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トンカツ弁当②
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その後の調理手順もカルディナに教え、いよいよ肉を油に投入する時がきた。
大きな鍋の半分ほど注がれた油に、下から小さな泡が湧いてきている。
「うう……こんなに大量の油を熱したことなんてないからちょっと怖いかも。肉を入れても爆発とかしないよね?」
「水を入れない限り大丈夫ですって」
「その言葉信じるよ。それじゃあ――ええいっ!」
言葉の勢いとは裏腹に、引け腰でパン粉を纏った肉をそっと油に投入するカルディナ。
瞬間、じゅわっという音が厨房に響く。
「おお、パチパチいってる」
「この音と周りから出ている泡が小さくなって、全体の色が茶色になったらできあがりです」
「ふむふむ」
「あとは油を切って上げるんですけど――。あっ、付け合わせでキャベツの千切りを盛ることが多いですね」
「なるほど。じゃあ今のうちにキャベツはパパッと切っておくね」
言うや否や、カルディナはキャベツを取り出して早速切り始める。
さすがに千切りにする手付きは早く、正義は感心してしまった。
「そういえば昨日の夜、マサヨシが宅配に出てる間にチョコちゃんが店に来たんだけど、チャーハンを渡したらとても喜んでくれたよ」
「やっぱりカルディナさんの作る料理は美味しいですから」
「えへへ、ありがとう。それでチョコちゃん、いつも貰ってばかりじゃ悪いからって、店のチラシを配るって言ってくれたんだ。これでマサヨシの負担もちょっと減ると思う」
「俺はそこまで負担だと思ってないですが……。でも確かに、配達に専念できた方が効率も良いし店のためになるかも」
「うん、そういうこと。だからマサヨシ、これからも宅配よろしくね」
「任せてください!」
二人が話している間に、トンカツがこんがりとした狐色になって浮いてきていた。
「あっ、もう大丈夫みたいですね。上げましょう」
「了解っ」
すぐさまカルディナがトングでトンカツを引き上げ、バットの上に置く。
「これを食べやすい大きさに切れば――」
「はいはい二人ともおはようー! 今日も大魔法使いがやって来てあげたわよー!」
そのタイミングで勢いよく店のドアから現れるララー。
「まるで試食の機会を伺っていたようなタイミングで来たね……」
「なによう。これまで割と活躍してきたんだからもっと歓迎しなさいよ。っていうか何作ってんの? また新しいメニュー?」
「そうだよ。ちょうど今できたところなんだ」
「どれどれ……。おお、これはまた見たことがない食べ物ね。マサヨシの故郷のやつ?」
「はい。中は豚肉です」
「へえ~」
正義がララーに説明している間に、カルディナがトンカツを一口大に切り分けて皿に載せる。
既に切っていたキャベツも合わせると、正義がよく知っているトンカツがそこにあった。
後は白いご飯があれば弁当にできるのだが、まずはカルディナがトンカツにOKが出さないと始まらない。
「じゃあ早速試食といこうか」
「これはそのまま食べていいの?」
「弁当はソースを付けることが多かったですね」
人それぞれ好みがあるので、ケチャップやマヨネーズや塩を付けてくれ、と注文してくるお客さんもいたことを思い出す。
が、今それを言うと二人が混乱しそうなので正義はあえて伝えなかった。
そもそもこの世界の標準のソースがどういうものなのかがわからない。
(とはいえ、トンカツならほとんどのソースに合いそうな気もするけど)
正義の発言の後、カルディナは冷蔵庫から小さな瓶を取り出して小皿に注いだ。
どうやらこの世界のソースらしい。
何からできているのかはわからないが、とりあえず茶色という見慣れた色だったので安心する。
「まずは何も付けずに食べてみるね」
「あ、私も。いただきまーす」
カルディナとララーは二人揃ってフォークをトンカツに刺し、口に運ぶ。
ザクッという小気味良い音が響いた後――。
「これは初めての食感だ……」
「本当……。お肉は柔らかいのに外側の衣がザクザクしてるから、不思議な感じね」
まず出てきたのは、食感に対する感想だった。
「味はシンプルだけど美味しいわ」
「うん、お肉の味がよくわかる。じゃあこれにソースを付けて……っと」
続けてカルディナがトンカツにソースを付けて食べた。
「…………」
ひたすら黙々と咀嚼するカルディナ。
神妙な面持ちで無言になってしまったので、正義はつい不安になってしまった。
もしかして口に合わなかったのだろうか。
「ど、どうですか?」
カルディナはゆっくりと正義に振り返る。
「どうしよう……。私、このお肉めちゃくちゃ好きだ……。ちょっと感動で言葉を失ってしまったくらい……」
その返答に正義は心から安堵すると同時に嬉しくなる。
正義が美味しいと思った食べ物を同じように「美味しい」と言ってもらえると、やはり悪い気はしない。
「気に入ってもらえて良かったです」
「お肉のちょっと淡泊な味をソースでカバーしてて。そしてさっきも言った通り、このザクザクの衣と柔らかいお肉の食感が合わさって次から次へと口に運びたくなる」
「私もソース付けるー。…………うん。ほいひい」
「こら。口に入れたまま喋らない」
カルディナに怒られてもララーはどこ吹く風といった様子で、次のトンカツを口に運んでいた。
「それでカルディナさん。このトンカツは……」
「もちろんお弁当に採用! ヴィノグラードにはお肉好きが多いからね。これは人気が出そうだぞ~」
よっぽど気に入ったのか笑みを抑えきれないカルディナにつられ、正義も笑顔になるのだった。
「あ、そうだララーさん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」
「ふぁひ?」
「だから口に入れたまま喋らないの!」
ごくりとトンカツを飲み込み、改めて正義に顔を向けるララー。
正義は小さく深呼吸をすると緊張した面持ちで続ける。
「俺がここにやって来る直前のことについてなのですが――」
「あら。もしかして何か思い出したの?」
「それについてもまず謝罪させてください。実は俺、記憶喪失ってわけじゃなくて……。その、本当はこの世界の人間じゃないんです……」
「……………………え?」
大きな鍋の半分ほど注がれた油に、下から小さな泡が湧いてきている。
「うう……こんなに大量の油を熱したことなんてないからちょっと怖いかも。肉を入れても爆発とかしないよね?」
「水を入れない限り大丈夫ですって」
「その言葉信じるよ。それじゃあ――ええいっ!」
言葉の勢いとは裏腹に、引け腰でパン粉を纏った肉をそっと油に投入するカルディナ。
瞬間、じゅわっという音が厨房に響く。
「おお、パチパチいってる」
「この音と周りから出ている泡が小さくなって、全体の色が茶色になったらできあがりです」
「ふむふむ」
「あとは油を切って上げるんですけど――。あっ、付け合わせでキャベツの千切りを盛ることが多いですね」
「なるほど。じゃあ今のうちにキャベツはパパッと切っておくね」
言うや否や、カルディナはキャベツを取り出して早速切り始める。
さすがに千切りにする手付きは早く、正義は感心してしまった。
「そういえば昨日の夜、マサヨシが宅配に出てる間にチョコちゃんが店に来たんだけど、チャーハンを渡したらとても喜んでくれたよ」
「やっぱりカルディナさんの作る料理は美味しいですから」
「えへへ、ありがとう。それでチョコちゃん、いつも貰ってばかりじゃ悪いからって、店のチラシを配るって言ってくれたんだ。これでマサヨシの負担もちょっと減ると思う」
「俺はそこまで負担だと思ってないですが……。でも確かに、配達に専念できた方が効率も良いし店のためになるかも」
「うん、そういうこと。だからマサヨシ、これからも宅配よろしくね」
「任せてください!」
二人が話している間に、トンカツがこんがりとした狐色になって浮いてきていた。
「あっ、もう大丈夫みたいですね。上げましょう」
「了解っ」
すぐさまカルディナがトングでトンカツを引き上げ、バットの上に置く。
「これを食べやすい大きさに切れば――」
「はいはい二人ともおはようー! 今日も大魔法使いがやって来てあげたわよー!」
そのタイミングで勢いよく店のドアから現れるララー。
「まるで試食の機会を伺っていたようなタイミングで来たね……」
「なによう。これまで割と活躍してきたんだからもっと歓迎しなさいよ。っていうか何作ってんの? また新しいメニュー?」
「そうだよ。ちょうど今できたところなんだ」
「どれどれ……。おお、これはまた見たことがない食べ物ね。マサヨシの故郷のやつ?」
「はい。中は豚肉です」
「へえ~」
正義がララーに説明している間に、カルディナがトンカツを一口大に切り分けて皿に載せる。
既に切っていたキャベツも合わせると、正義がよく知っているトンカツがそこにあった。
後は白いご飯があれば弁当にできるのだが、まずはカルディナがトンカツにOKが出さないと始まらない。
「じゃあ早速試食といこうか」
「これはそのまま食べていいの?」
「弁当はソースを付けることが多かったですね」
人それぞれ好みがあるので、ケチャップやマヨネーズや塩を付けてくれ、と注文してくるお客さんもいたことを思い出す。
が、今それを言うと二人が混乱しそうなので正義はあえて伝えなかった。
そもそもこの世界の標準のソースがどういうものなのかがわからない。
(とはいえ、トンカツならほとんどのソースに合いそうな気もするけど)
正義の発言の後、カルディナは冷蔵庫から小さな瓶を取り出して小皿に注いだ。
どうやらこの世界のソースらしい。
何からできているのかはわからないが、とりあえず茶色という見慣れた色だったので安心する。
「まずは何も付けずに食べてみるね」
「あ、私も。いただきまーす」
カルディナとララーは二人揃ってフォークをトンカツに刺し、口に運ぶ。
ザクッという小気味良い音が響いた後――。
「これは初めての食感だ……」
「本当……。お肉は柔らかいのに外側の衣がザクザクしてるから、不思議な感じね」
まず出てきたのは、食感に対する感想だった。
「味はシンプルだけど美味しいわ」
「うん、お肉の味がよくわかる。じゃあこれにソースを付けて……っと」
続けてカルディナがトンカツにソースを付けて食べた。
「…………」
ひたすら黙々と咀嚼するカルディナ。
神妙な面持ちで無言になってしまったので、正義はつい不安になってしまった。
もしかして口に合わなかったのだろうか。
「ど、どうですか?」
カルディナはゆっくりと正義に振り返る。
「どうしよう……。私、このお肉めちゃくちゃ好きだ……。ちょっと感動で言葉を失ってしまったくらい……」
その返答に正義は心から安堵すると同時に嬉しくなる。
正義が美味しいと思った食べ物を同じように「美味しい」と言ってもらえると、やはり悪い気はしない。
「気に入ってもらえて良かったです」
「お肉のちょっと淡泊な味をソースでカバーしてて。そしてさっきも言った通り、このザクザクの衣と柔らかいお肉の食感が合わさって次から次へと口に運びたくなる」
「私もソース付けるー。…………うん。ほいひい」
「こら。口に入れたまま喋らない」
カルディナに怒られてもララーはどこ吹く風といった様子で、次のトンカツを口に運んでいた。
「それでカルディナさん。このトンカツは……」
「もちろんお弁当に採用! ヴィノグラードにはお肉好きが多いからね。これは人気が出そうだぞ~」
よっぽど気に入ったのか笑みを抑えきれないカルディナにつられ、正義も笑顔になるのだった。
「あ、そうだララーさん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」
「ふぁひ?」
「だから口に入れたまま喋らないの!」
ごくりとトンカツを飲み込み、改めて正義に顔を向けるララー。
正義は小さく深呼吸をすると緊張した面持ちで続ける。
「俺がここにやって来る直前のことについてなのですが――」
「あら。もしかして何か思い出したの?」
「それについてもまず謝罪させてください。実は俺、記憶喪失ってわけじゃなくて……。その、本当はこの世界の人間じゃないんです……」
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