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本編
いち
しおりを挟む逆ハー目指したらぼっちになったったww
今の私を表すとしたらまさにこれである。
もてもてちやほやきゃっきゃっうふふを思い浮かべながら行動した結果が誰もいない校舎の影で一人ぼっちで昼ごはんの弁当をかっ食らうこれである。
どうしてこうなった。
綺麗な黄色い卵焼きをつまみながらふと思う。
……どうしてこうなった。
じんわりと出汁の旨味を広げる卵焼きを咀嚼しながらふと思う。
……どうしてこうなった!
ごくり、とのどをならして一つ大きく鼻を啜りながらふと思う。
いつもなら絶妙な塩加減の卵焼きが、今日のはなんだか塩辛かった。
乙女ゲームと呼ばれるジャンルのゲームがある。
様々なタイプのイケメンな男性たちと親睦を深め最終的には誰かと恋人になりその恋人と、時としてその全員と嬉し恥ずしいちゃいちゃらぶらぶするアレだ。
ぶっちゃけ、私はその乙女ゲームというやつのとある一つの作品の世界の中で暮らしている。
何故自分がそんな「世界」に存在していると認識できるのか。そう聞かれれば瞬時にでも答えてみせよう。
簡単なことだ。
私は前世の記憶を持つ、転生者という奴だった。
実にありがちな。
突然見知らぬ女性の人生を丸々思い出したというのに、私が何よりも真っ先に思い浮かべた言葉がそれだった。
取り乱すこともなく実に冷静に受け入れている自分自身にびっくりしたのも懐かしい。そして大好きだった乙女ゲームの世界だってことに気付き喜ぶよりも冷めた感想が一番に出てくる枯れた自分に若干失望したのももはやいい思い出だ。
死んだら大好きな乙女ゲームの世界に転生(又はトリップ)しちゃった☆これからどうしよう……(ため息)
……的な、その手のネット小説を読み漁っていたのは確かだった。そしてそんな設定に憧れたのもまた事実だった。自分も転生できたらあんな風にしたりこんな風にしたり~とにやにや妄想してたのも間違いない。妄想に飽き足らず、誰にも見せなかったが文章に書き起こしたりするぐらいにはずっぽりハマっていたこともぶっちゃけてしまおう。
でもよもや。本当に自分の身にそれがふりかかろうなどと誰が思おうか。少なくともあれほどそんな設定が大好きな私自身は露ほどにも思っていなかった。いや、思ってたらそれはそれで問題だが。
生前繰り返しプレイした大好きな乙女ゲームの世界。
そんなところに転生できたのは確かに嬉しいものだった。
だって恐らく会えるのだ。
画面越しでしか見ることが叶わなかった彼らに。
それは確かに嬉しいこと、なのだが。
どうせなら、ただただ普通に転生した、ただただ普通の少女Aだったりしたらもっと嬉しかった。
転生特典とでも言えばいいのか。私は普通と言うには、ちょっと、いやかなり抵抗のある立場になってしまっていた。
何せ私は、主人公だ。
もう一度言おう、何せ私は主人公だ!
最近では、乙女ゲ世界の脇役に(或いはモブに)なりました傍観してたらいつの間にかかかわってましたそしてあれれれこれまたいつの間にか逆ハーに~?みたいなのをよく見かけたが(そして大好きな設定だが)私はどうやら脇役でもモブでもなくプレイヤーの分身である主人公になってしまったようだった。
朝比奈日和。それが私の名前。
流石乙女ゲームの主人公と言うべきか。
白く柔らかな肌。大きく澄んだ瞳。バランスの良い鼻。アヒル口がよく似合う愛らしい唇。色素の薄い髪はさらさらでやわらかく、過ぎるぐらいに華奢な体躯は庇護欲をそそる。完璧な美少女だった。
自画自賛だなと薄ら寒さを覚えるが、そうなのだから仕方がない。ただちょっと記憶していた姿より幼いようにも感じられるが、きっと気のせいだろう。
なんでよりにもよって主人公……。
私は物陰からうふふふと笑いながら傍観してるモブの方がお似合いだろう。というか、どうせなら是非ともそちらの役にあたりたかった。
転生自体は大歓迎過ぎるのだ。ただ、転生先が問題なだけで。
いいじゃん流行りじゃんなんで傍観主人公じゃないんですか主人公とか荷が重すぎる。正直めんどくさいのです。誰か交代してください。
と、そんな文句は誰に言ったところで何も変わらない。それより頭の心配をされ適切な病院を紹介されるのがオチだ。
だから、私は不本意ながらこの世界の主人公として生きていくことを決めた。
愛し愛され幸せに。それが乙女ゲームの主人公の定だ。
そして私はそんな乙女ゲームの主人公《ヒロイン》になったのだ。
主人公なのだから、私はその定に違わず生きていきたい。
それにあたって誰を攻略するかだが、困ったことに一人に絞りこむことが出来なかった。みんな同じくらいに好きなのだ。だからどうせなら。
乙女ゲームだから、乙女ゲームならではの攻略の仕方をすればいい。
大好きで大好きで何度も繰り返した乙女ゲーム。
選択肢も行動もどうすればいいか覚えているんだ。
こうなったら、逆ハーレムED目指してやんよ!
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