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しおりを挟む「うっ……うっ……」
「ナタリー、いい加減に泣き止めよ。お前とグレッグの関係が終わっちまったことも奴が例の令嬢と婚約したことも仕方ねぇことだったろ」
「分かってるわ! でも、でもぉ……好きだったのに! 私だってグレッグのこと好きだったのにぃ!!」
ぐすぐすめそめそと薄化粧が崩れるのも構わずみっともなく私は涙を流していた。
テーブルを挟んだ向かいに座り呆れたようにため息を吐いているのはギルベルト・リーベルス。
「……それ、未来の旦那にたいして言うようなことじゃないだろ」
リーベルス家の四男で、つい最近決まったばかりの私の新しい婚約者様だ。
花が咲き乱れる庭園で行われる婚約者との二人きりのお茶会。
結婚予定の相手が変わったとてその習慣は変わらず、グレッグが座っていた定位置に今現在はギルベルトが頬杖をつきながらおさまっていた。
グレッグはもっとぴっしり行儀良く座っていたのに。
だらしない格好の現婚約者をついついグレッグと比較してしまって、もうその姿を間近で見れることが無いのだとまたまた涙が溢れてくる。
ぐすぐすめそめそぐすぐすめそめそ。
止まない泣き声にギルベルトが再び大きなため息を落とした。
「お前ほんとにグレッグのこと大好きなのな」
そうだよ、大好きなの、本当に!
私とグレッグが出会ったのは十年ほど前。
婚約者として引き合わされた幼い私たちは、緊張故のぎこちなさをまといながらも会話を交わし、打ち解けていったことを覚えている。
グレッグは昔からは冗談が通じないほどの生真面目で、他人からは面白みのない男だとからかわれてはいたが、私にとっては実直すぎるほどのその性格が大変好ましく思えていた。
それに、グレッグはとても優しい人だった。
子爵家の嫡男として色々と忙しいであろうに、定期的に一緒にいたいという私の我儘を聞いて二人だけのお茶会を提案してくれたのは彼だ。
そして、それを欠かさず行ってくれた。
恋人に送るような甘い囁きなどは一切なかったが、いつも私を気遣い思ってくれている彼なりの不器用な優しさにいつしか私は彼のことを大好きになっていた。
ロマンス小説で描かれているような燃え上がるような激しく鮮烈な恋じゃない。
さざなみのように静かに穏やかで、それでも確かに私は彼に恋をしていた。
だから。だからこそ。
彼が私と同じような気持ちを抱いていないこともなんとなく分かっていた。
私を見つめる彼の目は優しい。優しいが、それだけだ。
まるで幼い妹を見守る兄のような穏やかさに満ちている彼の瞳に気付いたとき、私は酷くショックを受けた。
まだ私は彼に妹のようにしか思われていないのかもしれない。それは、嫌だ。
そう強く感じ、私は彼への恋を自覚した。
それでも、私たちはいずれ結婚するのだから、とあまり焦ってもいなかった。
彼にまだその気が無くても今まで通り絆を深めていけばいいと。
結果的に、いつまでたっても彼は私に恋をするような気配を見せなかった。
婚約者としては、とても大切にしてくれていたのだけど。
結婚すれば。夫婦になれば。
いつしかグレッグの気持ちも変わってくれることだろう。
そう、思っていたのに。
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