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第一章 「始まりの日」
監理者
しおりを挟む漆黒の闇に支配された、広大な空間。
その中心には、世界地図を映し出したモニターが床に設置されており、それが空間を照らす唯一の光だった。
そこには、そのモニターを取り囲むように、まるで死人のように青白い肌をした七人の男達が立っている。
その男達は、髪も眉も無く、そしていずれもが人形のように同じ容姿をしており、唯一違うのは、身に纏う白い外套を彩るラインの色だけであり、それだけが唯一の判断材料だった。
男達は、感情が存在しない、死んだ魚のような双眼でモニターを見下ろしていた。
「永らく続くと思われていた秩序と均衡…。我々が作り上げてきた理想郷が、終わりを告げようとしている…。どうやら、奴等が動き出そうとしているようだ」
最初に口を開いたのは、赤いラインが走る外套を纏うドゥーべという名の男だった。
「仕方あるまい。未来永劫続くとは、我々も思ってはいない」
「左様。そもそも、今の世界は我々が求める真なるものではない。あくまで虚像に過ぎないものだ」
ドゥーべに続き、青いラインの外套のフェクダ、緑のラインの外套のメラクが続く。
「我々の手中にある福音…。それを得てしても、未だ掴めないとはな」
「皮肉な話だ。もっとも、その福音こそが全ての始まりではあるが」
黄のラインの外套を纏うアリオト、橙のラインの外套を纏うメグレズが言葉を発する。
五人の行動をなぞるように、藍のラインのミザール、紫のラインのベネトナシュが、それに続いた。
「人類が積み重ねてきた歴史…。それら全ての叡智すらも凌駕する存在だ」
「故に、福音であると同時に、災厄にもなろう。総てはそこから始まったのだからな。無論、奴等との因縁でさえも」
七人は、それぞれ言葉を並べる。
しかし、その言葉には感情が込められておらず、念仏のように低い声だけが響き渡っていた。
そして以後、また彼らの会話は、同じ順番で進められていく。
まるで、会話自体が機械のように仕組まれ、それぞれが同じ思考を持つかのように。
「確かにな。過去に囚われた、忌々しい存在よ…」
「奴等さえ動かなければ、我々の計画も遂行できていたやも知れぬというのに」
「福音こそが始まりであるならば、奴等との永き因縁も致し方あるまい…。寧ろ、ここで終わらせるべきものだ」
それぞれは悔恨の言葉こそ口にするものの、表情には変化一つなく、また言葉にも抑揚が一切ない。
そして瞬きもしない眼はモニターだけを見据え、口だけを動かし続けるその姿は不気味そのものだった。
「奴等の抑止力…。その為のレギオンが、我々にあるはずだ。如何に奴等が人智を超えた存在であろうと、十分対抗手段になる」
「対抗だけでは無意味だ。レギオンには多額の資金を提供したのだ、奴等に勝る程の武力でなければ意味があるまい?」
「空白だった剣王の称号…。それを継ぐ者も、今や我らの手中にある」
「その実力、信用できるのか?如何に剣王という称号を継ごうとも、所詮は人間であろう?」
口論のような話であるが、彼らの口調は依然として変わることはなく、息継ぎもしないままただ淡々と規則的に並べられていく。
言葉も重なることなく、ただ事務的に、そして台本を手にして朗読しているかのような感覚だった。
「案ずるな。剣王という称号は伊達ではない。その実力はレギオンからも報告を受けている」
「ならば、精々期待でもしておこう。人ならざる者達に人が勝てるかどうか、見物にはなろう」
「奴等との永き因縁の輪廻…。それも、この戦いが最後になるやも知れぬ」
「さすれば、我々の計画も完成するであろう」
「それこそが我々の望みであり、そして我々の目的と役割…」
「絶望に支配された旧世紀より、変革を生み出した福音を手にした者達の使命…」
「左様。福音を得た我々は、「監理者」なのだから…」
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