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トンカツ弁当③

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 二人は同時に固まってしまった。
 さすがにこの告白はいきなりすぎたらしい。
 だがこれ以上『記憶喪失』だと言い続けることに抵抗があったのも事実だ。

「本当にすみません……。でもお二人を騙すつもりはなかったんです。ただ無用な混乱を避けるためだったというか。でも結果的に騙す形になってしまったことは事実なので、それは本当に申し訳なく思っています……」
「マサヨシ……」

「あー…………確かにあのバイクの技術を見ると納得できるかも。あんな女神の遺物並の物を個人で所有できる国なんて、よくよく考えたらないわよね。それで聞きたいことって?」

「俺がこの世界に来る直前、突然足元に魔法陣が出現して、光に包まれて――気付いたらここにいたんです。あれはもしかして何かの魔法だったんじゃないかなとララーさんの魔法を見ているうちに思って。今の情報だけで何かわかるでしょうか?」
「ふぅむ……魔法陣ね……」

 ララーは顎に手を当ててしばし思案した後。

「ほぼ間違いなく、召喚魔法でしょうね」

 ハッキリした声で答えた。

「召喚魔法……」

 薄々そんな気はしていた。
 が、ここで生まれるのは『どういう理由で自分が選ばれたのか?』という疑問だ。

「俺、この世界に何か役割があって呼ばれたということでしょうか?」
「それなんだけど。基本的に召喚魔法って戦闘にしか使われていない魔法なのよ」
「戦闘用の魔法、ですか……」

「そう。普通は強力な魔物と相対した時に使う高等魔法。異世界から呼び出した精霊や獣に、強力な攻撃をしてもらう時に使うの。いわゆる切り札ってやつね」
「俺、戦闘能力なんて一切ないただの人間なんですけど……」

 ララーの話を聞いて困惑するしかない正義。
 自分がそんな大事な局面で召喚される存在でないことは断言できる。

「術者が未熟で、マサヨシは間違えて召喚されてしまった可能性が高いわね。結構複雑な術式だから、ほんの僅かに軌道を間違えただけで失敗してしまうのよ」
「なるほど……」

 その失敗してしまった術者は大丈夫だったのだろうか――という考えが脳裏を掠めていくが、そんなこと確かめようがない。ひとまず無事であることを祈るばかりだ。

(とりあえず俺は何か理由があってこの世界に呼ばれたわけではなく、事故だった可能性が高いということか)

 真相はわからないが、ララーの返答で正義がずっと抱えていたモヤモヤが少し軽くなった。

「マサヨシ、別の世界から来たんだ……」

 一方、今の話の間ずっと黙っていたカルディナがポツリと呟く。

「今まで本当のことが言えなくてすみません……」
「いやいや、なんでそんなに落ち込んでんのさ? 確かにビックリしたけど、これまで一緒に過ごしてきてマサヨシが悪い人ではないってことは十分にわかってるし。今もこの店の再生を手伝ってくれてるじゃん。私が心配してるのは別のことだよ」

「別のこと?」
「うん。マサヨシがここに来た経緯がそんなんだったら、元の世界に帰りたいはずだよね……」
「それは……」

 昨日の夜、この世界で生きてもいいかなと考えたばかりだ。

「問題ないです。仮に戻れたとしても、俺には家族もいないし友達もいなかったので……。だから自分でも不思議に思うほど未練はないんです。でも心配してくれてありがとうございます」
「え、本当に……? それじゃあ――」

「だって。良かったわねカルディナ。まぁそもそもマサヨシを元の世界に送ることができる可能性はほぼゼロだから、他に選択肢がないとも言えるけど」
「そうなんですか?」

「うん。召喚魔法で呼び出す精霊や獣は、一仕事終えたら勝手に帰っていくのよね。術者が召喚獣と事前に契約することで、こちらの世界の術者と繋がる明確な道ができるからなんだけど……。当然ながらマサヨシはその術者と契約を交わしていない。仮に私がマサヨシがいた世界に送るための魔法を使っても、明確な道がわからないから全然違う世界に行ってしまうでしょうね。砂漠の砂の中から一粒の金塊を見つけるのと同じくらいの難易度でしょうし、ほぼ当たらない博打みたいなものだわ」

「例えがえぐいっすね……」

 正義の口からつい本音が洩れてしまった。
 日本に帰ることに未練はなかったが、こうもきっぱりと状況が後押ししてくれると苦笑いしかない。

「えぇと……とにかくそういうことなんで。カルディナさんが良かったらこれからもよろしくお願いします」

 控えめに頭を下げた正義を、しばし呆然と見つめていたカルディナだったが――。

「うん! 改めてこれからもよろしくね!」

 満面の笑みで答えるのだった。
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