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戦争と冒険者D
開戦
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マジェント共和王国のスリム•ライザップ辺境伯軍は次第にその数を増していった。山越えするために騎馬兵は少なく、歩兵の騎士が多かったがその数は尋常では無かった。2000は越えているかと思えた。今までの小競り合いでは済まない気合いの入り方であった。
しかも新たなる戦力の投入という恐ろしい予感がしていた。空を飛ぶ魔導具を持つ傭兵がさらなる増強されたら、如何に堅固な城と言えど上空からの攻撃に耐えられない。
ドアンとギルーラはアロシア帝国皇帝チオミルに使者を送った。帝国軍の秘蔵兵魔獣騎士団の要請である。秘蔵兵の数は少ないがあの空を飛ぶ魔導具に対抗して戦うにはそれしか無いと思ったからだ。また、魔導具を操る傭兵の元にも暗殺者を送った。成功の連絡が無いので失敗に終わったと思われた。
◆スリム•ライザップ辺境伯視点◆
スリム•ライザップ辺境伯領の最北の街ヘゼワントからワルト山渓を通じてアロシア帝国領のスエータ地方に出て、陣を構えた。南東には赤龍峰が高々と見えた。目が良ければワイバーンやら赤竜などが飛んで居るのが見えるだろう。
陣容はおおよそ2000人を越えて、今回の戦が本気であることがエッテンベルク城からギルーラ•エッテンベルクにも理解できるだろう。今までは100騎程度の騎馬や傭兵団による攻めでお互いに火花を散らしてはいた。
今回は腕試しのような小競り合いでは無い。ウクイラナ王国からの秘密検使による同時攻撃になる。ウクイラナ王国側ではアロシア帝国本隊を国境まで押し戻す為の共同作戦なのだ。こちらが大きく攻めれば必ずギルーラ•エッテンベルクは皇帝に助力を乞う筈だ。アラド兄弟の『緋空旅団』だけでなく他の傭兵団も使い、陽動を注意深く行って来た。特に『緋空旅団』の翼竜艇と翼竜闘士はギルーラ•エッテンベルクには脅威な筈だ。例え、皇帝からの援軍が無くてもエッテンベルク城を奪ってしまえばかなりの戦果である。王族の中の戦争反対派も力を失うに違いない。
陣幕の中からスリム•ライザップ辺境伯は『緋空旅団』の陣営を見た。そこには昨日には無かった異様な魔導具があった。馬車のような箱型でありながら蒸気を吐き、聞き慣れない音を立てるものだ。
「あれは何か?」
側近の護衛騎士長トールに聞けば笑いを含んだ言葉が帰ってきた。
「はっ、あれは『緋空旅団』の工兵魔導具でございます。何でもあれにはドワーフが乗り、水蒸気にて動く工房だそうで。」
「なんと、あれに乗り込んで居るのか?」
「ええ、騎馬兵程度の速さで動かせるので破城に参加したいとのことです。」
「う~む、あんな鉄の塊みたいのがのう」
スリム•ライザップは疑問よりも恐ろしさを感じざるを得ない。実際にあれより巨大な翼竜艇が飛ぶところを見ているのだから。そして、その魔導具が今回の戦の胆でもある。
そこへ伝令がやって来て側近の護衛騎士長トールに傭兵団も全て揃ったとの報告を受ける。トールはスリムを見て騎士礼をして報告する。
「閣下、全軍揃いました。後は閣下の号令を待つのみです。」
その言葉にスリムは立ち上がり、側近の護衛騎士長トールを連れて幕舎を出る。そこにはスリムの愛馬が飾られて待機していた。空は晴れ、少し高原でもあるスエータ地方の空気が寒さを感じさせる。スリムは兵の援助を受けて馬上に上がり、引き馬されて全軍の前に出た。
遥か眼の前には昼の太陽に白く輝くエッテンベルク城が見えた。周りを見渡し軍容を確認すると右手を掲げ、鬨の声を上げた。
「全軍!前進っー!!」
◆D視点◆
スリム•ライザップ辺境伯の声が高らかに響くのを聞きながら笑みが浮かぶのが抑えきれなかった。
Dも馬を借り、白煙を吐く無限軌道車エレクサンドを追いかける。騎馬たちは少し馬脚を抑え、無限軌道車エレクサンドを前に押し出す位置で並んで前進していった。その後ろを雑多な防具を付けた傭兵団が追い、更に歩兵が後を追う。最後尾にはスリム•ライザップ辺境伯の騎馬とその護衛騎士団が追走する。
今頃翼竜艇に乗ったアラド兄弟達がエッテンベルク城の上空高くで待機しているだろう。頃合いを見て、先制攻撃を仕掛ける筈だ。それがこちらの攻撃の合図となる。
エッテンベルク城の上空に黒い点が現れみるみる内に大きくなった。轟音と共に翼竜艇が姿を見せ、艇の側面から魔法が放たれ、城に着弾していく。幾つかの魔法は城から飛んだ魔法に相殺されて空中で爆散する。翼竜艇は城からの魔法が届くぎりぎりまで近づくと反転して、再び高く舞い上がる。
翼竜艇が姿を現したタイミングで無限軌道車エッテンベルクが煤煙を吐き出し加速する。スピードが乗ってくると白煙に変わり騎馬隊を置いて凄い音を立てて驀進していった。そのまま真っすぐに堀を飛び越えて跳ね上げ橋ごと城門に突き刺さった!
おいおい、幾ら丈夫な無限軌道車エッテンベルクといえど無茶し過ぎじゃねえ?
しかも新たなる戦力の投入という恐ろしい予感がしていた。空を飛ぶ魔導具を持つ傭兵がさらなる増強されたら、如何に堅固な城と言えど上空からの攻撃に耐えられない。
ドアンとギルーラはアロシア帝国皇帝チオミルに使者を送った。帝国軍の秘蔵兵魔獣騎士団の要請である。秘蔵兵の数は少ないがあの空を飛ぶ魔導具に対抗して戦うにはそれしか無いと思ったからだ。また、魔導具を操る傭兵の元にも暗殺者を送った。成功の連絡が無いので失敗に終わったと思われた。
◆スリム•ライザップ辺境伯視点◆
スリム•ライザップ辺境伯領の最北の街ヘゼワントからワルト山渓を通じてアロシア帝国領のスエータ地方に出て、陣を構えた。南東には赤龍峰が高々と見えた。目が良ければワイバーンやら赤竜などが飛んで居るのが見えるだろう。
陣容はおおよそ2000人を越えて、今回の戦が本気であることがエッテンベルク城からギルーラ•エッテンベルクにも理解できるだろう。今までは100騎程度の騎馬や傭兵団による攻めでお互いに火花を散らしてはいた。
今回は腕試しのような小競り合いでは無い。ウクイラナ王国からの秘密検使による同時攻撃になる。ウクイラナ王国側ではアロシア帝国本隊を国境まで押し戻す為の共同作戦なのだ。こちらが大きく攻めれば必ずギルーラ•エッテンベルクは皇帝に助力を乞う筈だ。アラド兄弟の『緋空旅団』だけでなく他の傭兵団も使い、陽動を注意深く行って来た。特に『緋空旅団』の翼竜艇と翼竜闘士はギルーラ•エッテンベルクには脅威な筈だ。例え、皇帝からの援軍が無くてもエッテンベルク城を奪ってしまえばかなりの戦果である。王族の中の戦争反対派も力を失うに違いない。
陣幕の中からスリム•ライザップ辺境伯は『緋空旅団』の陣営を見た。そこには昨日には無かった異様な魔導具があった。馬車のような箱型でありながら蒸気を吐き、聞き慣れない音を立てるものだ。
「あれは何か?」
側近の護衛騎士長トールに聞けば笑いを含んだ言葉が帰ってきた。
「はっ、あれは『緋空旅団』の工兵魔導具でございます。何でもあれにはドワーフが乗り、水蒸気にて動く工房だそうで。」
「なんと、あれに乗り込んで居るのか?」
「ええ、騎馬兵程度の速さで動かせるので破城に参加したいとのことです。」
「う~む、あんな鉄の塊みたいのがのう」
スリム•ライザップは疑問よりも恐ろしさを感じざるを得ない。実際にあれより巨大な翼竜艇が飛ぶところを見ているのだから。そして、その魔導具が今回の戦の胆でもある。
そこへ伝令がやって来て側近の護衛騎士長トールに傭兵団も全て揃ったとの報告を受ける。トールはスリムを見て騎士礼をして報告する。
「閣下、全軍揃いました。後は閣下の号令を待つのみです。」
その言葉にスリムは立ち上がり、側近の護衛騎士長トールを連れて幕舎を出る。そこにはスリムの愛馬が飾られて待機していた。空は晴れ、少し高原でもあるスエータ地方の空気が寒さを感じさせる。スリムは兵の援助を受けて馬上に上がり、引き馬されて全軍の前に出た。
遥か眼の前には昼の太陽に白く輝くエッテンベルク城が見えた。周りを見渡し軍容を確認すると右手を掲げ、鬨の声を上げた。
「全軍!前進っー!!」
◆D視点◆
スリム•ライザップ辺境伯の声が高らかに響くのを聞きながら笑みが浮かぶのが抑えきれなかった。
Dも馬を借り、白煙を吐く無限軌道車エレクサンドを追いかける。騎馬たちは少し馬脚を抑え、無限軌道車エレクサンドを前に押し出す位置で並んで前進していった。その後ろを雑多な防具を付けた傭兵団が追い、更に歩兵が後を追う。最後尾にはスリム•ライザップ辺境伯の騎馬とその護衛騎士団が追走する。
今頃翼竜艇に乗ったアラド兄弟達がエッテンベルク城の上空高くで待機しているだろう。頃合いを見て、先制攻撃を仕掛ける筈だ。それがこちらの攻撃の合図となる。
エッテンベルク城の上空に黒い点が現れみるみる内に大きくなった。轟音と共に翼竜艇が姿を見せ、艇の側面から魔法が放たれ、城に着弾していく。幾つかの魔法は城から飛んだ魔法に相殺されて空中で爆散する。翼竜艇は城からの魔法が届くぎりぎりまで近づくと反転して、再び高く舞い上がる。
翼竜艇が姿を現したタイミングで無限軌道車エッテンベルクが煤煙を吐き出し加速する。スピードが乗ってくると白煙に変わり騎馬隊を置いて凄い音を立てて驀進していった。そのまま真っすぐに堀を飛び越えて跳ね上げ橋ごと城門に突き刺さった!
おいおい、幾ら丈夫な無限軌道車エッテンベルクといえど無茶し過ぎじゃねえ?
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