が与えられても構わないって、めちゃくちゃすぎんだろ!?
でも――――。
そのめちゃくちゃな意見に既に同意しかけている俺も、こいつら以上に大馬鹿野郎なのかもしれないな……。
思わずフッと小さく笑ってしまった俺だが、アレクはそれだけで俺の心情を理解したらく、背を軽く叩いてきた。
「一蓮托生。バックアップはオレ達に任せろ」
「わかったよ……。ここは当たって砕けてみるか」
「それでこそ男だ、と言いたいところだが、砕けたらダメだろ」
確かに……。いや、でもティアラの返事次第では砕ける可能性もあるわけだが。
「とにかく急ぐぞ。式はもうすぐ始まる」
「その前に、一つお願いがあるんだが」
「何だ?」
「座り方、変えさせて?」
そう。馬鹿力のアレクに強引に馬の上に乗せられた俺は、手綱を握るアレクの前に、まるでどこかのお嬢様の如く横向きで座らされていたのだ。
俺の方がアレクより長身で体格も良いのに、だ!
このまま町に入って誰かに見られたら恥ずかしいどころの話ではない!
「いや、面白いからこのままで――」
「頼むからやめてくれって! っつーかお前わざとだったのかよ!?」
すかさずアレクにツッコむ俺。
ツッコみつつも、久々のこのノリが何だかちょっと嬉しくて、くすぐったかった。
ティアラの結婚式は城ではなく、三人の女神達の祝福を直に得られるようにと、城下町の中心にある大聖堂で行われているらしい。
城下町の入り口で馬から降りた俺とアレクは、その入り口脇の茂みに身を隠していたタニヤと合流した。
城で留守番をしていた彼女は、割とあっさりと抜け出してこれたらしい。
そして再会の挨拶もそこそこに、俺達三人はこれからの動きについてひそひそと話し合っていた。
ちなみに今俺達がいるのは、大聖堂が視界に入る、人気の無い細い路地裏だ。
「で? どういった手順なんだ?」
「そんなの『真正面から乗り込む』の一択に決まってるでしょ」
「やっぱそうなのか……」
大方予想していた通りの答えだったのでさして驚きはしなかったのだが、次のタニヤの言葉にはさすがに俺も声を出さざるをえなかった。
「ちなみにマティウス君だけね」
「ええええ!? 何でだよ!?」
「そりゃ、そっちの方が盛り上がるからに決まってんでしょ。三人まとめて乗り込むより、男一人が乗り込んだ方が見ている方もドラマチックで胸が高鳴るってなもんよ」
「いや、盛り上がりとかどうでも良いし! っつーかこの期に及んで俺で面白がるつもりかお前!?」
もうやだこの侍女! ちょっと泣きたいんだけど!
「心配しないで。私達は別ルートからちゃんとフォローするから」
「お前の『心配しないで』ほど心配になる言葉はねぇんだが」
「グダグダ言っている暇はないぞ。もう式は始まっているんだ」
冷静なアレクの一言に、ぐっと言葉を詰まらせる俺。
確かにくだらないやり取りで時間を無駄にしている場合ではない。
「わかったよ……。お前の望み通り俺一人で真正面から乗り込んでやるから、フォローは頼んだぞ」
「任せておけ」
「了解☆」
作戦とも言うのも憚られる大雑把すぎる行動計画を決めた俺達は、そこで二手に分かれた。
きっと俺達は全てが終わった後、とんでもない罪を負うことになるのだろう。
下手をしたら命もなくなるかもしれない。
でも、今後のことなんて知るか。
後悔だけはしたくないんだ。
今だけは、その心のままに――。
一蓮托生。
アレクが言ってくれたその言葉が、俺の背中を押し続けていた。
俺が今居るのはその砦の屋上だ。
西を向けば水と慈愛と刃の女神を祀る、アクアラルーン国。
ティアラの夫となる王子は、アクアラルーン国の第四王子だ。
後ろを向けば遠くの方に見えるのは、俺の以前の配属先だった城の影。
朝日が眩しいから、と自分の心に言い訳をして、俺はなるべくそっちの方角は見ないようにしていた。
国境の警備は数分置きに欠伸が出るくらい緊張感がなく、暇だ。
ここに来て一ヶ月経つが、魔獣を倒した回数は両手の数にも満たない。
本来俺が望んでいたこの状況も、今となっては苦痛でしかなかった。
どうしても彼女のことを考えてしまうからだ。
「暇だな……」
俺は脳裏に浮かんだティアラの顔を振り払うため、もう何度目になるかわからない呟きを洩らした。
俺の隣に居た銀の髪の男は、覇気のない声で「そうだな」と同意の声を洩らす。
彼の名はドルガ。俺はこいつと同じ時間帯で警備することが多かった。
「そういえばお前、ここに来る前は手違いで城にいたらしいじゃないか」
石垣の上に顎を置き、遠くの空を見つめながら、突然ドルガが俺に問う。
「あぁ」
「どうだった? やっぱり城ってでかい?」
「かなりでかかったな。俺も個室を用意してもらってたし」
「マジか。いいなー個室。宿舎は二人一部屋だもんな。王族にも会ったの?」
「あぁ。っつーか王女様の護衛だったし」
「ええ!? とんでもない手違いだったんだなおい。で、王族ってやっぱ嫌な感じだった?」
「いや。……優しかった」
「へー」
聞いてきた割にはさして興味がなかったのか、ドルガは気の無い返事をしたっきり、それについてはもう聞いてこなかった。
単なる暇つぶしのための話題だったらしい。それも一瞬で終わったけれど。
王族か……。
俺はドルガと同じように石垣の上に顎を乗せ、今出た単語に思いを巡らせる。
ティアラと王子の婚約話はあれよあれよという間に進み、いよいよ今日が結婚式らしい。
婿に来るのは友好的なアクアラルーン国の第四王子ということもあって、国中がここ最近お祭りムードに酔っているようだった。
そのことを考えた刹那、俺の胸に棘が刺さったような痛みが走る。
……いや、関係ない。彼女とは、もう他人なんだ――。
ドルガは両腕を天に向かって伸ばし欠伸をすると、俺と反対方向――正確に言うと城の方角へと体の向きを変えた。
「お? 何だあれ?」
「ん?」
欠伸混じりの彼の声に、俺もそちらに視線をやる。
栗色の毛をした一頭の馬が青い平原を力強く蹴り上げ、こちらに向かって駆けてきているのが見えた。
その馬の手綱を握っている人物を認識した瞬間、俺の心臓が大きく跳ねる。
馬に乗っていたのは黒髪の美少年――。
無表情が代名詞の、俺の元同僚だったからだ。
……どうして。
どうして彼女が、あんな場所に?
俺が呆けている間にも馬は見る見るうちに砦へと近付き、そして間も無く着いてしまった。
アレクは砦の上に居た俺の姿を既に認識していたらしく、馬から降りると相変わらずの無表情のまま、即座にこちらを見上げてきた。
「マティウス!」
「な、何だよ?」
「え? 何? あの美少年、お前の知り合い?」
ドルガが俺に聞いてくるが、それに答えるよりも早くアレクがさらに下から声をかけてきた。
「今からそっちへ行く」
「いや、ここは一応関係者以外立ち入り――ってぎゃああああぁぁッ!?」
俺は言葉途中で思わず絶叫してしまった。何とアレクはこの高さを一気に跳躍して、俺の前の石垣にストンッと着地しやがったのだ。
いやいやいやいや!?
ここ普通の建物の三階分くらいの高さはあるんですけど!?お前の身体能力デタラメすぎんだろ!?
え、何? お前実は人間じゃないとかそういうオチ!?
アレクは無表情のまま石垣を飛び降りると、素早く俺との距離を詰めてきた。
「すまん。こいつを借りる。というか、今日付けでここの勤務は終わりだと隊長に伝えておいてくれ」
アレクは俺の隣で腰を抜かして放心しているドルガに淡々と言うと、俺のジャケットの襟元をぐいっと乱暴に掴んだ。
さっきから思考と言葉が追いつかない。
追いつかないが、これだけはわかる。
……今から俺は、ロクでもない目に遭うと。
「行くぞ」
言うや否や、アレクは俺を掴んだままピョンッと軽くジャンプした後、案の定砦から飛び降りやがった!
「やっぱりいいいいぃぃッ!」
俺は束の間の空中遊泳を、涙目で堪能したのだった。
「あー、その……」
硬い髪をガシガシと掻きつつ、俺は馬の手綱を握り続ける表情の無い元同僚に、何をどう話し掛けたものかと悩んでいた。
「俺を迎えに来てくれたのは嬉しいんだけどさ、えーと――」
「今日は姫様の結婚式なのは知っているな?」
俺の言葉を遮り、アレクは相変わらず無表情のまま淡々と聞いてきた。
「あぁ知っている。……メデタイじゃねーか」
「乱入しろ」
「いやいや、そんなアッサリと言うなっつーの……」
「姫様にはお前が必要だ」
アレクのそのセリフに、俺は何も返すことができなかった。
馬の蹄の音だけがしばらくの間俺達の間に渡る。
アレクは前を見据えたまま、抑揚を押さえた声で静かに語り始めた。
「この一ヶ月、姫様は一度も心から笑っていない。あの心優しい姫様が一度も、だ。大丈夫だよ、とオレ達に笑いながら言ってくださるが、あれは本当の笑顔じゃない……」
アレクの目元が、そこで少しだけ歪んだ。
「お前じゃなきゃダメなんだ。お前じゃなきゃ、姫様の心の穴を埋めることはできない」
「でも、個人の感情で動いていいもんじゃねぇだろ。あいつが一般人なら俺だって躊躇わねーけどさ。今回の婚約も国同士の利益を考えてのことだろうし。あいつはいずれこの国を統治する、王女様なんだぞ……」
俺の言葉に、アレクは真っ直ぐとこちらを見据えてくる。
その紅色の目には強い決意が湛えられていた。
「オレは姫様が本当の意味で心から幸せになってくださるのなら、国がどうなろうが、オレにどんな罰が与えられようが、構わない」
彼女の言葉と表情に、思わず俺は息を呑む。
それは死をも覚悟したものに見えたからだ。
「そして、タニヤもオレと同じ気持ちだ」
「…………」
俺は彼女の言葉にただただ、絶句する。
なんて……なんて馬鹿なんだよお前ら……。
国がどうなろうが構わないって、どんな罰が与えられても構わないって、めちゃくちゃすぎんだろ!?
でも――――。
そのめちゃくちゃな意見に既に同意しかけている俺も、こいつら以上に大馬鹿野郎なのかもしれないな……。
思わずフッと小さく笑ってしまった俺だが、アレクはそれだけで俺の心情を理解したらく、背を軽く叩いてきた。
「一蓮托生。バックアップはオレ達に任せろ」
「わかったよ……。ここは当たって砕けてみるか」
「それでこそ男だ、と言いたいところだが、砕けたらダメだろ」
確かに……。いや、でもティアラの返事次第では砕ける可能性もあるわけだが。
「とにかく急ぐぞ。式はもうすぐ始まる」
「その前に、一つお願いがあるんだが」
「何だ?」
「座り方、変えさせて?」
そう。馬鹿力のアレクに強引に馬の上に乗せられた俺は、手綱を握るアレクの前に、まるでどこかのお嬢様の如く横向きで座らされていたのだ。
俺の方がアレクより長身で体格も良いのに、だ!
このまま町に入って誰かに見られたら恥ずかしいどころの話ではない!
「いや、面白いからこのままで――」
「頼むからやめてくれって! っつーかお前わざとだったのかよ!?」
すかさずアレクにツッコむ俺。
ツッコみつつも、久々のこのノリが何だかちょっと嬉しくて、くすぐったかった。
ティアラの結婚式は城ではなく、三人の女神達の祝福を直に得られるようにと、城下町の中心にある大聖堂で行われているらしい。
城下町の入り口で馬から降りた俺とアレクは、その入り口脇の茂みに身を隠していたタニヤと合流した。
城で留守番をしていた彼女は、割とあっさりと抜け出してこれたらしい。
そして再会の挨拶もそこそこに、俺達三人はこれからの動きについてひそひそと話し合っていた。
ちなみに今俺達がいるのは、大聖堂が視界に入る、人気の無い細い路地裏だ。
「で? どういった手順なんだ?」
「そんなの『真正面から乗り込む』の一択に決まってるでしょ」
「やっぱそうなのか……」
大方予想していた通りの答えだったのでさして驚きはしなかったのだが、次のタニヤの言葉にはさすがに俺も声を出さざるをえなかった。
「ちなみにマティウス君だけね」
「ええええ!? 何でだよ!?」
「そりゃ、そっちの方が盛り上がるからに決まってんでしょ。三人まとめて乗り込むより、男一人が乗り込んだ方が見ている方もドラマチックで胸が高鳴るってなもんよ」
「いや、盛り上がりとかどうでも良いし! っつーかこの期に及んで俺で面白がるつもりかお前!?」
もうやだこの侍女! ちょっと泣きたいんだけど!
「心配しないで。私達は別ルートからちゃんとフォローするから」
「お前の『心配しないで』ほど心配になる言葉はねぇんだが」
「グダグダ言っている暇はないぞ。もう式は始まっているんだ」
冷静なアレクの一言に、ぐっと言葉を詰まらせる俺。
確かにくだらないやり取りで時間を無駄にしている場合ではない。
「わかったよ……。お前の望み通り俺一人で真正面から乗り込んでやるから、フォローは頼んだぞ」
「任せておけ」
「了解☆」
作戦とも言うのも憚られる大雑把すぎる行動計画を決めた俺達は、そこで二手に分かれた。
きっと俺達は全てが終わった後、とんでもない罪を負うことになるのだろう。
下手をしたら命もなくなるかもしれない。
でも、今後のことなんて知るか。
後悔だけはしたくないんだ。
今だけは、その心のままに――。
一蓮托生。
アレクが言ってくれたその言葉が、俺の背中を押し続けていた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる