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 あれからしばらくして興奮が落ち着いてきたらしい(という賢者モード?な)義弟に甲斐甲斐しく事後処理(身体にぶっかかったアレを拭われたりその他色々)され、体力も気力も精神力もごっそり削られた私はそのままベッドにうつ伏せになっていた。
 枕に顔を押し付けて頭を抱えながら思考を埋めるのはただ一つ。

 やっちまったよ……!

 それだけだった。
 絶賛悶えタイムである。
 最初こそ自由を奪われたり強引にキスされたりしていたけれど、最終的にそこに至るまでを許容したのは私だ。
 いくら慣れない情事に浮かされた上体力なくなったからって最後まで抵抗する意思ぐらい見せてもよかったんじゃないか。ものすごく今更後悔。そしてベロちゅーで白旗上げちゃう私の経験値の無さに泣ける。

「姉ちゃん、寝ちゃった?」

 微動だにしなかったせいかそう聞かれたので、片手をあげてぶらぶらと振る。ちゃんと起きてるよー。

「ああ、よかった。起きてるなら動けるようになったら自分の部屋に戻ってね。じゃないと、また我慢できなくなるかもだから」

 お前本当に義弟かっ!?と聞きたくなるぐらいの甘々な声音。しかしその内容はとてつもなくおそろしかった。
 いつになく真面目な雰囲気がひしひしと伝わったくる。
 それが後半の言葉が冗談ではなく本気なのだと匂わせて、迷わず飛び起きた。

 しかし身体はだるいのなんので動けそうにない。仕方無しにベッド上で体育座りをして体力回復を待つことに。
 その様子を眺めていたらしい義弟はくすくす笑いながらベッドに腰かけた。ギシリ。近付いた距離、響いた音に身体が少し強ばった。

「……姉ちゃん、そんな明らさまにびびられたら流石にちょっとショックです」

 どうやら思ってた以上に分かりやすくびびってしまったらしい。眉をへにゃりと下げた義弟は、まああんなことしちゃったから仕方ないかもしれないけどさ、とごちる。
 流石に随分アレなことをやらかしてしまった自覚があるようだ。多少は反省してくれてるのか。

「やっぱ、俺のこと嫌いになった……よね……」

 ふっ、と義弟の表情が悲しげに歪む。
 消え入りそうな声で聞いてくるくせに断定的な問いかけ。
 大事な家族だと思ってた奴に襲われた。それまでの関係が拗れる、むしろ壊れるには十分な理由だろう。
 嫌われたかもしれない、とそれを危惧しているのかその顔色は冴えなかった。

「……別に、嫌いにはなってないけど」
「……!本当に!?」
「正直、ショックだし、色々と解せないんだけど、それで嫌いになったって思えないみたい」

 襲われたくせに、我ながら不思議なことである。
 自分の経験値の無さや流されやすさに自己嫌悪こそすれど、義弟に対してそういった感情はいっさい生まれなかった。
 ただ、嫌悪はないにしても戸惑いや困惑はその分どっさりあるのだけど。

 苦笑しながら義弟を見やる。
 これでもかっと見開いた目はそのままこぼれ落ちちゃわないか心配になるくらいで。
 でもそれは当然のごとく杞憂に終わって、へにゃりと情けない顔をしたかと思えばそれはそれは嬉しそうに破顔した。

 くるりと移り変わった笑顔はさっきまでの色気も熱も何もかも感じさせない。いつもと同じ、飾りのない朗らかなその表情になんだかとても穏やかな気持ちが胸に広がる。

 ああ、そうだ。私、この笑顔が好きなんだな。
 だから、嫌いになんてなれないのか、なんてちょっと納得。

 さっきのことが嘘のような和やかな空気に口許が綻ぶ。
 姉ちゃん、なんてはにかみながら義弟が私の手を取りそのまま引き寄せた。
 晴れやかな笑顔に警戒心はどこかにいってしまったらしい。
 されるがままに引っ張られ、何?と首を傾げたところで。

「ね、じゃあ、またしよう!」

 これである。

 懐に迎い入れられ、ぎゅっと抱き締められたかと思えば当然とでもいうように額に落ちてきた唇。
 ちゅ、ちゅ、と響くその音を聞きながら綻んだ口の端がピクリと引き攣った。

「だれがするか!」
「ぐふっ!なんで!?」

 再びパジャマの中へと侵入を試みる手をバシッとはたき落として、間近にある顔に迷わず頭突き。手加減はしたけどそれなりに痛かったようで義弟は涙目になりながら鼻を押さえていた。
 すかさず距離をとって、威嚇代わりにじとりと睨む。

 あんな殊勝な態度をとっておいて、よもや二回戦を企んでいたとは。
 危ない危ない。あやうく、絆されるところだった。そしてもう少し危機感を持とうか私。
 それよりこの義弟《バカ》に説教せねば。

「なんでじゃない!さっきは流されちゃったけどだからって二回目も~なんてするわけないでしょ!まったく油断も隙もないなこの愚弟がっ!」
「だって姉ちゃん俺のこと嫌いじゃないんだろ!?それに姉ちゃんだって気持ち良さそうだったし!」
「確かにお前は嫌いじゃないしむしろ好きだけど!そういう問題じゃなくて!」
「だったらいいじゃん!俺まだまだ足りないしっ!」
「足りないって、さっきショボンとしてたの賢者タイムだからじゃなかったの!?」
「賢者タイムだったとしても復活なんて余裕だって!男子高生の性欲なめんなっ!あっ、どうせなめるなら俺のち」
「それ以上言うなぁぁぁぁぁぁ!!」

 説教するつもりだったのにこっちの精神力をごりごり削られるのは何故だろう。
 とりあえず間違いなく更に精神力を消ずってくるだろう下ネタをぶったぎって、頭を抱え重く溜め息を吐いた。

 
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